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第1章
朝目覚めたら
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朝目覚めたら、見知らぬベッドで目を覚ました。
なぜか、久しぶりに身体が異常に軽く、愚息まで元気になっていた。
自慢じゃないが、還暦を過ぎても愚息はそれなりに自信があった。だが今朝の立ち上がりは、異常なほど張りがあった。
「俺って、なんか変じゃない?」
問いかけても、もちろん返事はない。寝室には鏡がないので状況判断はできないが、愚息の反応からすると、どうやら自分の身体が若返ったような気がしてきた。
「もしかして、これが異世界転生ってやつなのか?」
昨夜、生まれ変わるなら「帝王になる」だの、「聖女になりたい」だのとバカなことをつぶやきながら寝たが、それが転生に関係しているかは今のところ不明だ。
窓を開けると、中世風の農村が広がっていた。
一人で異世界に来てしまったなら、妻が心配しているだろうと思ったが、それは杞憂だった。服を着替え、階段を下りてキッチンに向かうと、メイド服姿の若い女性が魔導コンロでハムエッグを焼いていた。
「おはよう」
お互いに朝の挨拶を交わした瞬間、二人揃って「え~~~!!」と声をあげた。
この家には鏡がないので、自分がどんな姿になったのか分からなかった。顔を合わせるまで、若返ったことに気づかなかったのだ。
俺は異世界の冒険者風の服装で、妻はなぜかメイド服。理由は分からないが、俺の好みに合わせてくれたのかもしれない。
木製のテーブルに座り、硬い田舎パンをかじりながら、ライトノベルを読んだことがない妻に異世界の説明をしていた。
「普通なら、転生前に神様が現れて、異世界のことや特殊能力について説明してくれるのが定番なんだけどね」
「ねぇ、貴男、私たち二人とも死んでしまったの?」
「いや、死んだ覚えはないけど……多分」
心配そうに聞いてくる妻に、二人とも死んだ記憶がないので、転生の理由は分からないままだった。
昨夜の出来事を思い出しながら——
「そう言えば、違うドラッグストアで買い物してたよね」
「そう、そうだったわ」
「貴女が化粧品高いって文句言ってたよね」
「あっ、それかも?」
「それって、何のことなの?」
“アレ・ソレ”で話す癖は、若返っても健在か……と、少し残念に思った。
「つまりね、新しく買った化粧品が若返りの原因かもって思ったのよ」
実に妻らしい解釈だった。
「俺も寝る前に『帝王になる』だの、『オジサンが聖女』だの訳の分からないことをつぶやいて寝たけど」
「貴男、『帝王に聖女』って、何か意味あるの?」
「俺の願望だったけど」
「ねぇ、コーヒーってあるの?」
そう言ったら、出てきたのは薬草茶だった。
「ポットに何が入ってるの?」
妻に聞いても答えてくれなかった。ティーポットには、予め用意されていたらしい。
ハムエッグも、フライパンと生卵とスライスハムが並べられていた。
カップに注がれた薬草茶を二人でいただく。味は形容しがたかったが、生姜風味でジャスミンの香りが優しく広がっていた。甘みもあり、少量の蜂蜜が入っているようだった。
なぜか妻の息づかいが少し荒くなり、トロンとした目で俺を見つめてくる。
そのうち、何十年ぶりかに妻が俺の愚息に手を伸ばしてきた。愚息は朝から絶好調だった。
ここから先は、お楽しみの“おせっせ”タイムになるわけだ。
自慢じゃないが、俺は昔から“早打ち”だった。恥ずかしいとは思っていない。
大事なのは、パートナーを満足させることだと思っていた。
妻をお姫抱っこして二階の寝室へ。ベッドに入って愛を交わし始めると、頭の中に誰かの艶めいた声が響いてきた。
「えぇっ~」
トロンとしていた妻が急にビクッと飛び起き、正座して周囲をキョロキョロと見回す。
妻が離れたので、俺もベッドの上にあぐらをかいたまま、手をつないでいた。
「信心深き清き者たちよ」
頭の中で、男女の神々しい声が綺麗にハモって聞こえてきた。
光り輝くシルエットの中で、男女の営みが見えているような感覚だった。
「我らはこの世界の愛の営みを統べるプリアーポスとボナデアなり。
この世界の男女の愛の営みが、我らの糧となっておるのじゃ」
「見てのとおり、汝らの営みが我らに還流され、我らも先程から一つに溶け合って楽しんでおったところじゃ」
厳かなプリアーポス様とボナデア様の声が、頭の中で綺麗に響いていた。
「汝らは名前を忘れておるので、先に『ステータス』と唱えるのじゃ」
「ステータス」
目の前に小さな画面が現れ、二人のステータスが表示された。
---
【名前】ヒロシ・ミラタ
