改訂版 愛のエキスと聖女さま

にしのみつてる

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第3章

ランチワゴンMk.IIと非公式休憩室

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 シューン、メガロドラコニアが振動しながら、タイバン島の無人島上空に転移した。空気が一瞬、魔導波で揺らいだようだが、感づいた者はいないだろう。

「転移成功。航行に支障なし」  
 ヒコさんの声はいつも通り冷静で、どこか安心感がある。

「ヒロシ艦長、テストフライトは全て完了です」
「ヒコさん、ご苦労さま」


「ポーン、ポーン、メガロドラコニア、着陸します」  
 アランとイワンの魔改造によって、旅客機のように現在高度を自動で読み上げる電波高度計(ラディオ・アルティメーター)が導入されていた。だが、正直なところ、かなり煩かった。

「高度300メートル」  
「高度200メートル」  
「高度100メートル」  
「高度50メートル」  
「高度30メートル」  
「高度20メートル」  
「高度10メートル」  
「高度5メートル」  
「高度3メートル」  
「高度1メートル」  
「タッチダウン」

「もう、うるさいな」  
 ヒロシ、サブロー、ダリナ、ミサエの4人は、顔を見合わせて同時に思った。

「アランとイワンに静音化してもらおう」

「後部ハッチオープン」  
「転移ゲート、スタンバイ解除」

 ハッチが開き、艦内に外気が流れ込む。魔導フィールドが解除され、地面の匂いが艦内に広がった。

「ふぅ~足を地面につけるのは気持ちいいですね」  
 サブローが伸びをしながら言うと、ダリナが笑いながら返す。

「サブロー、何だかお爺さんみたいだね」

 ヒロシは空を見上げながら、ふと思いついた。  
「僕たちだけで、ヒコさんの胴体を作ってみない?」

「ナツコさんと同じランチワゴンタイプでいいかな?」  
「少し改造して、ランチワゴンMK2 略称:アナルゴンでいきましょう」  
 イワンが頷く。

「ヒコさん、胴体はどうしますか?」

「ナツコさんと同じランチワゴンタイプがいいですね」  
 ヒコさんは即答した。無駄がない。

「クリエイト・オートマチックランチワゴンMK2」  
 ミスリルインゴットと魔導クリスタルが光り、地面に金属の骨格が浮かび上がる。

 完成した胴体は、ナツコさんと同じく、丸みを帯びたフォルムに駆動部分がおむすび型キャタピラーになっていた操縦席のレバー類はそのまま小型した設計だった。ヒコさんが静かに乗り込む。

「夕食は肉じゃがです。お残しはゆるしまへん」  
 ナツコさんの声が響くと、艦内にほっとした空気が流れる。

「ナツコさんの味つけって、お母さんの家庭料理を思い出します」  
 ヒロシがつぶやくと、ナツコさんは照れたように返す。

「おおきに」

 その頃、アランとイワンは後部ハッチを開け、飛空艇を屋外に出していた。  
 夕焼けの空に、飛空艇のシルエットが浮かぶ。

「さて、次はこっちだな」  
 アランが魔導設計図を広げる。

「《ボールターレットMk.I》、いよいよ実装だな」  
 イワンが魔導工具を手に取り、魔力を流し込む。

「クリエーション・ボールターレットMk.I」  
 魔導球が浮かび上がり、砲座が展開される。下部銃座は飛空艇の腹部にぴったりと収まり、可動範囲は360度。魔導照準器が起動し、淡く発光する。

「これで、サルコドラコ級にも対応できるな」  
「うん、次は夜間試射だ」

 ピコピコ、ピュルル、ヒコさんが静かに言った。  
「航行に支障なし。砲座、安定、防御力120%」


「アラン、転移ゲートの仕組みを根本からやり直そう」
「そうだな、空中であの大型転移門は無駄だ」

 アランが思考加速で考えをまとめた
「そうだ、イワン、座標ボールに大型にして小型マジック・リアクターと魔法陣を刻んだミスリル板で空中投影はどうだ?」

「うん、いいアイディアだな。小型でも100年は稼働できるから大丈夫だ」
「クリエイト・ラージトランスファーマジックボール」
「スタートアップ」

 グオン、グオン、大型マジックボールが起動して、空中に150メートルの四角形が浮かび上がった。
 ピコピコ、ピュルル、ヒコさんが近寄ってきた
「メガロドラコニア、航行に支障なし」

