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「お前がフリーズしていたから、焦った。本当に平気なんだな?」
「もう大丈夫だから。ごめん」
「謝らせたいわけじゃない。お前が俺を信じてくれるなら、俺もお前を信じる。行こう」
熱球から数メートル離れたところに、キーボードつきの機械があった。エニシの目当てはそれではないらしく、孤を守るように背後から覆い被さりながら、熱球の反対側へと急いだ。足の裏が温かい。ここに長時間止まるのは危険だ。
エニシは黒い壁の前で歩みを止めた。しゃがまないといけない高さに、操作盤がある。
青年は上着を脱ぎ、孤に被せてきた。
「気が進まないだろうが、火傷を防ぐためだ」
言った本人は半裸でしゃがんだ。彼の体には、うっすらと、まだ新しい治療の痕があった。
操作盤は、触れてきたエニシの指を焼いた。
皮膚がめくれ、血が付着する。
肘から血が流れ落ちていくのに、エニシは気にとめようとしない。
孤は彼が被せてくれた服を握りしめた。彼の厚意を無下にしたくはなかった。
だけど、エニシを放ってはおけない。
孤は服を手に巻きつけ、膝を曲げた。
「俺が操作する。指示を出して」
エニシは驚いたようだったが、すぐに口元に笑みを浮かべた。
「俺は傷が治りきらない状態であれば、血をもらえれば、数秒で完治する。お前は違うだろ」
「痛いのは同じだ」
エニシは思い詰めるように眉根を寄せた。
「俺を人扱いするな」
絞り出された言葉に、孤は戸惑った。
エニシは人だ。
予備でも、機械でもない。
わからない。
特異体質を理由に、自分のことを、本当にバケモノだと思っているのか?
「て、ある悲劇の主人公のセリフだ。一度、使ってみたかった」
パッと、青年が笑う。
「危ないから立ってろ。服はありがたく、使わせてもらう。お前は腕で顔を隠せ」
孤は言われるままに立ち上がって、服をエニシに渡し、顔を熱球から守った。
エニシは手に服を巻き、作業を再開させた。
靴底が熱い。
背中は服を着ていても、ひりつく。
エニシがレバーを下げる。
黒色の壁の一部が下へと移動し、空間が現れた。
「こっちは熱の影響を受けない」
エニシが空間へ入る。
孤が横へ来ると、彼は服を着た。
エニシが空間の壁に触れると、灯りがついた。
中央に一機、小型ジェットがあった。
青年の服は所々に血液が染み込んでいた。
孤は出血が止まった唇に歯を当て、エニシの口に押しつけた。意表を突かれ、抵抗ができない相手の口腔へ、舌を入れる。嫌悪感から噛まれることも覚悟した。噛まれれば、血をたくさん供給できるという打算もあった。
エニシは予想に反して、孤を傷つけようとはしなかった。孤の意図を汲むように、血を取り入れた。
ほどなくして、背中を撫でられる。どちらからともなく、唇を離した。
エニシは肉が覗いていた手を孤に見せ、治ったことを示した。
「好きでもない奴に、こういうことするなと説教したいところだが、これから操縦桿を握らないといけない。正直、助かった」
孤は小さく頷いた。
エニシはハッチを開け、手を引いて孤をジェットの後部座席へと座らせ、自分は前方の操縦席に乗った。
「シートベルトをつけろ」
エニシはキャノピーを下ろし、ジェットを起動させた。操縦桿を握りしめたのだろう。ジェットが空間を滑り出し、通路へと入る。暗闇を、徐々にスピードを上げ、突き進んでいく。
前方に光りが見えてきたとき、「なあ」とエニシが話しかけてきた。
「羽咋を探しに行くって話、覚えているか?」
ドキリとした。
その話を、なぜ、エニシが口にする。
孤が話したのは、ナナシに寄りそってくれたロボットの縁だ。
「俺は約束を守れない。だから、縁に連れていってもらえ」
孤の中で、さまざまな出来事が繋ぎ合わさっていく。
「エニシなのか? ずっと、俺と話してくれていたのは」
「厳密には俺だけじゃない。一度、あのバカが会話を横取りしてきやがったからな」
「え?」
「カナラズ ボク ガ キミ ヲ タスケル」
エニシが、ちゃかすように声音を変える。
彼が、ぞんざいに呼ぶのは、浮島で孤と接していてくれた方の縁だ。
「飛ぶぞ。背もたれに背中をつけとけよ」
エニシに会い、彼が王族であることを知り、彼の痛みを聞いた。それだけでも、消化し切れていないのに、次から次へと新しい事実が降ってくる。
生きているからだ、と孤は思った。
あの火災現場で、命が事切れていたなら出会えなかった、自分が知らない過去のこと。
錆び付いていた機械の心臓が、強く脈を打つ。
エニシも、縁も、お互いがお互いに、孤といることを託し、自らは去ろうとしている。
悔しくて、悲しくて、切ない苛立ちに、奥歯を噛みしめた。
ジェットが浮島から空へと飛び立つ。
孤は自分を鼓舞した。
羽咋は必ず三人で探しに行く。
「もう大丈夫だから。ごめん」
「謝らせたいわけじゃない。お前が俺を信じてくれるなら、俺もお前を信じる。行こう」
熱球から数メートル離れたところに、キーボードつきの機械があった。エニシの目当てはそれではないらしく、孤を守るように背後から覆い被さりながら、熱球の反対側へと急いだ。足の裏が温かい。ここに長時間止まるのは危険だ。
エニシは黒い壁の前で歩みを止めた。しゃがまないといけない高さに、操作盤がある。
青年は上着を脱ぎ、孤に被せてきた。
「気が進まないだろうが、火傷を防ぐためだ」
言った本人は半裸でしゃがんだ。彼の体には、うっすらと、まだ新しい治療の痕があった。
操作盤は、触れてきたエニシの指を焼いた。
皮膚がめくれ、血が付着する。
肘から血が流れ落ちていくのに、エニシは気にとめようとしない。
孤は彼が被せてくれた服を握りしめた。彼の厚意を無下にしたくはなかった。
だけど、エニシを放ってはおけない。
孤は服を手に巻きつけ、膝を曲げた。
「俺が操作する。指示を出して」
エニシは驚いたようだったが、すぐに口元に笑みを浮かべた。
「俺は傷が治りきらない状態であれば、血をもらえれば、数秒で完治する。お前は違うだろ」
「痛いのは同じだ」
エニシは思い詰めるように眉根を寄せた。
「俺を人扱いするな」
絞り出された言葉に、孤は戸惑った。
エニシは人だ。
予備でも、機械でもない。
わからない。
特異体質を理由に、自分のことを、本当にバケモノだと思っているのか?
「て、ある悲劇の主人公のセリフだ。一度、使ってみたかった」
パッと、青年が笑う。
「危ないから立ってろ。服はありがたく、使わせてもらう。お前は腕で顔を隠せ」
孤は言われるままに立ち上がって、服をエニシに渡し、顔を熱球から守った。
エニシは手に服を巻き、作業を再開させた。
靴底が熱い。
背中は服を着ていても、ひりつく。
エニシがレバーを下げる。
黒色の壁の一部が下へと移動し、空間が現れた。
「こっちは熱の影響を受けない」
エニシが空間へ入る。
孤が横へ来ると、彼は服を着た。
エニシが空間の壁に触れると、灯りがついた。
中央に一機、小型ジェットがあった。
青年の服は所々に血液が染み込んでいた。
孤は出血が止まった唇に歯を当て、エニシの口に押しつけた。意表を突かれ、抵抗ができない相手の口腔へ、舌を入れる。嫌悪感から噛まれることも覚悟した。噛まれれば、血をたくさん供給できるという打算もあった。
エニシは予想に反して、孤を傷つけようとはしなかった。孤の意図を汲むように、血を取り入れた。
ほどなくして、背中を撫でられる。どちらからともなく、唇を離した。
エニシは肉が覗いていた手を孤に見せ、治ったことを示した。
「好きでもない奴に、こういうことするなと説教したいところだが、これから操縦桿を握らないといけない。正直、助かった」
孤は小さく頷いた。
エニシはハッチを開け、手を引いて孤をジェットの後部座席へと座らせ、自分は前方の操縦席に乗った。
「シートベルトをつけろ」
エニシはキャノピーを下ろし、ジェットを起動させた。操縦桿を握りしめたのだろう。ジェットが空間を滑り出し、通路へと入る。暗闇を、徐々にスピードを上げ、突き進んでいく。
前方に光りが見えてきたとき、「なあ」とエニシが話しかけてきた。
「羽咋を探しに行くって話、覚えているか?」
ドキリとした。
その話を、なぜ、エニシが口にする。
孤が話したのは、ナナシに寄りそってくれたロボットの縁だ。
「俺は約束を守れない。だから、縁に連れていってもらえ」
孤の中で、さまざまな出来事が繋ぎ合わさっていく。
「エニシなのか? ずっと、俺と話してくれていたのは」
「厳密には俺だけじゃない。一度、あのバカが会話を横取りしてきやがったからな」
「え?」
「カナラズ ボク ガ キミ ヲ タスケル」
エニシが、ちゃかすように声音を変える。
彼が、ぞんざいに呼ぶのは、浮島で孤と接していてくれた方の縁だ。
「飛ぶぞ。背もたれに背中をつけとけよ」
エニシに会い、彼が王族であることを知り、彼の痛みを聞いた。それだけでも、消化し切れていないのに、次から次へと新しい事実が降ってくる。
生きているからだ、と孤は思った。
あの火災現場で、命が事切れていたなら出会えなかった、自分が知らない過去のこと。
錆び付いていた機械の心臓が、強く脈を打つ。
エニシも、縁も、お互いがお互いに、孤といることを託し、自らは去ろうとしている。
悔しくて、悲しくて、切ない苛立ちに、奥歯を噛みしめた。
ジェットが浮島から空へと飛び立つ。
孤は自分を鼓舞した。
羽咋は必ず三人で探しに行く。
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