君が目覚めるその時に

トウリン

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君の目覚めを待ちながら-3

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 時折。
 本当に、時折。

 まるで梅雨の雲間から一筋の陽が射すように、フッと何かが感じられるような気がすることがある。
 それは、早くそこから出ておいでと誘いかけているようで。

 ――まだ頑張らないといけないの?
 ――それは、本当に正しいことなの?

 長い間、彼女の大事な人たちは苦しんできた。
 その苦しみは自分がもたらしたものだと、彼女には判っていた。自分が頑張れば頑張るほど、それを長引かせてしまうのだということも。
 頑張るのをやめれば、彼らを自分から解放することができる。新しい一歩へと踏み出させることができる。

 だけど。

 自分が喪われることで終わる苦しみと。
 自分が喪われることで始まる悲しみと。

 そのどちらの方が、大きいんだろう。
 考えてみても、彼女には判らなかった。

 だから彼女は考えるのをやめてまた心地良い深みへと潜り込もうとする。

 が、ふと、彼女は耳をそばだてた。

 ――何かが聞こえる。

 とても耳に馴染んだ、声。
 何て言っているのかは解からないけれど、その声は、悲しくて、苦くて、優しくて、そして温かい。

 誰の声だろう。
 思い出せない。

 だけど、ずっと、苦しませたくないと思い続けてきた人の声だということだけは、判った。そう思い続けてきたのに、苦しませてしまっていた人の声だと。
 その苦しみを感じるたびに、心が痛んだ。
 胸に深く突き刺さってくるその声から逃れようと耳を塞ぎかけた彼女の頭の片隅で、囁きが問いかけてくる。

 ――わたしがもたらしたのは、苦しみだけだった……?

 誘うような弱気な声。
 それを肯定すれば、楽になれる。
 彼女がいなければ、彼らの苦しみは、終わる。
 彼女自身と、彼女のせいで苦しむ彼らを、解放できる。

 だったら。

 ――わたしは、最初からいない方が良かったの……?

 その答えは、明白だった。

 違う。
 彼女は頭を振る。それは、絶対に、有り得なかった。
 ――わたしは、望まれていた。
 とても、とても、強く。
 だからこそ、彼らを苦しませていたのだ。
 わたしの命はわたしだけのものじゃない。
 わたしを知る、わたしを慈しむ、みんなのものでもあるのだ。
 彼女はそれを思い出す。
 それは、いつでも彼女の原動力だった。どんなに苦しい時でも、また立ち上がる為の。

 ――ああ、でも、あと少しだけ、こうやっていたい。

 あと、少しだけ。
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