「アラン、どうだ」
「イワン、成功だな」

「メガロドラコニアから 大型マジックボールの放出先は 20キロ先にインプットでいいな」
「それで大丈夫だ、時速500キロの飛行速度で1分間に 約8.33キロだから、あとの計算はヒコさんに任せればいい」
「大型マジックボールの回収は通過後30秒以内だな」
「大丈夫だ」
 ピコピコ、ピュルル、「転移先、航行に支障なし」

「使わなくなったミスリルの柱は溶かして、インゴットにしてから収納しておこう」
「うん、これで当分はミスリルが要らないぞ」

 ◇ ◇ ◇ ◇

『静かなる酒盛り』

 タイバン島の夜は静かに更けていった。絶対防御(マジックフィールド)で守られたメガロドラコニアの周囲には、虫の音すら届かない。 艦内では、ナツコさんが夕食の片付けを終え、魔導冷却庫の中身をチェックしていた。

「ふむ…明日はカレーにしよか。サルコドラコの肉、まだ残ってるし」

 その頃、ヒコさんは後部格納庫の横の、ロッカールーム通称:非公式休憩室に集まっていた。  
 そこはアランとイワンがこっそり改造した、魔導遮蔽フィールド付きの小部屋。ナツコさんの“お残し警報”も届かない。

「ヒコさん、例のやつ持ってきた?」  
 ヒロシが声を潜めて尋ねると、ヒコさんはピコピコ、ピュルルと音を鳴らしながら、ランチワゴンMk.IIの側面から小さな冷却庫を開いた。

「魔導梅酒を持参しました。航行に支障なし」

「ヒコさん、それ言いたいだけでしょ」  
 サブローが笑いながらグラスを並べる。

「乾杯は…魔導エネルギーの安定を祈って、だな」  
 イワンが真面目な顔で言うと、アランがすかさずツッコむ。

「いや、ただの酒盛りだろ」

「乾杯!」  
 グラスが小さな音を立ててぶつかり、魔導酒の香りが部屋に広がる。

 ヒコさんは、静かに一口飲んでから言った。  
「この梅酒、魔導波の揺らぎが少なく、味の安定性が高いです」

「それ、ただの“まろやかな”って意味じゃない?」  
 ヒロシが笑うと、ヒコさんはピュルルと音を鳴らして黙った。

 一方その頃、ナツコさんは艦内の防犯センサーに異常を感じていた。

「ん?魔導遮蔽フィールドが…?なんや、この隠し部屋は、ヒコさんのランチワゴンがちょっと熱い?」

 ナツコさんが“お残し警報”を発報しようとしたその瞬間——  
 ヒコさんのランチワゴンMk.IIが、さっさと自動冷却モードに入った。

「ピコピコ、ピュルル…冷却完了。航行に支障なし」

「……怪しいけど、まあええか。明日のカレーの仕込みしよ」


 夜は更けていく。  
 メガロドラコニアの上空には、ノティオスが静かに輝いていた。 ノティオスとは十字の星座でヒロシたちはAIクリスタル脳になってから知った情報だった。
  
 そしてヒコさんは、ピコピコ、ピュルルと音を鳴らしながら、そっと一言。

「この酒、分析不能。美味です」

 ヒロシたち、男どもが酒盛りをしていた頃、ミサエさんとダリナ、エレナとベッキの4人は後部格納庫の横の、ロッカールーム通称:非公式女子休憩室に集まっていた。 

「ミサエさん、アイスの新作です」
 エレナ、ベッキ、この紫の実は変わってるね」

「はい、アサイーベリーと呼ばれてます」
「ミサエさん、アサイベリーって一時期流行ってましたよ」
「ああ、あの紫の酸っぱいの」

「ナツコさんはコーンフレークが作れないかしら」
「さぁ、どうでしょうか?」

「ミサエさん、ダリナさん、とうもろこしをレンチンしてフードプロセッサーでドロドロスープにしてからレンジで乾燥させれば出来るみたいです」

「エレナ、ベッキ、明日はタイバン島に買い物に行きましょう」
「ミサエさん、タピオカを買い占めましょう」
「ダリナはタピオカが好きよね」

 こうして、それぞれの夜は静かに更けていった。

(話終わり)
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ヒコさんのランチワゴンMk.II
※ナツコさんのランチワゴンはトレーになっているが、ヒコさんのランチワゴンMk.IIはトレーの部分が操縦桿になっている


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