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電車に乗ると、車窓から青い空と白い雲が見えた。
車内は冷房がかかり、乗客はまばらだ。
人に、生まれながらの階級があるのは、俺達も動物だからなんだろうか。
お前はこうあれ、と押しつけられた性に、たぶん、俺達は抵抗している。
足掻いて、傷ついて、傷つけて。
―俺、頑張るから。だから、αの俺を信じること、やめないでくれ……。
「保……」
お前がX高校で強いられたことが、なんなのか、少しわかったよ。
αは強い。
俺達の階級の中で、ダントツのトップだ。
頭脳も運動神経もよく、地位も名声も、ありとあらゆるものを、掻っ払っていく。
βやΩは、睡眠や食事をなくして頑張ったとしても、αに追いつけるか、わからない。
そんなαが、唯一、手なずけられないこと。
それが、発情しているΩへの欲情。
αはΩを恐れている。
最下級のΩが怖いなんて、αとしての意識が高ければ高い奴ほど、口が裂けても言わねぇだろうな。
そのおかしなプライドの象徴が、X高校で行われている、Ω対策の特別授業。
授業内容は、Ωの発情期への耐性。
教材は、性行為をしても、法的な罪にとわれない、男のΩ。
だけど、法律上、裁かれないとしても、X高校のしてきたことが、公になれば、バッシングどころではすまない。
αの地位自体が危うくなるばかりか、虐げられてきたΩ達に、暴動を起こさせる火種を与えることになるかもしれない。
だから、関係者に口止めをした。
マンションの最寄り駅に着き、部屋まで走る。
白石を追い出した場所、俺達の部屋の前、そこには誰もいなかった。
鍵を開けて中へ入る。
ただいまと呟き、洗面所でうがいをし、手を洗って、顔に冷水をかけた。
タオルで水滴を吸い取る。
白石が、なんのアクションも、とらないわけがない。
謝罪してくるか、しなくても、会話を持ちかけてくるだろう。
俺には白石がどんな選択肢をぶつけてくるか、わからない。
言い争いになるかもしんねぇ。
それでも、腹割って話したい。
俺が、もう独りじゃないように、お前も、もう独りじゃないんだ。
「っし! やるか」
俺は洗濯機を回し、窓を開けて換気をし、マットレスに布団乾燥機をかけ、掃除機のスイッチを入れた。
お掃除、お掃除。綺麗にすっぞ。
洗濯が終わり、ベランダへ出る。
皺は伸ばして叩けば、アイロンいらない。
白石に教えられたことを反芻する。
が。
面倒くせぇ……。
ハッとして、首を横に振った。
いかん。いかん。白石が帰ってきたとき、安らげるような部屋にするんだ。
パンっと、ハンカチを伸ばすと、水気が顔にかかった。
斜光がやわらいでいく。
俺は乾燥が終ったマットレスに布団用の掃除機をかけ、汗をしこたまかいた。
あっついけど、気分は上々だ。
「これで、よし!」
片付いた部屋と暖かい布団、あとは食事!
うん。一番の難関。
料理って、どうすればいいんだった?
白石、レシピ本、持ってねぇかなぁ。
本棚を探り、俺達が中学生のときに、連載がスタートした漫画のコミックスを見つける。
おお! あいつ、集めてたんか! 俺、三十一巻で買うの諦めたっつうの。これなぁ、仲間が加わるときがすげぇ感動すんだよなぁ。
中学のとき、白石は他のコミックスを買い集めていて、よく二人で交換して読んでいた。
あいつにも話したけど、七巻目が超泣けるんだ。
お目当ての巻をとる。
これだけ、やけに、読み込まれてんな。
しかも、なんか挟まれてる?
胡座をかいで、ページを捲り、眉を上げた。
俺が一番好きなところ……。
挟んであったのは、中学の入学式で母親達に撮ってもらった、たぶん、二人で写った最後の写真。
漫画の中の登場人物が、泣きながら、主人公に本音を言う。
助けて……。
漫画のところどころに、液体が零れた跡があり、見たこともないのに、俺の脳はX高校の制服を着て、涙を流す白石を、鮮明に浮かび上がらせた。
庸輔。助けて。助けて……。
漫画を閉じ、元あった場所へと戻した。
「買い出し、いかなきゃ」
途中、本屋に寄ってレシピ本に目を通した。
俺でも作れそうなやつ。俺でも作れそうなやつ。
本を閉じ、口が、勝手にへの字になる。
ダメだ。よくわからん単語が並んどる。
火が通れば、なんとかなる! 焼き肉にしよう。そうしよう。
行きつけのスーパーで、肉と野菜と焼き肉のタレを買った。
帰宅し、米を炊いて、野菜の下準備にとりかかった。
大人が切ったように見えないが、胃に入れば同じだ。
指を怪我しなかっただけ、上出来だと思え。
サランラップをかけ、冷蔵庫に入れる。
午後五時半。
白石は、まだ帰ってこない。
明日の講義の予習でもすっか。
那須さんは、初歩的なことで、いいつってたな。
憲法改正が叫ばれてっから、法と法律の違いは身近なテーマかもしれない。
それでいくか。
六法と憲法の書籍をテーブルにのせる。
ルーズリーフに講義の進行を書き出しながら、白石を待った。
早く帰ってこい。
早く。
だけど、俺の願いとは裏腹に、いくら待っても、白石が帰ってくることはなかった……。
