弱くてすみません~偽認定された夫婦の冒険記~

にしのみつてる

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第1章

暁のトレジャーとスタンピード~形から入っていく勇者と聖女~

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 マリオとリカコはエラフィ鍋の店でお茶を頂いで午後の一時を楽しんだ後……ギルドマスターが言っていた『自称、勇者と聖女』の事がとても気になっていた。

「リカコ、勇者と聖女って、本当にいるのかなぁ?」
「ギルドマスターも言っていたから本当にいるんでしょうね」

 マリオとリカコは知らずに道の真ん中を歩いていたらしく、向こうから歩いてきたカップルにぶつかってしまった。

「あっ、すみません」
「ふざけんな!!お前達邪魔だ!!さっさと退け」

 自称、A級冒険者の実力である『暁のトレジャー』のベルナルドとレイレは文句を言いながらマリオとリカコの前を通り過ぎて行った。

 ベルナルドとレイレはの派手ないでたちで、ベルナルドは青色の剣士の衣服に紫のマントと鍛冶屋で特別に作らせた魔剣に似せた勇者風の長剣を差していた。

 レイレは洋品店で特別に仕立てた青の聖女風の衣服に紫のローブと魔導具店で特別に作らせた大玉の水晶に似せたガラス玉が入った両手杖を持っていた。

「「「「カズラダンジョンの勇者様と聖女様だ」」」」
 誰かがベルナルドとレイレに声援を送った。ベルナルドとレイレは声がした方ににこやかに手を振って歩く。


「リカコ、勇者と聖女って本当にいたんだね」
「マリオさん、あの人たち勇者と聖女の格好だけでレベル20のC級冒険者よ」

「リカコ、本当なの」
「ええ、『鑑定』で二人のレベルが見えたのよ」

「じゃあ、偽勇者と偽聖女なの?」
「そうよ。職業が『剣士』と『僧侶』になっていたからそうだと思うわ」

「マリオさん、偽勇者と偽聖女がのさばっている方が私達が目立たないから都合がいいと思わ」

 リカコは偽勇者と偽聖女がいることで自分たちが目立たないので都合が良いと考えていた。マリオもリカコに同意見で目立たない服装が良いと考えていた。

 半刻後……
 ガンガンガン、ガンガンガン、ガンガンガン、魔物の危険を知らせる早鐘が鳴っていた。

「大変だ~、カズラダンジョンから魔物が溢れてきたぞ」
「スタンピードが起きたぞ」

「冒険者はダンジョン前に至急集合せよ」
「冒険者はダンジョン前に至急集合せよ」

「市民の皆さんは門の中に入ってください!!」
 エラポリ市内は騎士団が市民を誘導していたので市内に大きな混乱は起きていなかった。

「リカコ、冒険者ギルドに行こうよ」
「ええ」
 エラポリ市の冒険者ギルドは冒険者たちでごった返していた。

「冒険者は全員がダンジョンに向かってくれ」
「Cランクの冒険者は出来る限り攻撃で時間稼ぎしてくれ」
「DランクとEランクは後方支援を頼む」
「ギルド職員はポーションの準備を頼む」

 マリオとリカコは他の冒険者たちと一緒にカズラダンジョンに向かった。冒険者がギルドに加入している以上、非常事態の時はギルド側が冒険者を強制参加させても文句は言えなかった。この『異常事態時は徴用される』の文言はこの世界の共通で冒険者なら誰でも知っていることだった。

(マリオさん、リカコさん、魔物が暴走してスタンピードが起こっています)
(結界を張ったまま上空から魔物を攻撃しましょう)
(そうだな)

 マリオとリカコは収納からキャンピングカーを出して乗り込んだ。
「緊急発進」

 キャンピングカーは隠蔽魔法をかけたまま低空飛行でホバリングを続けていた。ダンジョン入り口ではゴブリン、オークがぞろぞろ出てきて冒険者たちに次々と襲いかかっていた。

「マリオさん、『ファイアーアロー✕100』です」
「ファイアーアロー」
 パシューン、パシューン……何百本かの小さな火の矢が一斉に放たれゴブリンの群れに当ってゴブリンたちは即死していた。撃ち漏らしたゴブリンは他の冒険者たちが剣で殺していた。

「リカコ、ファイアーアローが当たったね」
「そうね、面倒でも剣と魔法だけで戦いましょうよ」
「そうだな」

「マリオさん、オークの群れです」
「ファイアーアロー✕100」
 バシューン、パシューン、パシューン、パシューン、パシューン、火の矢はオークに当たって群れは崩れた。

「リカコさん、怪我人に広域回復魔法です」
「エリアヒール」 ダンジョン周辺が大きな金色の光に包まれ、倒れていた冒険者たちの怪我がすべて回復していった。 幸いにも死者は一人も出なかった。

