追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

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番外編:鮫とリゾートとバカンスと

旅支度

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 ただ、やはりマガツにとっては理解の難しい価値であるようだ。

「ん……まだマガツ、良さが分からないの」
「フレイヤの言う通りだよ。行ってみれば、マガツも分かるさ」

 ここで無理に説明しても、マガツは納得しないだろう。フレイヤがいいところだと言ってくれているのだから、実際に目と肌で確かめてみるのが一番いい。

「せっかくローズマリー本部長からもらったプレゼントだ、活かさない手はないね。帝国鉄道を予約して、三日ほどバスティコリゾートで羽を伸ばそうか!」

 クリスがそう言うと、フレイヤとリゼットの顔が綻んだ。

「名案だなっ! たまにはダンジョン探索を離れるのもいいだろうっ!」
「青い海に白い空なんて、幽霊の身からすれば夢のようですわ!」

 特にリゼットは、人生の喜びを纏めて一度に叶えたかのように喜んでいる。確かに、永遠にダンジョンの闇の中で暮らしていたかもしれない――しかも外に出ても日光の下では暮らせなかったかもしれない少女にしてみれば、素晴らしい出来事に違いない。

「近くのよろず屋で水着を買いたいですわ! クリス様に選んでもらいたいですの!」

 そんな彼女を見たクリスが微笑むと、リゼットは彼にこう言った。
 ちょっぴり困ったようにはにかむクリスを見て、カムナはまたも頭にクエスチョン・マークを浮かべていた。

「ミズギ? また知らない言葉が出てきたわね?」
「あなた、相変わらずクリス様に関わること以外はさっぱり知りませんのね」
 カムナの頭の中に詰まっているのは戦いとクリスだけなのか、とリゼットは本気で思ってしまった。
 彼女の教育をちょっぴり間違ってしまったかもしれないクリスはというと、ポーチの中から紙とペンを取り出し、絵に描いてカムナに水着について教えてあげた。

「水着っていうのは、人間が水の中で泳いだり、水辺の周りで活動したりするときに着る衣服だよ。男性はズボンだけ……女性は、こういうのが多いかな」

 クリスの絵はさほど上手ではなかったが、カムナに水着の詳細は伝わったようだ。

「もしかして、人間ってバカなの? そんなところしか隠れてない格好じゃあ、ちょっと転んだだけで擦り傷だらけになるじゃない」

 カムナの思考回路ならば、こういった結論に行きつくのも当然だろう。
「はぁー……本当に、カムナってばお子ちゃまですの」

「あんた、今日は随分言ってくれるじゃない? あの世に連れてってあげようかしら?」

 指をバキボキと鳴らすカムナと、いつになくマウントを取ってくるリゼットの間にフレイヤが割って入った。しょっちゅう喧嘩をする二人の仲裁をするのはクリスだが、彼が止められない時にはフレイヤの役割にもなる。

「これはロマンを追い求めた結果と言った方がいいな! 女性の色香をより一層引き立て、男性の力強さを剥き出しにしてくれるという意味では、水着以上に優れた衣服はリゾート地では存在しないぞっ!」
「フレイヤ、そんな大げさな……」
「もちろん私も、リゼットと一緒に水着を買ってくるつもりだ!」

 いつものように大声で笑いながら、フレイヤはクリスに顔を近づけた。
 どうしたのか、と彼が聞く前に、彼女はいつもと剛毅さとは真逆の余ったるい声で言った。

「――クリス君、キミが選んでくれるなら何でもいいぞ」

 囁くような声は、元聖騎士とは思えないほど蠱惑的だった。
 耐性のないクリスの顔が、たちまち赤くなった。

「なっ……か、からかわないでよ!」

 手を振って誤魔化そうとするクリスを見つめて、フレイヤはいつもの調子で笑った。

「はっはっは! からかったつもりは微塵もないぞ! キミが選んでくれたなら、紐だろうと何だろうと、うむ、恥ずかしいが着こなしてみせようっ!」
「あーっ! フレイヤ、クリス様を誘惑するのはおやめなさい!」

 さて、リゼットがフレイヤを威嚇すると、カムナやマガツにも水着の意図は伝わった。
 どのような機能を持っているかはともかく、うまく着こなせばクリスにあんな顔をさせられるのだ。ならば、二人も着用しない選択肢はない。

「なんか分からないけど、その水着ってやつを着れば、クリスはもーっとあたしのことを好きになるってわけね! だったらクリス、あたし用に水着を作ってちょうだい!」
「マガツにも作って。クリスとなら、きっと楽しいから」

 水着を作ってくれと言われても、クリスにとってはやや難しい話だ。もっとごちゃごちゃした武器やアイテムはともかく、特殊な布――しかもデザインセンスを要求されるとなると話は別だ。
 そもそも、別に水着の着用は義務ではないのだ。

「……えっと、羽を伸ばすのが目的って、分かってるよね?」
「「もちろん!」」

 四人はクリスを囲み、目を見てはっきりと告げた。

「「それはそれとして、水着は選んで!」」

 権利の有無を問わず、こうなればもう、クリスに拒む権利はなかった。

「あ、あはは……とりあえず特殊加工の衣服は専門外だから、よろず屋で買おうか……」

 こうしてクリスは仲間に引き連れられ、大通りへと向かった。
 二日後の出発予定日まで、四人に代わる代わるいろんなお店へと連れて行かれて水着のチョイスに付き合わされるとは、この時の彼は想像もしていなかった。
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