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第4部 鬼姫の着せ替え人形なんて、まっぴら!
第27章 創治、クライマックスを描写する
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なぜだか立ち寄る先々で騒動に巻き込まれ、そこで選んだ行動が、結果的に世界を救うことへと結びついていく――それが、勇者の "宿命" だ。
なので、今回の鬼鏡の郷の騒動にも、勇者レッドは偶然 居合わせることになる。
だが……
「よし!これで勇者への好感度アップは無しだな!」
アリーシャが素の行動で勇者との再会をすっ飛ばしたおかげで、"王女と勇者の新密度を上げそうな新規イベント" の発生は避けられた。
勇者には悪いが……アリーシャには、結婚後に苦労しない相手と結ばれて欲しいのだ。
『もう、だいぶ時間が経っちゃってる……。黄泉ちゃん、大丈夫かな?』
アリーシャが心配そうに呟く。
『姫様には "鬼道" の力があります。普通の鬼なら姫様に触れることすら叶わないでしょう。……普通の鬼であれば、ですが……』
『その "鬼道" って、何なんですか?噂に聞いた、長姫の敵がよく不審死を遂げるっていうのと、関係してたりしますか?』
『ちょ……っ、アリーシャ!センシティブな話題にブッ込み過ぎなんだぜ!?』
学校を休みがちで、リアルな人づき合いが少なかったせいか、それとも毎日のように読み漁っていたマンガやラノベの影響なのか……愛理咲は "あえて空気を読まない" ことが多々ある。
前に「そんなんじゃ友達できないだろ」と訊いたら「向こうが遠慮してくるのに、こっちがグイグイ行かなかったら、永遠に平行線じゃん」と返された。
あいつのコミュ力と異常なまでのポジティブさは、俺にとって未だに解けないナゾだ。
『…… "鬼道" と不審死は関係ありませんよ。姫様の御力は、他者を従わせる力。時にその意思をねじ曲げ、惑わしさえする……精神に働きかける力です』
桃幻は平静な声でそう説明する。が、その顔からは笑みが消えていた。
この話題は桃幻にとって、あまり好ましくないものだからな……。
鬼道とは、鬼族の長一族が代々受け継ぐ特殊スキル。その力は長の "瞳" に宿っている。
相手と目を合わせ、力を籠めて睨みつけることにより、効果が発動するのだが……使えば使うほど、その目は疲労し、眼力は弱くなっていく。
『……くッ。次から次へと……。キリが無いわ!』
鬼姫は館勤めの鬼女たちを背に庇い、正気を失って襲いかかってくる鬼たちに、ひとり対峙していた。
『月黄泉様ぁ……。どうか私めの想いを受け入れてくださ……』
『下がれ!この無礼者が!』
鬼姫の両眼が金色に輝くと、対峙していた鬼は一瞬で竦み上がり、怯えたように去って行く。
だが、後から後から新手の鬼が現れるため、鬼姫には休む暇も無い。
『何なのじゃ、この事態は!一体、何が起きておる!?』
『お昼に召し上がった甘酒に、何か入れられていたのでは?皆、月黄泉様への恋情に我を失っているように見受けられます』
勘の良い茶穂が推察する。
『惚れ薬か?誰が、何のために……?』
鬼姫が、不可解でならないといった顔で呟く。
その問いに答えるように、ゆらりと姿を現した者があった。
『私ですよ。全ては貴女のため。そして鬼族の未来のためです』
『……紫夏。お主、何を言うておる?』
『私と夫婦になりましょう。今すぐにでも祝言を挙げましょう、月黄泉様』
おそらく紫夏は、努めて冷静に、真面目に求婚したつもりだっただろう。しかし、その顔は抑えきれぬ興奮でにやついていた。
鬼姫は嫌悪感に引きつった顔で即答する。
『断る!お主の、その自惚れきった勘違いには、もううんざりじゃ!』
だが、紫夏はその返答を笑った。
『……まったく。いい加減 "大人" におなりください。いつまでもワガママが通ると思ったら、大間違いですぞ。これは少々、荒療治が必要ですな』
言いながら紫夏は、荒々しい筋肉に覆われたその腕を、鬼姫へ向け伸ばす。
『来るな!下がれ!』
鬼姫は鬼道を使って拒絶しようとするが……
『効きませぬな。そのように弱き眼力で、私の強い想いを留めることなど出来ませぬぞ!』
紫夏は一瞬ビクリと立ち竦んだだけで、すぐに立ち直った。
鬼姫はもう既に、かなり力を消耗してしまっている。
弱った眼力では、紫夏の精神力――と言うより、強過ぎる思い込みの力を抑えることができないのだ。
『恐れることはありません。幼いままの貴女に無体を強いたりは致しませぬゆえ。貴女が自らの御意思で「大人になりたい」と思われるよう、ゆっくりじっくり愛を注いで差し上げますぞ』
紫夏の手は易々と、鬼姫の細い手首を捕らえる。
そのまま、まるで人形でも抱くように、小さな身体をすっぽりと抱き込んだ。
『嫌じゃ!キモいのじゃ!』
『聞き分けてください。貴女は元より、郷一番の強者たる私と結ばれる運命なのです』
耳元に吹き込まれるその囁きに、鬼姫は涙目で首を振る。
『違うッ!郷一番の強者は、お主などではない!この郷で最も強いのは……。予が、婿に迎えたいのは……』
『姫様……っ!』
