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王宮編
74の2.強過ぎ!
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くだらない、一人ノリツッコミが頭に浮かんでは消えていく。死に直面した恐怖から、逃れたい一心の現実逃避だ。
チリリン、チリリン、チリリリ……
何かの合図のような鈴の音が響き渡り、サソリの動きもピタリと止まる。
「あー、残念。時間になっちゃったみたい。僕もう行かなくちゃ。食事の時間に遅れるとケンってうるさいんだよねぇ、たまにはこっちの趣味を優先したっていいと思うんだけどさ」
「は? 何? バカにしてんの?」
「ん? バカになんかしてないよ? ただケンは予定が狂うのが嫌いらしいんだ。あれは何が楽しみで生きてるんだか。とにかく行かなきゃ」
おいおい、美人薄命、とかって自分に酔ってる途中で、いきなり『はいカットー! 撤収です』的に収められても、なんだかスッキリしないよ。
「ちょっとぉ、アンタほんっとうに自分のことしか考えてないんだね。マジビックリするわぁ」
「んー、サクッと殺せば時間内に終わってたかもしれないけど……ムダ話しして遊んじゃったからねぇ、ごめんね。次回は期待して」
「まあ、こっちは助かったけどね。次はもう少し対抗策とっておくわ。そう簡単に殺されなんかしないから」
シンに向かって強がりを吐き捨てるが、頭の芯が冷えきって、血の気が引いているのが自分でもわかるくらいだ。首の皮一枚で繋がったことに、ほんのすこしだけ安心して表情が緩む。
「今日はこちらも準備が手薄だったのは認めるわ。ただし、いつもあんたたち一族が優位に立てるとは思わないで。次は闘う相手もわかったことだし、返り討ちにしてあげるからっ」
「そっかぁ、強がってるサーラちゃんも可愛いよね。やっぱり僕、気に入っちゃったかも」
そう言いきったシンがスッと消えたと思ったら、急に私の目の前に現れた。
あまりに唐突だったので、ギクリと固まって動けなかった。至近距離で、おでこがくっつくくらいにまで迫ったシンの顔のあまりの美しさに、悪魔か死神が目の前に現れたのかと錯覚する。
殺されるーーそう思った。
反射的にギュッと目を瞑って、首が飛ぶ恐怖に身構える。
次の瞬間、唇にほんのりと温かいものを感じ、慌てて目を開けた。
……あ、れ?……キス? されて、る?
脳が今の状況を認識して理解した瞬間、飛び出すかと思うくらい目を剥いて、抗議のためにバタバタと暴れてみるがアッサリと抵抗を封じられてしまう。
「んんっ、ん、んんーーっ!」
声にならない声をあげ、目一杯の拒否の意思を示す。しかし後頭部をガッチリ抑えこまれ、一ミリたりとも逃げることができないでいる。
彼の方が一枚上だった。
くっそおっ! 油断した!
なんで自分を殺そうとするヤツにキスされなきゃいけないのよっ!
シンの腹に一発コブシをお見舞いしてやろうとフルスイングした時、すでに彼は最初にいた場所に戻っていた。
「おっとぉー、危ない、危ない。威勢がいいのは好きだけど、手が速いのはいただけないな。普通の貴族のお姫様なんかはこれでコロッと落ちてくれるんだけどなぁ。やっぱり違うね、ますます気に入ったよ」
殴りかかったコブシが思いっきり空振りしてバランスを崩し、危うく顔面強打しそうになる直前、グイッと肩を支えられて、体勢を元に戻す。
支えてくれたのはハルだった。しかし、キスされた事実を受け入れがたくて、支えてくれたハルごと二人でしゃがみこんでしまった。彼も血の引いた青白い顔をしていたが、抗議のために必死にシンの方を睨み返し、闘う気力はまだ残っていることをアピールする。
「そんなに剥き出しの敵意を見せなくても平気だよ。僕はもう行くし。君はもう少し鍛えた方がいいかも。いたぶり甲斐がないし、頑張って奪ったっていう快感が欲しいもの。だから次まで頑張ってね」
サラリと世間話しでもして去っていくかのような、シンのその態度に、誰も言い返すこともできずに黙り込むしかない。
