改訂版 愛のエキスと聖女さま

にしのみつてる

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第3章

ニューヨーキーに着いた1~ピエロの顔の看板の店とヤキバードの店 ロゴに込められた転生者の思い~

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 ログハウスは、アトラシア海の魔力渦を迂回しながら、夕暮れの空を滑るように進んでいた。  
 ラファエルの自動操縦により、ニューヨーキ市郊外のフォーグリーン・パークへと着陸したのは、ニューヨーキ時間の夜7時だった。

「着陸完了。隠蔽魔法を発動します」  
「ありがとう、ラファエル。今夜は街の様子を見ておこう」

 ヒロシはログハウスを収納し、4人は夜の街へと向かった。

 4人の衣装はヒロシとサブローは、前の世界の服装を参考に白のシャツにヒロシとサブローは紺色のジャケットを具現化した。パンツはグレーに統一した。
 ミサエさんの衣装は、上品な薄紫のワンピース、ダリナは薄黄色のワンピースを具現化した。 

 産業地区の街並みは、石畳の道路にガス灯が灯り、蒸気機関の音が遠くから響いていた。  
 煙突の影が夜空に伸び、街の空気はどこか懐かしい石炭の煤の匂いに包まれていた。

「ヒロシさん、あの看板……Mの文字にピエロの顔が描かれてます」  
「サブロー、転生者の店かもしれないな。警戒して入ろう」

「ラファエル、ニューヨーキ市で転生者の数を調べられるか?」
「不可能です。転生者のデータが少なすぎます」

「では、質問を変更して、LV40以上の生物をサーチしてくれ」
「了解しました」


 四人はピエロの顔の看板の店に着いた。店の名は《マクロホルド》軽快なジャズ音楽が流れる店内で、4人は厚切りステーキを注文した。サブローとダリナは久しぶりに飲むミルクシェイクを頼み、目を輝かせていた。

「ミサエさん、アメリキ国って、こういうファストフード的雰囲気なんですね」  
「ええ、でも油断は禁物よ。転生者の痕跡があるかも知れないから、情報収集も必要ね」
「そうですね」

 ◇ ◇ ◇ ◇

 食事を終えた4人は、ニューヨーキ市の産業地区にあるショッピングモールに入った。
 この世界のショッピングモールは元の世界よりもかなり営業時間が長いらしく、夜8時を過ぎても買い物客は多かった。

 ショッピングモールのテナントのヤキバード店は珍しさも手伝って人気の焼き鳥専門店だった。 魔導炭火で焼かれた鳥肉は香ばしく、イポニアのソイソー醤油で味が調整されているため、どの種族にも美味しく感じられると評判だった。

「ヒロシさん、ここのメニューって、元の世界とかなり変わってますね」
 「サブロー、元の漢字がこっちの言葉に変換できなかったかも知れないね。俺は“魔導つくね”にするよ」
「じゃあ、僕は”ヤキバード”で、ダリナさんは?」

「私は“魔導つくね”と”ヤキバード”」
「ミサエさんは?」

「私も“魔導つくね”」
店員が素早く注文を聞き、4人は「ハイボール」を注文した。ハイボールは炭酸水で割るソーダ割りのことだが、炭酸水が流通していることに少し驚いたのだった。

 店内は木目調の内装で、壁には魔導式の換気装置が静かに稼働していた。 その一角、レジ横の柱に、何気なく貼られた一枚のポスターが目に入った。

「……あれ?」 サブローが目を細め、鵜の目鷹の目魔法で拡大していた。

「ヒロシさん、あのポスター……男の人の顔に見覚えありませんか?」

 ヒロシが視線を向けると、そこには長鼻の男が笑顔で焼き鳥を持っているイラストが描かれていた。 赤い帽子と派手なエプロン、そして背景にはU-ONのロゴ。

「“ウソッピ店長のおすすめ!ヤキバードは心にも効く!”って書いてある……」

「ウソッピ……あの名前、どこかで聞いたような……」

「ヒロシさん、U-ONって、元の世界のショッピングセンターのパクリですか?」

(ラファエル、転生者の影響を調べてくれ)
(了解しました)

 ヒロシは静かに頷いた。

「サブロー、俺たちは”とんでもなく進んだ国”に来たのかも知れないね」
そうですね」

「でも、焼き鳥は美味しいです」
「それにハイボールが一番よ」

 ヤキバード店を出た4人は、ショッピングモールの中央通路を歩いていた。  
 天井には魔導照明が並び、夜にも関わらず昼のような明るさが保たれていた。  
 通路の両側には衣料品、書籍、雑貨、医療品などの店舗が並び、どの店にも客が絶えなかった。

「ヒロシさん、あの店……医療品の棚に“イポニア式解熱剤”ってあります」  
「転生者が持ち込んだ処方かもしれないな。ラファエル、成分をスキャンしてくれ」  
「了解しました。成分は……地球由来のアセトアミノフェンに近い構造ですね」

「やはりか……この街は、俺たちがいた日本の技術と記憶が混在している」

 ミサエさんは婦人服売り場のマネキンに目を向けていた。  
 マネキンが着ているワンピースは、肩に張りを持たせたデザインで、どこか昭和末期の流行を思わせた。

「ダリナ、これ……私が学生の頃に見た服に似てるわ」  
「タグには“ジュリーナ型”と書いてあります。転生者の記憶が反映されているのかも」
「ミサエさん、バブル頃は私とサブローはまだ生まれていません」
「そうだったわね」

 エレベーターの前には、U-ONのロゴが刻まれていた。  
 その下には「物流と生活を繋ぐ、記憶の継承企業」と書かれていた。

「ヒロシさん、U-ONって……ただの商業企業じゃないですね」  
「そうだな。転生者の記憶を社会構造に組み込んでいる。これは、この世界で文明の再構築をしようとしているのかもね」

 4人は食品売り場に立ち寄り、保存食と水を購入した。  
 ラファエルが支払いを済ませると、店員が静かに言った。

「ご利用ありがとうございました。U-ONは、皆様の記憶を未来へと繋ぎます」
「どうも、ありがとう」

 夜9時、ヒロシが収納からログハウス取り出し、リビングで4人は、静かに荷物を整理していた。  
 ラファエルは隠蔽魔法を発動し、外部からは建物は見えなくなっていた。

「ヒロシさん、今日の記録は神界に転送しますか?」  
「たぶん、ラファエルが転送していると思うから、神界では騒ぎになっているかも知れないね」

 ミサエさんは、購入した衣料品を収納しながら言った。

「ニューヨーキは、私たちの30年前の記憶を再現した都市ね。転生者の痕跡が、街の隅々に残っているわ」

「でも、誰が最初にこの都市を設計したのか……それが気になります」
 ダリナは、焼き鳥の残りを保存容器に移しながら頷いた。

 ヒロシは窓の外を見つめた。煙突の影が夜空に溶け、遠くの街灯が静かに灯っていた。

「サブロー、明日は図書館に行こう。図書館で情報を探れば、U-ONの正体も分かるかもしれない」

「了解です。ウソッピ店長の痕跡も、図書館に記録されているかもしれません」

 ログハウスの照明が落ち、静かな夜が訪れた。  
 ニューヨーキの街は、記憶と技術が交差する都市として、今も静かに息づいていた。

 続く── 
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