上 下
138 / 162
第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!

第25章 創治はアリーシャを何とかしたい

しおりを挟む
 芹原愛理咲ありさという少女は、とにかくテキトーで大雑把おおざっぱな人間だった。
 
 
『魔界編のラストはね、魔王城が崩れ落ちて終わるの!でね、落城寸前の城の中では、新魔王ブランと王子スカイの、熱い男の友情が展開すんの!』
 
『ラストはそれでいいとして、間のシナリオとか、城の間取まどりとか、どうする?』
 
『ラストのシナリオはねー……玉座の間に倒れてるブランを見つけたスカイが……』
 
『いや、間を飛ばして先にラストに行くなよ。つーか、終盤の魔王、死にぎわなのにベラベラしゃべり過ぎじゃね?』
 
 
 二人で始めたゲーム作りも、自分の好きな場面や設定ばかり作って、後は全てったらかし。
 
 こまかくて地味な作業は、全部俺に丸投げだった。
 
 
「魔王城の終焉しゅうえんは、お前が作ったシナリオだろうが……。何で今さら改変しようとするんだよ……?」
 
 愛理咲の好む "ヤマ場" や "熱いシーン" だけでは、ゲームのシナリオは完成しない。
 
 だから、俺は頑張がんばった。
 
 無い知恵を必死にしぼって、愛理咲の作ったシーンの "間" をめるシナリオを書き上げた。
 
 なのに……
 
「人が苦労して作ったシナリオを、何の躊躇ちゅうちょもなくブッ壊してくって、どういう了見りょうけんなんだよ?……アリーシャ」
 
 
 アリーシャをヒロインにえ直して、シナリオのリライトを始めて以来、俺のシナリオはことごとく否定され、つぶされ、メチャクチャに書きえられている。
 
 ――いや、書き換えているのも、確かに俺自身のはずなのだが……どうにも、俺の意思とは無関係に、キャラクターが暴走している気がしてならない。
 
 特に愛理咲……いや、アリーシャ・シェリーローズが。
 
 
「魔王ブランと王子スカイの、悲しくもはかない最期を見るのが、お前の望みだったんだろうが。今さら、言うに事欠ことかいて "残酷な神" とか、大概たいがいにしろよ」
 
 
 アリーシャが何を考えているのか、俺にはサッパリ分からない。
 
 俺に分かるのは、俺の指が勝手にたたき出す、アリーシャの台詞せりふやひとり言だけだ。
 
 なぜか "スカイの命を助けたがっている" ということだけは分かるのだが……
 
「スカイの死がなくなると、ブランが "ぼっち" で可哀想に死ぬことになるぞ。それでいいのか、お前」
 
 
 ……と言うか、下手にシナリオ改変すると、ストーリーが破綻はたんしそうで怖い。
 
 
 スカイは、ヒロインアリーシャの幸福には影響しない、ただの脇キャラだ。
 
 正直、俺にとっては、その生死など、どうでもいい。
 
 
「もう、お前、薬でも飲まされて、おとなしくなっとけ」
 
 
 まさかアリーシャが、魔王城に囚われてなお、裏技白兵衛を出して画策かくさくを始めるとは、予想もしていなかった。
 
 このままにしておけば、確実にまたシナリオを破壊される。
 
 だから俺は、手駒てごまを使ってアリーシャをおとなしく・・・・・させることにした。
 
 
 魔王の右腕オリヴィアス・インフェルノ――奴なら、独断で囚われの姫に薬を盛るくらい、平気でやる。
 
 ブランのように血管に直接そそぎ込むのと違い、経口摂取けいこうせっしゅでは効果が薄いかも知れないが…… "しばらく頭がボーッとして動けない" くらいの効果はあるだろう。
 
 
『……嫌っ!』
 
 アリーシャは必死に抵抗する。
 
あきらめろ。知っているぞ、小娘。お前、何やら妙な動きをしているな?余計なことをされては困る。しばらくの間 "お人形" になっていろ』
 
 オリヴィアスは冷酷にささやきながら、アリーシャの口に薬びんを近づける。
 
『嫌だってば……!』
 
 アリーシャは、身動きもままならない中、口だけで必死にあらがう。
 
 
 
『やだ……っ!助けて……!…………創君!』
 
 
 
 指が叩いたその台詞に、俺の思考が一瞬止まった。
 
 
 止まった……はずなのに、俺の指は続けて勝手に、場面の "続き" を描き出す。
 
『何をなさっておいでなのですか、インフェルノ様!』
 
 扉が開け放たれ、メイド二人が帰って来る。
 
 
 ……ちょっと待て。ここでアリーシャを助けてしまっては、元も子も無いぞ。
 
『何をしていようと、メイド風情ふぜいには関係の無いことだ。下がれ』
 
 オリヴィアスが眼光鋭くひらむと、ヴィヴィアンヌは一瞬ひるんだ。
 
 だが、背後に隠れたプリンにコソコソ何か耳打ちされると、ハッとしたように再び声を上げる。
 
『このこと、魔王陛下はご承知しょうちなのですか!? 陛下におたずねしても、よろしいのですね!?』
 
 ブランにバラすと言われてしまえば、それまでだ。
 今はまだ・・・・、ブランに不信感を持たれてはマズい。
 
 オリヴィアスは舌打ちすると、アリーシャから手を放した。
 
『今見たものは、他言無用だ。陛下に密告などしてみよ。……どうなるか、分かっているな?』
 
 かりなくおどしをかけると、オリヴィアスは苛立いらだちを隠さぬ態度で去って行った。
 
 
『アリーシャちゃん、大丈夫だったニャン?ヘンなことされてないニャン?』
 
 さっきまでヴィヴィアンヌの後ろに隠れて、こっそりシャーシャー言うだけだったプリンが、駆け出して来てアリーシャに抱きつく。
 
『……うん、何とか。薬飲まされるのは、未遂みすいんだし。ありがとう、二人とも』
 
 アリーシャは安堵あんどの表情で、メイド二人に礼を言う。
 
 
 ……これでは、せっかくのアリーシャ洗脳計画が台無しだ。
 
 いや、今からでもおそくない。何行か消して、書き直せば……
 
 
 ……そう、思うのだが……俺の手は文を消すことなく、むしろ新たな文章を追加する。
 
 
『創君も、ありがと』
 
 ひとり言のように、ひっそり虚空こくうつぶやくアリーシャ。
 
 その台詞に、俺の手が再び止まる。
 
 
 ――ありない。
 
 シナリオの中のアリーシャが、執筆者を認識しているわけがない。
 
 
 そもそも、自分の書いたキャラクターの行動に、自分でイライラして行動を制限しようとする、俺自身がばかげている。
 
 ……どうしてこうも、調子が狂うんだ。
 
「……何やってるんだ、俺」
 
 ひとり、にがつぶやく。
 
 だが、俺のこの呟きは、シナリオの中のアリーシャには聞こえない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

本当に愛しているのは姉じゃなく私でしたっ!

mock
恋愛
レスター国に住むレナとレオナ。 双子の姉妹とはいえ性格は真逆、外交的なレオナに対し、内向的なレナ。 そんなある日、王子であるアルバートに会う機会を得たレオナはコレはチャンス!とばかりに言葉巧みに心に取り込み、これに成功する。 王子の妻になり、全てを手に入れご満悦だったが、王子が本当に得たかった相手は…。

妹に婚約者を結婚間近に奪われ(寝取られ)ました。でも奪ってくれたおかげで私はいま幸せです。

千紫万紅
恋愛
「マリアベル、君とは結婚出来なくなった。君に悪いとは思うが私は本当に愛するリリアンと……君の妹と結婚する」 それは結婚式間近の出来事。 婚約者オズワルドにマリアベルは突然そう言い放たれた。 そんなオズワルドの隣には妹リリアンの姿。 そして妹は勝ち誇ったように、絶望する姉の姿を見て笑っていたのだった。 カクヨム様でも公開を始めました。

「君とは結婚しない」と言った白騎士様が、なぜか聖女ではなく私に求婚してくる件

百門一新
恋愛
シルフィア・マルゼル伯爵令嬢は、転生者だ。どのルートでも聖人のような婚約者、騎士隊長クラウス・エンゼルロイズ伯爵令息に振られる、という残念すぎる『振られ役のモブ』。その日、聖女様たちと戻ってきた婚約者は、やはりシルフィアに「君とは結婚しない」と意思表明した。こうなることはわかっていたが、やるせない気持ちでそれを受け入れてモブ後の人生を生きるべく、婚活を考えるシルフィア。だが、パーティー会場で居合わせたクラウスに、「そんなこと言う資格はないでしょう? 私達は結婚しない、あなたと私は婚約を解消する予定なのだから」と改めて伝えてあげたら、なぜか白騎士様が固まった。 そうしたら手も握ったことがない、自分には興味がない年上の婚約者だった騎士隊長のクラウスが、急に溺愛するようになってきて!? ※ムーン様でも掲載

好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん
恋愛
学園の卒業パーティーで傷害事件が起こった。 切り付けたのは令嬢。切り付けられたのも令嬢。だが狙われたのは本当は男だった。 狙われた男エドモンドは自分を庇った令嬢リゼルと傷の責任を取って結婚することになる。 エドモンドは愛する婚約者シモーヌと別れることになり、妻になったリゼルに冷たかった。 リゼルは義母や使用人にも嫌われ、しかも浮気したと誤解されて離婚されてしまう。 離婚したエドモンドのところに元婚約者シモーヌがやってきて……というお話です。 

浮気されて婚約破棄したので、隣国の王子様と幸せになります

当麻リコ
恋愛
ミシェル・ペルグランは公爵家の第二子として生まれた。 同じく公爵家嫡男であるナルシス・クレジオに愛の告白を受け、婚約へと至る。 けれどその告白は真っ赤な嘘だった。 ナルシスの本命はガルニエ公爵家一人娘のリンダで、公爵家跡取り同士の道ならぬ恋のカムフラージュとして使われたらしい。 「誰がお前のようなつまらない女を本気で好きになどなるか」 「あんたみたいな冴えない女にナルシスはもったいないわ」 浮気現場を目撃してしまったミシェルに、ナルシスとリンダは開き直り嘲笑うように言った。 「そうね。私も、あなたみたいな低能とは合わないと思っていたところ」 にっこり笑ってミシェルは言う。 地味で真面目な彼女を侮っていた二人は驚愕した。 本来とても気の強いミシェルは、嫁の貰い手がなくなると両親に言われ家族以外には猫をかぶっていた。 どうせ婚約は解消、傷物扱いされてロクな嫁入り先も見つからない。 そう気付いて自ら本性を露呈させることにしたのだ。 婚約破棄のために二人の関係を白日の下に晒したら、隣国の末王子と婚約していたらしいリンダまで婚約破棄になったらしい。 自邸の庭園でひとり密かに祝杯を上げるミシェルのもとに、一人の青年が迷い込む。 すっかり出来上がった彼女は、彼の素性も聞かずに付き合わせることにした。 それがリンダの元婚約者だとも知らずに。 ※架空の世界の架空の国のお話です。 ※ヒロインが酔っぱらっているシーンが多いです。

【R18】異世界に召喚された感情を持たない男が女をおもちゃにして壊す話

第三世界
ファンタジー
※寝取り、寝取られ、NTR、胸糞注意です。あらすじ~異世界召喚をされた男は、理性のタガを持っていなかった。その男は自分が手に入れたチート能力を悪用し、次々と誰かを不幸にしていく。※救いはありません。全てバッドエンドになります。異世界に召喚された感情を持たない男が様々な手段を使って次々と女を堕とし、寝取っていきます。※作者の書いている別作品「創造魔法チートを手に入れた俺がTSして退廃した日常をおくる話」と内容が少しだけリンクしています。そちらを読んでいなくても問題はありませんが、内容を知っていると、序盤が少しだけ楽しくなります。※ノクターンノベルズにも同時投稿しています

選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!

凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。  紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】 婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。 王命で結婚した相手には、愛する人がいた。 お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。 ──私は選ばれない。 って思っていたら。 「改めてきみに求婚するよ」 そう言ってきたのは騎士団長。 きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ? でもしばらくは白い結婚? ……分かりました、白い結婚、上等です! 【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!  ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】 ※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。 ※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。 ※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。 よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。 ※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。 ※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)

処理中です...