153 / 249
王宮編
77の2.チェーンジッ!
しおりを挟む
最初は休憩までの短時間、約三十分くらいかなと思える時間から始めてみた。
魔術練習と言ってしまった手前、ハルには一応会いに行くつもりけどさ、一番最後でいいよね。だって、あれだけ傷つけといて、今さらどんな顔して会えばいいんだろう……
気不味い雰囲気になるのは予測されている。今は考えず、の先送りを決め込もう。
まずは潜入の練習だわ。違和感なく溶け込めるように、少しずつ周りに馴染んでいって、侍女さんたちからも情報収集できるように抜かりなく頑張らなくっちゃ!
※ ※ ※ ※ ※ ※
「こんにちは、今日はもう上がりなの?」
背後から声をかけられ、振り向いてみると最近仲良くなった二人の侍女さんがいた。
彼女たちは、元々サモナール男爵令嬢の部屋で働いていた人たちだ。令嬢が亡くなってからはエラン伯爵令嬢の部屋やハルの部屋など、人手が足りない部屋にヘルプで付いている状態らしい。いずれは専属の部屋を割り振られるだろうが、今は新人と同じく、持ちまわりで各部屋を回っているのだそうだ。
私も新人侍女ということにして、いろいろな部屋にヘルプに行っている、という設定にしている。
ヘルプの人間だとわかればガードもゆるく、気さくに情報を流してくれるだろうからね。専属侍女の場合、貴族の派閥やら何やらでウカツなことは喋られない決まりになっているんだって。なるほど、あげ足を取られないように、侍女連中まで警戒の根回しをしてるワケだね。
「お疲れさま。私は一旦休憩なの。あなたたちは? 今日はどこのお部屋だったの?」
「私らも休憩。えっと、私はエラン伯爵令嬢で彼女はユーグレイ公のところだったわ。次はどこかしらね。あなたは?」
何気なく聞いたところに『ユーグレイ公』というキーワードを聞いて、ドキッと心臓が跳ねる。動揺を顔に出さないように笑顔を張り付けて、会話を進めた。
「私はリンスター子爵令嬢のお部屋よ。最近多いの。ところでユーグレイ公のお部屋ってどんな感じなの?」
自分の部屋だけど、そこに通ってるって話しにしとけば、仮に探りを入れられてもある程度は躱せるからさ。ついでにラッセルが侍女さんたちにどんな対応してるのか知りたくなって、軽く探りを入れてみた。気になっちゃうのは……しょうがないよね?
「あら、あなたも興味あるのね? でもねぇ、どんな感じも何も……」
なんだか浮かない表情をしている侍女さんに、どうしたことかと尋ねてみた。
それによると、彼の部屋はまるで生活感がないのだそうだ。というか、彼自身に会うことが滅多になりらしい。書類や資料は山ほど積んであるが、人の動きがないため、チリボコリひとつみかけないという。ほぼほぼ仕事がないことから、その侍女さんいわく『お世話のし甲斐がない』方なのだそうだ。
まあそうなるよね。あの人の生活拠点は別の場所にあるし、ラッセルの性格からして、自分のパーソナルスペースに人を入れたくないんだろな、と想像もついたりして、ちょっと笑ってしまった。
エラン伯爵令嬢の方は相変わらずで、ご令嬢とのお茶会や噂話しに余念がないそうだ。最近は結婚相手の対象をハルからラッセルにまで手を拡げたらしく、お友達や侍女たちから情報を集めまくっているらしい。
あのお嬢様も逞しいわね。そのくらいのバイタリティがないと貴族社会は渡っていけないのかしらね。
「ところで」
一旦言葉を切ってから、三人で屈むようにして周りに気づかれないように小声で話しを続けた。
「サモナールのお嬢様の件、何か進展はあった?」
「えっとね、前にどっかの魔術師集団の一人と一緒にお亡くなりになった話しはしたよね?」
そう言った侍女さんは、もう一人と目配せすると、お互いに何かを決心したような目つきになり、私に顔を向ける。
そんな決死の表情を見た私は、コクコク頷きながら次の言葉を待った。
「ウチのお嬢様、実は亡くなる少し前に、エラン伯爵のお部屋であの魔術師に初めて会ったらしいの。で、お互いが一目惚れだったらしく、結婚のお約束までしちゃってたらしいのよ」
「ええっ!」
魔術練習と言ってしまった手前、ハルには一応会いに行くつもりけどさ、一番最後でいいよね。だって、あれだけ傷つけといて、今さらどんな顔して会えばいいんだろう……
気不味い雰囲気になるのは予測されている。今は考えず、の先送りを決め込もう。
まずは潜入の練習だわ。違和感なく溶け込めるように、少しずつ周りに馴染んでいって、侍女さんたちからも情報収集できるように抜かりなく頑張らなくっちゃ!
