どうしよう、俺の公子様がXXに。

小夜時雨

文字の大きさ
107 / 229

ルフスは語る8 ※救いとは 目覚め。

しおりを挟む
 ゆっくり瞬いていると、景色は確実に変化していた。
遠のいていく全ての気配が、また、ルフスの周囲に存在を主張し始めたのである。
薄かった色は濃くなり、生々しい精の臭いが消え、清潔なリネンの爽やかな香りに包まれてさえいる。

 「これは……?」

 一体何が起きたのかと、天井を見上げ続けながらも半開きの口を開けっぱなしでいた。
顔にへばりついていた涙やら涎、そういった分泌液ですらなくなっている。顔に手を当てると、さっぱりとした感触が伝わる。ツルツルとしていて汚れすら見当たらない。見下ろせば、自分は寝衣を着用したままだ。

 (もしかして、俺は夢でも見ていたのだろうか?)
 かといってこのまま寝入っていても始まらない。呆気にとられていたが寝台から起き上がる。周囲の部屋の様子を視線で辿っていけば間違いなく、ここは、ヴォル邸にて用意された使用人用の私室である。窓辺からの柔らかな光が、明るく室内を照らしている。ルフスは個人用を用意されているので喜んで使わせてもらっているが、丁寧に使用し続けている現状、それ以上の変化はない。

 「……今……いつ頃だろうか……」

 まずは現状把握を、と使用人用の服がかけられている収納棚へと向かう。
その懐から懐中時計を手にいれ、時間をみる。

 「……寝ぼけてたのか? 俺……」

 朝のようだ。それも、かなり早い。

 「それにしては……」

 ずいぶんと、現実に限りなく近い夢だった。
 (嫌な夢だったな……)
 込み上げてきた、あの感触。敵意を持つ男に、ずいぶんと酷いことをされる仕打ちはなんとも気持ち悪さを覚えるも、こうして無事な我が身を思えば……。

 「溜まってんのかな……?」

 それにしては、スッキリとしているような……?
 頭を捻るも、まあいいかと気持ちを切り替え、目が冴えたのでとりあえずは水をいっぱい。
ぐい、と飲み干し、次に向かったのは勉強机だった。ルフスは日々、こうして努力をし、ご主人様のために学びを深めようとしている。そして、それは如実に形に現れている。もちろん、こういった本という名のマニュアルを与える行為は相当な厚遇であったが、ルフス本人は知る由もない。ただ、ただ、自由を得て職を手に入れたのだから、生きるためにこうして努力を続けているだけである。もちろん、ご主人様のためでもある。自分が生きるためと、そして、助けてくれた人のために。
 
 「ええと……この文字……なんだったっけ」

 無論、すぐに成果が出るとは限らないが。
うんうん唸りながらも、ほんわかお兄さんの朝は早かった。





 「ふあ」
 「リヒト様、おはようございます」
 「おはよ……」
 
 ふにゃふにゃのご主人様を起こすのはルフスの役目だ。
 たまに、ご主人様は自室にいない時があるけれども、そういったときは必ず伝言をよこしてくる。
 ルフスは、そんな律儀なご主人様が大好きだった。

 「二度寝したい……」

 こてん、と小さな首筋を見せながら明後日の方向へと寝入ろうとする年下のご主人様のために、朝のロル茶を用意する。すると、彼はきちんと目覚めるのだからある意味、本当にやりやすいご主人様でもある。ルフスの白い手袋越しに、嬉しげなリヒトの表情が伺えた。

 「あー生き返る……」
 「ふふ」

 芳しい匂いに釣られ、半身を起こすリヒトの背中に甲斐甲斐しくクッションを当ててから、ルフスは顔を洗う用意をする。無論、ご主人様のものだ。そこそこぬるめの水にお肌に良い香りづけもし、手拭いを両手に持つ。平たい容器から顔を上げた彼の目は閉じたままではあったが、ルフスはちゃんとわかっていて、そのまま彼の顔を拭き取る。

 「ふぁああ」
 「ふふふ」

 ゆっくりと彼の形に合わせ、拭っていると、さも天国だといわんばかりの笑みをルフスに向けてくれるのだからたまらない。

 「ありがと」
 「どういたしまして」

 こうしてみると、本当にこの男の子はルフスより一回り小さいのにしっかりとしているなあ、とご主人様にほっこりとしつつ、誇らしささえ感じるルフスである。

 「ね、聞きたいんだけど……」
 「どうしました?」
 
 さて、と茶器やら水瓶を片付けようとしたルフスの動きを止めさせたご主人様の言動に作業を止めると、リヒトはわざわざ使用人であるルフスのそばへと近寄ってきて、ルフスの手をとり、その手袋を外した。

 「リヒト様?」
 「うん……」

 スルスルと手のひらや手首、指を撫で回され、なんだかソワソワとするも、満足したのか頷きながらご主人様はルフスの手を解放した。

 「ん、やっぱりルフスさんの手のひらのほうが大きい」
 「ああ……ふふ、それは、そうでしょうね」
 「むう……仕方ない」

 次は着替えの手伝いをしなければ、とルフスはご主人様の衣装部屋へと急ぐ。
少しだけ、ご主人様の小さな手が………心残りであったことを戒めながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

処理中です...