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王宮編
78の1.マジかっ!
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ビックリして思わず大きな声を出してしまった。
慌てて、周りをキョロキョロと見回して、もう一度声をひそめて話し始めた。
「結婚ねぇ……」
マジか……
サモナール男爵令嬢って、エランのお嬢様のお茶会で見かけた、あの清楚な感じの人だよね。彼女以外にサモナール男爵令嬢なんていないはず。彼女のどこにそんな行動力があったのかしら。
お貴族様のお嬢様だし、普通は貴族の御曹司とかと結婚するのが一般だろう。それが、魔術師と。しかも異国の、悪人とわかっている人と一緒になろうってところまで考えてるなんて。
昔から『お嬢様』という役どころは、ちょいワルにホダされるっていうシチュエーションに憧れるのが物語のお約束展開なんだよねぇ。
まあ、純真なお嬢様に関わったことで、魔術師も考え方を改める、そんないいキッカケにはなったでしょうね。それが死に繋がってしまったのは残念としか思えないのだが。
思わずふうっとため息をつく。
それにしても……エラン伯爵の部屋にあの魔術師が居たというのなら、私を殺そうとしているのは伯爵か、もしくはお嬢様っていう線が濃厚になってきた。
でも何故? 私とエラン伯爵って接点がなさすぎだし。一度ラッセルに相談してみようか、ただし時間が合えばの話しだけど。あまり会えないようならば、自分で探るしかないかもね。
「でも、サモナールのお嬢様ってなんで殺されちゃった……あ、ごめんね。あなた達にはまだ気分悪い話しかなぁ」
「ううん、平気。これは私たちの考えなんだけど、いい?」
そう言って、二人はお互いに手をギュッと握り合って、更に声を低くして話し始めた。
「異変があったのは、エラン伯爵令嬢のお茶会からすぐに帰ってきた日だと思うのよ。あの日までは、人生でこんな素晴らしい毎日はないって、そりゃあもう、みんなが釣られて笑顔になるくらい明るかったの」
「あの日は例の魔術師と一緒に部屋へ戻ってきたのよね、真っ青な顔をして。泣きながら、終わった、とか後が無いとか言ってたわ」
「私、気になって、お二人が寝室で話している内容をこっそり聞いちゃったの」
なんと! この子たちも大胆やな!
主人の話しを盗み聞きなんて。まあ、その時の状況から考えると、私でも心配で話しを聞こうとするかも。
立ち聞きの内容は、侍女さん二人が代わる代わる、ドラマチックに語ってくれるようだ。役柄もキッチリと男女分けしたらしい。扉越しだから、どう考えてもこの二人の想像部分もあると思うのだが、雰囲気も交えるとこんな感じだった。
『私、あなたにもう殺人は止めてってお願いしてたわよね』
『ああ。しかし、族長には報告しない訳にはいかない。だから襲うだけ襲った』
『リンスターのお嬢様は仮死状態にする話しだったじゃない。さっきのお茶会で彼女を見かけて、心臓が凍りそうだったわ』
そこで一人が自分の肩を抱いて、ブルッと身を震わせると、隣の侍女さんがその両肩にそっと手を添えて優しく撫でてあげている。
おいおい、見たわけじゃないだろうに……
つい口に出してツッコミを入れそうになったが、ここはグッと堪えて次に進めよう。
『でも、あの方はそうなることを知ってたみたいなの。私がこの件を嫌がってるのを知って、あなたが令嬢を殺さないってわかってたみたいだったわ』
そう言うと、お嬢様役の侍女さんは魔術師役の侍女さんに背中を向けて、ヨヨと泣くようなポーズをとり、その後に魔術師役の侍女さんの両手をキュッと握りしめながら、次のセリフに入る。
『今日のお茶会であの方が、元々あなたが失敗したら、あなたの仲間があなたを処分しにくるって言ってたわ。どうしよう、捕まったら殺されてしまう』
『今のうちに逃げるしかない。貴女には迷惑をかけてしまうが、一緒に逃げてくれるか?』
『はい、嬉しいです。私、あなたがいるだけで幸せですから』
『しかし、ご家族とも会えない日々が続くかと思うと……』
『それでも構いません。覚悟の上です。私、決めましたわ』
これが決めゼリフだ、と言わんばかりに二人で身を寄せ合うと、お互いに見つめ合って無言のまま頷く。
その状態で、短いフリーズをすると二人同時に私の方に向かってお辞儀をした。
