異世界行って黒ネコに変身してしまった私の話。

しろっくま

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魔術師団編

55の2.勘違いって何よ!

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 私の告白に、ラッセルは顔を背けるようにして呻くように答える。

「……頼む、気の迷いということにしてくれ。これ以上私の心に踏み込んでくるな。わかって欲しい。この話しはここで終りにしてくれ」

 そう言いながら苦しそうに顔を歪めて歯をくいしばっている。震える息で大きく深呼吸すると、しがみついていた私の両肩に手を置き、グイッと自分から引き離して、こう言った。

「いいか、よく聞きなさい。君はこの部屋を出た時から、リンスター子爵令嬢になる」
「リンスター?   令嬢?」

 唐突に言われた内容が理解できなくて、キョトンとしたまま彼の顔を見るだけになる。
 ラッセルはコクリと頷くとさらに詳しく説明してくれる。

「君はリンスター前魔術師団長の養女ということで話しをつけてきた。リンスター殿の身内は誰もいないから、君が養女になっても問題ないということだ。むしろ喜ばれたよ。後ろ盾はこの国の王がついてくれるから、そちらについても何の心配もない」
「心配ないって、いきなりそんな……」

 突然養女などと言われて、今ひとつ頭がついていかない。わけがわからないままだが、とりあえず黙って話しを聞くことにした。

「王宮では私と君との間には必ずカシアス殿下が入ることになる。私は殿下の補佐、君は彼の親しい友人として。表面上はただの顔見知り、ということになるな」
「え?   私の後見人ってのは変わらないでしょ?」

 ラッセルは首を軽く横に振って、それが違うのだと話しを続ける。

「君の後見というのは、この部屋に君を預かるための便宜上の設定だ。もともと私は殿下から君をお預かりしているだけなのだ。私が彼の補佐に就くと同時に君も殿下の元へと戻る。それに……」

 そこまで話したところで一旦話しをやめ、下を向いて苦しいような表情をして黙り込む。

「私に関わると、君にマイナスなイメージがついてしまうだろう。いづれカシアス殿下より正式な婚約の申し込みもくると思う。それまでは私に近づかない方が良い」
「マイナスだから距離をとって話しかけるなってこと?   そんな根拠も理由もわからないことで、なぜそんな指示されなくちゃいけないのよ。私はやりたいようにやるわ」

 ラッセルは私をマジマジと見つめ、困った、という顔をして苦笑気味に呟く。

「君の頑固さには目を見張るよ。しかし、いづれ王宮に行けばわかる。世間が私をどうみているのかを」

 彼はソファから立ち上がると、私の手をとって同じように立ち上がらせた。
 コンッと杖をつくと、私のドレスや髪の乱れが直り、涙で赤くなった目もスッキリと元通りになった。

「さあ、もう行きなさい。殿下は君の支えを必要としていると思う。それに応えてあげるのも優しさではないか?   前にも伝えたはずだ。殿下の愛情を受け入れる幸せもあると。よく考えてから君の中で答えを出しなさい」
「私の気持ちはどうだっていいって言うの?   そんな中途半端な気持ちでハルと向き合ったって、不誠実になるじゃないのよ」

 私の必死の訴えに、聞き分けない子供を諭すような口調で優しく話してくる。

「私を好きだというのは君の勘違いだ。君がこちらの世界に来て、庇護を求める気持ちが好意かも、と勘違いしたのだろう。ただそれだけだ」
「そんな……そんなことない。私のことは自分が一番わかるもの」
「面倒をみてくれる者に対して、愛情や愛着を感じているだけなはずだ」

 ラッセルは再び困ったような表情をつくり、小さく何かを呟いた。

 途端に頭の中が冷たくなって、意識が朦朧とするのを感じた。
 私ってば脳貧血起こしてるんじゃない?
 感情的になりすぎちゃったかしら?
 学生の頃に朝会で具合が悪くなった時と似たような症状に、体がグラついて倒れそうになる。ラッセルに支えられてるらしく、そのまま気を失いかける。

「全ては夢の中の出来事に。私に対する気持ちも勘違いと思いなさい」

 意識を閉じる瞬間、ラッセルが私の耳もとで、そう呟いていたのを薄っすらと聞いた気がした。
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