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第1章

1-3 ソタイン村の生活

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 ヒロシとミサエさんは服を着替えて2階の階段を降りてきた。

 ヒロシが先程から気になっていたのは、心の中で思うと直ぐに発動する能力の事だったが、能力とはだと思うことにした。体は若返ってたが、思考回路はおじいさんのままなので異世界の常識についていけないのが本音だった。


「ねぇ、ヒロシさん 家の前に出てみませんか?」
 急にミサエさんから丁寧な言葉を使ったのでヒロシは「ドキッ!!」としたが、何故か新婚時代に戻ったようで新鮮に聞こえた。二人でドアを開けて、手をつないで道なりに歩いていって散歩を楽しんだ。

「おや、そこの魔女の家に引っ越して来たのかい」
 親切そうな、村の女性がヒロシとミサエさんに声を掛けてくれた。

「ここはソタイン村って言ってね。平和で住みやすい村なんだよ」
「私も名前はハンナ、よろしくね」

「ヒロシと妻のミサエです。昨日、この村に引っ越してきたばかりですが、どうかよろしくお願いします」
「ヒロシさんとミサエさんだね」

 まさか、異世界から転生してきましたと、本当の事は言えないのでヒロシの顔は少し引きつっていたと思った。

 ハンナさんはソタイン村での生活の事を教えてくれたが、ソタイン村には特産品が全く無いらしい。オカロダ町の領主様が村を治めているらしいが、税金の取り立てはそれほど高く無いので、とても住みやすい村の意味が分かった気がした。

 ハンナさんの話では、ソタイン村の人たちは主に牧畜と農業で暮らしているとの事だった。

 食べることに関しては全く困らないそうだ。生活必需品は村の雑貨店で大抵の物は揃うし、食品店で肉や野菜を購入できるそうだ。週に2日間、村の広場で市場マルシェが立つので洋服などは市場で買う事を勧められた。

「ハンナさん、ギルドはあるのですか?」
「ああ、村の広場の前にあるよ」

「ここから歩いて15分くらいだね」

 ハンナさんは、村の広場にあるギルドへの行き方を親切に教えてくれたので二人で行ってみる事にした。
 家を出る少し前に、「これからお金が必要になるよね」と願ったら、小さな革袋が出てきたのだった。

「ミサエさん、具現化って超便利だね」
 のんびり屋のヒロシは神様が気を効かせてお金を出してくれた事を全く知らなかった。

 ギルドに着くと、受付カウンターの前に二人で並んだ。村人たちは仕事中なので誰もいなかった。

「あの~、登録をしたいのですが」

 ヒロシは少ない知識ではギルドに行けばが出来る思っていたのだった。

「ここソタイン村は農業と牧畜の村なのでわざわざを作る人はいませんよ」

「二人で他の町や村に行ってみたいので登録をお願いします」

「では、こちらの申込書にお名前と職業を記入してください。 お二人分の商人登録料として、銀貨2枚になります」

 二人は銀貨2枚を払って『薬師見習い』として登録を済ませたのだった。

 ヒロシとミサエさんは誰かに見つかると面倒になると思うので神様からもらった「帝王」と「聖女」の称号は伏せておくことにした。登録料支払って無事に商人カードを受け取ったのだった。

 この時、二人は全く気付いてなかったが、ソタイン村には冒険者ギルドが無かったのだ。


「ギルドでの仕事斡旋は牧畜と農業関係の仕事はありますが、の仕事はオカロダ町の冒険者ギルドに行って聞いて下さい」

「それと、薬草採取で森の奥や山に入る場合は、魔物が出没する可能性もあるので自分で身の危険を守る魔法と、強い武器が必要になりますので準備をされからお入りください」

「自分で身を守る事が出来ない場合は護衛を雇って下さい」

 エミリーさんの話を聞き終わって、ミサエさんが顔を曇らせていたが、ミサエさんの髪を撫でながら落ち着かせた。いざとなったら、具現化で武器を作るのも有りなのでヒロシは何も怖く無いとその時は思っていたのだった。

「ミサエさん、お腹が空いていませんか?」
「ヒロシさん、そう言えばお昼の時間よね」

 ギルドは簡単な食事が食べれるよう食堂が併設されていたので空いたテーブルに座して簡易な食事を注文した。メニューはビーフシチューに田舎パンと赤ワインを注文した。

 田舎パンとは全粒粉の丸いパンの事で食パンと比べると色が少し黒かった。シチューと言っても、煮込んだ牛肉が皿の上に盛られて、付け合せは、茹でたジャガイモを潰したマッシュポテトと人参にグリーンピースの組み合わせだった。

「ヒロシさん、昼間からワインを飲むなんて」
 ミサエさんが少し怪訝そうな顔をしていたが、ワインは元の世界のワインと変わらない味がした。

「この世界では生水が飲めないのだから仕方ないことだと思うよ」
 ヒロシはミサエさんに苦し紛れの説明をしたのだった。ヒロシが知らないだけで、生活魔法の水魔法を使えば、いつでも飲料水は作る事が出来るのだった。ヒロシとミサエさんが転生した時に生活魔法は全て習得してきているはずなのだが、二人は魔法が使えることにまだ気付いていなかった。

 ソタイン村は広い通りに面して両側に数件の店が並んでいた。二人は昼食後にハンナさんから教えてもらった、村の雑貨店に入って行った。村の雑貨店は、衣類から生活必需品まで所狭しと商品が並んでいたのにはかなり驚いたけど、二人で雑貨店の店内を見ているだけで楽しい気分になった。

 雑貨店にしては珍しく書棚に多くの中古書籍が並んでいた。本の買い取りもやっているのだろうか?
 ミサエさんは書棚の魔導書グリモワールに興味を惹かれたようで、手に取ると、一瞬、魔導書グリモワールが光った感じがしたのだった。ミサエさんは、聖俗性魔法について魔導書グリモワールには書かれたいるし、内容もスラスラと自然と理解が出来ると言うので、購入することに決めたのだった。

 魔導書グリモワール1冊の値段は金貨5枚は高いと思ったが、店主が言うには、魔導書グリモワールは10年程前にこの村に住んでいた老魔女が引っ越しの際に手放していったそうで、普段は絶対に出回らない貴重な書物だと言っていた。

 雑貨店からの帰り、手を繋いで、家の玄関先に転移を願ったら一瞬で転移魔法が発動したのには驚いた。

「ミサエさん、転移魔法って凄いね」
「一瞬で家に帰ってきたよ」

 家に戻ってきて、午後の紅茶を二人で楽しむことにした。朝は意図せぬ失敗が有ったので、午後は普通の紅茶にしてくださいと神様にお願いしたミサエさんでした。

 魔導書グリモワールを買ってきた事だし、『ヒール』って、唱えてみてよとミサエさんに言ってみた。
 ミサエさんが『ヒール』と唱えると、ミサエさんの体が一瞬だけ金色に輝いた。

「ミサエさん、聖女の力は凄いんだね」
「でも人前で使うと『聖女』で有ることが皆にバレてしまうし、それこそ国王様に見つかったら大変だね」

「そうね、人前では大っぴらに使えないわね」

 午後の時間がゆっくり過ぎて、日が傾いて夕方近くになってきたので、再び食材の買い出しに村の中心部まで二人で歩いて行った。魔女の家に掛け時計は無いし、腕時計も存在しないので、この世界では鐘の音だけが、時間の基準だと理解した。

 毎日の食材は雑貨店の隣の食品店で肉と野菜が購入できたので、新鮮な卵と野菜類を購入してきた。かなり高かったけど、雑貨店で調理道具一式と調味料を少し購入したが、醤油と味噌はこっちでは入手が難しいことが分かった。当然、米を食べる習慣も無かったのだ。

 早めの夕食は卵焼きに野菜炒めと朝の田舎パンの残りで簡単に済ませたのだった。二人で夕食を食べながら、ヒロシは魔女の家には風呂が無いことに改めて気付いてミサエさんには大きな問題となっていた。

「ヒロシさん、直ぐにお風呂を作って」
「ハイ!! 今すぐ作ります」

 ヒロシは2、3日風呂に入らなくても気にしないが、ミサエさんは毎日、風呂に入らないと気がすまない性格だった。ヒロシは帝王の力を遺憾なく発揮して全力で風呂を作っている真っ最中なのだ。

 ヒロシは家の裏にまわり、頭の中でレンガの壁をイメージしたら地面からニョキニョキとレンガの壁が生えてきた。風呂場になる部屋は正方形でいいので同じ壁を四方に作って囲ってみた。最後に天井壁を作って、家にドッキングをする計画だった。窓の創作方法が解らないので今夜は壁だけだが、ユニットバスをどうやって作るのか?頭の中でイメージ中なのである。

 帝王なのだから元の世界のシステムバスを転送して持ってくるも有りだと思って念じてみたけど、アニメの青狸が使っている四次元ポケットから出すような事は絶対に起きなかった。

 裏の空き地で猫足のバスタブだけをイメージしながら地面を見ていたら、「ズボッン!」と音が鳴ってバスタブが空中に浮かび上がってきた。空間移動で猫足のバスタブを風呂場に設置してミサエさんからオッケーをもらった。

 同じようにアンティーク風なシャワーヘッドをイメージしてお湯が出るように魔法石を仕込んではミサエさんに許してもらう事ができた。

 ヒロシは具現化で魔力を使いすぎて魔力切れになりフラフラになっていた。当然だが何も無い『無』から何かを生み出す創造魔法錬金術は魔力チートでないとこの世界の一般の人では出来なかったのだった。

 魔力の回復は『二人が合体する”おせっせ”で回復をする事』に気付くのはもう少し後の事であった。

 こうして、二人の異世界生活1日目は終わっていったのだった。

(話終わり)
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