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世界編
105の2.ヤツの方が上!
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「義兄上…… いかがなされました? 何を慌てているのです?」
動揺をなるべく声に出さないように努力して、ハルがラッセルに問いかける。
「おや? 義弟君にも話してない? まさかとは思うが、サーラちゃんにも話していないとか?」
余裕たっぷりのシンに対し、明らかに動揺して顔から血の気が引いている様子のラッセル。
「意外だなぁエーデル、君のことだから、自分が心を許した者にはうちあけてると思っていたのに」
私の名前も出てきたので、彼が動揺している原因が余計に知りたくなって、興味深く見守ることにした。
ラッセルは、私とハルの視線を感じてなのか、一旦目を瞑り軽く息を吐き出してから再び目を開け、ゆっくりと口を開いた。
「エーデルというのは、私が母上からいただいた名前だ。私が生まれて少ししてから母上が眠りについたので、この名前を知っているのは、母上と当時の乳母など、ほんの一握りの人間だけだ」
思い切り眉をひそめ、不快な表情を浮かべながら、彼はシンをにらみ返す。
「その名は、私を育ててくれた人たちだけが口にできる名前だ。それを、なぜ貴様が口にするっ」
知らなかった……たしかに私とラッセルは、他の人たちからすれば、出会ってからそんなに日にちは経っていないとは思う。思ってはいたんだけどね。それでも、その限られた時間の中ではかなり親密なお付き合いをしてきたと思ってたんだけど。
これまでだって、お母さんの話しを全くしないわけではなかったのだ。それを考えると、今まで過ごした二人だけの時間の中で、せめて私にだけは話してくれても良さそうな気もするんだよね。
口には出せない、ほんの少しの不満が胸の中に小さな黒いシミを落とす。
いや、いかんな。そんな小さなことにこだわるなんて。もっと広い心を持たないと。
こんなことでラッセルを信じられなくなるなんてこと、あってはならない。彼は私を必死になって取り戻しにきてくれたのだ。
彼がシンとうまく交渉して、きっと一緒にルシーンへ戻れるはずなんだから。私が卑屈になってどうする。ここは彼に落ち着きを取り戻してもらうように、私が声をかけるべきだわ。
「ねえ、落ち着いて。たまたまシンが何処からか仕入れた情報に惑わされないで。あなたを動揺させて、正確な判断と交渉をさせないようにしてるだけだから」
「そうです、義兄上。まずは落ち着きましょう。そしてさっさとサーラを連れてここから出ましょう」
私の言葉を引き継いで、ハルもラッセルに声をかける。
「あ、ああ……そう、だな」
動揺が大きすぎて呆然としているラッセルが、私とハルの声でハッと現実に戻ってくる。
「ふふふ、何で僕が君の名前を知っていると思う? 知りたくないの?」
シンの声が意地悪気に部屋に響く。
それに反応してラッセルの視線がピクリとシンへと向けられる。
マズい。ヤツの巧みな話術にハマっていくのがわかっているのに、引き留める言葉が見つからない。
私がどうしよう、と迷っているうちに、ヤツはどんどんと言葉の包囲網を狭めていっている。
「自分が知らないことを他人が知っているのって、何か悔しいと思わない? 僕だったら興味深く聞くけどなぁ」
「くっ……」
私が言い返せずにいるところへ、ヤツは更に追い討ちをかけてきた。
「カシアス君、君がなぜ昏睡になったのか。更にはなぜ四年も経ってから目覚めたのか、知りたくない?」
「な、んだと? 俺の事故や目覚めた理由まで知っているというのか? どうして……」
薄ら笑いを貼り付けながら話すシンに対して、こちらサイドの三人は呆然とヤツを見つめることしかできないでいる。
悔しいけれど、今の状態では向こうが立場が上だ、と痛感せざるを得ない。
「僕の話を聞いてくれれば、君たちの知りたいことが明らかになると思うんだけどなぁ」
私とハルは同時にラッセルを見、ラッセルはしぶしぶだがその指示に従うべく、居住まいを正した。
それを受けて私たち二人もしょうがなく話しを聞くことにした。
