入坂さくらという人物について

久手堅悠作

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入坂さくらという人物について

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 親友の結婚式に呼ばれたが、来なければ良かったと心底思った。なぜなら、私は一緒のテーブルに座っている彼女達のことを誰一人知らないからである。私の右隣の青いワンピースの女は入坂ちゃんの小学校の頃の友人で、私の左隣の赤いワンピースの女は入坂ちゃんの中学校の頃の友人。そして、私の向かいの紫のワンピースの女は入坂ちゃんの高校の頃の友人である。なぜ話す前からわかるのかというと、入坂ちゃんが私たちを気遣って卓上名札を用意してくれたからである。

 私たちの共通点は入坂ちゃんの友人だったということだけ。私は彼女の大学の頃の親友である。私は幼稚園から大学までエスカレーター式だったので大学時代の彼女しか知らない。しかし、それは彼女達も同じである。なぜなら、入坂ちゃんは進学するたびに引っ越しを繰り返していた転勤族だったからである。でも、それにしても無言で食事をするのは流石にきつい。なので、私は一言切り出した。

「皆さん、入坂ちゃんの友達なんですよね。入坂ちゃんって、学生時代どんな感じの子でした?」

 すると、青いワンピースの女が反応した。

「私は田舎出身で彼女と小学校6年間同じクラスでしたけど、すごく大人しかったです。私から話しかけて仲良くなりました。多分、友達は私しかいなかったと思います。入坂さんは文章を書くのが上手くて、毎年読者感想文のクラス代表に選ばれていました。そのうち、3回は賞も獲っていましたよ」

「え、そうなんですか?」

 赤いワンピースの女が驚いた。

「私が知ってる中学校時代のさくらと全然違いますね。彼女、いつもクラスの中心人物でしたよ。生徒会長も務めてたし。あとバスケ部のキャプテンもしてて、県大会優勝してましたね」

「県大会優勝!?」

 紫のワンピースの女が素っ頓狂な声を上げた。

「高校の頃のさくらちゃんは、スポーツ出来るイメージなかったですね。体育でバスケがなかったからわからなかったんですけど、バスケ以外のスポーツはからっきしでしたよ。むしろ、絵が上手かったイメージです。私、彼女と一緒に漫画研究部入ってたんですけど、さくらちゃんは初投稿で佳作獲ってました。クラスの中心っていうよりオタク仲間で集まってるグループにいましたね」

 「へ~」と青いワンピースの女と赤いワンピースの女が声を上げた。

「大学時代のさくらはどうだったんですか?」

 赤いワンピースの女が私に訊ねた。しかし私は答えに詰まった。なぜなら、大学時代の入坂ちゃんは……。

「私の知ってる入坂ちゃんは普通の女の子でした。大人しくもないし、クラスの中心でもないし、アニメの話も何もしてなかったです。小学校の頃は文章を書くのが上手かったそうですけど、大学のレポートは全然書けなくて困り果てていました。体育でバスケもしたけど、別に上手いとは思わなかったですね。あと、大学の頃は絵を描く機会がないので絵が上手かったかはよくわからなかったです。……それにしても、こんなに人によって印象が変わることってあります?」

「多分、内面の話をしてるから混乱してるだけですよ。入坂さんは色白で三つ編みのあの子ですよね」

「え。中学の頃のさくらは色が黒くてポニーテールでしたよ」

「高校の頃はショートヘアで赤い縁のメガネかけてましたよ。色黒ではなくて、強いて言うなら色白かな?」

「大学の頃の入坂ちゃんはセミロングでしたよ。肌の色は白くも黒くもなかったですね。普通って感じです」

「……ねぇ、私達が話してる入坂さんって同一人物ですよね?」

 と青いワンピースの女が言った。それに対しては私はこう返した。

「そうじゃないですか? 入坂って名字は名字ランキングで下から2番目のとても珍しい、全国に60人しかいない名字みたいですし」

「あ。そのセリフ、さくらが言ってた」

「私も聞いたことあります」

「私も」

「やっぱり、私たちが話してる入坂ちゃんは同一人物みたいですね。あと、この話も知ってます? 入坂ちゃんの名前の由来。入坂ちゃんのお母さんがマタニティハイになってピンクって名前を付けようとしたけど、お父さんがなんとか説得してさくらって名前になったっていう話」

「え? 私は入坂さんから春に生まれたからさくらになったって聞きましたよ」

「私はピンクのおくるみがすごく似合ってたからって」

「私はおばあちゃんと同じ名前を付けられたって聞きましたけど……」

 私は最後の1人の話を聞き終わると、疲れたように3人の顔を見回してこう言った。

「……結局、入坂さくらって何なんですか? たぬきか何かですか?」
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