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第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!
第25章 創治はアリーシャを何とかしたい
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芹原愛理咲という少女は、とにかくテキトーで大雑把な人間だった。
『魔界編のラストはね、魔王城が崩れ落ちて終わるの!でね、落城寸前の城の中では、新魔王ブランと王子スカイの、熱い男の友情が展開すんの!』
『ラストはそれでいいとして、間のシナリオとか、城の間取りとか、どうする?』
『ラストのシナリオはねー……玉座の間に倒れてるブランを見つけたスカイが……』
『いや、間を飛ばして先にラストに行くなよ。つーか、終盤の魔王、死に際なのにベラベラしゃべり過ぎじゃね?』
二人で始めたゲーム作りも、自分の好きな場面や設定ばかり作って、後は全て放ったらかし。
細かくて地味な作業は、全部俺に丸投げだった。
「魔王城の終焉は、お前が作ったシナリオだろうが……。何で今さら改変しようとするんだよ……?」
愛理咲の好む "ヤマ場" や "熱いシーン" だけでは、ゲームのシナリオは完成しない。
だから、俺は頑張った。
無い知恵を必死に絞って、愛理咲の作ったシーンの "間" を埋めるシナリオを書き上げた。
なのに……
「人が苦労して作ったシナリオを、何の躊躇もなくブッ壊してくって、どういう了見なんだよ?……アリーシャ」
アリーシャをヒロインに据え直して、シナリオのリライトを始めて以来、俺のシナリオはことごとく否定され、潰され、メチャクチャに書き換えられている。
――いや、書き換えているのも、確かに俺自身のはずなのだが……どうにも、俺の意思とは無関係に、キャラクターが暴走している気がしてならない。
特に愛理咲……いや、アリーシャ・シェリーローズが。
「魔王ブランと王子スカイの、悲しくも儚い最期を見るのが、お前の望みだったんだろうが。今さら、言うに事欠いて "残酷な神" とか、大概にしろよ」
アリーシャが何を考えているのか、俺にはサッパリ分からない。
俺に分かるのは、俺の指が勝手に叩き出す、アリーシャの台詞やひとり言だけだ。
なぜか "スカイの命を助けたがっている" ということだけは分かるのだが……
「スカイの死がなくなると、ブランが "ぼっち" で可哀想に死ぬことになるぞ。それでいいのか、お前」
……と言うか、下手にシナリオ改変すると、ストーリーが破綻しそうで怖い。
スカイは、ヒロインの幸福には影響しない、ただの脇キャラだ。
正直、俺にとっては、その生死など、どうでもいい。
「もう、お前、薬でも飲まされて、おとなしくなっとけ」
まさかアリーシャが、魔王城に囚われてなお、裏技を出して画策を始めるとは、予想もしていなかった。
このままにしておけば、確実にまたシナリオを破壊される。
だから俺は、手駒を使ってアリーシャをおとなしくさせることにした。
魔王の右腕オリヴィアス・インフェルノ――奴なら、独断で囚われの姫に薬を盛るくらい、平気でやる。
ブランのように血管に直接注ぎ込むのと違い、経口摂取では効果が薄いかも知れないが…… "しばらく頭がボーッとして動けない" くらいの効果はあるだろう。
『……嫌っ!』
アリーシャは必死に抵抗する。
『諦めろ。知っているぞ、小娘。お前、何やら妙な動きをしているな?余計なことをされては困る。しばらくの間 "お人形" になっていろ』
オリヴィアスは冷酷に囁きながら、アリーシャの口に薬瓶を近づける。
『嫌だってば……!』
アリーシャは、身動きもままならない中、口だけで必死に抗う。
『やだ……っ!助けて……!…………創君!』
指が叩いたその台詞に、俺の思考が一瞬止まった。
止まった……はずなのに、俺の指は続けて勝手に、場面の "続き" を描き出す。
『何をなさっておいでなのですか、インフェルノ様!』
扉が開け放たれ、メイド二人が帰って来る。
……ちょっと待て。ここでアリーシャを助けてしまっては、元も子も無いぞ。
『何をしていようと、メイド風情には関係の無いことだ。下がれ』
オリヴィアスが眼光鋭く睨むと、ヴィヴィアンヌは一瞬怯んだ。
だが、背後に隠れたプリンにコソコソ何か耳打ちされると、ハッとしたように再び声を上げる。
『このこと、魔王陛下はご承知なのですか!? 陛下にお尋ねしても、よろしいのですね!?』
ブランにバラすと言われてしまえば、それまでだ。
今はまだ、ブランに不信感を持たれてはマズい。
オリヴィアスは舌打ちすると、アリーシャから手を放した。
『今見たものは、他言無用だ。陛下に密告などしてみよ。……どうなるか、分かっているな?』
抜かりなく脅しをかけると、オリヴィアスは苛立ちを隠さぬ態度で去って行った。
『アリーシャちゃん、大丈夫だったニャン?ヘンなことされてないニャン?』
さっきまでヴィヴィアンヌの後ろに隠れて、こっそりシャーシャー言うだけだったプリンが、駆け出して来てアリーシャに抱きつく。
『……うん、何とか。薬飲まされるのは、未遂で済んだし。ありがとう、二人とも』
アリーシャは安堵の表情で、メイド二人に礼を言う。
……これでは、せっかくのアリーシャ洗脳計画が台無しだ。
いや、今からでも遅くない。何行か消して、書き直せば……
……そう、思うのだが……俺の手は文を消すことなく、むしろ新たな文章を追加する。
『創君も、ありがと』
ひとり言のように、ひっそり虚空に呟くアリーシャ。
その台詞に、俺の手が再び止まる。
――あり得ない。
シナリオの中のアリーシャが、執筆者を認識しているわけがない。
そもそも、自分の書いたキャラクターの行動に、自分でイライラして行動を制限しようとする、俺自身がばかげている。
……どうしてこうも、調子が狂うんだ。
「……何やってるんだ、俺」
ひとり、苦く呟く。
だが、俺のこの呟きは、シナリオの中のアリーシャには聞こえない。
『魔界編のラストはね、魔王城が崩れ落ちて終わるの!でね、落城寸前の城の中では、新魔王ブランと王子スカイの、熱い男の友情が展開すんの!』
『ラストはそれでいいとして、間のシナリオとか、城の間取りとか、どうする?』
『ラストのシナリオはねー……玉座の間に倒れてるブランを見つけたスカイが……』
『いや、間を飛ばして先にラストに行くなよ。つーか、終盤の魔王、死に際なのにベラベラしゃべり過ぎじゃね?』
二人で始めたゲーム作りも、自分の好きな場面や設定ばかり作って、後は全て放ったらかし。
細かくて地味な作業は、全部俺に丸投げだった。
「魔王城の終焉は、お前が作ったシナリオだろうが……。何で今さら改変しようとするんだよ……?」
愛理咲の好む "ヤマ場" や "熱いシーン" だけでは、ゲームのシナリオは完成しない。
だから、俺は頑張った。
無い知恵を必死に絞って、愛理咲の作ったシーンの "間" を埋めるシナリオを書き上げた。
なのに……
「人が苦労して作ったシナリオを、何の躊躇もなくブッ壊してくって、どういう了見なんだよ?……アリーシャ」
アリーシャをヒロインに据え直して、シナリオのリライトを始めて以来、俺のシナリオはことごとく否定され、潰され、メチャクチャに書き換えられている。
――いや、書き換えているのも、確かに俺自身のはずなのだが……どうにも、俺の意思とは無関係に、キャラクターが暴走している気がしてならない。
特に愛理咲……いや、アリーシャ・シェリーローズが。
「魔王ブランと王子スカイの、悲しくも儚い最期を見るのが、お前の望みだったんだろうが。今さら、言うに事欠いて "残酷な神" とか、大概にしろよ」
アリーシャが何を考えているのか、俺にはサッパリ分からない。
