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第4部 鬼姫の着せ替え人形なんて、まっぴら!
第23章 創治、趣味で展開をひねくれさせる
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実際のところ、ジェラルドとアリーシャの推理は当たっている。
アリーシャから惚れ薬を盗んだのは紫夏で、その目的は鬼姫と結ばれることだ。
『本来であれば、このように無粋で邪道な手を使いたくはないのですが……、貴女が悪いのです。貴女が、なかなか素直になってくださらないから……』
誰に言うでもなく、ブツブツと言い訳をしながら、紫夏は小瓶の中身を小鍋に垂らしていく。
小鍋の中には、鬼姫の滋養強壮用の甘酒が、火を止められて蒸らされていた。
紫夏は、鬼姫が既に自分に惚れていると信じている。
だが、にも関わらず進展がないことに、業を煮やしていたのだ。
『鬼族の長たる貴女は、鬼族一の猛者である私と結ばれるより他ないと言うのに……。男と契るのが怖いからと言って、いつまでも子どものままでいるなど、長姫として、許されることではありませんぞ』
紫夏は、鬼姫が自分を拒むのを、別の意味に勘違いしている。
鬼姫が幼い姿で男を拒み、周りに女を侍らせているのも、紫夏の勘違いに拍車をかけたようだ。
『貴女には、いい加減に大人になっていただかないと……。魔界の動きも怪しい今日この頃、長姫と強者が結ばれ、郷の体制を強化するのは、義務ですぞ』
惚れ薬と甘酒を、木のヘラでよく混ぜ合わせ、紫夏はほくそ笑んでその場を後にする。
だが、紫夏は気づいていない。
彼がこの時点で既に、致命的なミスを犯してしまっているということに……。
『それにしても、あの紫夏って鬼、説明書もロクに見ずに惚れ薬なんて使って、大丈夫なんですかね?』
場所は鬼鏡の郷の宿の離れに戻り……俺はしれっと、ユースにそんな台詞を言わせていた。
『え?惚れ薬に説明書も何もあるの?』
アリーシャがきょとんとした顔で訊いてくる。
『いや、薬というものは、用法用量をきちんと守って使わないとダメなんですよ。アリーシャ様もよくご存知ですよね?』
言いながら、ユースに懐から惚れ薬の説明書を取り出させる。
受け取ったアリーシャは、しばらく無言でその説明書を読みふけり……驚愕の声を上げた。
『えっ!? ちょっと、コレ……相手じゃなくて自分が惚れ薬を飲むことになってない!?』
『そうですよ。あの惚れ薬は、飲んだ人間のフェロモン分泌を促して、周囲にいる人間を惹きつける効果があるんです』
『ソレ、惚れ薬って言うより "惚れさせ薬" って言わない?』
『そんな単語、無いでしょうが』
俺は常々、疑問に思っていんたんだ。
相手に飲ませて "効果が出た直後に目にした相手を好きになる" タイプの惚れ薬……
あれって、ちょっと使い勝手が悪くて不確実過ぎやしないかと。
薬の効果って、そんな飲んだ直後に出るものなのか?
もしタイムラグがあったとしたら、相手に "自分を見せるタイミング" に困らないか?
そもそも "薬が効いて最初に見た人を好きになる" だと、急にその場に別の人物が現れたりしたら、間違ってそっちに惚れてしまうという "悲しい事故" が起こらないか……?
だったら、飲んだ本人に "その場にいる人間をメロメロにする" 効果が現れた方が、よほど確実なんじゃないか?
『普通は、相手に飲ませるものだと思うよ!きっと、紫夏さんもそうするよ!』
『ってことは、紫夏が余計に鬼姫にベタ惚れするだけなんだぜ』
『それだけなら良いんですけど……もし、用量を守らずに、小瓶まるごと飲ませでもしたら、大変なことになりますよ』
実際、紫夏は瓶の中身を全て甘酒に投入してしまったのだが……そのことはアリーシャたちには教えずにおく。
アリーシャは『えっ?』と疑問の声を零し、再び説明書に目を落とした。
『これって……使用量が多ければ多いほど、効果範囲が広くなって、効能も強力になるって書いてあるじゃん!』
『あの瓶まるごとですと、この郷の大部分が、鬼姫のフェロモンの効果範囲内に入ってしまうでしょうね』
むしろ、そうなってもらわなければ困る。
鬼姫のフェロモンによって巻き起こる大騒動が、この郷のイベントのクライマックスなのだから……。
『大変!黄泉ちゃんが惚れ薬を飲んじゃう前に、何とか止めないと……!』
アリーシャがあわてて立ち上がるが……
『……いや、ひょっとすると、既に手遅れかも知れんぞ』
ジェラルドが冷静に妹を引き止め、耳に手を当てた。
『聞こえないか?外の方から、鬼たちの怒号のようなものが……』
言われて、アリーシャやパープロイも耳を澄ます。
そこに、鬼姫のフェロモンに当てられ我を忘れた鬼たちの、異様な叫びが飛び込んでくる。
『月黄泉様はワシの嫁じゃ!』
『いいや、俺の花嫁だ!』
『鬼族の長姫は、郷一番の強者をムコにとるのが決まり。お主らなぞ、お呼びでないわ!』
『ならば、試してみるか?全てを打ち負かし、勝ち残った者こそが、月黄泉様を手に入れるのだ!』
