異世界行って黒ネコに変身してしまった私の話。

しろっくま

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世界編

105の1.ヤツの方が上!

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 ーーコン、コンーー

 少しゆっくりめの、しかし確実な緊張をもたらす無機質な音に、ギクリと体を固くして三人同時に扉の方へと視線を動かす。

「晩餐の準備が整いました。お二方のご用意は……あっ、ちょっ……」

 ノックをした侍女の、動揺してるような声と共に、サッと扉が開く。
 侍女さんが慌てるのも納得。私たちが入室の許可を出す前に扉を開ける者がいたからだ。

「失礼。サーラちゃんには逃げられる前に捕獲しておこうと思ってね。僕自ら迎えに来たよ?   エスコートしてあげる。さぁ、おいで?」

 ニコニコしながら両手を広げ、私に話しかけるシン。私以外の二人を敢えて無視するかのように、ことさら機嫌のいい態度で歩み寄ってくる。

「ホント失礼だよ、アンタのその態度。アンタのエスコートなんかいらんがな。エスコートはハルに頼むし」

 後ずさりしてハルの腕を掴んでから、彼の体半分後ろに逃げて、シンに向かって悪態を吐く。

「そんなぁ。僕的には、将来の奥さんとラブラブな関係を周りのみんなに見せつけたかったのにぃ」

 ガッカリした態度と表情をする割に、声の響きには全く残念感を感じられない。
 飄々としたその態度に、カチンときて思わず叫ぶ。

「絶対、ぜーーったい、イ、ヤ!」

 あっかんべーしてハルの後ろに完全に隠れると、シンの方は、やれやれといった感で、わざとらしくため息をつく。
 と、ようやく私以外の二人に向かって声をかける気になったらしい。ラッセルに向かって声をかけるのを聞く。

「ああ、ちょうどよかった。君には別便で、控え室に呼びに行かせるつもりだったんだよ。ジークハルト王子、いや、ユーグレイ公とお呼びした方が?   あなたほどの方が名前を伏せてこちらエンリィにいらしてるとは」

 クククと小さく笑ってからその後、姿勢を正して丁寧にお辞儀をしながら話しかけてくる。

「ご一緒に晩餐を楽しみましょう、ユーグレイ公。あなたからの返答によっては、サーラをあなたにお戻ししてもよろしいかと」

 その言葉に反応してラッセルの片眉がピクリと跳ね上がる。それをみたシンも、左の唇の端をクイッと上げて満足そうな笑みを浮かべた。

 場所を移動し、妙な緊張感を孕んだ晩餐が始まった。

 カチャ、カタン、と食器が軽く触れ合う音のみが響き、会話らしい会話も、というか言葉ひとつ出ないまま、時間だけが緩慢に過ぎていく。

「エンリィ王、単刀直入に問おう。彼女がルシーンに戻れる条件とは一体何でしょう」

 無言で食べる豪華な料理のコースも大半を過ぎ、息苦しさもそろそろ限界かと思われた時、静寂の均衡を破ったのは、ラッセルからの質問だった。

「そう慌てなくても。サーラちゃん、食事はどうだい?   足りなければ……」
「足りてますよっ。いくら私でもフルコースで足りないなんてことないしっ」

 ラッセルからの質問を軽くなす様にして、シンは私に冗談まじりで話しを振ってきた。
 クククと小さく笑いながら、私たち三人を順番に見つめると、食事を全て下げるように指示を出し、最後に出されたお茶を口に運ぶ。

「さて、食事もひと通り終わったところで、まずは私の昔話でも聞いてもらおうか」
「昔話などどうでもよいでしょう。本来、沙羅は私共の国、ルシーンで生活していたのです。彼女もルシーンに戻りたいと言っている以上、連れて帰っても問題ないと心得ています。あとは邪魔立てしないでいただければ結構」

 ラッセルとしては、この茶番劇をさっさと終わらせて一刻も早くシンのテリトリーから抜け出したいと考えているのだろう。ハルの方をチラッと見ると、彼も同じ意見とばかりに、真剣な表情で首を縦に振っている。

「まあ慌てずに。内容は君たち三人にも関係することなんだけどな。特に君、ジークハルト、いや、エーデルと呼ぼうか?」
「なっ……」

 椅子をガタン、と倒して立ち上がったラッセルを、私とハルが驚いて見上げる。
 こんなに動揺するラッセルを見るのは初めてのことで、それはハルにも同じように衝撃を与えたようだった。
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