「お嬢様たちはこんな感じのやりとりをしていたんです」
あ……小芝居は終わったのね。
慌てて、周りをキョロキョロと見回して、もう一度声をひそめて話し始めた。
「結婚ねぇ……」
マジか……
サモナール男爵令嬢って、エランのお嬢様のお茶会で見かけた、あの清楚な感じの人だよね。彼女以外にサモナール男爵令嬢なんていないはず。彼女のどこにそんな行動力があったのかしら。
お貴族様のお嬢様だし、普通は貴族の御曹司とかと結婚するのが一般だろう。それが、魔術師と。しかも異国の、悪人とわかっている人と一緒になろうってところまで考えてるなんて。
昔から『お嬢様』という役どころは、ちょいワルにホダされるっていうシチュエーションに憧れるのが物語のお約束展開なんだよねぇ。
まあ、純真なお嬢様に関わったことで、魔術師も考え方を改める、そんないいキッカケにはなったでしょうね。それが死に繋がってしまったのは残念としか思えないのだが。
思わずふうっとため息をつく。
それにしても……エラン伯爵の部屋にあの魔術師が居たというのなら、私を殺そうとしているのは伯爵か、もしくはお嬢様っていう線が濃厚になってきた。
でも何故? 私とエラン伯爵って接点がなさすぎだし。一度ラッセルに相談してみようか、ただし時間が合えばの話しだけど。あまり会えないようならば、自分で探るしかないかもね。
「でも、サモナールのお嬢様ってなんで殺されちゃった……あ、ごめんね。あなた達にはまだ気分悪い話しかなぁ」
「ううん、平気。これは私たちの考えなんだけど、いい?」
そう言って、二人はお互いに手をギュッと握り合って、更に声を低くして話し始めた。
「異変があったのは、エラン伯爵令嬢のお茶会からすぐに帰ってきた日だと思うのよ。あの日までは、人生でこんな素晴らしい毎日はないって、そりゃあもう、みんなが釣られて笑顔になるくらい明るかったの」
「あの日は例の魔術師と一緒に部屋へ戻ってきたのよね、真っ青な顔をして。泣きながら、終わった、とか後が無いとか言ってたわ」
「私、気になって、お二人が寝室で話している内容をこっそり聞いちゃったの」
なんと! この子たちも大胆やな!
主人の話しを盗み聞きなんて。まあ、その時の状況から考えると、私でも心配で話しを聞こうとするかも。
立ち聞きの内容は、侍女さん二人が代わる代わる、ドラマチックに語ってくれるようだ。役柄もキッチリと男女分けしたらしい。扉越しだから、どう考えてもこの二人の想像部分もあると思うのだが、雰囲気も交えるとこんな感じだった。
『私、あなたにもう殺人は止めてってお願いしてたわよね』
『ああ。しかし、族長には報告しない訳にはいかない。だから襲うだけ襲った』
『リンスターのお嬢様は仮死状態にする話しだったじゃない。さっきのお茶会で彼女を見かけて、心臓が凍りそうだったわ』
そこで一人が自分の肩を抱いて、ブルッと身を震わせると、隣の侍女さんがその両肩にそっと手を添えて優しく撫でてあげている。
おいおい、見たわけじゃないだろうに……
つい口に出してツッコミを入れそうになったが、ここはグッと堪えて次に進めよう。
『でも、あの方はそうなることを知ってたみたいなの。私がこの件を嫌がってるのを知って、あなたが令嬢を殺さないってわかってたみたいだったわ』
そう言うと、お嬢様役の侍女さんは魔術師役の侍女さんに背中を向けて、ヨヨと泣くようなポーズをとり、その後に魔術師役の侍女さんの両手をキュッと握りしめながら、次のセリフに入る。
『今日のお茶会であの方が、元々あなたが失敗したら、あなたの仲間があなたを処分しにくるって言ってたわ。どうしよう、捕まったら殺されてしまう』
『今のうちに逃げるしかない。貴女には迷惑をかけてしまうが、一緒に逃げてくれるか?』
『はい、嬉しいです。私、あなたがいるだけで幸せですから』
『しかし、ご家族とも会えない日々が続くかと思うと……』
『それでも構いません。覚悟の上です。私、決めましたわ』
これが決めゼリフだ、と言わんばかりに二人で身を寄せ合うと、お互いに見つめ合って無言のまま頷く。
その状態で、短いフリーズをすると二人同時に私の方に向かってお辞儀をした。
「お嬢様たちはこんな感じのやりとりをしていたんです」
あ……小芝居は終わったのね。
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