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Ⅲ:捨てられ王子の綺羅星
四阿で:必要としているもの
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「それでね、メルセデが――」
おしゃべりの合間でステラがふと眼を向けると、アレッサンドロの身体がふらりふらりと揺れていた。
どうやら、うたた寝を始めたらしい。
あんなふうに船を漕いでいたら、あまり身体は休まらないだろう。四阿の長椅子の背もたれは低いから、後ろに寄り掛かることもできない。
束の間どうしようかと考えたステラは、手にしていた茶器を置き、アレッサンドロの隣に行く。そうして揺れる彼の肩を支えてゆっくりと引き倒し、頭を自分の膝に下ろした。
「ん……」
アレッサンドロがもぞもぞと身じろぎをし、ステラは起こしてしまったかと息を詰める。が、彼は小さく息をついただけで、むしろ身体の力が抜けたのか、ステラの膝にかかる重みが増した。そして、より深く緩やかな寝息が聞こえてくる。
ディアスタ村にいた頃も、子どもたちの世話の手が空くと、時々こんなふうに膝枕で彼の午睡に付き合ったものだった。ステラの中で宝物のように大事にしている思い出の一つだ。些細で何気ない、けれども、とても大事な思い出の、一つ。
(あの頃は、あんなに軽かったのに)
ステラの膝にチョンとのるくらいだったフワフワの金髪は、色も手触りもあの頃と違っていた。すぐに絡まってしまう猫毛ではなくなり、色も淡い金色から黄金色になっている。
(でも、寝顔はやっぱり同じかな)
そっと前髪を避けて覗き込んだ横顔に、ステラはクスリと笑う。
起きているときは十八歳よりも大人びて見えるけれども、こうやって静かに寝息を立てているところはそれよりも少し幼く見えるくらいだった。ステラの膝にしがみついてきた、小さなアレッサンドロを思い出させてくれる。
ステラはサラリとした金髪の中に指を潜らせた。
この城に招かれてから、服も食事も、これでもかというほど豪華なものを与えてもらった。けれど、アレッサンドロを膝の上にのせている今が一番、満たされた気持ちになれている気がする。
(これって、やっぱり、庇護欲の延長なのかな)
艶やかな髪をゆっくりと撫でながら、ステラは胸の内で呟いた。
ステラは、教会に引き取られた子どもたちのことは皆、可愛いと思っている。コラーノ神父がそうしているように、分け隔てなく平等に。
けれど、その中でもアレッサンドロは『特別』な存在だった。八年間離れていても、あの四年間が色褪せることはなかった。
ステラの頭のどこかに、彼のことは『自分のもの』だという思いがあったのかもしれない。彼女が見つけ、連れてきた子だったから。いつか村に返すことになる他の子らと違って、ずっと、彼女の傍にいてくれるはずの子だったから。
八年前に迎えに応じて都へ行くことを勧めた時、アレッサンドロが再び彼女の元へ帰ってくることを信じ、それを欠片も疑わなかった。
八年間、ステラからの手紙に一度も返事がなくても、アレッサンドロが彼女のことを忘れてしまったなどとは、つゆほども思わなかった。
どれだけ距離も時間も離れていても、ずっと、ステラにとってアレッサンドロは特別な存在だった。アレッサンドロにとっても、ステラは特別な存在なのだと、思っていた。
(でも……)
ステラは睫毛を伏せる。
都で再会したアレッサンドロを見ていると、その確信が、揺らぐ。
アレッサンドロがジーノの誘いでのこのことやってきたステラのことをどう思っているのかが解らないし、自分自身の気持ちも、何だか良く解からない。
幼い頃のアレッサンドロは、傍にいて、ただ心地良いだけだった。穏やかで、温かで、笑み交わせばふわりと幸せな気分になれた。
それが、今はない。
再会したアレッサンドロは、一緒にいると落ち着かない。ニコリともしない彼を見ていると、胸が苦しくなるだけだ。