【種族】人族
【年齢】20
【称号】帝王
【スキル】
プリアーポス神の加護
具現化 転移
【LV】5
【MP】10000
【名前】ミサエ・ミラタ
【種族】人族
【年齢】20
【称号】聖女
【スキル】
ボナデア神の加護
製薬 回復
【LV】5
【MP】10000
---
「汝らはこの世界の代表に選ばれし者として、我らが精神体のコピーを移転させ、この世界で肉体を与えたのじゃ。
心配せずとも、元の世界の神との約束で、肉体と精神体は生きておるのじゃ」
プリアーポス様とボナデア様は、俺たちが異世界に転生した経緯を簡潔に説明してくれた。
「ミサエさん、ステータスって、こっちの定番だよね」
ヒロシはステータス表示のことを説明したが、自分の名前がアニメのお父さんと同じ「ヒロシ」だったことに驚いた。
ミサエさんもステータスを表示すると、アニメのお母さんと同じ名前の「ミサエ」だった。
「あの~、神様~、もう少しいい名前なかったんですか~?」
「読者にわかりやすい名前であるから、文句を言うでないのじゃ」
神様にきっぱり言われたので、名前には素直に従うことにした。
「こちらの世界でチートなスキルとかは、初めから授けていただけるのでしょうか?」
最近、異世界転生ものを読んでいたヒロシは、神様たちに聞いてみた。
「特殊能力(チート)の付与は、我らの神託(ミッション)達成と、汝らの愛の営みが加味されて付与されるのである」
プリアーポス様からきっぱり言われたので、二人でこれから神託を頑張って達成していこうと決意した。
「ヒロシさん、『帝王』って、何の帝王なの?」
「ミサエさん、称号欄には“帝王”としか書いてないよ。何の帝王かは、俺にも分からない」
「私は“聖女”になってるのよ」
「はぁ~、やっぱりなぁ……」
「でも、年齢が20歳になってる! ラッキー!」
ミサエさんは若返ったことに妙にテンションが上がっていて、どこかルンルンとした様子だった。
俺も、愚息の元気さと身体の軽さに、まんざらでもない気分だった。
こうして、神様に選ばれた“帝王”と“聖女”は、異世界での新しい生活を始めることになった。
チート能力はまだ未知数だが、愛の営みと神託の達成が鍵になるらしい。
まずは、目の前のパンと薬草茶を片付けてから、次の行動を考えることにした。
続く──
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なぜか、久しぶりに身体が異常に軽く、愚息まで元気になっていた。
自慢じゃないが、還暦を過ぎても愚息はそれなりに自信があった。だが今朝の立ち上がりは、異常なほど張りがあった。
「俺って、なんか変じゃない?」
問いかけても、もちろん返事はない。寝室には鏡がないので状況判断はできないが、愚息の反応からすると、どうやら自分の身体が若返ったような気がしてきた。
「もしかして、これが異世界転生ってやつなのか?」
昨夜、生まれ変わるなら「帝王になる」だの、「聖女になりたい」だのとバカなことをつぶやきながら寝たが、それが転生に関係しているかは今のところ不明だ。
窓を開けると、中世風の農村が広がっていた。
一人で異世界に来てしまったなら、妻が心配しているだろうと思ったが、それは杞憂だった。服を着替え、階段を下りてキッチンに向かうと、メイド服姿の若い女性が魔導コンロでハムエッグを焼いていた。
「おはよう」
お互いに朝の挨拶を交わした瞬間、二人揃って「え~~~!!」と声をあげた。
この家には鏡がないので、自分がどんな姿になったのか分からなかった。顔を合わせるまで、若返ったことに気づかなかったのだ。
俺は異世界の冒険者風の服装で、妻はなぜかメイド服。理由は分からないが、俺の好みに合わせてくれたのかもしれない。
木製のテーブルに座り、硬い田舎パンをかじりながら、ライトノベルを読んだことがない妻に異世界の説明をしていた。
「普通なら、転生前に神様が現れて、異世界のことや特殊能力について説明してくれるのが定番なんだけどね」
「ねぇ、貴男、私たち二人とも死んでしまったの?」
「いや、死んだ覚えはないけど……多分」
心配そうに聞いてくる妻に、二人とも死んだ記憶がないので、転生の理由は分からないままだった。
昨夜の出来事を思い出しながら——
「そう言えば、違うドラッグストアで買い物してたよね」
「そう、そうだったわ」
「貴女が化粧品高いって文句言ってたよね」
「あっ、それかも?」
「それって、何のことなの?」
“アレ・ソレ”で話す癖は、若返っても健在か……と、少し残念に思った。
「つまりね、新しく買った化粧品が若返りの原因かもって思ったのよ」
実に妻らしい解釈だった。