ふいに届いたその叫びに、鬼姫は縋るように顔を上げる。
その目に映るのは、やっとこの場に辿り着いたアリーシャ一行――そして、その中にいる鬼姫最愛の人物だ。
『……桃幻』
なので、今回の鬼鏡の郷の騒動にも、勇者レッドは偶然 居合わせることになる。
だが……
「よし!これで勇者への好感度アップは無しだな!」
アリーシャが素の行動で勇者との再会をすっ飛ばしたおかげで、"王女と勇者の新密度を上げそうな新規イベント" の発生は避けられた。
勇者には悪いが……アリーシャには、結婚後に苦労しない相手と結ばれて欲しいのだ。
『もう、だいぶ時間が経っちゃってる……。黄泉ちゃん、大丈夫かな?』
アリーシャが心配そうに呟く。
『姫様には "鬼道" の力があります。普通の鬼なら姫様に触れることすら叶わないでしょう。……普通の鬼であれば、ですが……』
『その "鬼道" って、何なんですか?噂に聞いた、長姫の敵がよく不審死を遂げるっていうのと、関係してたりしますか?』
『ちょ……っ、アリーシャ!センシティブな話題にブッ込み過ぎなんだぜ!?』
学校を休みがちで、リアルな人づき合いが少なかったせいか、それとも毎日のように読み漁っていたマンガやラノベの影響なのか……愛理咲は "あえて空気を読まない" ことが多々ある。
前に「そんなんじゃ友達できないだろ」と訊いたら「向こうが遠慮してくるのに、こっちがグイグイ行かなかったら、永遠に平行線じゃん」と返された。
あいつのコミュ力と異常なまでのポジティブさは、俺にとって未だに解けないナゾだ。
『…… "鬼道" と不審死は関係ありませんよ。姫様の御力は、他者を従わせる力。時にその意思をねじ曲げ、惑わしさえする……精神に働きかける力です』
桃幻は平静な声でそう説明する。が、その顔からは笑みが消えていた。
この話題は桃幻にとって、あまり好ましくないものだからな……。
鬼道とは、鬼族の長一族が代々受け継ぐ特殊スキル。その力は長の "瞳" に宿っている。
相手と目を合わせ、力を籠めて睨みつけることにより、効果が発動するのだが……使えば使うほど、その目は疲労し、眼力は弱くなっていく。
『……くッ。次から次へと……。キリが無いわ!』
鬼姫は館勤めの鬼女たちを背に庇い、正気を失って襲いかかってくる鬼たちに、ひとり対峙していた。
『月黄泉様ぁ……。どうか私めの想いを受け入れてくださ……』
『下がれ!この無礼者が!』
鬼姫の両眼が金色に輝くと、対峙していた鬼は一瞬で竦み上がり、怯えたように去って行く。
だが、後から後から新手の鬼が現れるため、鬼姫には休む暇も無い。
『何なのじゃ、この事態は!一体、何が起きておる!?』
『お昼に召し上がった甘酒に、何か入れられていたのでは?皆、月黄泉様への恋情に我を失っているように見受けられます』
勘の良い茶穂が推察する。
『惚れ薬か?誰が、何のために……?』
鬼姫が、不可解でならないといった顔で呟く。
その問いに答えるように、ゆらりと姿を現した者があった。
『私ですよ。全ては貴女のため。そして鬼族の未来のためです』
『……紫夏。お主、何を言うておる?』
『私と夫婦になりましょう。今すぐにでも祝言を挙げましょう、月黄泉様』
おそらく紫夏は、努めて冷静に、真面目に求婚したつもりだっただろう。しかし、その顔は抑えきれぬ興奮でにやついていた。
鬼姫は嫌悪感に引きつった顔で即答する。
『断る!お主の、その自惚れきった勘違いには、もううんざりじゃ!』
だが、紫夏はその返答を笑った。
『……まったく。いい加減 "大人" におなりください。いつまでもワガママが通ると思ったら、大間違いですぞ。これは少々、荒療治が必要ですな』
言いながら紫夏は、荒々しい筋肉に覆われたその腕を、鬼姫へ向け伸ばす。
『来るな!下がれ!』
鬼姫は鬼道を使って拒絶しようとするが……
『効きませぬな。そのように弱き眼力で、私の強い想いを留めることなど出来ませぬぞ!』
紫夏は一瞬ビクリと立ち竦んだだけで、すぐに立ち直った。
鬼姫はもう既に、かなり力を消耗してしまっている。
弱った眼力では、紫夏の精神力――と言うより、強過ぎる思い込みの力を抑えることができないのだ。
『恐れることはありません。幼いままの貴女に無体を強いたりは致しませぬゆえ。貴女が自らの御意思で「大人になりたい」と思われるよう、ゆっくりじっくり愛を注いで差し上げますぞ』
紫夏の手は易々と、鬼姫の細い手首を捕らえる。
そのまま、まるで人形でも抱くように、小さな身体をすっぽりと抱き込んだ。
『嫌じゃ!キモいのじゃ!』
『聞き分けてください。貴女は元より、郷一番の強者たる私と結ばれる運命なのです』
耳元に吹き込まれるその囁きに、鬼姫は涙目で首を振る。
『違うッ!郷一番の強者は、お主などではない!この郷で最も強いのは……。予が、婿に迎えたいのは……』
『姫様……っ!』
ふいに届いたその叫びに、鬼姫は縋るように顔を上げる。
その目に映るのは、やっとこの場に辿り着いたアリーシャ一行――そして、その中にいる鬼姫最愛の人物だ。
『……桃幻』
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