車内は冷房がかかり、乗客はまばらだ。
人に、生まれながらの階級があるのは、俺達も動物だからなんだろうか。
お前はこうあれ、と押しつけられた性に、たぶん、俺達は抵抗している。
足掻いて、傷ついて、傷つけて。
―俺、頑張るから。だから、αの俺を信じること、やめないでくれ……。
「保……」
お前がX高校で強いられたことが、なんなのか、少しわかったよ。
αは強い。
俺達の階級の中で、ダントツのトップだ。
頭脳も運動神経もよく、地位も名声も、ありとあらゆるものを、掻っ払っていく。
βやΩは、睡眠や食事をなくして頑張ったとしても、αに追いつけるか、わからない。
そんなαが、唯一、手なずけられないこと。
それが、発情しているΩへの欲情。
αはΩを恐れている。
最下級のΩが怖いなんて、αとしての意識が高ければ高い奴ほど、口が裂けても言わねぇだろうな。
そのおかしなプライドの象徴が、X高校で行われている、Ω対策の特別授業。
授業内容は、Ωの発情期への耐性。
教材は、性行為をしても、法的な罪にとわれない、男のΩ。
だけど、法律上、裁かれないとしても、X高校のしてきたことが、公になれば、バッシングどころではすまない。
αの地位自体が危うくなるばかりか、虐げられてきたΩ達に、暴動を起こさせる火種を与えることになるかもしれない。
だから、関係者に口止めをした。
マンションの最寄り駅に着き、部屋まで走る。
白石を追い出した場所、俺達の部屋の前、そこには誰もいなかった。
鍵を開けて中へ入る。
ただいまと呟き、洗面所でうがいをし、手を洗って、顔に冷水をかけた。
タオルで水滴を吸い取る。
白石が、なんのアクションも、とらないわけがない。
謝罪してくるか、しなくても、会話を持ちかけてくるだろう。
俺には白石がどんな選択肢をぶつけてくるか、わからない。
言い争いになるかもしんねぇ。
それでも、腹割って話したい。
俺が、もう独りじゃないように、お前も、もう独りじゃないんだ。
「っし! やるか」
俺は洗濯機を回し、窓を開けて換気をし、マットレスに布団乾燥機をかけ、掃除機のスイッチを入れた。
お掃除、お掃除。綺麗にすっぞ。
洗濯が終わり、ベランダへ出る。
皺は伸ばして叩けば、アイロンいらない。
白石に教えられたことを反芻する。
が。
面倒くせぇ……。
ハッとして、首を横に振った。
いかん。いかん。白石が帰ってきたとき、安らげるような部屋にするんだ。
パンっと、ハンカチを伸ばすと、水気が顔にかかった。
斜光がやわらいでいく。
俺は乾燥が終ったマットレスに布団用の掃除機をかけ、汗をしこたまかいた。
あっついけど、気分は上々だ。
「これで、よし!」
片付いた部屋と暖かい布団、あとは食事!
うん。一番の難関。
料理って、どうすればいいんだった?
白石、レシピ本、持ってねぇかなぁ。
本棚を探り、俺達が中学生のときに、連載がスタートした漫画のコミックスを見つける。
おお! あいつ、集めてたんか! 俺、三十一巻で買うの諦めたっつうの。これなぁ、仲間が加わるときがすげぇ感動すんだよなぁ。
中学のとき、白石は他のコミックスを買い集めていて、よく二人で交換して読んでいた。
あいつにも話したけど、七巻目が超泣けるんだ。
お目当ての巻をとる。
これだけ、やけに、読み込まれてんな。
しかも、なんか挟まれてる?
胡座をかいで、ページを捲り、眉を上げた。
俺が一番好きなところ……。
挟んであったのは、中学の入学式で母親達に撮ってもらった、たぶん、二人で写った最後の写真。
漫画の中の登場人物が、泣きながら、主人公に本音を言う。
助けて……。
漫画のところどころに、液体が零れた跡があり、見たこともないのに、俺の脳はX高校の制服を着て、涙を流す白石を、鮮明に浮かび上がらせた。
庸輔。助けて。助けて……。
漫画を閉じ、元あった場所へと戻した。
「買い出し、いかなきゃ」
途中、本屋に寄ってレシピ本に目を通した。
俺でも作れそうなやつ。俺でも作れそうなやつ。
本を閉じ、口が、勝手にへの字になる。
ダメだ。よくわからん単語が並んどる。
火が通れば、なんとかなる! 焼き肉にしよう。そうしよう。
行きつけのスーパーで、肉と野菜と焼き肉のタレを買った。
帰宅し、米を炊いて、野菜の下準備にとりかかった。
大人が切ったように見えないが、胃に入れば同じだ。
指を怪我しなかっただけ、上出来だと思え。
サランラップをかけ、冷蔵庫に入れる。
午後五時半。
白石は、まだ帰ってこない。
明日の講義の予習でもすっか。
那須さんは、初歩的なことで、いいつってたな。
憲法改正が叫ばれてっから、法と法律の違いは身近なテーマかもしれない。
それでいくか。
六法と憲法の書籍をテーブルにのせる。
ルーズリーフに講義の進行を書き出しながら、白石を待った。
早く帰ってこい。
早く。
だけど、俺の願いとは裏腹に、いくら待っても、白石が帰ってくることはなかった……。
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