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アサヒ

蜘蛛の糸に絡め捕る

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 シイナの伏せられた睫毛は微かに震え、薄っすらと開いた唇からは荒くそして甘い吐息がこぼれている。達した名残で過敏になっているのか、時折全身がヒクついた。ツキヤは、うっとりと夢見るような面持ちの彼女からどうにも目を離せないらしい。

(こんなふうに感じさせてやったことはないんじゃないの?)
 アサヒの中に、暗い優越感じみたものが湧く。
 シイナの初めてを奪ったのは彼かもしれないが、彼女のことを本当に解かっているのは、アサヒの方だ。
 身体の反応も――その心の中も、アサヒの方が、シイナのことを解かっている。

「ツキヤ」
 名前を呼んだアサヒの声に、反応はない。
「ツキヤ」
 語調を強くして、もう一度、呼んだ。数拍置いて、彼はゆるゆると首を巡らせる。

 自分とよく似た容貌の、けれど、決してアサヒには持ち得ないものを持った双子の弟の目を見据えた。
 彼のことを、今まで妬んだことも羨んだこともなかった。
 そんな必要などなかった――シイナに出逢うまでは。
 今は、時々、彼のことを殺してやりたい気分になる。この瞬間もジワリと染み出すその感情を呑み込んで、アサヒはニコリと笑いかけた。

「あんたも、シイナが欲しいんでしょ?」
 問いながら、アサヒはシイナの柔らかな下腹をそっと撫でた。彼女は微かに仰け反り小さく息を呑んだけれども、まだ、正気を取り戻してはいない。

 ツキヤは、姉の手の動きを目で追い、奥歯を食いしばった。
「俺、は、もう……」
「シイナには手を出せない? どうして?」
 ツキヤの身体は、分厚いジーンズの上からでもはっきりと見て取れるほど、昂っている。何もせずにいるのは、さぞかしつらいことだろう。

 アサヒはまだシイナの蜜で濡れそぼっている自分の手に、これ見よがしに舌を這わせた。
「この子がこんなにトロトロになっちゃったのは、あんたの前だからでもあるんじゃないの?」
「え……」
「嫌な相手の前じゃ、こんなに感じられないでしょ」
 そう言って肩をすくめてみせると、ツキヤの目に微かな迷いが生まれるのが見て取れた。すでに、元々大して太くはない彼の理性の糸が擦り切れかけているのは明らかだ。軽い一押しで、きっと、いとも簡単に『こちら側』に堕ちてくる。

 アサヒはシイナの臍の下あたりに置いていた手を滑らせ、柔らかな茂みの中に指先を潜り込ませる。

「ひぁッ」
 探り当てた小さな粒をコリコリと指先で転がしてやると、即座にシイナが応えた。
「ほら、この子もまだ足りないのよ。もっと、奥を可愛がってあげないと」
 彼女を弄ぶアサヒの指の動きに合わせて、愛らしい嬌声が部屋の中に爆ぜる。

 ツキヤは額に汗をにじませながら固まっていたけれど、やがてゆっくりとジーンズのファスナーに手をかけた。
 待ちかねたように飛び出した彼の強直を、アサヒは横目で見遣る。そのグロテスクな造形は、正直言って見るに堪えない。それがシイナの中を蹂躙するところを想像すると、今すぐ切り落としてやりたくなる。

(でも、仕方ない)

 これは、ステップの一つに過ぎない。
 シイナをずっとアサヒの傍にとどめておくための。

 アサヒは膨らみを増したシイナの花芯を優しく揉みしごきながら、仰け反り喘ぐ彼女の顎から首筋をついばみ、吸い上げる。そのたびに身悶えるシイナは、この上なく可憐で愛くるしい。

(私一人のものにできたらいいのに)
 切実にそう願うけれど、それが叶わぬ夢であることをアサヒは理解し、受け入れている。
 だから、次善の策を講じたのだ。

 そっと、シイナの腹から下が、持ち上げられる。大きく押し広げられた太腿の間に、ツキヤの腰が迫った。一瞬ためらうような素振りを見せた後、赤黒く怒張したものが、シイナの中に埋め込まれていく。

「ふ、あぅ」
 微かに眉根が寄せられて、シイナの全身が強張った。何度受け入れても、華奢な彼女にツキヤの身体はキツイのだろう。

「シイナ、ほら、力を抜いて」
 囁いて、アサヒはシイナに唇を重ね、彼女が苦しくならないように中をまさぐった。さっき見つけたばかりの感じる場所をくすぐると、シイナの身体が少し柔らかくなる。と、横から、大きな吐息が聞こえた。頭を上げてそちらを見れば、何かを堪えるようにツキヤが目を閉じている。彼とシイナの身体は、これ以上はないというほどピタリと密着していた。

 ツキヤが身を強張らせていたのはほんのわずかな間だけで、彼はまさぐるようにシイナのわき腹を両手で捉え、腰を使い出す。
 初めはゆっくりだった動きが次第に速度を増していく。それに伴い突き上げも激しくなり、繊細なシイナの身体が大きく揺さぶられる。

