どうしよう、俺の公子様がXXに。

小夜時雨

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捕縛9

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 ゆっくりと中を確かめた護衛の後ろ姿はシュールだが、頼もしさもあった。護衛たち複数人が支えるハシゴを軽快に登り、開いた穴の中に半身を入り込ませ、じっと確かめている。中の様子を。

 「……中はそれなりの広さ、ありますね。
  薄暗いですが、何か……気配がします」

 とのこと。
彼は護衛としては鼻が効く獣人なのだろう、

 「死臭はないみたいです」

 とか言っちゃってるし。
ルフスさんも同意見なのか、

 「ええ、そういった獣人特有の、
  死体の臭いはしませんし」

 頷いている。
僕はひとり、震える。

 「リヒト様。
  こういった廃屋では、
  場合によってはそういったこともありますから」
 「う、うん……そう、だね」

 事故物件、ってやつかな……?
 (確かに、獣人は強い体を持つから、
  ちょっと雨風凌げる程度があれば生き延びることは可能だが)
 けど、服を纏って火を使い、縄文時代を過ぎたかのような文化を享受した身であればあるほど、さすがにもう、退廃的な暮らしは……厳しいというか。辛いというか。
 (人間じゃないからこそ、暮らせるけどさ……)
 寒さ、飢餓を感じないわけじゃないのだ、獣人も。
とりあえず死体はないようだから、ちょっと安心。ほっ。
 (でも、何かの気配って……?)

 見上げ続けていると、どうやらひとり分、入り込めるような空間ではあるようだ。
意を決し、護衛は中へと勢いよく入り込んだ。

 「おお」

 僕の驚きの声と共に、勇気ある護衛は探索し始めた。
ぎし、ぎしと歩くたびに砂埃が落ちてくるものの、それなりに頑丈な作りではあったらしく、天井落下はなさそうだ。じっと僕は中の様子を探るも、うん。何もみえないし、気配はあるらしいが……僕にはわからない。
 (うーん、なんでだろう?)
 疑問に思い、隣で待機中のルフスさんに聞いてみる。

 「気配というか、何かいるような感じする?」
 「え、あぁ、はい。
  そうですね……ええ、しますね。俺は、
  なんとなくですが……感じますね、何か、すえた臭い、
  といいましょうか。
  一週間以上、浴あみをしてこなかった獣人と同じ、
  獣臭、がするんです」
 「ええ……」
 
 それはとても……。

 「臭いね、それ」
 「はい。
  さすがに出禁してもらいましたが、
  生きている獣人の、フケというかその。
  肌から、剥がれ……う、っ」
 
 涙目のルフスさんを慮るため、僕はそっと懐にあったハンカチを渡した。

 「どうぞ」
 「あ、ありがとうございます……」

 道理で、臭気が苦手なわけだ。
 こういった廃墟はかまわないようだったが、本物の臭気にはダメっぽい。特に獣人が捻り出したぴーとか、ぴーみたいなものというか。気を失う程度にはトラウマだったようだ。

 「はぁ……リヒト様の良い匂いがします」
 「それならよかった」

 (いいのかな……?)
 特に何もしてない、むしろ側仕えのルフスさんがきちんと洗って手入れしたハンカチをそのまま持って歩いてただけなのに……。
 何やら感動的な顔をしているので、まあ、ヨシとしよう。ヨシ!

 しばらくそうして、隣からのスー、ハー、という鼻息を耳にしながら、天井を見守っていると動きがあった。

 (おや)
 じっと足音を見つめていると、その動きに変化が。

 中で探索していた護衛が、

 「誰かいます!」

 と報告が上がる。
と、同時に。ひょこ、と天井の穴から顔を出し。

 「倒れているようです。
  もう一人、きてください」

 応援、を頼まれたので。
護衛たちが、じゃあ、誰がいく、と顔を見合っていたのを皮切りに、ぱっと。僕は挙手をした。
 手持ち無沙汰だし、ちょうどよかった。

 「え、僕いく、行きます」
 「リヒト様、いけません、そこは他の」
 「この中で一番、身軽で小さいから大丈夫!」
 「そういうことでは」
 「ていやっ」
 「リヒト様!」

 護衛たちも反対意見だったけど、無理やりハシゴに足をかけ、たたた、と軽く駆け上がると、彼らも僕を落とさないようにしなきゃいけなくなるのでハシゴを支える格好となり。

 「リヒト様、もう!
  リヒト様!!」

 心配性のルフスさんの怒りの声が遠くになる頃にはあっという間に中へと、暗がりの中へ入り込むことに成功した。
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