彼とサソリの気配が消え、周りが普段の明るさとざわめきをとり戻してきたあとも、私たち三人はうなだれて立ち上がることすらできなかった。
チリリン、チリリン、チリリリ……
何かの合図のような鈴の音が響き渡り、サソリの動きもピタリと止まる。
「あー、残念。時間になっちゃったみたい。僕もう行かなくちゃ。食事の時間に遅れるとケンってうるさいんだよねぇ、たまにはこっちの趣味を優先したっていいと思うんだけどさ」
「は? 何? バカにしてんの?」
「ん? バカになんかしてないよ? ただケンは予定が狂うのが嫌いらしいんだ。あれは何が楽しみで生きてるんだか。とにかく行かなきゃ」
おいおい、美人薄命、とかって自分に酔ってる途中で、いきなり『はいカットー! 撤収です』的に収められても、なんだかスッキリしないよ。
「ちょっとぉ、アンタほんっとうに自分のことしか考えてないんだね。マジビックリするわぁ」
「んー、サクッと殺せば時間内に終わってたかもしれないけど……ムダ話しして遊んじゃったからねぇ、ごめんね。次回は期待して」
「まあ、こっちは助かったけどね。次はもう少し対抗策とっておくわ。そう簡単に殺されなんかしないから」
シンに向かって強がりを吐き捨てるが、頭の芯が冷えきって、血の気が引いているのが自分でもわかるくらいだ。首の皮一枚で繋がったことに、ほんのすこしだけ安心して表情が緩む。
「今日はこちらも準備が手薄だったのは認めるわ。ただし、いつもあんたたち一族が優位に立てるとは思わないで。次は闘う相手もわかったことだし、返り討ちにしてあげるからっ」
「そっかぁ、強がってるサーラちゃんも可愛いよね。やっぱり僕、気に入っちゃったかも」
そう言いきったシンがスッと消えたと思ったら、急に私の目の前に現れた。
あまりに唐突だったので、ギクリと固まって動けなかった。至近距離で、おでこがくっつくくらいにまで迫ったシンの顔のあまりの美しさに、悪魔か死神が目の前に現れたのかと錯覚する。
殺されるーーそう思った。
反射的にギュッと目を瞑って、首が飛ぶ恐怖に身構える。
次の瞬間、唇にほんのりと温かいものを感じ、慌てて目を開けた。
……あ、れ?……キス? されて、る?
脳が今の状況を認識して理解した瞬間、飛び出すかと思うくらい目を剥いて、抗議のためにバタバタと暴れてみるがアッサリと抵抗を封じられてしまう。
「んんっ、ん、んんーーっ!」
声にならない声をあげ、目一杯の拒否の意思を示す。しかし後頭部をガッチリ抑えこまれ、一ミリたりとも逃げることができないでいる。
彼の方が一枚上だった。
くっそおっ! 油断した!
なんで自分を殺そうとするヤツにキスされなきゃいけないのよっ!
シンの腹に一発コブシをお見舞いしてやろうとフルスイングした時、すでに彼は最初にいた場所に戻っていた。
「おっとぉー、危ない、危ない。威勢がいいのは好きだけど、手が速いのはいただけないな。普通の貴族のお姫様なんかはこれでコロッと落ちてくれるんだけどなぁ。やっぱり違うね、ますます気に入ったよ」
殴りかかったコブシが思いっきり空振りしてバランスを崩し、危うく顔面強打しそうになる直前、グイッと肩を支えられて、体勢を元に戻す。
支えてくれたのはハルだった。しかし、キスされた事実を受け入れがたくて、支えてくれたハルごと二人でしゃがみこんでしまった。彼も血の引いた青白い顔をしていたが、抗議のために必死にシンの方を睨み返し、闘う気力はまだ残っていることをアピールする。
「そんなに剥き出しの敵意を見せなくても平気だよ。僕はもう行くし。君はもう少し鍛えた方がいいかも。いたぶり甲斐がないし、頑張って奪ったっていう快感が欲しいもの。だから次まで頑張ってね」
サラリと世間話しでもして去っていくかのような、シンのその態度に、誰も言い返すこともできずに黙り込むしかない。
彼とサソリの気配が消え、周りが普段の明るさとざわめきをとり戻してきたあとも、私たち三人はうなだれて立ち上がることすらできなかった。
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