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第四章:飛竜の猛将
覚知②
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怪鳥の翼を休ませることなく飛び続けて、三日。
男は微かな力の残滓が感じられる荒地へと足を下ろしていた。
「これは、ヤンダルムの力か」
弱いが、確かに聖斧の力の名残りだ。
そして、もう一つ――癒しの温もり。
彼はひざまずき、地面に触れる。彼女を見失って以来初めて得られた、その存在を証明してくれる確かな感触だった。
他にも何人かの気配が残存しているが、ヤンダルム以外の『印』持ちがいるかどうかは、判らなかった。
「ヤンダルムと刃を交えたのは、誰だ……?」
逃げ出したエデストルの王子だろうか。
姿をくらましているトルベスタの『印』持ちであろうか。
それとも、戦いを始めようとしているシュリータの者なのか。
この場所は中立の街オプジティに近いとはいえ、まだまだヤンダルムの領地内だ。シュリータの兵は、簡単には入り込めないだろう。
となると――
「エデストルか、トルベスタの『印』持ちか……?」
どちらかと彼女が、合流していたということだろうか。
可能性が高いのは、エデストルの王子だ。
彼女を封じていたのはトルベスタの山中ではあったが、偶然にしろ探検する気にしろ、人が足を踏み入れることはまずない筈だ。ましてや、彼の力で眠りに就いていた彼女を目覚めさせることができた筈がない。
一方、エデストルの逃亡経路と彼女が覚醒した時期を考えれば、途中で両者の行程が交わることは充分に有り得る。
猫もどきが彼女を目覚めさせ、移動が始まってから両者は遭遇したのだろう。
その肉体を害することはできないとは言え、彼女は身を守る力は持っていないから、『印』持ちと合流してくれたのであれば、むしろ安心できる。
あの化け猫の入れ知恵があるなら、彼女は『印』持ちを集めようとしている筈だ。
エデストルとトルベスタの親交が厚かったこと、ラウ川大橋が封鎖されていたこと、そして人っ子一人いないトルタの現状を考えると、逃げ延びたエデストルの王子がトルベスタに助けを求めたことは容易に導き出せる結論だ。
もしかしたら、エデストルとトルベスタ、二人の『印』持ちはもう彼らと共にいるのかもしれない。そして、ヤンダルムかシュリータの力を得に行こうとしているのだろう。
だが、恐らく、途中でヤンダルムの王と鉢合わせになり、戦いとなったのだ。そして誰か――恐らく複数――が負傷し、彼女が力を使った。
エデストルたちは、ヤンダルムに勝ったのだろうか。
もしも勝ったとしたら、ヤンダルムとシュリータと、どちらに向かったのだろう。
破れていたら、当然ヤンダルムの首都ヤルムに連れて行かれたに違いない。
彼は腕を組んで思案する。
どちらに行ったとしても、最悪、『印』持ちを三人とあの化け猫を相手にすることになる。
『印』が発動させる力は彼に効果はないが、それぞれに、得物の腕は確かだろう。
彼にも強大な魔力はあるが、剣、弓、斧あるいは槍の三者を相手にしては少々分が悪いかもしれない。
「少し、手勢は必要か」
ここまで彼女に近付けたというのにまた離れるのは業腹だが、仕方がない。油断をしてやり損なうよりもいい。
再び巨鳥の背の上に乗り、空に向かう。
「待っていてよ……ルゥナ」
何よりも大事な者の名前を祈りに近い声で呟き、彼は手綱を打ち振るった。
男は微かな力の残滓が感じられる荒地へと足を下ろしていた。
「これは、ヤンダルムの力か」
弱いが、確かに聖斧の力の名残りだ。
そして、もう一つ――癒しの温もり。
彼はひざまずき、地面に触れる。彼女を見失って以来初めて得られた、その存在を証明してくれる確かな感触だった。
他にも何人かの気配が残存しているが、ヤンダルム以外の『印』持ちがいるかどうかは、判らなかった。
「ヤンダルムと刃を交えたのは、誰だ……?」
逃げ出したエデストルの王子だろうか。
姿をくらましているトルベスタの『印』持ちであろうか。
それとも、戦いを始めようとしているシュリータの者なのか。
この場所は中立の街オプジティに近いとはいえ、まだまだヤンダルムの領地内だ。シュリータの兵は、簡単には入り込めないだろう。
となると――
「エデストルか、トルベスタの『印』持ちか……?」
どちらかと彼女が、合流していたということだろうか。
可能性が高いのは、エデストルの王子だ。
彼女を封じていたのはトルベスタの山中ではあったが、偶然にしろ探検する気にしろ、人が足を踏み入れることはまずない筈だ。ましてや、彼の力で眠りに就いていた彼女を目覚めさせることができた筈がない。
一方、エデストルの逃亡経路と彼女が覚醒した時期を考えれば、途中で両者の行程が交わることは充分に有り得る。
猫もどきが彼女を目覚めさせ、移動が始まってから両者は遭遇したのだろう。
その肉体を害することはできないとは言え、彼女は身を守る力は持っていないから、『印』持ちと合流してくれたのであれば、むしろ安心できる。
あの化け猫の入れ知恵があるなら、彼女は『印』持ちを集めようとしている筈だ。
エデストルとトルベスタの親交が厚かったこと、ラウ川大橋が封鎖されていたこと、そして人っ子一人いないトルタの現状を考えると、逃げ延びたエデストルの王子がトルベスタに助けを求めたことは容易に導き出せる結論だ。
もしかしたら、エデストルとトルベスタ、二人の『印』持ちはもう彼らと共にいるのかもしれない。そして、ヤンダルムかシュリータの力を得に行こうとしているのだろう。
だが、恐らく、途中でヤンダルムの王と鉢合わせになり、戦いとなったのだ。そして誰か――恐らく複数――が負傷し、彼女が力を使った。
エデストルたちは、ヤンダルムに勝ったのだろうか。
もしも勝ったとしたら、ヤンダルムとシュリータと、どちらに向かったのだろう。
破れていたら、当然ヤンダルムの首都ヤルムに連れて行かれたに違いない。
彼は腕を組んで思案する。
どちらに行ったとしても、最悪、『印』持ちを三人とあの化け猫を相手にすることになる。
『印』が発動させる力は彼に効果はないが、それぞれに、得物の腕は確かだろう。
彼にも強大な魔力はあるが、剣、弓、斧あるいは槍の三者を相手にしては少々分が悪いかもしれない。
「少し、手勢は必要か」
ここまで彼女に近付けたというのにまた離れるのは業腹だが、仕方がない。油断をしてやり損なうよりもいい。
再び巨鳥の背の上に乗り、空に向かう。
「待っていてよ……ルゥナ」
何よりも大事な者の名前を祈りに近い声で呟き、彼は手綱を打ち振るった。
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