18 / 22
5-3
しおりを挟む
「なんだ、お前は! そいつはこの国の王子を殺した。連れて行くというのなら、お前も同罪だ」
一人の男が剣を振りかぶる。呼応するように、周囲の人間が剣を構えた。
エニシはその場から瞬時にどき、男たちは狐に化かされたように呆気に囚われた。
「おい」という声で、孤が瞼を上げると、ジルと呼ばれた男の背中が目の前にあった。
背後の兵士達が剣に手をかける音がする。
「やめろ! この方は」
「言わなくていい。それより、お前を裏で操っているお偉い相手に伝えろ」
エニシが声を低める。
「俺は王位継承権を放棄する。だから、二度と俺や俺の大切なものに関わるな、と」
「しかし、あなた自身がその未来を壊しています。そこにいるヒューマノイドがあなたを殺したとし、罰を受けることで、あなたの死は確定し、国民にも説明がついたはずでした。ですが、あなたがそのヒューマノイドを連れて行くなら、第二王子殺人事件は未解決となるだけでなく、王族として知られていないあなたは犯人にされるかもしれません」
ジルが小声で言葉をたたみかける。
エニシは動じなかった。
「俺達を重罪人にすることは、俺達に関わるものとみなす。実の息子を殺そうと画策する頭があるんだ。うまく処理できないとは言わせない」
孤はエニシの口にした真実に、胸を痛めた。
「ケイセイ様」
ジルが肩越しに振り返る。
「お前もだ、ジル。今度、殺しに来たときは、命がないと思え」
ジルが目を見開く。
若き軍隊長は孤に視線を向けてきた。
孤はジルの目が切なく揺れるのを見逃さなかった。
「わかりました、伝えます」
エニシがジルから離れる。
「どこへ?」
「俺はこの国を出る。お前らとは今日で永遠にお別れだ」
ジルが笑む。
「お気をつけて。ご武運を」
ジルの穏やかな声を聞いた途端、エニシは壊れかけた家の屋根へと移動した。
「お前がそれを言うのか。笑わせてくれる」
エニシは冷めていたが、孤はジルの気遣いに偽りはないと思った。彼には彼なりの理由があったのかもしれない。しかし、エニシを殺害しようとし、重傷を負わせたことは事実であり、そこについては許すことはできなかった。
エニシは背負った救命道具を操作し、宙へと浮いた。
直後、軽装の男が二人、路地から走り出てくると、孤達が今の今までいた家屋めがけて、何かを投げつけた。屋内から女性と少女の悲鳴が聞こえ、まもなく、火があがった。
「エニシ!」
「諦めろ。俺の腕は二本だ。何人も抱えきれるわけじゃない」
「じゃあ、俺を下ろして」
「冷静になれ。火災を起こしたのはドナーだ。この国の考え方が変わらない限り、同じことが繰り返される。彼女達だけを特別視しろって言うのか?」
「エニシだって、他の予備もいるのに、俺を助けてくれたじゃないか」
「いいかげん分かれよ! お前は特別なんだよ! お前には生きて幸せになって欲しいんだ! お前が言ったんだぞ。俺がいなきゃ幸せじゃないって。だから、俺は。なのに、自分は死をも厭わないけど、俺には生きろ? ふざけるな!!」
青年の怒号に、孤は息を詰めた。
「俺は王族の地位を捨てた。一般人なんだよ、俺は! 権力のない人間は、自分の周りの人だけ幸せにすればいい。国民全員を幸せにする義務なんてないし、たとえ、どれだけ思っても、できないんだよ!」
家が燃えていく。
早く助け出さなければ、建物が崩れる。
「でも、見ちゃったから。知らない人じゃない。あの人達は俺の周りの人だ」
微笑むと、相手は目を丸くした。
「縁をお願い」
縁の頭部をエニシの胸に託すと同時に、彼の体を強く押した。
一人の男が剣を振りかぶる。呼応するように、周囲の人間が剣を構えた。
エニシはその場から瞬時にどき、男たちは狐に化かされたように呆気に囚われた。
「おい」という声で、孤が瞼を上げると、ジルと呼ばれた男の背中が目の前にあった。
背後の兵士達が剣に手をかける音がする。
「やめろ! この方は」
「言わなくていい。それより、お前を裏で操っているお偉い相手に伝えろ」
エニシが声を低める。
「俺は王位継承権を放棄する。だから、二度と俺や俺の大切なものに関わるな、と」
「しかし、あなた自身がその未来を壊しています。そこにいるヒューマノイドがあなたを殺したとし、罰を受けることで、あなたの死は確定し、国民にも説明がついたはずでした。ですが、あなたがそのヒューマノイドを連れて行くなら、第二王子殺人事件は未解決となるだけでなく、王族として知られていないあなたは犯人にされるかもしれません」
ジルが小声で言葉をたたみかける。
