夜を越えて巡る朝

トウリン

文字の大きさ
13 / 30

仲間を求めて

しおりを挟む
 首都までの長い行程が可能な者は他には居らず、結局、リオン、エルネスト、省吾しょうご勁捷けいしょうの四人だけでの出立となった。
 正確なところを言えば、首都までどころか、自分の下の世話さえままならない者も少なくなく、多少なりとも動ける者は彼らの看病の為に残さなければならなかったのだ。

「けどな、大将。たった四人だけで何をやろうってんだ? しかも、こんな辺鄙な所で」
 辺鄙などという言葉では生温すぎる、獣道すらない山中を進みながら、勁捷がリオンにそうぼやく。今歩いているところは王の居る首都とは遥か遠く離れた山奥だった。
「うむ、もしかしたら、人数を増やせるかもしれないのだ」
 茂みを山刀で削いでいるエルネストの後を追うリオンは、足元から目を離さぬままそう答えた。
「人数を増やすだと? こんな山奥でか?」
「ああ。噂では、この山には王の圧制から逃れた人々が隠れ住んでいるらしい」
「そんな奴らがいるのか? だったら、初めから俺たち傭兵なんぞ雇わずに、そっちに声を掛けてみればよかったんじゃねぇの?」
「噂だといったであろう。王もご存知……知っていた筈だが放置していたし、信憑性は無いのかと思っていた」
「そりゃ、放っておくだろうよ。こんなとこまで兵を派遣して逃亡者を罰しても、時間と金の無駄なだけだぜ」
「まあ、そうかも知れんな」
 リオン自身いささかうんざりした面持ちで、そう答えた。

 この困難極まる山登りを始めて三日にもなろうというのに、未だ人影をチラリとすら見ない。動くものといえば、どれもが毛皮か羽毛を被っている。

「本当にこんなところに人間が住んでいるのかねぇ」
 溜め息を吐いて立ち止まった勁捷の尻を、省吾の足が蹴り飛ばした。
「止まるな」
「わかったよ……」
 一際大きな溜め息を残し、勁捷は再び足を運ぶ。
 暫らく無駄足ではないのか、せめて酒が呑みたいなどと足と同じくらい口を動かしていた勁捷であったが、突然、その両方を止める。
「止まるなって言っただろ!」
 足元に気を取られていた省吾は、筋肉で固められた勁捷の背中に頭突きをする羽目になり、抗議の声を上げる。それを片手で制し、勁捷はいつに無く鋭い眼差しで前方を透かすように見つめていた。

 一拍後、勁捷は強い声を前方に投げる。

「エルネスト、止まれ!」
 言われた当人は『え?』というふうに振り返ったが、その手は止まらなかった。エルネストの手にした山刀が行く手を塞いだ茂みを薙ぐと同時に足元がぐら付き、一瞬後、四人は残らず宙にぶら下がった網の中へと捕らわれていた。
「また、古典的な……」
 なんとも無様な格好で、勁捷は憮然として呟く。彼以外の三人は、よく状況を呑み込めてはいないようだった。
 ナイフを取り出そうとしても、さして大きくない網の中にぎゅうぎゅう詰めの宙吊り状態では、ちょっとした動きもままならない。
「早いとこ見回りが来てくれることを祈るしかないな」
 自力で抜け出すことを諦めて、勁捷は肩を竦める。
「すみません、私が早く気付いていれば良かったのですが」
「まあ、噂が本当だってことが、これで判ったじゃねぇの」
 心底申し訳無さそうに言うエルネストへ、勁捷は全く深刻な様子を見せずに返した。
「これが彼らの仕掛けた罠だと言うのか?」
「他にいないんじゃねぇの?」
 緊迫感の無い勁捷に、苛々と省吾が割り込んだ。
「そんなことより、これから抜け出すのが先じゃないのか?」
「助けてくれって、叫んでみるか?」
 これ以上格好悪くなりようが無いし、といつもどおりにへらへらと勁捷が言った、その時、エルネストが安堵の声を上げる。
「人です」
 彼の言葉どおり、コソリとも足音を立てずに、三人の男が間抜けな四人を見上げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...