「奇跡だ、勇者と聖女の奇跡だ」

 冒険者たちは勝どきの声を上げた。ギルドマスターのドミトリーさんは魔法の規模から多分マリオとリカコだろう思ったが、後日、正式に尋ねることにしたのだった。

 スタンピード騒ぎが収まり起因は直ぐに明らかになった。Cランク冒険者パーティ『暁のトレジャー』が“特訓”と称して、ダンジョン内で使用が禁止されている魔物寄せの香を焚いて魔物をおびき寄せたと自首してきたのだった。 ギルドはこの重大な規約違反に対し、彼らの冒険者資格を剥奪し、5年間の強制労働を課した。 こうして、“形から入っていく勇者と聖女”とその一行は、静かに舞台から姿を消すこととなった。

 スタンピードの翌日、マリオとリカコは冒険者ギルドに呼び出されていた。

「あの状況下で、ファイアーアローはどうやって撃ったのだ」
「浮遊魔法で空中停止しながら撃ったのです」
「姿が見えなかったのは隠蔽魔法か?」

「はいそうです」
「目立つのが嫌なので隠れながら攻撃したのです」
 サブギルドマスターが持っている嘘発見の魔道具は光らなかったのでマリオの活躍は公式記録に記載された。

「その後、リカコ殿がエリアヒールで怪我人を全て回復したのだな」
「はい、そうです」

「スタンピードの原因は、魔物寄せの香だったよ」
「誰が焚いたのですか」

「『暁のトレジャー』のベルナルドとレイレとその一行だ」
「つまり、自作自演だったんですか?」

「そうだな……半分は合っている。彼らは“特訓”と称していたが、実際は――」

 ドミトリーは一度言葉を切り、静かに続けた。

「……マリオたちに嫉妬していたんだよ。地味な服装で目立たないのに、実力は圧倒的。 それが気に入らなかったんだろう。だから、スタンピードを起こして自分たちが英雄として注目されようとした。 魔物を引き寄せて、それを“撃退”することで、勇者と聖女の名を確固たるものにしたかったんだ」

 マリオとリカコは黙って聞いていた。 彼らにとっては、目立つことよりも人を守ることの方が大切だった。

「結果として、C級パーティ『暁のトレジャー』は解散。全員が冒険者カードを剥奪され、ギルドから追放された。 ベルナルドとレイレには、5年間の強制労働が課せられたよ。 騒ぎを起こした代償としては、当然の報いだろう」

 ドミトリーの言葉には、怒りよりも哀しみが滲んでいた。 偽りの英雄が去り、本物の勇者と聖女は静かにその場に残った。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 スタンピードの翌日……

「マリオさん、お風呂って出来ないかしら?」
「うん、今なら具現化で何でも作れると思うよ」
 リカコはキャンピングカーで毎日シャワーを浴びていたので特に不満は無かったが、たまには風呂に入ってのんびりと足を伸ばしたいと常々思っていた。

「ウリエル、お風呂の作り方を教えて」
「マリオさん、了解しました」
「まずは小屋になる部分ですが、2m角のログハウス風の風呂小屋をイメージして下さい」
 タブレットの画面にはログハウス風の風呂小屋が表示されていた。

「これを具現化すればいいんだね」
「はい、そうです」
 小屋は割と簡単に具現化が出来たのだった。

「次は風呂桶バスタブですが、こちらの世界ではこんなデザインになります」
 バスタブは猫足が付いていて、貴族が好みそうなデザインだった。リカコの許可が出たのでこちらも具現化で作ったのだ。風呂小屋はキャンピングカーと転移門で繋げてあるので絶対に外からは見えない構造にしたのだった。

「リカコさん、お風呂が出来たよ」
「マリオさん、ありがとう」

「リカコさん、シャンプーとボディソープは創薬・具現化のスキルで直ぐに作れます」
「リカコさんが使っていた、元の世界のシャンプーとボディソープのイメージを思い浮かべて下さい」

「ウリエル、ありがとう、早速やってみるわ」
「あっ、シャンプーとボディソープが出てきた」

「マリオさん、お先にお風呂をいただくわね」
「どうぞ、ごゆっくり」

 マリオはキャンピングカーで使う調理器具を具現化で作った。まずは、3合炊きの小さな炊飯器を作り、その次に元の世界の小型のIHクッキングヒーターを参考にして小型魔導コンロを作った。ついでに魔導電子レンジを具現化した。タブレットの画面を観ながら魔導コーヒーメーカーも作ったが、コーヒー豆は売っていなかったので具現化でコーヒー豆も作った。これで大概の料理はキャンピングカーで調理が出来るようになった。

 追加で20センチの小さな鍋と同じサイズのフライパンも作った。それと魔導電子レンジとは別に魔導オーブントースターも作ったので朝食の準備は完璧だと思った。

「リカコ、調理道具が出来ましたよ」
「マリオさん、凄いじゃない、これ全部、一人で作ったの?」
「うん、そうだよ」

「リカコさん、今夜は美味しい料理をお願いします」
「ええ、期待してね」

「結局、教会は見つからなかったね。それと、本物の勇者と聖女もいなかったね」
「ええ、でもそれでいいのかも」

「多分、このエラポリ市に分院が出来て、バッカス様とアリアドネ様が祀られると思うけど、神様達も大変な時期だと思うんだ」
「そうね、大変だと思うわ」

 後日、バッカスとアリアドネはナニサカ市の大司教に神託を下し、エラポリ市に分院の建設をすすめた。

 続く──
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