孤塁の縁  第一章 ~出会い編~

上野たすく

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「住人は無事だ」
 囁かれる。
「エニシは? 怪我はない?」
 相手は驚いたようだった。
「ああ」
 孤は安堵した。
 よかった。
 彼女達が助かって。エニシが無事で。
「本当によかった……」
 孤はエニシの袖を、少しだけ掴んだ。
 エニシの抱擁が強くなった。
「ジェットを真上に呼んだ。タイミングをみて、跳躍する」
 声が近い。
 安心感とは異なる熱が体内に広がった。
 が、その熱の意味を考える余裕は、与えられなかった。
 ユウセイが体勢を整え、こちらに刀を突きつけたのだ。
「やめろ。王位はお前のものだ。ジルにも伝えてある。じきに、お前の両親にも伝わる」
「久しぶりに会って、開口一番がそれか。まず、俺に対して生存の報告を怠ったことを、謝れよ」
「それは嫌味か? それとも策略か? つうか、瀕死の状態で、どう報告しろって?」
 エニシは青年を揶揄した。
 相手は挑発に乗ってこなかった。
「RO2がいるだろう。瀕死であるなら尚更、俺が血で回復してやった」
 孤は確信する。ユウセイはエニシの死を望んでいない。
 エニシも違和感を覚えたのか、戸惑っていた。
「王位継承権の放棄など、認めない。継承したくないなら、それなりの道筋を経て、次期王の配下になり国に奉仕しろ。王族の役目を果たすなら、異例のことだが、特別に俺が手を回してやる」
 エニシはユウセイを鼻で笑った。
「権力を得るだけじゃ飽き足らず、兄を侍らせたいって? 強欲だな」
 途端、ユウセイが眉を吊り上げた。
「強欲なのは、どっちだ!」
「ああ? 俺の何が強欲だ?」
 エニシが訝る。
 ユウセイは歯を食いしばった。
 孤には、青年が言葉にするのを耐えているように見えた。
「お前とは時々、話が通じないとは思っていたが、今日は特段だ」
 ユウセイは苦しげな表情をした。
 孤はエニシの袖を二回、小さく引っ張り、
「理由はわからないけど、ユウセイ様は、エニシが必要なんだ」
 小声で助言した。
「だから、その……、やさしく」
 見上げると、エニシはユウセイに視線を向けたまま、げんなりしていた。
「ごめん。俺が出しゃばることじゃないな……。事情も知らないくせに、ごめん」
 エニシは孤の頭を軽く撫でると、盛大な溜息をついた。
「おい。孤に免じて、話しをしてやる。刀を仕舞え」
 ユウセイは刀身を下げた。
 鞘に戻す気は、ないらしい。
 エニシがまた溜息を漏らした。
「一つ、確認したい。お前はどういう思いから、俺に血を供給していた?」
 孤はエニシの真剣な眼差しを見た。
 特異体質者は定期的に血を補給しなければ、精神に異常をきたし、最悪の場合、命を失う。血は自分に近いほど良い。ユウセイは実の弟だ。申し分なかっただろう。
 孤は、ユウセイの首元に歯をたてるエニシを想像した。なぜか、胸が押しつぶされたように痛んだ。
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