アレッサンドロが変わったから、というのもあるけれど、自分の中にある彼に対する何かも、昔とは違ってしまっている気がした。
「八年も会ってなかったのだもの、仕方がないよね」
苦笑混じりで呟き、また、彼の眠りを妨げないようにゆっくりと、黄金色の髪を梳く。そうしていると、一梳きごとに時が巻き戻されているような錯覚に見舞われた。
けれど、実際には、過去には戻れない。やり直すことなどできないのだから、これから先を見つめて進んでいくしかない。
それに、何もかもが変わってしまったようだけれども、一つだけ、揺るぎなくステラの中に留まり続けているものがある。
(わたしは、いつだってアレックスの幸せを何よりも願っているよ)
八年経っても少しも変わらないその想いを、今度は声に出さずに囁いたときだった。
「お休みですか」
不意にそんな声がかけられて、ステラは思わずあげかけた悲鳴を寸でのところで呑み込んだ。
顔を上げるといつの間にそこにいたのか、白髯を蓄えた老宰相が佇んでいる。
「うたた寝とは、お珍しい」
四阿の外から、リナルドはいかにも物珍しそうな眼差しでステラの膝の上のアレッサンドロを見つめている。
「お仕事の合間にお昼寝とか、しないんですか?」
「ないですね。横になられているお姿を拝見するのも初めてですよ。あなたにはよほど心を許しておられるようだ」
「そう、でしょうか」
ポツリとこぼしたステラの呟きに、リナルドが眉を上げた。けれど、彼女が都に来てからのアレッサンドロの態度を見ていると、あまり『心を許している』ようには思えない。
確かに、街に探しに来てくれた時のように、何かの拍子に、昔のアレッサンドロが垣間見えることがある。けれど、それ以外――つまり殆どずっと、ステラは彼との間に壁を感じるのだ。それも、アレッサンドロが築こうとして築いている、壁を。
「わたしがここにいてもいいのか、よく判りません」
傍にいていいのかすら判らないのに、心を許してくれているだなんて、到底思えない。
ジッと見つめてくるリナルドの視線から逃れるようにステラはうつむき、そっとアレッサンドロの髪を撫でる。
もしも八年前に戻れたら、都になんて行かなくてもいいよと言ってしまっているだろうか。
かつての彼を思い出させる寝顔を見つめ、ふと、そんなことを考えた。
今のこの国を見ていればそれが正しくない言葉だというのは判るけれども、それでも、「行かないで」という一言を口にしてしまうかもしれない自分がいることを、ステラは否定できなかった。
顔を伏せたままのステラに、低い声での呟きが届く。
「この方は我々を信用していないのです」
「え?」
唐突に不穏なことを言われてステラが眼を上げると、そこには苦笑、いや、自嘲の嗤いがあった。
「我々の前ではうたた寝どころか目を閉じることすらなさいません。まあ、理不尽な王妃の命に唯々諾々と従い、寄る辺の無い親子を無情に追いやった者どもですからね。今更赦せ、信用しろなどというのは虫が良すぎる」
どう答えていいのか判らず唇を噛んだステラに、リナルドは微笑んだ。
「十三年前に何があったのかは、ご存じでしょう?」
「何となく……」
細かい事情をはっきりと教えられたわけではない。
ただ、ジーノとアレッサンドロは母親が違うこと、十三年前に父親である国王が亡くなると同時に、ジーノの母親である王妃によってここから追い出されたことは、聞いた。
「アレッサンドロ様は、我々を信用していません。政務の点ではともかく、個人としては。信頼どころか、欠片ほどの好意すらお持ちではないでしょう。そんな中で寛ぐことなど、できなくても当然ですな」
常に淡々としたリナルドの声に今滲んでいるのは、慚愧の念だ。八年経ってもアレッサンドロの信頼を得ることができていないことに、不甲斐なさでも覚えているのだろうか。
「でも、頑張ってお仕事してるでしょう? きっと、国の為に、みんなの為にって……」
あんなにも身を粉にしてジーノの代わりとして王の職務に力を尽くしているのだ。嫌っている相手の為に、あれほど心血を注ぐことなどしないに違いない。それはとりもなおさず、アレッサンドロはここの人たちのことを好きだということになるはずだ。
だが、リナルドはステラの言葉に淡く微笑み、かぶりを振る。
「この方がなさっていることは、どれも『国の為』ではありませんよ」
「? どういうことですか?」
眉根を寄せて首をかしげたステラに、リナルドは笑みを返しただけだった。彼はもう一度アレッサンドロの寝顔に眼を向け、そして、ステラを見る。
「あまりうるさくすると、せっかくお休みになられているのを邪魔してしまいますな」
「え、あの……」
「では、ごゆっくり」
結局ステラの疑問を煙に巻き、リナルドは老人らしからぬ素早い足取りで去っていってしまった。
「どういう意味……?」
解けない謎を与えられて放り出されたステラは、独り途方に暮れる。
アレッサンドロはこんなに一生懸命頑張っているというのに、それがティスヴァーレ国の為ではないとしたら、いったい、何が目的だというのだろう。
今のリナルドのように、アレッサンドロを取り巻く人たちからは、どこか彼に引け目を感じているような空気を感じることがある。あるいは、常に一歩距離を取ろうとするような空気を。
アレッサンドロの方だっていつもしかめ面で、ニコリともしない。
そんなふうに壁を感じるとはいえ、アレッサンドロは確かにここで必要とされているし、彼もまた身を粉にして国に尽くしている。
それは、間違いない。
ステラが教会で皆の為に動いているのは、彼らが好きだからだ。神父や子どもたちのために働き、彼らが喜ぶ顔を見て、ステラは満足を得ていた。ステラには、彼らに必要とされているという実感が、必要だった。
(じゃあ、アレックスは?)
八年も一緒にいる人たちと打ち解けようとせず、あれほどがむしゃらに国王の役割に没頭しながら、国の為、国民の為でもないという。
アレッサンドロが必要としているものは、いったい、何だというのだろう。
彼が望んでいることは、いったい、何だというのだろう。
「アレックスは、何のために、そんなに頑張ってるの?」
ステラがそう呟いた時、まるでその問いに答えようとするかのように、アレッサンドロの睫毛が震えた。
おしゃべりの合間でステラがふと眼を向けると、アレッサンドロの身体がふらりふらりと揺れていた。
どうやら、うたた寝を始めたらしい。
あんなふうに船を漕いでいたら、あまり身体は休まらないだろう。四阿の長椅子の背もたれは低いから、後ろに寄り掛かることもできない。
束の間どうしようかと考えたステラは、手にしていた茶器を置き、アレッサンドロの隣に行く。そうして揺れる彼の肩を支えてゆっくりと引き倒し、頭を自分の膝に下ろした。
「ん……」
アレッサンドロがもぞもぞと身じろぎをし、ステラは起こしてしまったかと息を詰める。が、彼は小さく息をついただけで、むしろ身体の力が抜けたのか、ステラの膝にかかる重みが増した。そして、より深く緩やかな寝息が聞こえてくる。
ディアスタ村にいた頃も、子どもたちの世話の手が空くと、時々こんなふうに膝枕で彼の午睡に付き合ったものだった。ステラの中で宝物のように大事にしている思い出の一つだ。些細で何気ない、けれども、とても大事な思い出の、一つ。
(あの頃は、あんなに軽かったのに)
ステラの膝にチョンとのるくらいだったフワフワの金髪は、色も手触りもあの頃と違っていた。すぐに絡まってしまう猫毛ではなくなり、色も淡い金色から黄金色になっている。
(でも、寝顔はやっぱり同じかな)
そっと前髪を避けて覗き込んだ横顔に、ステラはクスリと笑う。
起きているときは十八歳よりも大人びて見えるけれども、こうやって静かに寝息を立てているところはそれよりも少し幼く見えるくらいだった。ステラの膝にしがみついてきた、小さなアレッサンドロを思い出させてくれる。
ステラはサラリとした金髪の中に指を潜らせた。
この城に招かれてから、服も食事も、これでもかというほど豪華なものを与えてもらった。けれど、アレッサンドロを膝の上にのせている今が一番、満たされた気持ちになれている気がする。
(これって、やっぱり、庇護欲の延長なのかな)
艶やかな髪をゆっくりと撫でながら、ステラは胸の内で呟いた。
ステラは、教会に引き取られた子どもたちのことは皆、可愛いと思っている。コラーノ神父がそうしているように、分け隔てなく平等に。
けれど、その中でもアレッサンドロは『特別』な存在だった。八年間離れていても、あの四年間が色褪せることはなかった。
ステラの頭のどこかに、彼のことは『自分のもの』だという思いがあったのかもしれない。彼女が見つけ、連れてきた子だったから。いつか村に返すことになる他の子らと違って、ずっと、彼女の傍にいてくれるはずの子だったから。
八年前に迎えに応じて都へ行くことを勧めた時、アレッサンドロが再び彼女の元へ帰ってくることを信じ、それを欠片も疑わなかった。
八年間、ステラからの手紙に一度も返事がなくても、アレッサンドロが彼女のことを忘れてしまったなどとは、つゆほども思わなかった。
どれだけ距離も時間も離れていても、ずっと、ステラにとってアレッサンドロは特別な存在だった。アレッサンドロにとっても、ステラは特別な存在なのだと、思っていた。
(でも……)
ステラは睫毛を伏せる。
都で再会したアレッサンドロを見ていると、その確信が、揺らぐ。
アレッサンドロがジーノの誘いでのこのことやってきたステラのことをどう思っているのかが解らないし、自分自身の気持ちも、何だか良く解からない。
幼い頃のアレッサンドロは、傍にいて、ただ心地良いだけだった。穏やかで、温かで、笑み交わせばふわりと幸せな気分になれた。
それが、今はない。
再会したアレッサンドロは、一緒にいると落ち着かない。ニコリともしない彼を見ていると、胸が苦しくなるだけだ。
アレッサンドロが変わったから、というのもあるけれど、自分の中にある彼に対する何かも、昔とは違ってしまっている気がした。
「八年も会ってなかったのだもの、仕方がないよね」
苦笑混じりで呟き、また、彼の眠りを妨げないようにゆっくりと、黄金色の髪を梳く。そうしていると、一梳きごとに時が巻き戻されているような錯覚に見舞われた。
けれど、実際には、過去には戻れない。やり直すことなどできないのだから、これから先を見つめて進んでいくしかない。
それに、何もかもが変わってしまったようだけれども、一つだけ、揺るぎなくステラの中に留まり続けているものがある。
(わたしは、いつだってアレックスの幸せを何よりも願っているよ)
八年経っても少しも変わらないその想いを、今度は声に出さずに囁いたときだった。
「お休みですか」
不意にそんな声がかけられて、ステラは思わずあげかけた悲鳴を寸でのところで呑み込んだ。
顔を上げるといつの間にそこにいたのか、白髯を蓄えた老宰相が佇んでいる。
「うたた寝とは、お珍しい」
四阿の外から、リナルドはいかにも物珍しそうな眼差しでステラの膝の上のアレッサンドロを見つめている。
「お仕事の合間にお昼寝とか、しないんですか?」
「ないですね。横になられているお姿を拝見するのも初めてですよ。あなたにはよほど心を許しておられるようだ」
「そう、でしょうか」
ポツリとこぼしたステラの呟きに、リナルドが眉を上げた。けれど、彼女が都に来てからのアレッサンドロの態度を見ていると、あまり『心を許している』ようには思えない。
確かに、街に探しに来てくれた時のように、何かの拍子に、昔のアレッサンドロが垣間見えることがある。けれど、それ以外――つまり殆どずっと、ステラは彼との間に壁を感じるのだ。それも、アレッサンドロが築こうとして築いている、壁を。
「わたしがここにいてもいいのか、よく判りません」
傍にいていいのかすら判らないのに、心を許してくれているだなんて、到底思えない。
ジッと見つめてくるリナルドの視線から逃れるようにステラはうつむき、そっとアレッサンドロの髪を撫でる。
もしも八年前に戻れたら、都になんて行かなくてもいいよと言ってしまっているだろうか。
かつての彼を思い出させる寝顔を見つめ、ふと、そんなことを考えた。
今のこの国を見ていればそれが正しくない言葉だというのは判るけれども、それでも、「行かないで」という一言を口にしてしまうかもしれない自分がいることを、ステラは否定できなかった。
顔を伏せたままのステラに、低い声での呟きが届く。
「この方は我々を信用していないのです」
「え?」
唐突に不穏なことを言われてステラが眼を上げると、そこには苦笑、いや、自嘲の嗤いがあった。
「我々の前ではうたた寝どころか目を閉じることすらなさいません。まあ、理不尽な王妃の命に唯々諾々と従い、寄る辺の無い親子を無情に追いやった者どもですからね。今更赦せ、信用しろなどというのは虫が良すぎる」
どう答えていいのか判らず唇を噛んだステラに、リナルドは微笑んだ。
「十三年前に何があったのかは、ご存じでしょう?」
「何となく……」
細かい事情をはっきりと教えられたわけではない。
ただ、ジーノとアレッサンドロは母親が違うこと、十三年前に父親である国王が亡くなると同時に、ジーノの母親である王妃によってここから追い出されたことは、聞いた。
「アレッサンドロ様は、我々を信用していません。政務の点ではともかく、個人としては。信頼どころか、欠片ほどの好意すらお持ちではないでしょう。そんな中で寛ぐことなど、できなくても当然ですな」
常に淡々としたリナルドの声に今滲んでいるのは、慚愧の念だ。八年経ってもアレッサンドロの信頼を得ることができていないことに、不甲斐なさでも覚えているのだろうか。
「でも、頑張ってお仕事してるでしょう? きっと、国の為に、みんなの為にって……」
あんなにも身を粉にしてジーノの代わりとして王の職務に力を尽くしているのだ。嫌っている相手の為に、あれほど心血を注ぐことなどしないに違いない。それはとりもなおさず、アレッサンドロはここの人たちのことを好きだということになるはずだ。
だが、リナルドはステラの言葉に淡く微笑み、かぶりを振る。
「この方がなさっていることは、どれも『国の為』ではありませんよ」
「? どういうことですか?」
眉根を寄せて首をかしげたステラに、リナルドは笑みを返しただけだった。彼はもう一度アレッサンドロの寝顔に眼を向け、そして、ステラを見る。
「あまりうるさくすると、せっかくお休みになられているのを邪魔してしまいますな」
「え、あの……」
「では、ごゆっくり」
結局ステラの疑問を煙に巻き、リナルドは老人らしからぬ素早い足取りで去っていってしまった。
「どういう意味……?」
解けない謎を与えられて放り出されたステラは、独り途方に暮れる。
アレッサンドロはこんなに一生懸命頑張っているというのに、それがティスヴァーレ国の為ではないとしたら、いったい、何が目的だというのだろう。
今のリナルドのように、アレッサンドロを取り巻く人たちからは、どこか彼に引け目を感じているような空気を感じることがある。あるいは、常に一歩距離を取ろうとするような空気を。
アレッサンドロの方だっていつもしかめ面で、ニコリともしない。
そんなふうに壁を感じるとはいえ、アレッサンドロは確かにここで必要とされているし、彼もまた身を粉にして国に尽くしている。
それは、間違いない。
ステラが教会で皆の為に動いているのは、彼らが好きだからだ。神父や子どもたちのために働き、彼らが喜ぶ顔を見て、ステラは満足を得ていた。ステラには、彼らに必要とされているという実感が、必要だった。
(じゃあ、アレックスは?)
八年も一緒にいる人たちと打ち解けようとせず、あれほどがむしゃらに国王の役割に没頭しながら、国の為、国民の為でもないという。
アレッサンドロが必要としているものは、いったい、何だというのだろう。
彼が望んでいることは、いったい、何だというのだろう。
「アレックスは、何のために、そんなに頑張ってるの?」
ステラがそう呟いた時、まるでその問いに答えようとするかのように、アレッサンドロの睫毛が震えた。
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