「そうだな、まずは一族の話から始めようか」
そう言ってシンは遠くを見るような目つきで話を始めた。
動揺をなるべく声に出さないように努力して、ハルがラッセルに問いかける。
「おや? 義弟君にも話してない? まさかとは思うが、サーラちゃんにも話していないとか?」
余裕たっぷりのシンに対し、明らかに動揺して顔から血の気が引いている様子のラッセル。
「意外だなぁエーデル、君のことだから、自分が心を許した者にはうちあけてると思っていたのに」
私の名前も出てきたので、彼が動揺している原因が余計に知りたくなって、興味深く見守ることにした。
ラッセルは、私とハルの視線を感じてなのか、一旦目を瞑り軽く息を吐き出してから再び目を開け、ゆっくりと口を開いた。
「エーデルというのは、私が母上からいただいた名前だ。私が生まれて少ししてから母上が眠りについたので、この名前を知っているのは、母上と当時の乳母など、ほんの一握りの人間だけだ」
思い切り眉をひそめ、不快な表情を浮かべながら、彼はシンをにらみ返す。
「その名は、私を育ててくれた人たちだけが口にできる名前だ。それを、なぜ貴様が口にするっ」
知らなかった……たしかに私とラッセルは、他の人たちからすれば、出会ってからそんなに日にちは経っていないとは思う。思ってはいたんだけどね。それでも、その限られた時間の中ではかなり親密なお付き合いをしてきたと思ってたんだけど。
これまでだって、お母さんの話しを全くしないわけではなかったのだ。それを考えると、今まで過ごした二人だけの時間の中で、せめて私にだけは話してくれても良さそうな気もするんだよね。
口には出せない、ほんの少しの不満が胸の中に小さな黒いシミを落とす。
いや、いかんな。そんな小さなことにこだわるなんて。もっと広い心を持たないと。
こんなことでラッセルを信じられなくなるなんてこと、あってはならない。彼は私を必死になって取り戻しにきてくれたのだ。
彼がシンとうまく交渉して、きっと一緒にルシーンへ戻れるはずなんだから。私が卑屈になってどうする。ここは彼に落ち着きを取り戻してもらうように、私が声をかけるべきだわ。
「ねえ、落ち着いて。たまたまシンが何処からか仕入れた情報に惑わされないで。あなたを動揺させて、正確な判断と交渉をさせないようにしてるだけだから」
「そうです、義兄上。まずは落ち着きましょう。そしてさっさとサーラを連れてここから出ましょう」
私の言葉を引き継いで、ハルもラッセルに声をかける。
「あ、ああ……そう、だな」
動揺が大きすぎて呆然としているラッセルが、私とハルの声でハッと現実に戻ってくる。
「ふふふ、何で僕が君の名前を知っていると思う? 知りたくないの?」
シンの声が意地悪気に部屋に響く。
それに反応してラッセルの視線がピクリとシンへと向けられる。
マズい。ヤツの巧みな話術にハマっていくのがわかっているのに、引き留める言葉が見つからない。
私がどうしよう、と迷っているうちに、ヤツはどんどんと言葉の包囲網を狭めていっている。
「自分が知らないことを他人が知っているのって、何か悔しいと思わない? 僕だったら興味深く聞くけどなぁ」
「くっ……」
私が言い返せずにいるところへ、ヤツは更に追い討ちをかけてきた。
「カシアス君、君がなぜ昏睡になったのか。更にはなぜ四年も経ってから目覚めたのか、知りたくない?」
「な、んだと? 俺の事故や目覚めた理由まで知っているというのか? どうして……」
薄ら笑いを貼り付けながら話すシンに対して、こちらサイドの三人は呆然とヤツを見つめることしかできないでいる。
悔しいけれど、今の状態では向こうが立場が上だ、と痛感せざるを得ない。
「僕の話を聞いてくれれば、君たちの知りたいことが明らかになると思うんだけどなぁ」
私とハルは同時にラッセルを見、ラッセルはしぶしぶだがその指示に従うべく、居住まいを正した。
それを受けて私たち二人もしょうがなく話しを聞くことにした。
「そうだな、まずは一族の話から始めようか」
そう言ってシンは遠くを見るような目つきで話を始めた。
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