エニシは動じなかった。
「俺達を重罪人にすることは、俺達に関わるものとみなす。実の息子を殺そうと画策する頭があるんだ。うまく処理できないとは言わせない」
孤はエニシの口にした真実に、胸を痛めた。
「ケイセイ様」
ジルが肩越しに振り返る。
「お前もだ、ジル。今度、殺しに来たときは、命がないと思え」
ジルが目を見開く。
若き軍隊長は孤に視線を向けてきた。
孤はジルの目が切なく揺れるのを見逃さなかった。
「わかりました、伝えます」
エニシがジルから離れる。
「どこへ?」
「俺はこの国を出る。お前らとは今日で永遠にお別れだ」
ジルが笑む。
「お気をつけて。ご武運を」
ジルの穏やかな声を聞いた途端、エニシは壊れかけた家の屋根へと移動した。
「お前がそれを言うのか。笑わせてくれる」
エニシは冷めていたが、孤はジルの気遣いに偽りはないと思った。彼には彼なりの理由があったのかもしれない。しかし、エニシを殺害しようとし、重傷を負わせたことは事実であり、そこについては許すことはできなかった。
エニシは背負った救命道具を操作し、宙へと浮いた。
直後、軽装の男が二人、路地から走り出てくると、孤達が今の今までいた家屋めがけて、何かを投げつけた。屋内から女性と少女の悲鳴が聞こえ、まもなく、火があがった。
「エニシ!」
「諦めろ。俺の腕は二本だ。何人も抱えきれるわけじゃない」
「じゃあ、俺を下ろして」
「冷静になれ。火災を起こしたのはドナーだ。この国の考え方が変わらない限り、同じことが繰り返される。彼女達だけを特別視しろって言うのか?」
「エニシだって、他の予備もいるのに、俺を助けてくれたじゃないか」
「いいかげん分かれよ! お前は特別なんだよ! お前には生きて幸せになって欲しいんだ! お前が言ったんだぞ。俺がいなきゃ幸せじゃないって。だから、俺は。なのに、自分は死をも厭わないけど、俺には生きろ? ふざけるな!!」
青年の怒号に、孤は息を詰めた。
「俺は王族の地位を捨てた。一般人なんだよ、俺は! 権力のない人間は、自分の周りの人だけ幸せにすればいい。国民全員を幸せにする義務なんてないし、たとえ、どれだけ思っても、できないんだよ!」
家が燃えていく。
早く助け出さなければ、建物が崩れる。
「でも、見ちゃったから。知らない人じゃない。あの人達は俺の周りの人だ」
微笑むと、相手は目を丸くした。
「縁をお願い」
縁の頭部をエニシの胸に託すと同時に、彼の体を強く押した。
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
カフェ・コン・レーチェ
こうらい ゆあ
BL
小さな喫茶店 音雫には、今日も静かなオルゴール調のの曲が流れている。
背が高すぎるせいか、いつも肩をすぼめている常連の彼が来てくれるのを、僕は密かに楽しみにしていた。
苦いブラックが苦手なのに、毎日変わらずブラックを頼む彼が気になる。
今日はいつもより温度を下げてみようかな?香りだけ甘いものは苦手かな?どうすれば、喜んでくれる?
「君の淹れる珈琲が一番美味しい」
苦手なくせに、いつも僕が淹れた珈琲を褒めてくれる彼。
照れ臭そうに顔を赤ながらも褒めてくれる彼ともっと仲良くなりたい。
そんな、ささやかな想いを込めて、今日も丁寧に豆を挽く。
甘く、切なく、でも愛しくてたまらない――
珈琲の香りに包まれた、静かで優しい記憶の物語。
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
手紙
ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。
そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない
結衣可
BL
戦の傷跡が癒えた共生都市ルーヴェン。
人族と獣人族が共に暮らすその街で、文官ユリス・アルヴィンは、穏やかな日々の中に、いつも自分を見守る“優しい視線”の存在を感じていた。
その正体は、狼族の戦士長出身の護衛騎士、ガルド・ルヴァーン。
無口で不器用だが、誠実で優しい彼は、いつしかユリスを守ることが日課になっていた。
モフモフ好きなユリスと、心配性すぎるガルド。
灰銀の狼と金灰の文官――
異種族の二人の関係がルーヴェンの風のようにやさしく、日々の中で少しずつ変わっていく。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる