孤塁の縁  第一章 ~出会い編~

上野たすく

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 光りの当たらない場所で、金属製の何かを外す音がする。
「ふうん、医療全般のデータは入れてやったけど、ここまで応用できたのか。上出来だ」
 青年の声は、誰かのそれによく似ていた。
 彼がこちらへ来て、その姿を目にしたとき、孤は彼の声が誰に似ているのか、わかった。
 黒髪と桃色の瞳を持つ青年は、印象は違えど、自分かと見まがう姿をしていた。
「エニシ?」
 軽装の青年は孤に名を呼ばれ、釣り目を細め、口角を上げた。
「この姿では、初めましてだな」
 青年が孤へと手を伸ばす。
 孤は縮み込み、ガクガクと震えた。
 相手が舌打ちをする。
「ひっ」
 孤はドアに身体を押しつけ、青年から一ミリでも距離をとろうとした。
 身を固くして、ギュッと瞼を閉じていたが、相手からのアクションが何もなく、そろりと確認した。細く狭い視界に、うろたえながらも、こちらへ働きかけをしようとする、青年が入る。パントマイムを観ているようだ。
 孤の視線を察知したのか、青年は動きをパタリとやめ、憮然とした表情で、床に片膝をついた。
「怖がるな。お前にその。……嫌なことはしないから!」
 子どものような主張に、孤は呆気に囚われた。
「まず、言っとくがな、お前が生まれたことに、俺は関わっていない。保身から、誰かに不幸を押しつける気は端っからない。母さんや父さんがやったことだ。知らされた後も、ドナーにさせるつもりはなかった。お前の人生に関わるつもりは……なかった」
 孤から臓器を移植されたのも、両親が勝手にしたことだ、とまでは言わなかった。
 ただ、苦虫を噛み潰したような表情で、孤を見つめる。
 彼は不意に、下を向き、緊張を解放するように息を吐いて、自嘲気味に笑った。
「て、都合の良い話だよな。お前から提供してもらっておいて」
 小声で言い、顔を上げる。
 真摯な眼差しだった。
「すまなかった。お前を理不尽に苦しめた。許してもらおうとは思っていない。俺を許さなくてもいいから、縁は信じてやってくれ。あいつはバカだが、お前を大切に想っている」
 縁も対象は異なるが、同じことを、孤に願った。
 エニシを信じて欲しい。
「縁は役割をまっとうしにいく、と言っていました」
 エニシが表情を曇らせる。
「役割とは何ですか? 縁は何をしようとしているんですか?」
「俺は何も命令していない。全ては、あいつの胸の内だ」
 エニシは立ち上がり、孤へと再度手を差し伸べ、ハッとして引っ込めた。
「悪い」
 彼は後悔しているようだった。
 縁との生活がなかったならば、エニシを恨み、自分の境遇を呪っていたかもしれない。
「縁を追いかけたいです」
 エニシと視線が交わる。
 孤は彼へと手を伸ばした。
「力を貸してもらえませんか?」
 エニシは目を湿らせたかと思うと、歯を見せて笑い、孤の手を引いた。
「追いかけて、連れ戻すぞ」
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