郷の各地で乱闘が始まる。その音を聞きながら、アリーシャが呆然と呟いた。
『何これ……バトルロイヤル状態じゃん』
アリーシャから惚れ薬を盗んだのは紫夏で、その目的は鬼姫と結ばれることだ。
『本来であれば、このように無粋で邪道な手を使いたくはないのですが……、貴女が悪いのです。貴女が、なかなか素直になってくださらないから……』
誰に言うでもなく、ブツブツと言い訳をしながら、紫夏は小瓶の中身を小鍋に垂らしていく。
小鍋の中には、鬼姫の滋養強壮用の甘酒が、火を止められて蒸らされていた。
紫夏は、鬼姫が既に自分に惚れていると信じている。
だが、にも関わらず進展がないことに、業を煮やしていたのだ。
『鬼族の長たる貴女は、鬼族一の猛者である私と結ばれるより他ないと言うのに……。男と契るのが怖いからと言って、いつまでも子どものままでいるなど、長姫として、許されることではありませんぞ』
紫夏は、鬼姫が自分を拒むのを、別の意味に勘違いしている。
鬼姫が幼い姿で男を拒み、周りに女を侍らせているのも、紫夏の勘違いに拍車をかけたようだ。
『貴女には、いい加減に大人になっていただかないと……。魔界の動きも怪しい今日この頃、長姫と強者が結ばれ、郷の体制を強化するのは、義務ですぞ』
惚れ薬と甘酒を、木のヘラでよく混ぜ合わせ、紫夏はほくそ笑んでその場を後にする。
だが、紫夏は気づいていない。
彼がこの時点で既に、致命的なミスを犯してしまっているということに……。
『それにしても、あの紫夏って鬼、説明書もロクに見ずに惚れ薬なんて使って、大丈夫なんですかね?』
場所は鬼鏡の郷の宿の離れに戻り……俺はしれっと、ユースにそんな台詞を言わせていた。
『え?惚れ薬に説明書も何もあるの?』
アリーシャがきょとんとした顔で訊いてくる。
『いや、薬というものは、用法用量をきちんと守って使わないとダメなんですよ。アリーシャ様もよくご存知ですよね?』
言いながら、ユースに懐から惚れ薬の説明書を取り出させる。
受け取ったアリーシャは、しばらく無言でその説明書を読みふけり……驚愕の声を上げた。
『えっ!? ちょっと、コレ……相手じゃなくて自分が惚れ薬を飲むことになってない!?』
『そうですよ。あの惚れ薬は、飲んだ人間のフェロモン分泌を促して、周囲にいる人間を惹きつける効果があるんです』
『ソレ、惚れ薬って言うより "惚れさせ薬" って言わない?』
『そんな単語、無いでしょうが』
俺は常々、疑問に思っていんたんだ。
相手に飲ませて "効果が出た直後に目にした相手を好きになる" タイプの惚れ薬……
あれって、ちょっと使い勝手が悪くて不確実過ぎやしないかと。
薬の効果って、そんな飲んだ直後に出るものなのか?
もしタイムラグがあったとしたら、相手に "自分を見せるタイミング" に困らないか?
そもそも "薬が効いて最初に見た人を好きになる" だと、急にその場に別の人物が現れたりしたら、間違ってそっちに惚れてしまうという "悲しい事故" が起こらないか……?
だったら、飲んだ本人に "その場にいる人間をメロメロにする" 効果が現れた方が、よほど確実なんじゃないか?
『普通は、相手に飲ませるものだと思うよ!きっと、紫夏さんもそうするよ!』
『ってことは、紫夏が余計に鬼姫にベタ惚れするだけなんだぜ』
『それだけなら良いんですけど……もし、用量を守らずに、小瓶まるごと飲ませでもしたら、大変なことになりますよ』
実際、紫夏は瓶の中身を全て甘酒に投入してしまったのだが……そのことはアリーシャたちには教えずにおく。
アリーシャは『えっ?』と疑問の声を零し、再び説明書に目を落とした。
『これって……使用量が多ければ多いほど、効果範囲が広くなって、効能も強力になるって書いてあるじゃん!』
『あの瓶まるごとですと、この郷の大部分が、鬼姫のフェロモンの効果範囲内に入ってしまうでしょうね』
むしろ、そうなってもらわなければ困る。
鬼姫のフェロモンによって巻き起こる大騒動が、この郷のイベントのクライマックスなのだから……。
『大変!黄泉ちゃんが惚れ薬を飲んじゃう前に、何とか止めないと……!』
アリーシャがあわてて立ち上がるが……
『……いや、ひょっとすると、既に手遅れかも知れんぞ』
ジェラルドが冷静に妹を引き止め、耳に手を当てた。
『聞こえないか?外の方から、鬼たちの怒号のようなものが……』
言われて、アリーシャやパープロイも耳を澄ます。
そこに、鬼姫のフェロモンに当てられ我を忘れた鬼たちの、異様な叫びが飛び込んでくる。
『月黄泉様はワシの嫁じゃ!』
『いいや、俺の花嫁だ!』
『鬼族の長姫は、郷一番の強者をムコにとるのが決まり。お主らなぞ、お呼びでないわ!』
『ならば、試してみるか?全てを打ち負かし、勝ち残った者こそが、月黄泉様を手に入れるのだ!』
郷の各地で乱闘が始まる。その音を聞きながら、アリーシャが呆然と呟いた。
『何これ……バトルロイヤル状態じゃん』
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