改訂版 勇者と聖女の育成請け負います_みんなで育てれば怖くないね

にしのみつてる

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第3章

空飛ぶ家が完成した

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 シローとスミレさんは王都の冒険者ギルドで紹介してもらった魔女服を扱っている洋品店に来ていた。

 この洋品店の本店はロキシア国のモスコに本店があり、各支店がロキシア国内に数店舗展開していた。イポニア支店は5年ほど前に王都ケトマスで開店し、冒険者、特にいち早く新商品が入荷するので女性冒険者には人気の店だった。

「まぁ、まぁ、まぁ、導師様、魔女様、お二人共とてもよくお似合いでございます」
 洋服店の女性店員はシローの錬金術師服とスミレの紫の魔女服をべた褒めに褒めてくれたので気を良くして衣装代として金貨7枚を女性店員に払った。

 



「これなら大丈夫そうだね」
「ええ、私も可愛いから気に入ったわ」

 シローとスミレさんが買った服はロキシア国内で人気商品だそうで黒の魔導師と紫の魔女に変身した自分たちの格好にとても満足をしていた。元々はイポニアから渡った魔女と魔導師がモスコの本店で作らせたそうで、シローとスミレさんは店員から詳しく説明を聞いて何となく親しみが持てたので買ったのだった。

「スミレさん、市場で買い物をしてからピーラ山に行こうよ」
「ええ、そうしましょう」
 二人はケトマスの市場で前回と同じ海産物とパスタの材料を多めに買った。倉庫の裏で転移門を出してピーラー山に移動した。ログハウスは一旦収納から出して二人はケトマスの市場で買ってきた材料で海鮮パスタを堪能した。口当たりが良かったスパークリングワインで二人でぐっすりと眠ったのだった。


 翌朝……

 ピピピ、ピピピ、ピピピ、ミカエルはいつもの朝6時の定刻にアラームでシローとスミレさんを起こしてきた。

「スミレさん、おはよう」
「シローさん、おはよう」


「シローさん、スミレさん、おはようございます。空飛ぶ家は完成しています」
「では、一旦、ログハウスの外に出て全体をご覧下さい。家に戻る時は『ゴーハウス』です」

 

「シローさん、お家が空に浮かんでいるね」
「本当だ、スミレさん、何だか不思議だよね」

 二人は暫くの間空に浮かぶログハウスに見とれていた。

「「ゴーハウス」」
 二人が呪文を唱えると一瞬で家の中に戻った。リビングの大型液晶モニターには外の様子が360度写っていた。

「では、2階ロフトのコクピットにご案内します」
 2階ロフト部分はミカエルのこだわりでシローの深層心理をを読み取って宇宙船のコクピットように魔改造されていた。シローがコクピットに座ってもログハウス自体は全て自動運転なので操縦桿などはダミーだった。

「シローさん、この部分だけ宇宙船のアニメみたいだね」
「そうだね。スミレさん、今から何処かに行こうよ」

「ええ、連れて行って」

「ミカエル、目的地はお任せでテスト飛行は可能なの?」
「はい、すべて自動操縦オートパイロットなので全てお任せください」

「絶対防御5重展開」
「圧力隔壁異常無し」
「飛空システム異常なし」
「オートバランサー作動正常」
「オートジャイロ作動正常」
「計器類オールグリーン」
「フライトチェック、完了」

「目的地決定、自動操縦オートパイロット作動」
「テイクオフ」

 キャンピングカーと同じでミカエルのフライト前チェックが終わるとログハウスは音も無く静かに上昇を開始した。例えるなら、大きな荷物用のエレベーターがゆっくりと上昇している感じで、キャンピングカーのような乗り心地とはかなり違っていた。

 ポーン、ポーン、まもなく高度12000ftです。水平飛行に移行します。

「スミレさん、下のリビングで朝食にしようよ」
「そうだったわ、すっかり忘れたわ」

「スミレさん、俺も手伝うから」
「ええ、お願いね」

 ラファエルの自動操縦でログハウスはケトマス湾の上空をゆっくりと周回してから規定高度の12000ftまで上昇すると一気に加速して南西方向に飛んだ。リビングの大型モニター画面にはイポニア全国地図と『ハカトン市まで895キロ1時間47分』と画面表示されていた。

「スミレさん、ミカエルは南西方向に飛んでハカトン市に向かうみたいだよ」
「シローさん、ハカトン市で美味しい物が食べれるといいね」
「そうだね」

 二人は朝食にスミレさんが作ってくれたエッグサンドを食べながらリビングのモニターに映し出される外の景色を眺めていた。その時、突然モニターが金色に光り、ゼウス様とヘーラー様が映し出された。

「シロー、スミレ、悪いが、今回はハカトン市の勇者と聖女のレベルを上げてくれぬか」
「ゼウス様、どうされたのですか?」

「ポセイドンとアンピトリテにもう一度、チャンスを与えるためじゃ」
「それから、勇者ハヤトと聖女サクラは既にAIクリスタルに移植を終えたのじゃ。この前のような失敗は無いはずじゃ。勇者ハヤトと聖女サクラの詳細はミカエルから聞くのじゃ」

「分かりました。お受けします」

「スミレさん、ハカトン市のスイーツの探訪をお願いね」
 ヘーラー様はウインクでスミレさんに念押しをされた。

「ヘーラー様、スイーツはお任せ下さい」


 ポーン、ポーン、まもなくハカトン港上空です。着陸態勢に入ります。

「シローさん、ナニサカ市から商用で来たことして入りましょう」
「そうしよう」

「ミカエル、ハヤトに渡すタブレットは出来ているの?」
「はい、既に完成しております」

「では、倉庫の影に転移するよ」
「「転移」」

 シローは転移魔法でハカトン港に降り立った。列の後ろに並んで港の門番に冒険者カードを提示し、夫婦二人でナニサカ市から商用で来たことを伝えて無事に入れてもらった。

 シローとスミレさんはハカトンの冒険者ギルドまで歩きながら、商店に並んでいる商品からハカトン市の情報を色々と仕入れた。

 ハカトン市は古くからの大陸貿易の玄関口で、他都市とは全く違った独自の発展をしてきた。港に入港しているキーナ国の大型船はジャンク船と呼ばれていて、シローたちが知っているロキシア国のガレオン船とは全く形が違っていたので容易に区別がついたのだ。あとは、ジャンク船と似ている二本マストのコリレオ国のファンポ船が停泊していたがシローとスミレさんには見分けがつかなかった。

「シローさん、あの看板」
 スミレさんは小さな手書きのプリンの看板を見て急に走り出した。

「スミレさん、待ってください」
 シローは身体強化でスミレさんに追いついた。

「プリンクレープ、2つ」
「はい、プリン2つ」

 女店主が切り盛りする小さな屋台はクレープが焼けるいい匂いがしていた。

「シローさん、これよ、コレ」
 クレープに生クリームとプリンを乗せたスイーツはスミレさんのハートをガッツリ掴んでいた。
「とっても美味しい~」
 スミレさんの至福な表情にシローは満足したのだった。

 女店主の話では父親がガリア国で料理の修行中にクレープとプリンの作り方を師匠から教わり持ち帰ったと言っていたが、この地でプリンが出来るのは食材の入手のしやすさだろうとシローは思いを巡らせていた。

「スミレさん、ギルドは目の前ですよ」
「あっ、いけない。クレープに夢中になって忘れてたわ」
 テへペロ スミレさんは照れて小さく舌を出したが、シローは気付かない振りをした


(話終わり)
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