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世界編
116の1.どうする、私!
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「その、ために、は……」
彼の母はグラリと体を傾けて、ベッドの縁に両手をついた。
そのままガクンと頭を落とし、一瞬気を失ったかに思えた。が、再び体を起こして私をジッと見据えてきた。
荒い息を繰り返し、なおも苦しそうにしているのは、引継ぎの疲れが完全に抜けていないからなのだろう。
本当にショックだった。私の存在がラッセルを苦しめる……
話を聞いて呆然としている私に、具合が悪いであろう彼の母がそっと手を添えてきてくれた。その温かさを感じるのと同じくらいの速さで、私の心はどんどん冷えていった。
私だって生きているんだもの、自殺なんてしたくない。だけど、アイツは私が生きているのを見るたびに苦しむんだろう。
世界の管理者が異物の存在を無視して過ごせる訳がない。歴代のケンは世界の安定のために尽力したと聞く。だったらラッセルだってそれに倣うはず。逆らって私を残す方にこそ無理がある。
死にたくない……でも……アイツの負担を考えると……
よし、決めた。
「あのぉ、すみません。初対面の上に厚かましいお願いで申し訳ありませんが、あの人が私に気づく前に、ひと思いにお母様が私を殺してくれませんか?」
ラッセルの母は驚いたように目を見開くと、確認のため私の肩に軽く手をかけ、優しく抱きしめてくれた。
「ありがとう、沙羅さん。死んでくれるのね? あの子も喜ぶわ。あなたの命、きっと美味しいと思うから……」
彼女の声はずいぶんと弾んで、嬉しそうな響きをしていた。
その響きと言い回しに少しだけ引っかかるものを感じたが、死を目の前にした今の私には、あまり気にするようなことでもなかった。
ゆっくりと体を離し、お礼を言って頭を下げてくれた彼の母は、うつむいたまま最後の確認をとった。
「でも今でいいの?」
「はい、実は実感があまりないんです。だから今のうち、怖さを感じる前にサクッといっちゃってください」
ニコッと笑って、私の気持ちを伝えた。
笑ったのは恐怖を隠すため。というか、泣きたくなるのを誤魔化すためだ、と自分でもわかっていたのだが。
「そう……なら遠慮なく」
そう言って、彼女はニヤリと嗤い、いきなり首を絞めてきた。
「ひゅ……く、るし……絞めるよりひと思いに刺してく……」
「ダメだなぁ、君には絶望を纏いながら死んで欲しいもの。少しの間、拡散した悪意をかき集めて復活してみたが、まだまだ『絶望』が足りてない。君が未練を残しながら理不尽に殺される、その思いがあれば私は強くなる。その絶望感こそが、私の力の源となるのだからな、ハハハ」
明らかに女性ではあり得ない力で絞めてくる目の前の人物に、今更ながら違和感を感じ、抗議の声を絞り出す。
「アン、タ、誰」
「私? 私はエーデルの母、エリスですわぁ、アハハハ」
「ち、がうでしょ、誰」
「ハン? 誰だって? 私は誰でもないよ……強いて言うなら『シャドウ』とでも名乗ろうか?」
なんだって? いつの間に……
くぅっ……どこからすり替わったんだ……
彼女が目覚めた時から? いやそれはないと思う。だって真摯に話す様子は子を思う母の顔だった。
ならいつよ?
