クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる

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ぽかぽかの理由

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 俺達がカノンを連れて町中を回ると、もう太陽は真上まで昇ってた。
 いつも診療所に持って行ってたパンを売ってるパン屋、町の困りごとを解決してくれる役場に、たまーに魔導書が並んでる古本屋。
 他にも自警団の駐屯所ちゅとんじょとか、本当に色んなところをカノンに紹介した。

「パン屋に役場、古本屋……紹介できるところには、あらかた行きましたね」
「あとはここだな。喫茶店『猫のしっぽ』、町の皆のいこいの場だ」

 最後に俺達がカノンに紹介するのは、町でひとつの喫茶店。
 村と呼んでも差し支えないほど小さな町にとって、広場と同じくらい人が集まり、同じくらい需要がある場所だ。
 小さな喫茶に入ると、俺達をこぢんまりとしたお店が迎えてくれる。
 珍しく人のいない店の奥から出てきたのは、背の曲がったおばあちゃん、ハロッズ夫人だ。

「おやまあ、イオリちゃんにキャロルちゃん……それと、診療所の子だねぇ」

 まだ話しかけられるのに慣れてないのか、カノンはおずおずと答えた。

「……銀城、カノンです」
「そうそう、カノンちゃん。さあさ、好きなところに座ってちょうだい」

 俺とキャロル、カノンが促されるままにテーブルに腰かけると、カウンターの奥に、ロッキングチェアに揺られる老人がいた。
 たまに外で見かけるこのおじいちゃんは、『猫のしっぽ』のマスター。
 相変わらずのんびりしてるなあ、と思っていると、おばあちゃんが俺達のテーブルにココアの入ったカップを3つ置いてくれた。

「お、おばあちゃん? カノン、注文してないよ?」

 目を丸くするカノンに、おばあちゃんが微笑みかける。

「まあまあ、気にしなくていいんじゃよ。寂しそうな顔をしてたからねぇ、そういう子にはココアをあげたくなるのよぉ」
「うちのかみさんの、ただのおせっかいだ。気にせず飲め」

 おじいちゃんのぶっきらぼうな声も聞こえてきて、カノンがカップを手に取る。

「……いただきます……」

 温かいココアをひとくちすすると、カノンの頬に赤みがさした。

「……おいしい……!」

 少しだけ明るくなった声を聞いて、夫婦が顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。

「そりゃそうだ。かみさんのココアは、ここらじゃ一番うまい」
「カノンちゃん、ほっぺがリンゴみたいに赤くなったねぇ。元気になったよぉ、それにそっちのがずっとかわいいねぇ」
「イオリ達も、好きなだけ飲め。今日は他の客もいなくて暇だから、特別だ」

 おじいちゃんは声がちょっと怖いだけで、おばあちゃんと同じように優しい人だってのは、俺もキャロルも知ってる。

「……イオリ君がカンタヴェールを気に入ってる理由、分かったかも」

 カノンもそれを、頭じゃなくて心で理解できたみたいだ。

「皆が優しくて、ココアみたいにあったかくて、支え合ってる。何ができるかじゃなくて、何をしてあげたいか、何をしたいかって、皆がそう思ってる」

 ことん、とカップをテーブルに置いて、カノンが言った。
 もう彼女の目に、よどんだ光は残ってない。

「ぽかぽかした町なんだね、カンタヴェールって」

 あるのはただ――カンタヴェールにいたいと願う、優しい光だ。

「どこよりも素敵な町ですよ。私とお父さんが育った、大好きな町ですから」

 キャロルの言葉に俺が同意して頷くと、カノンも心を決めたみたいだ。

「……イオリ君、キャロルちゃん。カノンにも、何かできるかな」
「何だってできるさ。スキルってのは、そのためにあるんだからな」
「ひとりが難しいなら、一緒に考えていきましょう!」

 俺がカノンの右手を、キャロルが左手を握る。

「……うんっ♪」

 目にちょっぴりの涙を浮かべて、カノンが頷いた。
 しばらく俺達は、静かな喫茶店でこれからについて話したんだ。
 心の底からのカノンの笑顔は、やっぱりかわいいなって思ったよ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ――カノン達の散策からさかのぼること数日前。
 カンタヴェールからずっと離れた、とある廃屋。
 そこにはガラの悪い男達が、10人ほどたむろしている。

「……もう一回言ってくれや、オイ」

 彼らを統べるのは、豪華なソファーでふんぞり返る異世界転移者、坂崎コウスケだ。
 未成年なのに葉巻を咥えるスキンヘッドの男は、元いた世界の子分である友田や五十嵐、伊藤もいる。
 誰も彼もが、世紀末の世界でバイクを乗り回していそうな格好だ。

「で、ですから、奴隷を奪われてしまったんですよ!」

 そして彼らの前にひざまずき、必死の形相で説明しているのは、あのマッコイである。
 ただし、まるでどこか高いところから落とされたように、体中ケガと痣だらけだが。

「カンタヴェールに寄った時に、とんでもないスキルを持つ転移者がいて、そいつがあの奴隷を引き渡せと……わしも大きな鳥に掴まれて、ひどい目に遭いました!」
「坂崎、誰だろうな?」
「銀城を助けるってことは、俺達のクラスメートじゃねえか?」

 子分達の話を聞きながら、坂崎はマッコイの胸倉を掴んで、顔を近づける。

「そのクソ野郎がどんな奴か、覚えてるか?」
「み、見た目は普通で、特徴がなくて……で、でも……」

 マッコイが覚えているのは、平々凡々な見た目。
 だからこそ、町民が呼んだ名前が、ひどく頭に残っていた。

「町の連中が、イオリと呼んでいました」

 ――イオリ、という名前だ。

「……!」
「マジかよ、天羽ってあの時死んだだろ!」
「何で生きてんだよ!?」

 坂崎を含めた転移者達の間に、ざわめきがはしる。
 当然だ、彼はすでに小御門リョウマが殺したはずなのだから。

「……ククク……ギャーハハハッ!」

 騒然とする最中、坂崎だけが口を吊り上げて笑った。
 細い目を気味が悪くなるほど見開いた彼は、持ち上げていたマッコイを床に叩きつけると、今度は頭をぺちぺちとはたく。

「あのいじめられるしか価値のねえ無能のゴミが、スキルを使ってただァ!? 冗談もほどほどにしとけや、ハゲデブ!」
「ほ、本当ですって……」
「つまんねえ冗談こいてんじゃねえぞ、ブタ。殺されてえのか?」
「す、すいません……!」

 彼もマッコイの証言がすべて妄言だとは思っていなかった。
 あくまで銀城カノンを取り返すで、いじめられっ子の生存を確認するのはきょうが乗る。

「だがまあ、俺の目で確かめてみるのも悪くねえな」

 そして当然、ただ顔を見ておしまい、となるわけがない。

「もしもあの天羽が生きてるなら――今度は俺がぶっ殺してやるからよ!」

 坂崎が下品な声で笑うと、子分達もつられて笑った。
 彼らはすでに、スキルで好き放題に略奪や暴力を繰り返すならず者と化していた。
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