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転移編
13の1.もっと早く教えなさいよ!
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「……おい、こんなくだらない状況で私を呼び出したのか?」
ん? 片目を開けると、イヤなヤツが不満そうな顔をして私を見下ろしている。
「なんでアンタがここにいるのさ。私は犬に噛み殺されて天国の階段登ってる途中なんだけど?」
「あいにく、天国でも日本という国でもないな。しっかりとルシーン国の首都ルシールの裏路地だ。それで? お前は私を頼る他ないと思いベルを鳴らしたのだな?」
私らの会話をうるさがったのか、ヨダレまみれの犬が一頭、頭目掛けてジャンプしてくる。黒づくめは、表情ひとつ動かさず、杖を持った左手をスッとそれに向けて動かした。
「ギャン!」と悲鳴のような声を出したまま、その犬が気を失う。周りの連中もジリジリと後退し、蜘蛛の子を散らすように、あっという間にいなくなってしまった。
「もう一度問う。私を呼び出したということは、頭を下げる決心がついたという意味だな?」
「は? 誰がアンタに頭下げるってのよ。私は情報収集してる途中なのっ。すぐに見つけてやるわよっ」
「いい啖呵だが、ベルを鳴らしたのはお前だ」
真顔で言われてグッと返事に詰まる。
確かに、ゾクゾクの後のポワンとした感覚に身を委ねた時、チリン、と小さな音が響いたのだ。
しかし、あれですぐヤツが登場するとは思ってもいなかったし。私もコイツを頼るなんて考え、まったくもって無かった。
「あ……れは、自然に鳴っちゃったのっ。ちょっと人生の走馬灯ってヤツが見えただけだもん。別にアンタに頼らなくたって見事に切り抜け……られなかったと思うので、お礼は言っておきます。ありがとうございました」
その言葉を聞いたヤツは、ちょっと意外そうな顔つきをして杖を持ち直した。
「ふむ、素直に感謝はできるのだな、その礼は受けておこう。ところで、情報収集と言っていたが、どのような計画だ?」
「何よ、アンタに関係ないじゃん、それとも私が心配になっちゃった?」
私が茶化すように尋ねると、眉根を寄せて、不機嫌を丸出しにして、こう言われた。
「こんなくだらないことで呼び出されたのだ。またろくでもない状況で私を呼び出しかねないのでな。お前の行動を知っておく必要がある」
カチンとくる言い方よね、全く、素直じゃないんだから。まあ心配だ、の一言が言えない捻くれモンのアンタに、このサーラちゃんの壮大な計画を披露してあげるわ。
コホンと軽く咳払いして、胸を反らしながら自信満々に言った。
「いいわ、教えてあげる。こういう裏路地には街のノラ猫ちゃん達が多く集まると思うのよ。だから、そのネコちゃん達から街の噂を聞きだせば、だいたい何処らへんにすごいチカラのある魔術師が存在しているかがわかると思ったの」
言い切った私は、この完璧な計画に満足して、目を瞑って陶酔した。
目を開けると、眉間に杖を当てて深くため息をついた姿がみえた。
「お前の頭の中はどういう構造をしている。ネコから情報収集とか、お前が魔法か、習ってもいない魔術を使って喋らせるのか? 人語を話すネコなど、お前以外にいるわけがない。ましてネコの噂などと……食い物以外に興味があるわけないであろう」
がーん。頭の中でそんな音が響いた気がした。
なんで誰も教えてくれなかったのよ……わかってるんなら早い段階で教えて欲しかったわよ、全く。
ショックを受けたまま固まっていると、小馬鹿にしたような顔で、私にひと振り杖を回した。
全身がポワンと光って、それが収まると、いつもの人間の姿になっていた。少し間を置いてさらにひと振り、今度は街中のどこにでもいるような服を着た、街娘の姿に変えられていた。
ん? 片目を開けると、イヤなヤツが不満そうな顔をして私を見下ろしている。
「なんでアンタがここにいるのさ。私は犬に噛み殺されて天国の階段登ってる途中なんだけど?」
「あいにく、天国でも日本という国でもないな。しっかりとルシーン国の首都ルシールの裏路地だ。それで? お前は私を頼る他ないと思いベルを鳴らしたのだな?」
私らの会話をうるさがったのか、ヨダレまみれの犬が一頭、頭目掛けてジャンプしてくる。黒づくめは、表情ひとつ動かさず、杖を持った左手をスッとそれに向けて動かした。
「ギャン!」と悲鳴のような声を出したまま、その犬が気を失う。周りの連中もジリジリと後退し、蜘蛛の子を散らすように、あっという間にいなくなってしまった。
「もう一度問う。私を呼び出したということは、頭を下げる決心がついたという意味だな?」
「は? 誰がアンタに頭下げるってのよ。私は情報収集してる途中なのっ。すぐに見つけてやるわよっ」
「いい啖呵だが、ベルを鳴らしたのはお前だ」
真顔で言われてグッと返事に詰まる。
確かに、ゾクゾクの後のポワンとした感覚に身を委ねた時、チリン、と小さな音が響いたのだ。
しかし、あれですぐヤツが登場するとは思ってもいなかったし。私もコイツを頼るなんて考え、まったくもって無かった。
「あ……れは、自然に鳴っちゃったのっ。ちょっと人生の走馬灯ってヤツが見えただけだもん。別にアンタに頼らなくたって見事に切り抜け……られなかったと思うので、お礼は言っておきます。ありがとうございました」
その言葉を聞いたヤツは、ちょっと意外そうな顔つきをして杖を持ち直した。
「ふむ、素直に感謝はできるのだな、その礼は受けておこう。ところで、情報収集と言っていたが、どのような計画だ?」
「何よ、アンタに関係ないじゃん、それとも私が心配になっちゃった?」
私が茶化すように尋ねると、眉根を寄せて、不機嫌を丸出しにして、こう言われた。
「こんなくだらないことで呼び出されたのだ。またろくでもない状況で私を呼び出しかねないのでな。お前の行動を知っておく必要がある」
カチンとくる言い方よね、全く、素直じゃないんだから。まあ心配だ、の一言が言えない捻くれモンのアンタに、このサーラちゃんの壮大な計画を披露してあげるわ。
コホンと軽く咳払いして、胸を反らしながら自信満々に言った。
「いいわ、教えてあげる。こういう裏路地には街のノラ猫ちゃん達が多く集まると思うのよ。だから、そのネコちゃん達から街の噂を聞きだせば、だいたい何処らへんにすごいチカラのある魔術師が存在しているかがわかると思ったの」
言い切った私は、この完璧な計画に満足して、目を瞑って陶酔した。
目を開けると、眉間に杖を当てて深くため息をついた姿がみえた。
「お前の頭の中はどういう構造をしている。ネコから情報収集とか、お前が魔法か、習ってもいない魔術を使って喋らせるのか? 人語を話すネコなど、お前以外にいるわけがない。ましてネコの噂などと……食い物以外に興味があるわけないであろう」
がーん。頭の中でそんな音が響いた気がした。
なんで誰も教えてくれなかったのよ……わかってるんなら早い段階で教えて欲しかったわよ、全く。
ショックを受けたまま固まっていると、小馬鹿にしたような顔で、私にひと振り杖を回した。
全身がポワンと光って、それが収まると、いつもの人間の姿になっていた。少し間を置いてさらにひと振り、今度は街中のどこにでもいるような服を着た、街娘の姿に変えられていた。
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※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
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