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王宮編
73の1.白っ!
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居住区を抜け、付き添いにミリィちゃんを従えて、適当にぶらぶらと歩いてみた。
「サーラ」
呼び止められて振り返ると、そこにハルがいた。
お仕事中らしく、文官二、三人と移動中のようだった。
「あらハル、久しぶりね。なかなか時間が合わなくて。しっかりやってる? 皆さんに迷惑かけちゃダメだよ?」
「俺だって仕事はきちんとこなすさ。目が覚めたんだね。少し待って。片付けるからさ。一緒に散歩しよ」
文官に指示出しして、何事かの打ち合わせをして調整してる間、気になったことをミリィちゃんに尋ねた。
ハルが長時間睡眠のことを知っていたのが不思議だったから。
ミリィちゃんいわく、眠っている間に、彼には何度も訪問されていたらしい。
おお、すまんなぁ。みんなに心配されていたのか。これからはうかつに夢を見ないようにしないと……ってできるのか?
「ごめん、待たせたね。この先の庭でも行く?」
「構わないけど……お仕事ハンパにしないでね」
大丈夫、と太鼓判を押されたので、とりあえず散歩をすることにした。
ちょうど廊下の切れ目にかかり、庭が見えたので、ミリィちゃんには帰ってもらうか、と振り向いた時だった。
ゾクッと悪寒が背筋を抜け、辺りが薄暗くなった。急激な周りの変化にビビって、思わずハルにしがみつく。
「サーラ、俺に掴まって。体を低くして走れるように準備して」
何も考えられなかったので、ただ頷くとすぐに指示に従った。ミリィちゃんも助けないと、と探したら、彼女は既に戦闘準備を整えて、ハルと背中合わせで私を守る態勢に入っていた。
「ミ、ミリィちゃ……危な、よ」
震える声で彼女に話しかけると、平気だから逃げる準備をしろと逆に指示される。
そうしているうちに、暗闇の先からツーっと赤銅色のローブを纏った男が現れた。
「お前……誰なんだよっ。なぜ俺たちを狙うっ」
「フフフッ……そうだよね。僕たちは君たちを知っているけど、君たちは僕たちを知らないんだものね。僕は他のメンバーと違って優しいから、特別に教えてあげよっか? ただし、僕に逆らえたらね」
パサ、と目深に被ったフードを外し、赤銅色のローブに身を包んだ一人の男がゆっくりと顔を見せた。
そういうナリをした人がいるとは知っていたが、目の当たりにすることが今までなかった。その姿に初めて出会えたことに少なからず衝撃を受け、しばらく魅入ってしまった。
表現するなら『白』
いわゆる『アルビノ』と呼ばれる人種の人だ。
髪の毛も肌の色も、透きとおるくらいに白。しかし最も印象深いのは、その紅く輝く瞳。
しかも、目を見張るような美形がそこにいる。
圧倒的な芸術作品を見ているよな感覚に陥り、しがみついていたハルの服から手を離し、彼の側へと近寄ろうと足が動く。
妖しく光る瞳の効果か、自然と足が前へ前へと進み始めているのにも気づかない。
触ってみたいーーただその一心だった。宝石のような美しいその作品に、本当に生きているのか確かめたくて、手を伸ばして確認したくなってくる。
つい、と手を伸ばした先に、美しい彼がいて、その彼も私に向かって手を差し伸べてくれている。
あと数センチ、と思った時、何かが私の前に立ちはだかった。
ハッと気付いて身を引くと、私を守っているのは黒いヒョウとヘビだった。
私の危険を察知して、敢えて前に飛び出してきたのだろう。今回もまた彼らのおかげで助かった。
白い彼は、チッと顔に似合わない舌打ちをして、大きく後ろに飛びすさると、ニヤリとした不敵な笑みを浮かべる。
ゾクリと鳥肌がたつのは美しい顔に不釣り合いな殺気のせいなのか。はたまた先ほど魅入られた瞳のせいなのか。
「残念。僕の魔眼に魅入られない子なんていないのに、そいつらの邪魔が入っちゃったならしょうがないか。君ってドーンの出身なの?」
「え? いいえ、違うわ。この子たちは借りてるだけよ」
「ふぅん、なるほど。借りてるだけなら、彼らは本来の力の半分も出せないね。なぁんだ、痛ぶり甲斐がないのは残念。でも情報ありがと。交換に少しだけ僕たちのこと教えてあげるよ」
「サーラ」
呼び止められて振り返ると、そこにハルがいた。
お仕事中らしく、文官二、三人と移動中のようだった。
「あらハル、久しぶりね。なかなか時間が合わなくて。しっかりやってる? 皆さんに迷惑かけちゃダメだよ?」
「俺だって仕事はきちんとこなすさ。目が覚めたんだね。少し待って。片付けるからさ。一緒に散歩しよ」
文官に指示出しして、何事かの打ち合わせをして調整してる間、気になったことをミリィちゃんに尋ねた。
ハルが長時間睡眠のことを知っていたのが不思議だったから。
ミリィちゃんいわく、眠っている間に、彼には何度も訪問されていたらしい。
おお、すまんなぁ。みんなに心配されていたのか。これからはうかつに夢を見ないようにしないと……ってできるのか?
「ごめん、待たせたね。この先の庭でも行く?」
「構わないけど……お仕事ハンパにしないでね」
大丈夫、と太鼓判を押されたので、とりあえず散歩をすることにした。
ちょうど廊下の切れ目にかかり、庭が見えたので、ミリィちゃんには帰ってもらうか、と振り向いた時だった。
ゾクッと悪寒が背筋を抜け、辺りが薄暗くなった。急激な周りの変化にビビって、思わずハルにしがみつく。
「サーラ、俺に掴まって。体を低くして走れるように準備して」
何も考えられなかったので、ただ頷くとすぐに指示に従った。ミリィちゃんも助けないと、と探したら、彼女は既に戦闘準備を整えて、ハルと背中合わせで私を守る態勢に入っていた。
「ミ、ミリィちゃ……危な、よ」
震える声で彼女に話しかけると、平気だから逃げる準備をしろと逆に指示される。
そうしているうちに、暗闇の先からツーっと赤銅色のローブを纏った男が現れた。
「お前……誰なんだよっ。なぜ俺たちを狙うっ」
「フフフッ……そうだよね。僕たちは君たちを知っているけど、君たちは僕たちを知らないんだものね。僕は他のメンバーと違って優しいから、特別に教えてあげよっか? ただし、僕に逆らえたらね」
パサ、と目深に被ったフードを外し、赤銅色のローブに身を包んだ一人の男がゆっくりと顔を見せた。
そういうナリをした人がいるとは知っていたが、目の当たりにすることが今までなかった。その姿に初めて出会えたことに少なからず衝撃を受け、しばらく魅入ってしまった。
表現するなら『白』
いわゆる『アルビノ』と呼ばれる人種の人だ。
髪の毛も肌の色も、透きとおるくらいに白。しかし最も印象深いのは、その紅く輝く瞳。
しかも、目を見張るような美形がそこにいる。
圧倒的な芸術作品を見ているよな感覚に陥り、しがみついていたハルの服から手を離し、彼の側へと近寄ろうと足が動く。
妖しく光る瞳の効果か、自然と足が前へ前へと進み始めているのにも気づかない。
触ってみたいーーただその一心だった。宝石のような美しいその作品に、本当に生きているのか確かめたくて、手を伸ばして確認したくなってくる。
つい、と手を伸ばした先に、美しい彼がいて、その彼も私に向かって手を差し伸べてくれている。
あと数センチ、と思った時、何かが私の前に立ちはだかった。
ハッと気付いて身を引くと、私を守っているのは黒いヒョウとヘビだった。
私の危険を察知して、敢えて前に飛び出してきたのだろう。今回もまた彼らのおかげで助かった。
白い彼は、チッと顔に似合わない舌打ちをして、大きく後ろに飛びすさると、ニヤリとした不敵な笑みを浮かべる。
ゾクリと鳥肌がたつのは美しい顔に不釣り合いな殺気のせいなのか。はたまた先ほど魅入られた瞳のせいなのか。
「残念。僕の魔眼に魅入られない子なんていないのに、そいつらの邪魔が入っちゃったならしょうがないか。君ってドーンの出身なの?」
「え? いいえ、違うわ。この子たちは借りてるだけよ」
「ふぅん、なるほど。借りてるだけなら、彼らは本来の力の半分も出せないね。なぁんだ、痛ぶり甲斐がないのは残念。でも情報ありがと。交換に少しだけ僕たちのこと教えてあげるよ」
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