田舎生まれの聖気士譚

尾山塩之進

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第四話 戦いの始まり

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 容赦なく照りつける太陽。灼熱の大気。燃える様に熱い砂。

 何処までも続く砂漠を延々と歩く人影がひとつ。
フードとマントを羽織り、そのフードからは美しく長い金髪が漏れる、可憐な顔の少女である。その腰には一本の剣を差している。
彼女の名前はファージア=セントニア、今代の聖気士である。

 ここは灼熱の地獄とも言うべき場所、普通の服ではただ歩くことすらも厳しかっただろう。
だけど、聖気士になったわたしの為に先生が用意してくれた贈り物のひとつ、「新しい服」には耐熱仕様のフード付きのマントが付いており、この様に過酷な環境でも耐えうる装備だった。
ほかにも耐寒、耐衝撃、耐弾、耐毒、耐魔あらゆる耐久仕様が備わっているらしい。

「こういうところは気が利くんだよね先生…厳しい所にも優しさがあるというか…えへへ…
…って!そもそも先生のせいでこうなったんでしょうーー!」

 先生への怒りを思い出して絶叫するわたし…ああ、あれだけ先生を許さないといったのにこの始末。
惚れた弱みと言う奴である。

 水も食料も底を突き欠けている、どうする?イチかバチか気鋼武装して空を飛んでみる?
しかし今の僅かな気で気鋼武装出来るかも疑わしい、出来ても数分維持できるかだろう。
どうする?どうすればいいの?先生ならどうするの?どうするの?ねえ、教えてよ…先生…。

「…って!だからぁ!先生のせいでこうなったんでしょうーー!!」

 再度先生への怒りを思い出して絶叫するわたし、ああ体力の無駄である。
先生…このまま死んだら絶対化けて出るからね…毎晩枕元に立ってやるんだからね…。
一生とり憑くからね…おはようからお休みまで一緒だからね…。
だんだん支離滅裂な思考になりながらもとにかく前へ進むわたし。
とりあえず太陽の光から浮かび上がる影の動きで方角を割り出し、北を目指している。
同じ方向へと進めばきっと砂漠は抜けられる…筈。
北を目指しているのは北の方が涼しそうだから、ちょっとでも早く抜けられるのでは?という希望的観測から。
地理の勉強をもっとしておくべきだったのだろうか…。
基本的なことは全部覚えたつもりだったけどもっと応用的なことも覚えておくべきだったのかな…?
今更後悔しても仕方がない、無事脱出できたら再度勉強も考えよう、無事脱出できればの話だけれど…。
どこまでも続く青い空、照り付ける灼熱の太陽が恨めしい…。

「!?」

 太陽の中に何か動くものがある?
飛行機体の類?
わたしは気を目に集中させて視力を向上させた。あれは…巨大な人影…違う、飛行中のサイドアーマー!
あの形は忘れもしない、わたしが初めて対峙したアーマー、形式番号WP-GN-01製品名ガードナイト。
あの時の恐怖が頭をよぎる…ううん!今は恐怖に身をすくめている時じゃない!
軍用のサイドアーマーが飛行しているという事はそう遠くない所に人が居る可能性があるということ。
とにかく、あのアーマーの後をついていけば何とかなりそう。
わたしはアーマーのセンサーに気付かれないように気配を探り、ある程度の距離を取りながら後を追った。



「ヒャッハー!待て待てーー!!」

 灼熱の砂漠の上を滑空するホバーバイクの集団。荒々しい男たちが乗った数十台のホバーバイクが一台のホバーバイクを執拗に追い回している。
追われているバイクに乗っているのは砂漠仕様のフードとマントに身を包んだ小柄な女性。

「逃げるなよお!!」

 男たちは光線銃(ビームガン)を取り出すと追っているバイクに向けて連射する。
追われている方の女性も光線銃(ビームガン)を取り出し応戦するが多勢に無勢。
そして男たちが撃ったビームが砂を爆発させ視界を遮られ、バランスを崩しバイクから放り出されて砂上に叩きつけられた、