「いつ……から」
「ん? いつからかって? そうだな、この女が自分の話をし終わって君に縋ったあたりかな。話し終えてひと息ついた時、一瞬だけ隙ができたんだよ。しかし私も迂闊だった。力を回復するために女の意識下に沈んでいるうちに、『管理者の力』を委譲するとはね」
そう言って、彼の母の顔をした悪魔は苦いものを飲みこんだような表情をしてさらに愚痴をこぼす。
「急速に女から力の強い魔力が抜けていくのを感じて、慌てて表に出ようとしたが、この女の意志が邪魔してなかなか抜け出すことができなかった。やっと私の支配下に置いたと思ったら、力は別のヤツに持っていかれてた」
チッと舌打ちしてその苛立ちを、私を絞める力へと変えたので、ますます首が締め付けられる。
彼の母はグラリと体を傾けて、ベッドの縁に両手をついた。
そのままガクンと頭を落とし、一瞬気を失ったかに思えた。が、再び体を起こして私をジッと見据えてきた。
荒い息を繰り返し、なおも苦しそうにしているのは、引継ぎの疲れが完全に抜けていないからなのだろう。
本当にショックだった。私の存在がラッセルを苦しめる……
話を聞いて呆然としている私に、具合が悪いであろう彼の母がそっと手を添えてきてくれた。その温かさを感じるのと同じくらいの速さで、私の心はどんどん冷えていった。
私だって生きているんだもの、自殺なんてしたくない。だけど、アイツは私が生きているのを見るたびに苦しむんだろう。
世界の管理者が異物の存在を無視して過ごせる訳がない。歴代のケンは世界の安定のために尽力したと聞く。だったらラッセルだってそれに倣うはず。逆らって私を残す方にこそ無理がある。
死にたくない……でも……アイツの負担を考えると……
よし、決めた。
「あのぉ、すみません。初対面の上に厚かましいお願いで申し訳ありませんが、あの人が私に気づく前に、ひと思いにお母様が私を殺してくれませんか?」
ラッセルの母は驚いたように目を見開くと、確認のため私の肩に軽く手をかけ、優しく抱きしめてくれた。
「ありがとう、沙羅さん。死んでくれるのね? あの子も喜ぶわ。あなたの命、きっと美味しいと思うから……」
彼女の声はずいぶんと弾んで、嬉しそうな響きをしていた。
その響きと言い回しに少しだけ引っかかるものを感じたが、死を目の前にした今の私には、あまり気にするようなことでもなかった。
ゆっくりと体を離し、お礼を言って頭を下げてくれた彼の母は、うつむいたまま最後の確認をとった。
「でも今でいいの?」
「はい、実は実感があまりないんです。だから今のうち、怖さを感じる前にサクッといっちゃってください」
ニコッと笑って、私の気持ちを伝えた。
笑ったのは恐怖を隠すため。というか、泣きたくなるのを誤魔化すためだ、と自分でもわかっていたのだが。
「そう……なら遠慮なく」
そう言って、彼女はニヤリと嗤い、いきなり首を絞めてきた。
「ひゅ……く、るし……絞めるよりひと思いに刺してく……」
「ダメだなぁ、君には絶望を纏いながら死んで欲しいもの。少しの間、拡散した悪意をかき集めて復活してみたが、まだまだ『絶望』が足りてない。君が未練を残しながら理不尽に殺される、その思いがあれば私は強くなる。その絶望感こそが、私の力の源となるのだからな、ハハハ」
明らかに女性ではあり得ない力で絞めてくる目の前の人物に、今更ながら違和感を感じ、抗議の声を絞り出す。
「アン、タ、誰」
「私? 私はエーデルの母、エリスですわぁ、アハハハ」
「ち、がうでしょ、誰」
「ハン? 誰だって? 私は誰でもないよ……強いて言うなら『シャドウ』とでも名乗ろうか?」
なんだって? いつの間に……
くぅっ……どこからすり替わったんだ……
彼女が目覚めた時から? いやそれはないと思う。だって真摯に話す様子は子を思う母の顔だった。
ならいつよ?
「いつ……から」
「ん? いつからかって? そうだな、この女が自分の話をし終わって君に縋ったあたりかな。話し終えてひと息ついた時、一瞬だけ隙ができたんだよ。しかし私も迂闊だった。力を回復するために女の意識下に沈んでいるうちに、『管理者の力』を委譲するとはね」
そう言って、彼の母の顔をした悪魔は苦いものを飲みこんだような表情をしてさらに愚痴をこぼす。
「急速に女から力の強い魔力が抜けていくのを感じて、慌てて表に出ようとしたが、この女の意志が邪魔してなかなか抜け出すことができなかった。やっと私の支配下に置いたと思ったら、力は別のヤツに持っていかれてた」
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