「俺も寝る前に『帝王になる』だの、『オジサンが聖女』だの訳の分からないことをつぶやいて寝たけど」
「貴男、『帝王に聖女』って、何か意味あるの?」
「俺の願望だったけど」
「ねぇ、コーヒーってあるの?」
そう言ったら、出てきたのは薬草茶だった。
「ポットに何が入ってるの?」
妻に聞いても答えてくれなかった。ティーポットには、予め用意されていたらしい。
ハムエッグも、フライパンと生卵とスライスハムが並べられていた。
カップに注がれた薬草茶を二人でいただく。味は形容しがたかったが、生姜風味でジャスミンの香りが優しく広がっていた。甘みもあり、少量の蜂蜜が入っているようだった。
なぜか妻の息づかいが少し荒くなり、トロンとした目で俺を見つめてくる。
そのうち、何十年ぶりかに妻が俺の愚息に手を伸ばしてきた。愚息は朝から絶好調だった。
ここから先は、お楽しみの“おせっせ”タイムになるわけだ。
自慢じゃないが、俺は昔から“早打ち”だった。恥ずかしいとは思っていない。
大事なのは、パートナーを満足させることだと思っていた。
妻をお姫抱っこして二階の寝室へ。ベッドに入って愛を交わし始めると、頭の中に誰かの艶めいた声が響いてきた。
「えぇっ~」
トロンとしていた妻が急にビクッと飛び起き、正座して周囲をキョロキョロと見回す。
妻が離れたので、俺もベッドの上にあぐらをかいたまま、手をつないでいた。
「信心深き清き者たちよ」
頭の中で、男女の神々しい声が綺麗にハモって聞こえてきた。
光り輝くシルエットの中で、男女の営みが見えているような感覚だった。
「我らはこの世界の愛の営みを統べるプリアーポスとボナデアなり。
この世界の男女の愛の営みが、我らの糧となっておるのじゃ」
「見てのとおり、汝らの営みが我らに還流され、我らも先程から一つに溶け合って楽しんでおったところじゃ」
厳かなプリアーポス様とボナデア様の声が、頭の中で綺麗に響いていた。
「汝らは名前を忘れておるので、先に『ステータス』と唱えるのじゃ」
「ステータス」
目の前に小さな画面が現れ、二人のステータスが表示された。
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【名前】ヒロシ・ミラタ
【種族】人族
【年齢】20
【称号】帝王
【スキル】
プリアーポス神の加護
具現化 転移
【LV】5
【MP】10000
【名前】ミサエ・ミラタ
【種族】人族
【年齢】20
【称号】聖女
【スキル】
ボナデア神の加護
製薬 回復
【LV】5
【MP】10000
---
「汝らはこの世界の代表に選ばれし者として、我らが精神体のコピーを移転させ、この世界で肉体を与えたのじゃ。
心配せずとも、元の世界の神との約束で、肉体と精神体は生きておるのじゃ」
プリアーポス様とボナデア様は、俺たちが異世界に転生した経緯を簡潔に説明してくれた。
「ミサエさん、ステータスって、こっちの定番だよね」
ヒロシはステータス表示のことを説明したが、自分の名前がアニメのお父さんと同じ「ヒロシ」だったことに驚いた。
ミサエさんもステータスを表示すると、アニメのお母さんと同じ名前の「ミサエ」だった。
「あの~、神様~、もう少しいい名前なかったんですか~?」
「読者にわかりやすい名前であるから、文句を言うでないのじゃ」
神様にきっぱり言われたので、名前には素直に従うことにした。
「こちらの世界でチートなスキルとかは、初めから授けていただけるのでしょうか?」
最近、異世界転生ものを読んでいたヒロシは、神様たちに聞いてみた。
「特殊能力(チート)の付与は、我らの神託(ミッション)達成と、汝らの愛の営みが加味されて付与されるのである」
プリアーポス様からきっぱり言われたので、二人でこれから神託を頑張って達成していこうと決意した。
「ヒロシさん、『帝王』って、何の帝王なの?」
「ミサエさん、称号欄には“帝王”としか書いてないよ。何の帝王かは、俺にも分からない」
「私は“聖女”になってるのよ」
「はぁ~、やっぱりなぁ……」
「でも、年齢が20歳になってる! ラッキー!」
ミサエさんは若返ったことに妙にテンションが上がっていて、どこかルンルンとした様子だった。
俺も、愚息の元気さと身体の軽さに、まんざらでもない気分だった。
こうして、神様に選ばれた“帝王”と“聖女”は、異世界での新しい生活を始めることになった。
チート能力はまだ未知数だが、愛の営みと神託の達成が鍵になるらしい。
まずは、目の前のパンと薬草茶を片付けてから、次の行動を考えることにした。
続く──
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