「ひぁ、あ、あ、あ、あん、あッ、あぁ!」
 シイナの口から迸る嬌声に、アサヒは眉をひそめた。

 喘ぐ声には、確かに愉悦の響きが混じっている。
 だが――

「ちょっと、ツキヤ」
 アサヒは弟のみぞおちの辺りに手を押し当てて彼を制した。
「ッ! 何だ!?」
 苛立ちを含んだ彼の眼差しに、アサヒは呆れ返った視線を返す。

「ただ突き上げりゃいいってわけじゃないでしょ」
「は?」
「イかせるのと感じさせるのは違うんだからさ」
 そう答えてから、シイナの可愛らしい臍の下に手を置いた。
「ちょっと持ち上げて、この辺を、突くんじゃなくて揺らすようにやってみてよ」

 ツキヤは一瞬ムッとした顔をしたけれど、結局はアサヒの言うとおりに動き出す。

 シイナの身体が、ユサリと揺れた。

 と。

「ふぁ?」
 さっきまで悲鳴じみていた声が、戸惑うようなものに変わる。

 また、ユサリ。
「ふゃん」
 まるで仔猫が何かをねだるような甘い声。明らかに、さっきとは違う。

 ツキヤもすぐに要領を得たのか、同じペースでシイナを揺らし始める。

「ゃ、やぅ、ふ、くぅ」
 啼きながら、シイナはまるで逃げ出そうとするかのように身をよじる。けれど、そうすることでさらに感じるところに当たってしまったのか、彼女はビクリと身体を跳ねさせた。

「ふ、ぅ」
「クッ」
 シイナだけでなく、ツキヤからも小さな呻き声が漏れた。彼は束の間身を震わせ、また動き出す。

 シイナの全身には汗がにじみ、あえかな声を上げる合間に浅い息を繰り返している。アサヒは蕩けた彼女の顔に、目を奪われる。我慢しきれなくて感じきって硬く立ち上がった胸の蕾をそっと吸ってあげると、ひときわ高い声が部屋に響き渡った。シイナの背が反り返り、可憐なつま先に力が入って、ツキヤの腰に絡んだ太腿がプルプルと震える。視点の定まらない眼差しは、どっぷりと愉悦に浸りきっていた。

「や、べ」
 ツキヤが唸り、懸命に何かを堪えるように奥歯を食いしばる。
 しばらく荒い息をついていたけれど、何とか耐え抜いたようだ。

 彼は、また、ゆるゆると動き出す。刹那、ぐったりと横たわっていたシイナが暴れ出す。
 達したばかりで敏感になったところで感じる場所を刺激され、ひとたまりもなく快感に呑み込まれていくのが手に取るように判った。

「や、ぁ、ダメ、今は、ダメ――ぇ、ふ、ぅ」
 絶え間なく襲い掛かる愉悦の波に、シイナの全身が硬直する。
「ヤバい、シイナの中……」
 ツキヤが荒い息を吐いた。多分、さっきアサヒが楽しんだのと同じものなのだろう――シイナの中の蠕動を味わうように、深々と彼女の中に潜り込んだまま、ピタリと密着させた腰をゆっくりと揺らしている。

「や……ぁ、奥、奥が……ぁ、あ、ん、んッ」
 グッとシイナが手を握り締めて、柔らかな手のひらに小さな爪が食い込んでしまう。
 アサヒがそれを開かせ指を組むようにして手をつなぐと、手の甲に鋭い痛みが走った。

 シイナの両手をソファに押し付け、アサヒは身を乗り出す。真っ白な二つの膨らみを柔らかく吸って、その肌の甘さを味わった。

「ッ!」
 はくはくと口だけで喘ぐシイナは、息をするのも忘れてしまっているようだ。
「ほら、息して、シイナ」
 マシュマロのような膨らみから顔を上げ、咎めるように言って膨らみの頂点で硬く立ち上がる薄紅色の蕾を甘噛みし、舌で転がす。

 刹那。
 シイナの背筋がピンと張る。

「は、ぁ――ッ」
 ヒクヒクと、また、シイナの下腹が波打った。

「グッ!」
 唸ったツキヤが動きを止めて、命綱にすがるようにシイナの腰をグッと我が身に引き寄せた。次の瞬間激しい寒気に襲われたかのように全身をけいれんさせる。

「ひぁ、あ――」
 シイナの高い声がか細くなり、突然フツリと切れる。突然四肢を投げ出しソファに落ちたその様は、さながら使い手を失った操り人形だ。

「あら……トんじゃった」
 呟き、アサヒは閉ざされたシイナの眦からこぼれ落ちた涙を舌ですくい取った。そうして、幼い子どものような眠りに落ちていった彼女の頬を、両手で包み込む。

「おやすみ、シイナ」
 アサヒはそっと唇を重ね、触れ合わせたまま、囁いた。
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