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第4部 鬼姫の着せ替え人形なんて、まっぴら!
第26章 アリーシャ、勇者との再会をスキップする
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「では、アリーシャ。頼んだぞ」
「ハイ!水鏡よ、水を湧かせよ!」
鬼鏡の郷の大通りは、すっかり鬼たちのバトルロイヤル会場と化していた。
ここを進まなければ館に辿り着けないのに、一歩でも足を踏み入れれば、乱闘に巻き込まれること必至だ。
私はジェラルドに先に指示されていた通り、水鏡を天へ向け、その効果を発動させた。
鏡面から大量の水が噴き出す。まるでテーマパークの巨大噴水のようだ。
「次、ロイ!頼む!」
「了解だぜ!プロミネンス・コウコウエイゴ!」
パープロイが高らかに呪文を唱えるが……それって、創君の学校の教科書の名前だよね……。
この世界の人たちって、私たちの作った "やっつけネーミング呪文" を、どんな気持ちで使ってるんだろう……。
パープロイの杖の先からは、太陽のプロミネンスを思わせる凄まじい炎が噴き出し、私の湧き出させた水を一瞬で蒸発させる。
「……では、仕上げだ。攪拌する槍!」
ジェラルドが鋭い発声とともに、手に持っていた槍を前に突き出す。
直後、ぶわりと風が巻き起こった。
風はパープロイの生み出した "水蒸気" をほど良く拡散させ、その場にサウナのような高温多湿状態を作り上げる。
鬼たちはバトルに夢中で、しばらくはそんな環境変化にさえ気づいていないようだった。
だが、そのうちだんだん動きが鈍くなり、一人、また一人と、ばたばた道に倒れていく。
「見事な連携プレーです。ウォータードアー様は風属性攻撃の使い手なんですね」
桃幻が感心したように拍手するが……
実はジェラルド、風属性だけでなく、四大元素の全属性の攻撃が使える。
高レベルの技を覚えられないのが難点だが、中盤までならかなり "使える" オールマイティーキャラなのだ。
「この一帯の鬼たちは、これで無力化できたな。この先ちょこちょこ遭遇するであろう個々の鬼たちは、桃幻殿の巫術や、アリーシャの時間停止魔法などで切り抜けていこう」
鬼百合の館へ向け走り出しながら、ジェラルドが指示を飛ばす。
「了解しました」
「分かりました!お兄……ウォータードアーさん」
既に薄々バレてしまっているかも知れないが、桃幻の手前、一応まだジェラルドの正体は誤魔化しておく。
それにしても……自分では、ついうっかり思いつけずにいたけど、私、相手の動きを止める魔法なら、既に持っていたんだな。
気絶させられなくても、相手の時間を止めちゃえばいいんだもんね。
……なんて、思っていたのだが……
「鬼百合の館へは行かせぬぞ!長姫様は我がヨメじゃ!」
「ぴぎゃッ!?」
突然目の前に新手の鬼が現れた時、私はビックリするだけで、すぐには動けなかった。
「僕に任せてください!」
私の代わりに桃幻が飛び出し、黄色く光る手のひらで、その鬼を気絶させる。
「わわわ……っ。すみません!私の方が近かったのに……っ」
「いや、こういうことは、経験がモノを言うからな。すぐに反応できなくても無理はない」
「ドンマイだぜ、アリーシャ。次にしっかりやれればいいんだ」
戦闘では、一瞬の判断の遅れが命取りになることもあるのに……ジェラルドもパープロイも、私には優しいな……。
創君だったら、絶対メチャクチャ文句言ってくるのに……。
「分かりました!次は頑張ります!」
反省した私は、館へ向かって走りながら、心の中で何度も何度も、繰り返し自分に言い聞かせた。
鬼が出たら、魔法をかける。鬼が出たら、とにかく魔法をかけるのだ、と……。
「ぐははははッ!何人来ようと、同じこと!郷一番の強者は、この俺だ!」
「わ……っ、出た!時間停止1分間!」
次にまた鬼と遭遇した時、私は反射的に呪文を唱えていた。
その鬼がいる状況も、ちゃんと確認しないまま……。
そして、魔法をかけてしまった後で気づく。
「……あれ?レッド……!? 何でココに……?」
その鬼は既にバトルの最中で、その目の前には一人の人間の姿があった。
日本刀のような形の優美な刀剣を、頭上に高く振りかざすその人物は――勇者レッド。
あの剣……きっと、メトロポラリス七星匠ガンメタール・ダムドの手による勇者専用武器だな。
しかし、そのレッドも私の魔法で、鬼もろとも時間を止められてしまっている。
「お知り合いの方ですか?」
「えっと……まぁ、一応……」
「アリーシャ!今はその男に構っている場合ではない!時間停止が解ける前に、行くぞ!」
そうだ。1分経ったら魔法が解けちゃう。
レッドには悪いけど、呑気に再会を喜んでいられる状況じゃないな。
「ごめんね、レッド!また今度!」
