孤塁の縁  第一章 ~出会い編~

上野たすく

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 浮島はリヴォーグ国から数キロ離れた、森の真上にあった。
 ジェットは高速で雲を切っていく。
 ほどなくして城壁が見えてきた。
 同時に、孤は息を飲んだ。
 所々から火の気が上がっている。
 リヴォーグ国の城下街へ来ると、気管支が締めつけられるように痛んだ。
 町は壊滅状態だった。
「どうして?」
「ある集団がドナーの存在を悲観し、ドナー達を殺そうとしたんだ」
 足下から寒気が一気に広がった。
「だが、その集団の行いが、拘束されていた場所から、ドナーに逃げる機会を与えた。お前がかり出された火災が、それだ。生き残ったドナーは抗戦しているようだな」
 火災現場で意識が途切れる間際、桃色の光りを見た。
 あれは幻ではなく、縁の瞳だったのだろう。
 孤はエニシの話から、自分が知っている過去とつき合わせた。
 エニシは「抗戦しているようだ」と断定しなかった。彼はその後の情報を持たないのだ。浮島の生活を孤に教えてくれた縁と、縁の治療を受けていたエニシ、そして、火災で倒れ、浮島へと運ばれた孤。
 一つ成立している式は、孤だけでなく、エニシも重傷を負い、縁が二人を助けてくれたというもの。
 王族が何度も生死を彷徨う状態に陥るだろうか?
 孤は、エニシの言動の端々にちらつく死の香りを、濃く感じた。
 以前は特異体質を理由に、今は第一王子の殺害容疑で、彼は命を狙われているのではないか。それも、実の親から。
 やるせなかった。
 城の方へと進んでいたジェットが止まる。
 エニシがシートベルトを外すのを見て、孤も倣おうとし、「つけたままでいろ」と、こちらを振り返ったエニシに中断させられた。
「縁はこの下にいる。縁は俺が浮島へ帰らせる。約束する。自動操縦で浮島に戻れるようにした。安心して、部屋で待っていろ」
「待たない。俺はエニシと一緒に行く」
 孤は身を乗り出した。エニシは首を横に振った。
「幸運にも、俺を知っている軍隊長が来ている。身分を利用しない手はない。逆に、だ。お前といたら、どちらが本物の王子だって騒がれて、縁の救出どころじゃなくなるかもしれない」
「予備だって言えばいい」
「ダメだ」
 苦い顔をされた。
 孤はエニシの手を掴み、片手でシートベルトを外した。
「おい!」
 エニシは眉を吊り上げた。
「俺だって何かの役に立つかもしれない。軍隊長がいるなら、他にも人がいるんだろ? こっちだって、一人でも多い方がいい」
「俺一人で平気だ。だから、放せ。うだうだしている暇はないんだ」
 エニシは死をも覚悟のうえなのだろう。
 けど。
「三人がいい」
「?」
「縁も、エニシも、どちらかが欠けるなんて、俺は嫌だ」
「!」
 エニシは歯がみし、俯いた。
「お願いだ。エニシ」
 エニシは悩みに悩んでいる。
 孤は震える気持ちを隠し、微笑んだ。
「羽咋は幸せを運んでくれる。二人で縁を助けて、三人で探しに行こう。俺は、自分が幸せになりたいって言ったけど、今は、エニシにも、もっと幸せになって欲しいって思ってる」
 エニシは孤をじっと見つめ、
「……お前が幸せになれば、俺は満足だ」
 切なげに笑んだ。
 孤は俯き、唇を噛みしめた。
 エニシを生きることから遠ざけた過去を呪った。
 自分がエニシの生きる意味になることはない。
 だって、現に今、エニシは孤といることより、死を選ぼうとしている。
 わかっている。生きることより、死ぬことの方が救いになることもある。
 だから、これは単なるエゴだ。
 エニシを救いたいって、孤が勝手に思っている。
 望まれてもいないのに。
「俺はエニシが幸せじゃなきゃ、幸せになれない」
 エニシが僅かに動揺した。
 その揺らぎに、孤は光りを感じた。
「幸せに」
 言葉は人を縛り付ける。
 だとしても。
 孤は胸に灯った光りを、握りしめる決意をした。
「幸せにしてくれるんじゃなかったのかよ」
「だから、縁を。でも、それだけじゃダメなんだよな。ああ、くそっ」
 エニシが空を見上げ、息を吐き出す。
「わかった」
 彼は渋々、そう言った。
「ありがとう」
 孤はほっとして笑顔になった。
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