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トライヒドラ
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「お前さえいなければ、シルバー・サムライは僕のものだったんだぞ! 永遠に僕のそばにいて、僕を支えるいい女になってくれたんだぞォ!」
あーあー、発想が最悪だ。
武井は自分で菜々華を想ってるつもりなんだろうが、憧れってのは恐ろしいもんだな。相手が理想の姿でない――都合のいい姿じゃないなら、こうも変わるんだからよ。
“女々しすぎて草も生えない”
“きも”
“大和男の恥”
視聴者からの印象も地獄だぞ、ネイバー君よ。
「RKくん、彼がああなったのは私の責任だよ。だから、私がかたをつける」
「あんまり全部をしょいこもうとするなよ。乱入した俺みたいな奴でよけりゃ、半分くらいは背負わせてくれ」
本当なら全部背負ってやりたいけど、菜々華は納得しないだろうな。
「……!」
「……」
なんて思っていると、俺達より先に、敵の方に変化が起きた。
アンダーグラウンド・エンターテインメントの連中が顔を見合わせて小さく頷き合うと、すうっと消え始めたんだ。
「……え?」
俺達も驚いたけど、一番ビビってるのは当然武井だ。
なんせ、自分の味方が次々と無言でいなくなっていくんだからな。
「あ、お、おい! どこに行くんだ、待て、待てよォ!」
ジタバタとあいつが喚きはじめた頃には、もうほとんどピエロは残ってなかった。
『連中が消えていくな。どういうわけだ、黒鋼?』
「どうって、撤退したんだろうよ。怪我人もいるし、このままやり合えば本来裏の業界にしかいないアンダーグラウンド・エンターテインメントを配信でさらに広めちまうだろうし。といっても、手遅れには違いないけどよ」
そう。武井は、裏社会に見限られたんだ。
さっきまで後ろ盾を手にして調子に乗っていた男がうろたえるさまは、正直言って俺烏りゃあ見てられない。菜々華も、どこまでも冷めた目であいつを見つめてる。
一方でコメント欄はというと、あんまりよくないんだが……大盛り上がりだ。
“惨めすぎる”
“アホ丸出しだわ”
“m9(^Д^)プギャー”
“草どころか森生えたんだが”
こんな文字列を武井が見れば、きっと憤死するに違いない。
「ところでネイバー、お前は飼い主に捨てられたわけだが、まだやるつもりか? ぶちのめされる前に、降参しといた方が身のためだぜ」
だけど、それでも敗北を認めないのがシルバー・ネイバーなんだろうな。
振り返ったあいつの顔に、もう正気は残ってない。
「ぼ、僕一人でもやってやる、やってやるよおぉッ!」
武井はポケットの中から、灰色の四角いUSBメモリのような道具を取り出した。
数少ない武器である刀を投げ捨てるんだから、よっぽど効果のあるアイテムのはずだ。
「モンスターをカプセルに詰め込むスキルがあるのを知ってますか!? 世間には出ていない裏の技術ですが、これがまた便利でねぇ!」
なるほど。あの時都合よくモンスターが出現したのは、こいつの仕業か。
アンダーグラウンドの連中は随分ととんでもないアイテムを使うんだな。下手すると、スキルの使い道も地上よりずっと進んでるのかもしれない。
「好きなモンスターを持ち運んで、あたかも襲撃に見せかけられる! 自分の手を汚さずにピンチを演出できる、最高のアイテムですよ!」
「モンスターをけしかけたのもキミだったんだ。一番弟子だと思ってたのに、幻滅だよ」
さっきから武者モードに入ってあまりしゃべらなかった菜々華が、喚き散らす武井を見て心底侮蔑した顔で呟いた。
学園のマドンナにこんな顔されたら、普通はその日のうちに飛び降りを選ぶぞ。
だけどまあ、今の武井は何も見えてないだろうな。
「幻滅だろうが何だろうが、もういいんだよなぁ! 僕の中で、理想の貴女が永遠に生き続けるんですから! 今のあんたなんていらないんだよッ!」
狂ったように叫ぶ武井がアイテムを砕くと、ぼん、という音と煙が起こった。
ダンジョンに風が吹き荒れ、たちまち収まった時、その怪物は俺達の前に現れた。
『ギオオオオオオオッ!』
橙色の毒々しい鱗に凄まじく長い牙、三つの首を持つ、二階建ての家屋ほどもある巨大なモンスター――トライヒドラだ。
普通にダンジョン探索をしていればまずお目にかかる機会なんてない、本物の凶悪な怪物。俺だって、他の配信でだって一度しか見たことがないバケモンだ。
“でか!”
“やばいやばいやばい”
“こいつ見たことある、逃げろ”
コメントも配信を楽しむ声から、俺達の身を案じるものに変わってゆく。
そんなモンスターを従えてる気になったのか、武井は大笑いしてやがる。
「どうだどうだァ! 深層のさらに奥にしか生息しないトライヒドラ! 毒のブレスと鋭い牙、強靭な鱗で何人もの配信者を血祭りにあげてきた、アンダーグラウンド・エンターテインメントのとっておきだ! お前ら二人とも、これでブチ殺――」
ぎゃあぎゃあとはしゃいでるところ悪いが、はっきりと感想を言ってやるか。
「――散々ハードル上げたくせに、出てきたのはこの程度のモンスターか?」
あーあー、発想が最悪だ。
武井は自分で菜々華を想ってるつもりなんだろうが、憧れってのは恐ろしいもんだな。相手が理想の姿でない――都合のいい姿じゃないなら、こうも変わるんだからよ。
“女々しすぎて草も生えない”
“きも”
“大和男の恥”
視聴者からの印象も地獄だぞ、ネイバー君よ。
「RKくん、彼がああなったのは私の責任だよ。だから、私がかたをつける」
「あんまり全部をしょいこもうとするなよ。乱入した俺みたいな奴でよけりゃ、半分くらいは背負わせてくれ」
本当なら全部背負ってやりたいけど、菜々華は納得しないだろうな。
「……!」
「……」
なんて思っていると、俺達より先に、敵の方に変化が起きた。
アンダーグラウンド・エンターテインメントの連中が顔を見合わせて小さく頷き合うと、すうっと消え始めたんだ。
「……え?」
俺達も驚いたけど、一番ビビってるのは当然武井だ。
なんせ、自分の味方が次々と無言でいなくなっていくんだからな。
「あ、お、おい! どこに行くんだ、待て、待てよォ!」
ジタバタとあいつが喚きはじめた頃には、もうほとんどピエロは残ってなかった。
『連中が消えていくな。どういうわけだ、黒鋼?』
「どうって、撤退したんだろうよ。怪我人もいるし、このままやり合えば本来裏の業界にしかいないアンダーグラウンド・エンターテインメントを配信でさらに広めちまうだろうし。といっても、手遅れには違いないけどよ」
そう。武井は、裏社会に見限られたんだ。
さっきまで後ろ盾を手にして調子に乗っていた男がうろたえるさまは、正直言って俺烏りゃあ見てられない。菜々華も、どこまでも冷めた目であいつを見つめてる。
一方でコメント欄はというと、あんまりよくないんだが……大盛り上がりだ。
“惨めすぎる”
“アホ丸出しだわ”
“m9(^Д^)プギャー”
“草どころか森生えたんだが”
こんな文字列を武井が見れば、きっと憤死するに違いない。
「ところでネイバー、お前は飼い主に捨てられたわけだが、まだやるつもりか? ぶちのめされる前に、降参しといた方が身のためだぜ」
だけど、それでも敗北を認めないのがシルバー・ネイバーなんだろうな。
振り返ったあいつの顔に、もう正気は残ってない。
「ぼ、僕一人でもやってやる、やってやるよおぉッ!」
武井はポケットの中から、灰色の四角いUSBメモリのような道具を取り出した。
数少ない武器である刀を投げ捨てるんだから、よっぽど効果のあるアイテムのはずだ。
「モンスターをカプセルに詰め込むスキルがあるのを知ってますか!? 世間には出ていない裏の技術ですが、これがまた便利でねぇ!」
なるほど。あの時都合よくモンスターが出現したのは、こいつの仕業か。
アンダーグラウンドの連中は随分ととんでもないアイテムを使うんだな。下手すると、スキルの使い道も地上よりずっと進んでるのかもしれない。
「好きなモンスターを持ち運んで、あたかも襲撃に見せかけられる! 自分の手を汚さずにピンチを演出できる、最高のアイテムですよ!」
「モンスターをけしかけたのもキミだったんだ。一番弟子だと思ってたのに、幻滅だよ」
さっきから武者モードに入ってあまりしゃべらなかった菜々華が、喚き散らす武井を見て心底侮蔑した顔で呟いた。
学園のマドンナにこんな顔されたら、普通はその日のうちに飛び降りを選ぶぞ。
だけどまあ、今の武井は何も見えてないだろうな。
「幻滅だろうが何だろうが、もういいんだよなぁ! 僕の中で、理想の貴女が永遠に生き続けるんですから! 今のあんたなんていらないんだよッ!」
狂ったように叫ぶ武井がアイテムを砕くと、ぼん、という音と煙が起こった。
ダンジョンに風が吹き荒れ、たちまち収まった時、その怪物は俺達の前に現れた。
『ギオオオオオオオッ!』
橙色の毒々しい鱗に凄まじく長い牙、三つの首を持つ、二階建ての家屋ほどもある巨大なモンスター――トライヒドラだ。
普通にダンジョン探索をしていればまずお目にかかる機会なんてない、本物の凶悪な怪物。俺だって、他の配信でだって一度しか見たことがないバケモンだ。
“でか!”
“やばいやばいやばい”
“こいつ見たことある、逃げろ”
コメントも配信を楽しむ声から、俺達の身を案じるものに変わってゆく。
そんなモンスターを従えてる気になったのか、武井は大笑いしてやがる。
「どうだどうだァ! 深層のさらに奥にしか生息しないトライヒドラ! 毒のブレスと鋭い牙、強靭な鱗で何人もの配信者を血祭りにあげてきた、アンダーグラウンド・エンターテインメントのとっておきだ! お前ら二人とも、これでブチ殺――」
ぎゃあぎゃあとはしゃいでるところ悪いが、はっきりと感想を言ってやるか。
「――散々ハードル上げたくせに、出てきたのはこの程度のモンスターか?」
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