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ルフスさんと時間潰し(というかデート)
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静まり返った野外だけど、虫の音が小さなオーケストラを奏でていた。
(……蛍、はいないか)
さすがに魂の概念は異世界では別腹のようなもの、かもしれない。
(けど、)
僕は、己の小さな手を見つめる。
前世は滅私奉公、といって市民の生活のため、自分の食べる食い扶持を稼ぐため、安定した日々を得るため、苦労しながらもそれなりに生きてきた。外仕事だって必要に応じてきたし、拳を握れば、ひと回り、昔(前世)と比べれば小さい。けれども、凌駕するほどの能力を持つ。
「綺麗ですねえ」
「うん」
哨戒しやすい、と騎士たちの間で評判だった小高い丘のうえを登る。
見下ろせば、たやすくエンバス領土が望めた。
勿論、獣人の営みも。
「光が、ひとつ、ふたつ……。
数えきれないほどございますねえ」
僕の目力だとさらに細かく分化でき、厳密にいえば窓の中の景色すら望めば見えるけれども疲れるし、夜の世界は、僕の本性がかなり有利に働くため、ルフスさんの問いかけには頷くだけにとどめた。
(実際、本当のことは言えないし)
下手したら中の人数まで読めるので……。
エンバスの膨らんだ大小の光が、一連の首飾りのように汎用と浮かんでいる。
(まるで陸の海、海上の港みたいだ)
勿論、ここは大陸なので例えでしかない。
「……そういえば、僕は海を見たことがないね……」
忘れていたけれど、獣人大陸の周囲は海洋なので見ようと思えばいけたのだ。
しかし、ふと、生まれながらにして一度たりともこの目で目撃していないな、ということに俯瞰して気づいたのである。
「うみ、ですか?」
「うん。
……もしかして、ルフスさんは知らない?」
首を傾げているルフスさん。
「うーん、そうですね。
相当大きなバケツをひっくり返した、
しょっぱい水のあるところですよね」
「バケツ……」
「すみません、俺、
生まれながらにしてあの街以外、
出たことがないから……」
そういえば娼館育ちだった。
「ごめん……。
配慮が足りなかったね、僕」
「え、いいえ!
むしろ気を使わせてしまって」
…………しばらく、僕たちはその場で謝罪配慮の気遣いを互いにしてみせ、苦笑し合う。
「ふふ、これではお互い様、
としか言いようがないじゃありませんか」
落とし所ができて、よかった、と言える。
「リヒト様、寒くありませんか?」
「大丈夫」
「ですが、もう夜も更けてきましたし。
帰りましょう」
ルフスさんが僕の手に触れ、冷えていることを察し、手と手を携えて野外キャンプ地へと戻ることに。
伝わる温かさに僕は揺さぶられる。
(……大人の、手)
僕は成長が遅い種族の生まれだ。
彼のようなこの大きな手のひらに包まれるのは忸怩たる思いではあるが、役得といえよう。
「ルフスさん、なんか、
デートみたいですね、これ」
「え?
……あっ」
ようやくルフスさんは僕を捕獲したまま連行していることを自覚したようだ。
本人自身驚いているようだったが、無言で繋いでいた手に力を入れられ。
「……リヒト様。
…………もう少し、あの見えるところまででいいので、
こうして、手を繋いでもらっても、良いですか?」
なんとも言いようのない笑みをしてみせたため、僕は、断る勇気も、手放す意思もなく。
ただ、頷いて一緒に歩いた。人目がつく手前まで。
きゅ、と力を強めると、彼も強めた。指の合間がスルスルとしていて肌触りが良い。
大きいが、僕を捕えるには優しすぎる手だ。
……何をしているんだろう、僕。
と思わなくもないけれど……。
でも、このときのルフスさんの承諾した時のほっとした笑みは、僕の心根に何かが刺さった。
(……蛍、はいないか)
さすがに魂の概念は異世界では別腹のようなもの、かもしれない。
(けど、)
僕は、己の小さな手を見つめる。
前世は滅私奉公、といって市民の生活のため、自分の食べる食い扶持を稼ぐため、安定した日々を得るため、苦労しながらもそれなりに生きてきた。外仕事だって必要に応じてきたし、拳を握れば、ひと回り、昔(前世)と比べれば小さい。けれども、凌駕するほどの能力を持つ。
「綺麗ですねえ」
「うん」
哨戒しやすい、と騎士たちの間で評判だった小高い丘のうえを登る。
見下ろせば、たやすくエンバス領土が望めた。
勿論、獣人の営みも。
「光が、ひとつ、ふたつ……。
数えきれないほどございますねえ」
僕の目力だとさらに細かく分化でき、厳密にいえば窓の中の景色すら望めば見えるけれども疲れるし、夜の世界は、僕の本性がかなり有利に働くため、ルフスさんの問いかけには頷くだけにとどめた。
(実際、本当のことは言えないし)
下手したら中の人数まで読めるので……。
エンバスの膨らんだ大小の光が、一連の首飾りのように汎用と浮かんでいる。
(まるで陸の海、海上の港みたいだ)
勿論、ここは大陸なので例えでしかない。
「……そういえば、僕は海を見たことがないね……」
忘れていたけれど、獣人大陸の周囲は海洋なので見ようと思えばいけたのだ。
しかし、ふと、生まれながらにして一度たりともこの目で目撃していないな、ということに俯瞰して気づいたのである。
「うみ、ですか?」
「うん。
……もしかして、ルフスさんは知らない?」
首を傾げているルフスさん。
「うーん、そうですね。
相当大きなバケツをひっくり返した、
しょっぱい水のあるところですよね」
「バケツ……」
「すみません、俺、
生まれながらにしてあの街以外、
出たことがないから……」
そういえば娼館育ちだった。
「ごめん……。
配慮が足りなかったね、僕」
「え、いいえ!
むしろ気を使わせてしまって」
…………しばらく、僕たちはその場で謝罪配慮の気遣いを互いにしてみせ、苦笑し合う。
「ふふ、これではお互い様、
としか言いようがないじゃありませんか」
落とし所ができて、よかった、と言える。
「リヒト様、寒くありませんか?」
「大丈夫」
「ですが、もう夜も更けてきましたし。
帰りましょう」
ルフスさんが僕の手に触れ、冷えていることを察し、手と手を携えて野外キャンプ地へと戻ることに。
伝わる温かさに僕は揺さぶられる。
(……大人の、手)
僕は成長が遅い種族の生まれだ。
彼のようなこの大きな手のひらに包まれるのは忸怩たる思いではあるが、役得といえよう。
「ルフスさん、なんか、
デートみたいですね、これ」
「え?
……あっ」
ようやくルフスさんは僕を捕獲したまま連行していることを自覚したようだ。
本人自身驚いているようだったが、無言で繋いでいた手に力を入れられ。
「……リヒト様。
…………もう少し、あの見えるところまででいいので、
こうして、手を繋いでもらっても、良いですか?」
なんとも言いようのない笑みをしてみせたため、僕は、断る勇気も、手放す意思もなく。
ただ、頷いて一緒に歩いた。人目がつく手前まで。
きゅ、と力を強めると、彼も強めた。指の合間がスルスルとしていて肌触りが良い。
大きいが、僕を捕えるには優しすぎる手だ。
……何をしているんだろう、僕。
と思わなくもないけれど……。
でも、このときのルフスさんの承諾した時のほっとした笑みは、僕の心根に何かが刺さった。
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