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第7章
メガファライナ大ピンチ~飛行船墳墓群に沈む~
しおりを挟む「目玉の中心、魔力収束点……見えた!」
「魔導対戦車砲、チャージ完了――発射!」
パアーーーン!……パアーーーン!」サキヒコが撃った魔導弾は2発とも目玉の中心に着弾していた。
爆光が走り、UFOは一瞬よろめくように軌道を逸らし宇宙へと緊急ワープしていった。
「命中確認!敵脅威は去りました!」
シローが叫ぶ。「サキヒコ、ナイスショット!」
サキヒコは肩で息をしながら、静かに微笑んだ。
「……これで、少しは男の意地を通せたかな」
◇ ◇ ◇ ◇
砂漠の墳墓群に不時着したメガファライナは、目玉UFOから受けた攻撃の修復作業と鉱物の探索を並行して進めていた。
「イーライ、ネイト、墳墓群のスキャン結果は?」
「はい、通称“風の石”と呼ばれるグラビトン鉱石を6個だけ発見しました。魔力反応が希薄で、これ以上の採掘は見込めません」
「それで十分だ。メガファライナの回避性能を強化できるね」
ネイトが魔導制御パネルを操作し、風の石をリアクターに組み込む。
「グラビトンストーン・インサート完了。回避性能、従来比1.8倍に上昇」
その頃、ヒナミとホノカが墳墓の奥から戻ってきた。
「スミレさん、これ……墳墓群の中で発見しました。全部オリハルコンの短剣です」
「えっ、そんなに?」
「はい、オリハルコンの短剣は20本ですが。魔力が封じられているので、溶かせば素材として使えます」
スミレは眉をひそめる。「でも、これって……私たちは墓を荒らしていることにならない?」
ホノカが静かに答える。
「スミレさん、確かにそうです。でも、墳墓群の魔力が崩壊しかけていて、放置すればダンジョン化して魔物の巣になります。私たちは“素材回収”しただけです」
ヒナミが補足する。
「それに、この素材を使えば“カフェエンジェリコ”を守るための砲台が作れます。名前は『エンジェリコ砲』」
スミレはしばらく黙っていたが、やがて頷いた。
「ならば、美しく作りましょう。この短剣たちが、この星を守る力に変わるように」
メガファライナの船尾に設けられた展望室――カフェエンジェリコ。星空モードに切り替えられた室内では、魔導ガラス越しに夜空が広がっていた。
ヒナミは窓辺に立ち、ホノカと静かに話していた。
「この部屋は、誰かを傷つけるためじゃなくて、守るための場所にしたい」
ホノカが頷く。
「だからこそ、ここを守る砲台も、ただの武器じゃなくて“静かな力”にしたいの」
その言葉に、イーライとネイトが反応した。
「なら、素材は最高のものを使いましょう。墳墓群から回収したオリハルコン短剣を溶かして砲身にしましょう」
「補助マジック・リアクター起動」
ポワ~ン、グオングオングオン
メガファライナ補助魔導炉が静かに起動する。ヒナミは炉の前に立ち、遮光メガネをかけてオリハルコンの短剣を一本ずつ丁寧に投入していく。イーライは魔力制御を担当し、ネイトは温度調整を一定に行っていた。
「魔力封印解除……温度安定……魔導共振開始」
炉の内部では青白い魔導炎が揺らめき、短剣がゆっくりと溶けていく。炉の底部には、純度99.8%の魔導金属が液状で蓄積されていった。
ヒナミは静かに呟いた。
「この金属は、人殺しの武器ではないわ、誰かを守るために使うのよ。刃の記憶を、守る力に変えて」
一方、ホノカは設計図を広げていた。砲台は従来の魔導砲とは異なり、音楽と光による魔力干渉を目的とした特殊構造だった。
砲身は短剣の意匠を残した流線型で刃のようなフォルムが魔力の流れを整える。
共鳴核が魔導音源と光源を融合させた共鳴球を中心に配置される。
発射機構:魔力波を音楽に変換し、敵の魔力構造を乱す“干渉波”を放つ。
モード連動:星空モード・読書モード・静寂モードなど、従来の室内の雰囲気に応じて砲撃の性質が変化するカフェエンジェリコ の機能は継承した。
ホノカは言った。
「この砲台は、戦うためじゃなくて、空間を守るためのもの。だから名前は――エンジェリコ砲」
ネイトが魔導金属を鋳型に流し込み、砲身を成形した。砲身の表面には、短剣の紋様が浮かび上がるように刻印されていた。
「刃の記憶を残すことで、守る力が宿る」
ヒナミとホノカは、共鳴球に魔導音源を組み込み、星空モードと連動する魔導回路を接続。砲台の完成と同時に、カフェエンジェリコの壁面に設置された。
スミレとカナエが見守る中、ヒナミが静かに言った。
「これが、私たちの“守るための刃”――エンジェリコ砲」
その夜、カフェエンジェリコには静かな音楽が流れていた。星空モードの天井には、魔導ガラスを通して無数の星々が瞬いている。砲台《エンジェリコ砲》は壁面に溶け込むように佇み、まるでこの空間の一部であるかのように静かに輝いていた。今回だけは完成記念で男性メンバーは、皆執事服を着て参加していた。
サキヒコは窓辺に立ち、遠くの空を見つめていた。みーくんMk.IIIが足元で丸くなっている。
「シローさん、あの目玉UFOは絶対に来ますよね?」
「サキヒコ、絶対に来るだろうな。ここは昔のお宝が眠っている場所だ。だが次は、俺たちがここを守る番だ」
スミレさんがカウンター越しに微笑んだ。
「この場所は、戦場じゃない。誰かの心を癒す場所。だからこそ、守る力が必要なのよ」
ヒナミがエンジェリコ砲に手を添えて、静かに言った。
「この砲台は、怒りや憎しみで撃つものじゃない。静かな意志で、空間を守るために撃つの」
ホノカが頷く。
「そして、刃の記憶は、守る力に変わった。私たちが選んだ未来のために」
「魔導自動修復完了、搭乗員は直ちにコクピットに集合」
ミカエルの呼びかけで夜のお茶会は終了した。
シローは操縦席に座り、仲間たちを振り返る。
「イーライ、ネイト、フライト前チェック」
「絶対防御Max展開」
「圧力隔壁異常無し」
「飛空システム異常なし」
「オートバランサー作動正常」
「オートジャイロ作動正常」
「射撃統制システム作動正常」
「計器類オールグリーン」
「フライトチェック、完了」
「大型マジック・リアクター起動」
大型魔導原子炉がかすかな唸りを立てて起動してくる。
「主回路・コンタクト」
「マジックリアクター圧力上昇100パーセント」
「防空レーダー作動」
「レーダー機影なし、コース上に障害無し」
「スミレさん、カナエさん、360度レーダー作動」
「レーダー機影なし、コース上に障害無し」
「テイクオフ」
メガファライナは、外装の自動修復とレーダーと火器を強化し、砂漠の墳墓群を離れて、再び空へと舞い上がった。風の石が生み出す魔力の流れは、低速時の離陸に効果を発揮した。大型鯨は静かに夜空を滑っていく。
その船尾ではカフェエンジェリコでは、淹れられた紅茶の香りが漂い、奏でられる音楽が星々と共鳴していた。
そして、誰かが守るために立ち上がったその意志が、砲台に宿り、空間に静かな力を灯していた。
――メガファライナの大ピンチは、終わった。だが、守るべきものは、これからも続いていく。
静かな艦内では魔導原子炉のエンジン音は響いていなかった。 イーライとネイトはレーダーを注視していた。
続く──
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