聞こえていないとは知りつつも、一応それだけ言って先を急ぐ。
魔法が解けたら、また彼の戦いは再開されてしまうわけだけど……まぁ、あのレベルの鬼が相手なら、彼の敵ではないだろう。
「ハイ!水鏡よ、水を湧かせよ!」
鬼鏡の郷の大通りは、すっかり鬼たちのバトルロイヤル会場と化していた。
ここを進まなければ館に辿り着けないのに、一歩でも足を踏み入れれば、乱闘に巻き込まれること必至だ。
私はジェラルドに先に指示されていた通り、水鏡を天へ向け、その効果を発動させた。
鏡面から大量の水が噴き出す。まるでテーマパークの巨大噴水のようだ。
「次、ロイ!頼む!」
「了解だぜ!プロミネンス・コウコウエイゴ!」
パープロイが高らかに呪文を唱えるが……それって、創君の学校の教科書の名前だよね……。
この世界の人たちって、私たちの作った "やっつけネーミング呪文" を、どんな気持ちで使ってるんだろう……。
パープロイの杖の先からは、太陽のプロミネンスを思わせる凄まじい炎が噴き出し、私の湧き出させた水を一瞬で蒸発させる。
「……では、仕上げだ。攪拌する槍!」
ジェラルドが鋭い発声とともに、手に持っていた槍を前に突き出す。
直後、ぶわりと風が巻き起こった。
風はパープロイの生み出した "水蒸気" をほど良く拡散させ、その場にサウナのような高温多湿状態を作り上げる。
鬼たちはバトルに夢中で、しばらくはそんな環境変化にさえ気づいていないようだった。
だが、そのうちだんだん動きが鈍くなり、一人、また一人と、ばたばた道に倒れていく。
「見事な連携プレーです。ウォータードアー様は風属性攻撃の使い手なんですね」
桃幻が感心したように拍手するが……
実はジェラルド、風属性だけでなく、四大元素の全属性の攻撃が使える。
高レベルの技を覚えられないのが難点だが、中盤までならかなり "使える" オールマイティーキャラなのだ。
「この一帯の鬼たちは、これで無力化できたな。この先ちょこちょこ遭遇するであろう個々の鬼たちは、桃幻殿の巫術や、アリーシャの時間停止魔法などで切り抜けていこう」
鬼百合の館へ向け走り出しながら、ジェラルドが指示を飛ばす。
「了解しました」
「分かりました!お兄……ウォータードアーさん」
既に薄々バレてしまっているかも知れないが、桃幻の手前、一応まだジェラルドの正体は誤魔化しておく。
それにしても……自分では、ついうっかり思いつけずにいたけど、私、相手の動きを止める魔法なら、既に持っていたんだな。
気絶させられなくても、相手の時間を止めちゃえばいいんだもんね。
……なんて、思っていたのだが……
「鬼百合の館へは行かせぬぞ!長姫様は我がヨメじゃ!」
「ぴぎゃッ!?」
突然目の前に新手の鬼が現れた時、私はビックリするだけで、すぐには動けなかった。
「僕に任せてください!」
私の代わりに桃幻が飛び出し、黄色く光る手のひらで、その鬼を気絶させる。
「わわわ……っ。すみません!私の方が近かったのに……っ」
「いや、こういうことは、経験がモノを言うからな。すぐに反応できなくても無理はない」
「ドンマイだぜ、アリーシャ。次にしっかりやれればいいんだ」
戦闘では、一瞬の判断の遅れが命取りになることもあるのに……ジェラルドもパープロイも、私には優しいな……。
創君だったら、絶対メチャクチャ文句言ってくるのに……。
「分かりました!次は頑張ります!」
反省した私は、館へ向かって走りながら、心の中で何度も何度も、繰り返し自分に言い聞かせた。
鬼が出たら、魔法をかける。鬼が出たら、とにかく魔法をかけるのだ、と……。
「ぐははははッ!何人来ようと、同じこと!郷一番の強者は、この俺だ!」
「わ……っ、出た!時間停止1分間!」
次にまた鬼と遭遇した時、私は反射的に呪文を唱えていた。
その鬼がいる状況も、ちゃんと確認しないまま……。
そして、魔法をかけてしまった後で気づく。
「……あれ?レッド……!? 何でココに……?」
その鬼は既にバトルの最中で、その目の前には一人の人間の姿があった。
日本刀のような形の優美な刀剣を、頭上に高く振りかざすその人物は――勇者レッド。
あの剣……きっと、メトロポラリス七星匠ガンメタール・ダムドの手による勇者専用武器だな。
しかし、そのレッドも私の魔法で、鬼もろとも時間を止められてしまっている。
「お知り合いの方ですか?」
「えっと……まぁ、一応……」
「アリーシャ!今はその男に構っている場合ではない!時間停止が解ける前に、行くぞ!」
そうだ。1分経ったら魔法が解けちゃう。
レッドには悪いけど、呑気に再会を喜んでいられる状況じゃないな。
「ごめんね、レッド!また今度!」
聞こえていないとは知りつつも、一応それだけ言って先を急ぐ。
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