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第4章
国王からの緊急通達
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その頃、王都ケトマスにある冒険者ギルド本部は、上層部の職員たちが一斉に粛清され、大混乱の真っ只中にあった。
事の発端は、ハリマヤナカ市に“御使様”が現れたというギルド職員からの報告だった。
その情報は稲妻のような速さで各国のギルド本部へ伝わり、なかでも国際ギルド本部を抱えるアンギリア国のベーリンカム宮殿は最優先機密として即座に動いた。
イポニア国のビンセント国王は転移門を通じ、アンギリア国のベーリンカム宮殿緊急召喚されたのだ。
「ビンセント、よく来てくれた。皆息災か?」
「はい、兄上」
「兄上、それよりも、イポニアにも『御使様』が現れたのです」
「なに、イポニアにも御使様が現れたのか?」
「はい、現在、ケトマスのギルド本部は大混乱になっています」
報告を受けたアンギリア国のジョージ国王と弟でイポニア国のビンセント国王は、ベーリンカム宮殿の顔を覆った。
御使様とは、神が地上に遣わす存在である。アンギリア国は1000年前と500年前に御使様と聖獣に守られているのだった。この前も500年振りに御使様と聖獣様が召喚されたことを国民に発表したばかりだった。
問題なのは、イポニアでのうのうと暮らしている馬鹿貴族共が『自分たちに都合のいい勇者と聖女』を囲っている存在だった。彼らの一挙手一投足は、もはやイポニア国家の命運を左右しかねない。
イポニア王国では長らく事情が異なっていた。地方貴族たちが冒険者ギルドを牛耳り、私腹を肥やすための金庫として使っていたのだ。魔物素材は不当に安く買いたたかれ、その差額は幹部たちの懐へと消える。
ギルド試験も形骸化し、実力よりもコネと血筋がすべてで、貴族出身の落ちこぼれが高ランクの称号を手にするのは、もはや茶番でしかなかった。
この腐敗の事実を、イポニア王はジョージ国王に包み隠さず話した。
その時、王宮の一室が光り、両国王は深くつまずいた。
『アンギリアの王とイポニアの王よ、汝らは既に気づいておると思うが、我らが選びしジェネオスたちとアギオスたちは、『神の御使い』になるよう育てたのである」
「何人たりとも、ジェネオスとアギオスには干渉してはならぬのじゃ」
「彼らは遠い星からこの世界に渡ってきた『渡り人』であり、その知識はこの世界の発展に貢献しておるのじゃ」
「彼らは身分が無い世界から来ておるので権力を嫌っており、力で抑えられると国外に移住してしまうのじゃ」
「もしもイポニアの王と地方貴族たちがこの約束を破るならば──300年前のように王家は滅び、ケトマスは灰燼と化すであろう」
「ビンセント、もはや放置はできんな。貴族幹部の粛清と人員の総入れ替えじゃ」
「はい、兄上」
「暫くの間はアンギリアの国際ギルド本部の方から人員を派遣しよう」
「それで若手幹部を育ててギルドの健全化に務めるのじゃ」
「はい、兄上」
イポニア王は挨拶もそこそこに転移門で再びケトマスの王宮に戻ったのだった。そしてただちに勅命を発し、王国中の領主、貴族、ギルド本部へ誓約書を強制した。
『レベル99に達した勇者と聖女は神の使徒であり、何人たりとも権力で縛ることは許されない』
──この一文は、神託そのものとして国法に等しい効力を持つことになった。
王命と神託が同時に下ったという事実は、瞬く間に王都を駆け巡り、ギルド本部は恐怖と混乱に包まれた。
「ど、どうするんだよ! 今までのやり方じゃ……」
「しっ、声が大きい! 神託に背く気か!」
幹部室では、顔面蒼白の役員たちが互いに罵り合いながら机を叩きつけていた。
だが、時すでに遅し。
王命を受けた近衛騎士団がギルド本部を完全に包囲し、反逆の芽を一つ残らず摘み取っていった。
「ギルドマスター・ザバルド、王命により拘束する!」
「ま、待て! 私は王に忠誠を──」
言葉は最後まで紡がれることなく、重厚な鎧のきしむ音にかき消された。
ザバルドは両腕を後ろにねじ上げられ、哀れにも床に押し倒される。
周囲の幹部たちも次々と鎖で拘束され、連行されていった。
受付嬢のリーナは、震える指先で書類を抱えたまま、その光景を呆然と見つめていた。
昨日まで権勢を誇っていた男たちが、まるで人形のように崩れ落ちていく。
「これで、ここも少しは働きやすくなるのかしら」
ぽつりと漏れたその声は、混乱と怒号の渦に飲まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
一方で、地方の領主や貴族たちにも同様の誓約が突きつけられた。
勇者と聖女への干渉は一切禁止された。
領地を盾にした圧力、婚姻や養子縁組を利用した懐柔策──すべてがご法度だ。
これらの誓約に違反した場合、その家は爵位を剥奪され、領地を失い、没落する。
当然、新しいギルドマスターも例外ではない。
王直属の監察官として任命され、神託遵守を第一とする強固な立場が与えられた。
「……つまり、ギルドはもう貴族の金づるじゃなくなるってことだな」
「むしろ王家直轄の組織になったんだ。下手な真似をすれば、俺たちも首が飛ぶ」
現場で働く冒険者たちにとっても、これは無関係ではなかった。
これまで上納金や不正な手数料に苦しめられてきた彼らにとって、今回の改革は光明だった。
だが同時に、王家の監視下に置かれることは、新たな緊張を意味していた。
冒険者ギルドは“世界組織”であるが、この大粛清はイポニアに特有の事態であった。
各国のギルド支部にもイポニアの粛清は伝わり、同様の調査は実施されたが、他国では概ね健全なギルド運営が保たれており、貴族の不正問題は一切発覚しなかった。
しかし、イポニア王都ギルド本部だけは例外である。
長年にわたり積み重なった腐敗と貴族の癒着は深く、解体以外に道はなかった。
アンギリア国の国際ギルド本部から派遣された職員たちは、旧体制の隅々にまで手を入れ、膿をすべて排出していった。
豪奢な幹部室は解体され、調度品はすべてオークションで競売にかけられた。
不正に蓄えられた莫大な財産は全て没収され、王家と国際ギルド本部の管理下に置かれることになった。
そして──王都ギルドだけが健全経営に生まれ変わったのだった。
新たなギルドマスターは国際本部直属の監察官であり、その権限は旧ザバルド体制とは比べものにならない。
勇者と聖女に関する一切の情報は、国際本部の承認なしには動かせない。
──勇者と聖女は、神々に選ばれし者。
その存在を利用しようとした者は、例外なく歴史の闇へと葬られる運命にあった。
旧ザバルド公爵とその取り巻き貴族は職を剥奪され、パラデラ港からアメリキ国を経由してサウパウロ国に移住したのだった。
(話終わり)
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事の発端は、ハリマヤナカ市に“御使様”が現れたというギルド職員からの報告だった。
その情報は稲妻のような速さで各国のギルド本部へ伝わり、なかでも国際ギルド本部を抱えるアンギリア国のベーリンカム宮殿は最優先機密として即座に動いた。
イポニア国のビンセント国王は転移門を通じ、アンギリア国のベーリンカム宮殿緊急召喚されたのだ。
「ビンセント、よく来てくれた。皆息災か?」
「はい、兄上」
「兄上、それよりも、イポニアにも『御使様』が現れたのです」
「なに、イポニアにも御使様が現れたのか?」
「はい、現在、ケトマスのギルド本部は大混乱になっています」
報告を受けたアンギリア国のジョージ国王と弟でイポニア国のビンセント国王は、ベーリンカム宮殿の顔を覆った。
御使様とは、神が地上に遣わす存在である。アンギリア国は1000年前と500年前に御使様と聖獣に守られているのだった。この前も500年振りに御使様と聖獣様が召喚されたことを国民に発表したばかりだった。
問題なのは、イポニアでのうのうと暮らしている馬鹿貴族共が『自分たちに都合のいい勇者と聖女』を囲っている存在だった。彼らの一挙手一投足は、もはやイポニア国家の命運を左右しかねない。
イポニア王国では長らく事情が異なっていた。地方貴族たちが冒険者ギルドを牛耳り、私腹を肥やすための金庫として使っていたのだ。魔物素材は不当に安く買いたたかれ、その差額は幹部たちの懐へと消える。
ギルド試験も形骸化し、実力よりもコネと血筋がすべてで、貴族出身の落ちこぼれが高ランクの称号を手にするのは、もはや茶番でしかなかった。
この腐敗の事実を、イポニア王はジョージ国王に包み隠さず話した。
その時、王宮の一室が光り、両国王は深くつまずいた。
『アンギリアの王とイポニアの王よ、汝らは既に気づいておると思うが、我らが選びしジェネオスたちとアギオスたちは、『神の御使い』になるよう育てたのである」
「何人たりとも、ジェネオスとアギオスには干渉してはならぬのじゃ」
「彼らは遠い星からこの世界に渡ってきた『渡り人』であり、その知識はこの世界の発展に貢献しておるのじゃ」
「彼らは身分が無い世界から来ておるので権力を嫌っており、力で抑えられると国外に移住してしまうのじゃ」
「もしもイポニアの王と地方貴族たちがこの約束を破るならば──300年前のように王家は滅び、ケトマスは灰燼と化すであろう」
「ビンセント、もはや放置はできんな。貴族幹部の粛清と人員の総入れ替えじゃ」
「はい、兄上」
「暫くの間はアンギリアの国際ギルド本部の方から人員を派遣しよう」
「それで若手幹部を育ててギルドの健全化に務めるのじゃ」
「はい、兄上」
イポニア王は挨拶もそこそこに転移門で再びケトマスの王宮に戻ったのだった。そしてただちに勅命を発し、王国中の領主、貴族、ギルド本部へ誓約書を強制した。
『レベル99に達した勇者と聖女は神の使徒であり、何人たりとも権力で縛ることは許されない』
──この一文は、神託そのものとして国法に等しい効力を持つことになった。
王命と神託が同時に下ったという事実は、瞬く間に王都を駆け巡り、ギルド本部は恐怖と混乱に包まれた。
「ど、どうするんだよ! 今までのやり方じゃ……」
「しっ、声が大きい! 神託に背く気か!」
幹部室では、顔面蒼白の役員たちが互いに罵り合いながら机を叩きつけていた。
だが、時すでに遅し。
王命を受けた近衛騎士団がギルド本部を完全に包囲し、反逆の芽を一つ残らず摘み取っていった。
「ギルドマスター・ザバルド、王命により拘束する!」
「ま、待て! 私は王に忠誠を──」
言葉は最後まで紡がれることなく、重厚な鎧のきしむ音にかき消された。
ザバルドは両腕を後ろにねじ上げられ、哀れにも床に押し倒される。
周囲の幹部たちも次々と鎖で拘束され、連行されていった。
受付嬢のリーナは、震える指先で書類を抱えたまま、その光景を呆然と見つめていた。
昨日まで権勢を誇っていた男たちが、まるで人形のように崩れ落ちていく。
「これで、ここも少しは働きやすくなるのかしら」
ぽつりと漏れたその声は、混乱と怒号の渦に飲まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
一方で、地方の領主や貴族たちにも同様の誓約が突きつけられた。
勇者と聖女への干渉は一切禁止された。
領地を盾にした圧力、婚姻や養子縁組を利用した懐柔策──すべてがご法度だ。
これらの誓約に違反した場合、その家は爵位を剥奪され、領地を失い、没落する。
当然、新しいギルドマスターも例外ではない。
王直属の監察官として任命され、神託遵守を第一とする強固な立場が与えられた。
「……つまり、ギルドはもう貴族の金づるじゃなくなるってことだな」
「むしろ王家直轄の組織になったんだ。下手な真似をすれば、俺たちも首が飛ぶ」
現場で働く冒険者たちにとっても、これは無関係ではなかった。
これまで上納金や不正な手数料に苦しめられてきた彼らにとって、今回の改革は光明だった。
だが同時に、王家の監視下に置かれることは、新たな緊張を意味していた。
冒険者ギルドは“世界組織”であるが、この大粛清はイポニアに特有の事態であった。
各国のギルド支部にもイポニアの粛清は伝わり、同様の調査は実施されたが、他国では概ね健全なギルド運営が保たれており、貴族の不正問題は一切発覚しなかった。
しかし、イポニア王都ギルド本部だけは例外である。
長年にわたり積み重なった腐敗と貴族の癒着は深く、解体以外に道はなかった。
アンギリア国の国際ギルド本部から派遣された職員たちは、旧体制の隅々にまで手を入れ、膿をすべて排出していった。
豪奢な幹部室は解体され、調度品はすべてオークションで競売にかけられた。
不正に蓄えられた莫大な財産は全て没収され、王家と国際ギルド本部の管理下に置かれることになった。
そして──王都ギルドだけが健全経営に生まれ変わったのだった。
新たなギルドマスターは国際本部直属の監察官であり、その権限は旧ザバルド体制とは比べものにならない。
勇者と聖女に関する一切の情報は、国際本部の承認なしには動かせない。
──勇者と聖女は、神々に選ばれし者。
その存在を利用しようとした者は、例外なく歴史の闇へと葬られる運命にあった。
旧ザバルド公爵とその取り巻き貴族は職を剥奪され、パラデラ港からアメリキ国を経由してサウパウロ国に移住したのだった。
(話終わり)
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