「くっ、来ないで!」

 追い詰められた女性は光線銃(ビームガン)を男たちに向かって撃つが、
男たちの一人が狙撃ライフルでその銃を撃ち、丸腰にさせられてしまった。
男たちはホバーバイクから降りると逃亡者の女性のフードをめくり上げた。
栗色の髪をツインで結い上げたまだ幼さの残る少女である。

「ハン!まだガキじゃねえか?」

「いやいやそう捨てたもんじゃねえぜ」

「ふん、おめえの幼女趣味にはつきあえねえな、あんまり壊すなよ?」

「壊れたおもちゃは捨てればいいんだよ、へへっ、お嬢ちゃん、今からおじさんと楽しいことしようねェ」

「いやあ!誰か助けてーー!!」

 少女の絶叫が砂漠に響く。

「ははっ、こんな砂漠に誰も助けなんか来ねえよッ!!…んぎぁぶお!」

 男たちは飛んできた衝撃波に吹き飛ばされて宙を舞い、砂上に叩きつけられた。

「あなた達!その子を離しなさいっ!」

 衝撃波が飛んできた先には剣を構えて立つファージア。剣圧で衝撃波を放ち男たちを吹き飛ばしたのだ。
先ほどのサイドアーマを追っていたところ、女性が荒々しい男の集団に追われているのを見かけ、只事では無いと察して助けに入ったのである。

「何だてめえは!俺たちは今からお楽しみ中なんだ!邪魔するなァ!」

「へっへっへっ…それともアンタもお楽しみに協力してくれるっていうのかよ」

「どちらもお断りするよぉ!こちらは気の残量的にほとんど余裕が無いから…全力全開で一気に終わらせるよ、気鋼武装(きこうぶそう)!」

 少女が声を張り上げると同時にがその身体から”気”が吹き上がった。
彼女は目を閉じるとすぅと息を深く吸い込んで呼吸を整えた。
同時に膨れ上がった気が収まって内へと収束、圧縮され全身に纏わった。
次の瞬間、気は物資化、少女は巨大な翼を生やし白銀の鎧を纏った姿に変身する。

「な、何イッーー!?」

 男たちが驚愕の声を上げるのと同時に、
ファージアは背中から生えた巨大な飛行翼から気光が噴射させ急加速、音速を超える速度でホバーバイク集団のちょうど真ん中へと突貫する!

「光燃剣(ビームレッカー)!」

 ファージアは自らの気で作り出した光の剣を振りかぶる!数十台は居たであろうホバーバイクのうち半分は一瞬でバラバラに切り裂かれ、乗っていた男たちは空中に吹き飛ばされた。
一撃で全部は斬れなかった…ならもう一撃と光剣を構えなおすファージアに対し生き残ったホバーバイク達は一目散に後ろに退いていく。

「お前たちは下がれ!あとは俺たちがやる!」

 上空から何者かの指示が届くと、ホバーバイクの集団が大きく後退し、入れ替わりに空から三機のサイドアーマーが降下して来た。
形式番号WP-GN-01製品名ガードナイト。
さっき追っかけていたアーマーはこの集団の機体だったの!?
しかし先ほどの退きの速さとこの戦力の切り替えの早さ、もしかするとこの集団は野盗の類では無いの…?
深く考えている余裕は無い、わたしは再び飛行翼から気光を噴射させ急加速、音速を超える速度で飛翔すると一番近くに居たアーマに突貫する!

「まずは一機!…あ、れ!?」

 しかしファージアの必殺の斬撃が届く前にサイドアーマーは飛行噴射口(ブースター)を噴射させ空中に飛び上がってその一撃を回避した。
そして三機のアーマーはファージアから一定の距離を取りながら三方向から取り囲むようにライフルで攻撃をしかけて来る。

「光線砲(ビームカノン)!」

 ファージアは左腕の鎧から砲を展開させ一機のアーマーに向けて射撃、しかしアーマーはそれを難なく回避、
そこに別のアーマーが彼女に向けてライフルを連射!
ファージアが飛行翼から気の光を噴射させた高機動飛行でこれをかわした先に、まるで待ち受けていたかの様に三機目のアーマーが大剣を振るう!

「くっ!?」

 わたしは両手両足の気光噴射口(ブースター)を噴射して間一髪これを回避する。
これはまるで…気士の戦い方を予想しているかのような動き…なの?

(サイドアーマー自体は気士にとって脅威では無いが、軍の中には対気士戦闘プログラムを装備している部隊もいると聞く、注意はしておくべきだよファージア君)

 先生の対アーマー戦闘の学習での言葉を思い出す。ということはこの集団は野盗の類ではなく…正規の軍隊なの?
気の残量も少ない、この状態で対気士戦闘プログラム、どう対応するべきなの?ねえ、どうすればいいの?…先生。

 焦りの表情を見せるファージアに対しサイドアーマー群は容赦なくライフルを連射する!

「きゃあああ!」

 わたしから逸れた流れ弾がさっき襲われていた女の子の近くに着弾し悲鳴が上がる。
…わたしは何を呆けていたの?
わたしは、おそろしい暴力や悪意を前にして怖くて身がすくんで動けなくなった人たちを助けるために聖気士になったんだ!

「光線砲(ビームカノン)!」

 ファージアは再び左腕の鎧から砲を展開させ一機のアーマーに向けて射撃、しかし先程と同じくアーマーはそれを難なく回避、
そして先程と同じくそこへ別のアーマーが彼女に向けてライフルを連射!
だがファージアはこのライフル射撃に対しての高機動飛行での回避移動はせずあくまで身を反らしてかわすにとどめた。最小の動きで相手の様子を見極めて攻撃に転じる。

「光線砲(ビームカノン)!」

 ファージアは右足の鎧から展開した二門目の光線砲を二機目のアーマーに射撃した。気の光線はアーマーのライフルに命中、そのライフルを握っている右腕ごと貫いて吹き飛ばした!

「やあああーー!!」

 続いて彼女の後ろから近付いて大剣を振り下ろしてきた三機目のアーマーを振り向きざまに両断する!
彼女は敵のアーマーの対気士戦闘プログラムを逆に利用し相手の動きを予想して反撃を成功させたのである。


「お前たち、退くぞ!」

 一機のアーマーから撤退の指示が出ると共に、生き残りのサイドアーマー、ホバーバイクが潮が引くがごとく撤退していく。
この引き際の速さ…やはり彼らはただの野盗では無い…そういうこと…なの?
でもここは深追いは禁物、わたしはさっきの女の子の元に降下する。

「大丈夫?ケガしてない?」

「はい、大丈夫です!ありがとうございます気士様!本物の気士様は初めて見ましたけど本当にもの凄く強いんですね!」

 少し興奮気味で話す少女は立ち上がろうとするが、足元がもたれて尻もちを付いた。

「えへへ、安心したらちょっと力が抜けちゃったみたいですー」

「怖かったよね…無理もないよ。さあ、わたしの手に掴まって」

「はい、ありがとうございます気士様!」

 女の子はわたしが差し出した右手を掴む、そしてわたしは彼女をを引き上げるべく右腕に力を込める…あ、れ…?
視界が反転しわたしはそのまま足を崩し地に伏した。助け上げようとした女の子に逆に抱かれる格好になってしまう。

「あの!大丈夫ですか気士様!もしかしてさっきの戦いでケガを?」

「いや…そうじゃなくて…わたし…三日間…砂漠を…歩き詰めで…もう…ダメ…」

「気士様っーー!?」

 わたしを心配する少女の声を聞きながらわたしの意識は闇の底へと落ちていった。
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