俺に分かるのは、俺の指が勝手に叩き出す、アリーシャの台詞やひとり言だけだ。
なぜか "スカイの命を助けたがっている" ということだけは分かるのだが……
「スカイの死がなくなると、ブランが "ぼっち" で可哀想に死ぬことになるぞ。それでいいのか、お前」
……と言うか、下手にシナリオ改変すると、ストーリーが破綻しそうで怖い。
スカイは、ヒロインの幸福には影響しない、ただの脇キャラだ。
正直、俺にとっては、その生死など、どうでもいい。
「もう、お前、薬でも飲まされて、おとなしくなっとけ」
まさかアリーシャが、魔王城に囚われてなお、裏技を出して画策を始めるとは、予想もしていなかった。
このままにしておけば、確実にまたシナリオを破壊される。
だから俺は、手駒を使ってアリーシャをおとなしくさせることにした。
魔王の右腕オリヴィアス・インフェルノ――奴なら、独断で囚われの姫に薬を盛るくらい、平気でやる。
ブランのように血管に直接注ぎ込むのと違い、経口摂取では効果が薄いかも知れないが…… "しばらく頭がボーッとして動けない" くらいの効果はあるだろう。
『……嫌っ!』
アリーシャは必死に抵抗する。
『諦めろ。知っているぞ、小娘。お前、何やら妙な動きをしているな?余計なことをされては困る。しばらくの間 "お人形" になっていろ』
オリヴィアスは冷酷に囁きながら、アリーシャの口に薬瓶を近づける。
『嫌だってば……!』
アリーシャは、身動きもままならない中、口だけで必死に抗う。
『やだ……っ!助けて……!…………創君!』
指が叩いたその台詞に、俺の思考が一瞬止まった。
止まった……はずなのに、俺の指は続けて勝手に、場面の "続き" を描き出す。
『何をなさっておいでなのですか、インフェルノ様!』
扉が開け放たれ、メイド二人が帰って来る。
……ちょっと待て。ここでアリーシャを助けてしまっては、元も子も無いぞ。
『何をしていようと、メイド風情には関係の無いことだ。下がれ』
オリヴィアスが眼光鋭く睨むと、ヴィヴィアンヌは一瞬怯んだ。
だが、背後に隠れたプリンにコソコソ何か耳打ちされると、ハッとしたように再び声を上げる。
『このこと、魔王陛下はご承知なのですか!? 陛下にお尋ねしても、よろしいのですね!?』
ブランにバラすと言われてしまえば、それまでだ。
今はまだ、ブランに不信感を持たれてはマズい。
オリヴィアスは舌打ちすると、アリーシャから手を放した。
『今見たものは、他言無用だ。陛下に密告などしてみよ。……どうなるか、分かっているな?』
抜かりなく脅しをかけると、オリヴィアスは苛立ちを隠さぬ態度で去って行った。
『アリーシャちゃん、大丈夫だったニャン?ヘンなことされてないニャン?』
さっきまでヴィヴィアンヌの後ろに隠れて、こっそりシャーシャー言うだけだったプリンが、駆け出して来てアリーシャに抱きつく。
『……うん、何とか。薬飲まされるのは、未遂で済んだし。ありがとう、二人とも』
アリーシャは安堵の表情で、メイド二人に礼を言う。
……これでは、せっかくのアリーシャ洗脳計画が台無しだ。
いや、今からでも遅くない。何行か消して、書き直せば……
……そう、思うのだが……俺の手は文を消すことなく、むしろ新たな文章を追加する。
『創君も、ありがと』
ひとり言のように、ひっそり虚空に呟くアリーシャ。
その台詞に、俺の手が再び止まる。
――あり得ない。
シナリオの中のアリーシャが、執筆者を認識しているわけがない。
そもそも、自分の書いたキャラクターの行動に、自分でイライラして行動を制限しようとする、俺自身がばかげている。
……どうしてこうも、調子が狂うんだ。
「……何やってるんだ、俺」
ひとり、苦く呟く。
だが、俺のこの呟きは、シナリオの中のアリーシャには聞こえない。
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