※ ※ ※ ※ ※ ※
「こんにちは、今日はもう上がりなの?」
背後から声をかけられ、振り向いてみると最近仲良くなった二人の侍女さんがいた。
彼女たちは、元々サモナール男爵令嬢の部屋で働いていた人たちだ。令嬢が亡くなってからはエラン伯爵令嬢の部屋やハルの部屋など、人手が足りない部屋にヘルプで付いている状態らしい。いずれは専属の部屋を割り振られるだろうが、今は新人と同じく、持ちまわりで各部屋を回っているのだそうだ。
私も新人侍女ということにして、いろいろな部屋にヘルプに行っている、という設定にしている。
ヘルプの人間だとわかればガードもゆるく、気さくに情報を流してくれるだろうからね。専属侍女の場合、貴族の派閥やら何やらでウカツなことは喋られない決まりになっているんだって。なるほど、あげ足を取られないように、侍女連中まで警戒の根回しをしてるワケだね。
「お疲れさま。私は一旦休憩なの。あなたたちは? 今日はどこのお部屋だったの?」
「私らも休憩。えっと、私はエラン伯爵令嬢で彼女はユーグレイ公のところだったわ。次はどこかしらね。あなたは?」
何気なく聞いたところに『ユーグレイ公』というキーワードを聞いて、ドキッと心臓が跳ねる。動揺を顔に出さないように笑顔を張り付けて、会話を進めた。
「私はリンスター子爵令嬢のお部屋よ。最近多いの。ところでユーグレイ公のお部屋ってどんな感じなの?」
自分の部屋だけど、そこに通ってるって話しにしとけば、仮に探りを入れられてもある程度は躱せるからさ。ついでにラッセルが侍女さんたちにどんな対応してるのか知りたくなって、軽く探りを入れてみた。気になっちゃうのは……しょうがないよね?
「あら、あなたも興味あるのね? でもねぇ、どんな感じも何も……」
なんだか浮かない表情をしている侍女さんに、どうしたことかと尋ねてみた。
それによると、彼の部屋はまるで生活感がないのだそうだ。というか、彼自身に会うことが滅多になりらしい。書類や資料は山ほど積んであるが、人の動きがないため、チリボコリひとつみかけないという。ほぼほぼ仕事がないことから、その侍女さんいわく『お世話のし甲斐がない』方なのだそうだ。
まあそうなるよね。あの人の生活拠点は別の場所にあるし、ラッセルの性格からして、自分のパーソナルスペースに人を入れたくないんだろな、と想像もついたりして、ちょっと笑ってしまった。
エラン伯爵令嬢の方は相変わらずで、ご令嬢とのお茶会や噂話しに余念がないそうだ。最近は結婚相手の対象をハルからラッセルにまで手を拡げたらしく、お友達や侍女たちから情報を集めまくっているらしい。
あのお嬢様も逞しいわね。そのくらいのバイタリティがないと貴族社会は渡っていけないのかしらね。
「ところで」
一旦言葉を切ってから、三人で屈むようにして周りに気づかれないように小声で話しを続けた。
「サモナールのお嬢様の件、何か進展はあった?」
「えっとね、前にどっかの魔術師集団の一人と一緒にお亡くなりになった話しはしたよね?」
そう言った侍女さんは、もう一人と目配せすると、お互いに何かを決心したような目つきになり、私に顔を向ける。
そんな決死の表情を見た私は、コクコク頷きながら次の言葉を待った。
「ウチのお嬢様、実は亡くなる少し前に、エラン伯爵のお部屋であの魔術師に初めて会ったらしいの。で、お互いが一目惚れだったらしく、結婚のお約束までしちゃってたらしいのよ」
「ええっ!」
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる