どうしよう、俺の公子様がXXに。

小夜時雨

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捕縛10

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 中に入り込むと……うっすらとした光が入り込む……、屋根裏、といった風情だった。
モノがあちこちに点在はしているものの、規則正しい梁が合間に存在して整然とはしている。

 「……リヒト様、いけません。
  これ以上、進むのは」

 護衛が警戒しているのは、その合間にある、うずくまる物体のことだった。
黒い個体?

 (モゾモゾ、としている……)
 生きているようだ。
 まるで芋虫。
 こちらに意識を向けているようだが……。

 護衛もまた背を低くせざるを得ないぐらい、屋根裏らしく狭い高さの場所だった。
唯一動けそうなのが、僕ぐらい。
 (腰にある武器を振り回すことができない、程度には、
  狭いな……)
 護衛が躊躇するのもわかる。
ここでは丸腰同然なのだ。あまりにも窮屈。
 
 (そして、案の定、
  屋根裏の床は貧弱だ)
 
 僕が少し歩くだけで、足が抜け落ちそうになる程度の軟弱さだ。
護衛は大柄で、体重移動に注意を払わねばならないと危険の様子。

 「……」

 じ、と見定めてみると、奴もこちらをじっと見つめている気配。
 (うーん?)
 生き物、ではあるようだ。
 そして……獣人、っぽい。
 (このままじっとしていても、
  埒が開かない)
 なら、聞いてみるしかないか。
僕は意を決し、その物体に尋ねてみる。

 「あのー、すみません。
  領主からのものなんですが」
 
 まるで公的な方面からきました、的な詐欺な言い回しをしてしまったが、事実だから仕方ない。

 「そのー、ですね。
  あなたに、聞きたいことと、
  その、お会いしたい方がおりまして」
 
 嘘じゃない。
黒い物体は相変わらずもぞっている。

 「任意同行、お願いできませんかね?」

 もはや決定事項だが、僕は一歩踏み込む。
物理的にも。

 護衛が背後で息を潜めているが、横たわる柱に身を隠している黒モゾも、こちらに向けて呼吸を整えつつ……様子を伺っているようだ。果たして生き物か、意思疎通できるものか、あるいはどういった肺呼吸をしている存在か。
 (僕の目では……、
  間違いなく、生物としての本能を感じるけど)
 さて。これはいかに。

 互いに互いを監視しまくっていると、動きは、唐突だった。

 「あ」

 黒いモゾモゾは、間違いなく警戒心マックスで。
だけど、気は強いらしい。

 「リヒト様っ!」

 僕の方へ、まるで弾丸のように飛んできたではないか。

 「わあ」

 僕は、……、
…………ちょっと。





 嬉しかったかも。

 口の端が上がっているのを自覚する。
 
 護衛が明らかに僕の前に立ち塞がろうとしてくれていたが、それより先に。
この黒いモゾモゾを捕獲する方が手早く可能だった。
 もちろん、この黒い物体に武器があったり、鋭いものがあってもおかしくはなかった。
でも、僕の目にはそういったものは感知しなかったし、たとえそういったものがあったとしても、僕の致命傷にはならない。
 そもそも、ここでは武器、といったものを振り回すにはスペースが狭過ぎた。
 僕自身が、小柄であることも幸いした。
黒モゾよりも、素早く動いて、動きをがんじがらめにすることが可能なのだから。

 ただ、まあ。
やっぱり、体重的に。二人分、となるとね。
 
 (重たい、よね)
 ……一瞬、脳裏にフリードの笑顔とその手にある請求書、が浮かんだが、まあ、しゃーないよね、うん。仕方ない。だって、僕。ここまでこの屋根裏の床が腐ってるとは思わなかったからさ。

 「うひっ」
 「わお」

 黒いモゾモゾは喋ることができるらしい。
僕は、黒モゾの背後をとってそのまま背中越しに、まあ、これ幸いとして階下へと落とした。もちろん、僕も一緒に。

 「リヒト様っ! リヒト様!」

 ルフスさんの声が、やけに鮮明になった。
巻き上がる埃、ひどい物音。

 (やべ、あらかじめ……、
  壊す範囲を決めておけばよかった)
 
 切り取り線、みたいにしておけば……ここまで屋根裏が落ちなくて済んだかも。
幸い、ルフスさんたちは避難してくれてて助かったが。
 
 背後から腕を回し、黒モゾを逃さないように首を引き上げる。
僕よりずいぶんと……背丈もあるようだが、僕が引っ張り上げたせいでとても息苦しそうに、

 「無理無理、助けて無理」
 
 と、ちゃんと言葉を話し始めた。

 「なんだ、喋れるのか」
 「うががが、息、息ぃ!」
 「若いね。僕よりは年上っぽいけど」
 「ひいい」

 片腕を引っ張りながら、首も締め上げているので大変苦しそうだ。
でも、素直そうだし、なんとか証言はとれそうだ。

 「リヒト様っ、ご無事ですか!」
 「あ、うん。大丈夫。
  ごめんね、急に暴れちゃって」
 「本当ですよ!」
 「屋根までちょっと落ちたし」
 「本当ですよまったく!」

 ぷんぷん、と、いつものほんわかっぷりは消えて、今はお怒りモードのお兄さんになってしまった僕の使用人。
僕の腕の中で暴れる黒モゾなんて気にもせず、クドクドと僕への文句が流れるようにしてルフスさんの声が響き渡る。
 
 「リヒト様、急に動いたら護衛たちだって、
  護る動きがとれないうえに連携だって崩されて、
  とても大変なんですよ!
  リヒト様、獣人はたいがい頑丈なんで、
  この程度の崩壊はどうでもいいんですが、
  けれども、貴方様だけは守られるべき主君なんですから。
  ダメですよ、僕の主人がこんな汚れまみれに!」
 「ごめんねえ」
 「もう! 
  ちゃんとお風呂入れさせて隅々まで洗わせてもらいますからね!」
 「ええー」

 いくらなんでもそれは……。
 と思っていると、顔に出てるのがバレてるのか、釣り上がった目とめずらしく目があってしまい、はい、と素直に頷いた。
 ちなみに、黒いモゾモゾは本格的に白目を剥き始めていたので、護衛に引き渡すこととなった。
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