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「兄さんが、俺に溺れれば良いと思った。俺なしじゃ生きられないようになれば、俺を裏切れない。感情を殺してでも、絶対に、味方でいるしかない」
「誰かからの影響でも、命令に従ったからでもないんだな」
「少なくとも、兄さんを見てからは」
エニシは緊張を解いたようだった。
「俺はお前を勝手なフィルターを通して見ていた。悪かったな」
「わかったなら、城へ帰ろう。不本意だが、予備とRO2も、連れてきて良い」
「城へは行けない。お前の意思とは関係なく、俺はあそこじゃ、邪魔者だ。排除される道しかないだろう」
「俺がかけ合う!」
身を乗り出したユウセイの名を、エニシは諫めるように呼んだ。
「俺は王族だと知る前から、この国が好きじゃなかった。見ろ。人も町も傷ついている」
エニシが周囲へと視線を巡らす。ユウセイは目で、その後を追った。
「特異体質者やドナー、ヒューマノイドが軽視された結果、争いが起こっている。俺は自分の大切な人達を、ここに住まわせたいとは思わない」
ユウセイはグッと歯を食いしばった。
「お前が言う通り、生きている限り、継承権を持ち続ける運命なら、俺が王位を継ごう。そして、すぐ、国民の想いを聞く。俺か、お前か、王となるのに相応しい方はどちらか」
ユウセイが目を見張った。
「国を出た俺が選ばれることがないよう、リヴォーグと向き合え」
「俺が王に選ばれたなら、兄さんには傍にいてもらう」
「……いや、お前、拘るとこは、そこじゃないだろ? もっと、こう、他にだな」
「うるさい! 兄さんだって、人のことを言えた義理じゃないだろう」
エニシはちらりと、孤を見た。
「俺は羽咋を探しにいく。そのための拠点くらいにはしてやる」
「羽咋……。伝説の幸せの鳥か。大きな目標だな」
相手は切なげに苦笑したが、バカにしたりはしなかった。
「帰る場所がここなら、それでいい」
青年は呟き、刀を鞘に収めた。
エニシは神妙な面持ちをしていた。
ユウセイが上を見上げる。
「どうせ、頑丈に作ってあるんだろうが、乗り込む時に射撃されると厄介なんじゃないか?」
孤がユウセイに倣うと、ジェットが空で待機しているのが見えた。
「ユウセイ」
エニシが穏やかな口調で名を呼ぶ。
ユウセイは驚き、それから、親しき人から捨てられるのを耐えるような、子どもの顔をした。
「俺の部屋にあるものを、お前に預ける。お前の意思、命、そして、リヴォーグのためであれば、好きに使って構わない。使用方法が知りたければ、ベッドの床下に隠してあるものを使え」
「エニシ……」
縁が躊躇ったように囁く。
「いいんだ」
エニシは短く応えると、孤が背負っているリュック型の機械を開け、小さな部品を取り出して懐へ入れた。
「縁のチップだ」
エニシは孤に、機械を脱ぐように頼んだ。
孤が機械を渡すと、エニシはそれをユウセイへと放った。
「音声操作が可能な万能品だ。ドナーの一部が火災を起こしている。一軒は住民の救助と消火も終えたが、別の家屋がやられるかもしれない」
「見回りを強化する」
エニシは頷くと膝を深く曲げ、上へと跳躍した。
ユウセイやリヴォーグの町が小さくなっていく。
ジェットに着くと、エニシは操縦席に座り、孤を膝の上にのせた。
キャノピーが下げられる。
ジェットは浮島へと高速で飛んだ。
三日後。
浮島はリヴォーグ国のある大陸から離れ、流れるように進んでいた。エニシは画面が壁一面を埋め尽くす部屋で、縁を一から作り始めた。縁の人工知能チップは鳥型のロボットを仮の宿とし、孤の肩に好んでとまった。
エニシは睡眠を座りながらとった。孤はそんな彼に、食事や温かい飲み物を運んだ。
誰も、孤に部屋へ入るな、とは言わなかった。
エニシが集中している間、孤は縁と浮島の生き物たちの世話をした。
縁が話すと、瞳が緑に光った。
エニシが休憩中に見せてくれた、眼下の映像は、どこまでも広がる海だった。
ここには、狭く暗く、冷たいコンクリート製の四角い牢獄も、鉄格子の窓もない。
羅針盤の先にあるのは、三人の意思だ。
「誰かからの影響でも、命令に従ったからでもないんだな」
「少なくとも、兄さんを見てからは」
エニシは緊張を解いたようだった。
「俺はお前を勝手なフィルターを通して見ていた。悪かったな」
「わかったなら、城へ帰ろう。不本意だが、予備とRO2も、連れてきて良い」
「城へは行けない。お前の意思とは関係なく、俺はあそこじゃ、邪魔者だ。排除される道しかないだろう」
「俺がかけ合う!」
身を乗り出したユウセイの名を、エニシは諫めるように呼んだ。
「俺は王族だと知る前から、この国が好きじゃなかった。見ろ。人も町も傷ついている」
エニシが周囲へと視線を巡らす。ユウセイは目で、その後を追った。
「特異体質者やドナー、ヒューマノイドが軽視された結果、争いが起こっている。俺は自分の大切な人達を、ここに住まわせたいとは思わない」
ユウセイはグッと歯を食いしばった。
「お前が言う通り、生きている限り、継承権を持ち続ける運命なら、俺が王位を継ごう。そして、すぐ、国民の想いを聞く。俺か、お前か、王となるのに相応しい方はどちらか」
ユウセイが目を見張った。
「国を出た俺が選ばれることがないよう、リヴォーグと向き合え」
「俺が王に選ばれたなら、兄さんには傍にいてもらう」
「……いや、お前、拘るとこは、そこじゃないだろ? もっと、こう、他にだな」
「うるさい! 兄さんだって、人のことを言えた義理じゃないだろう」
エニシはちらりと、孤を見た。
「俺は羽咋を探しにいく。そのための拠点くらいにはしてやる」
「羽咋……。伝説の幸せの鳥か。大きな目標だな」
相手は切なげに苦笑したが、バカにしたりはしなかった。
「帰る場所がここなら、それでいい」
青年は呟き、刀を鞘に収めた。
エニシは神妙な面持ちをしていた。
ユウセイが上を見上げる。
「どうせ、頑丈に作ってあるんだろうが、乗り込む時に射撃されると厄介なんじゃないか?」
孤がユウセイに倣うと、ジェットが空で待機しているのが見えた。
「ユウセイ」
エニシが穏やかな口調で名を呼ぶ。
ユウセイは驚き、それから、親しき人から捨てられるのを耐えるような、子どもの顔をした。
「俺の部屋にあるものを、お前に預ける。お前の意思、命、そして、リヴォーグのためであれば、好きに使って構わない。使用方法が知りたければ、ベッドの床下に隠してあるものを使え」
「エニシ……」
縁が躊躇ったように囁く。
「いいんだ」
エニシは短く応えると、孤が背負っているリュック型の機械を開け、小さな部品を取り出して懐へ入れた。
「縁のチップだ」
エニシは孤に、機械を脱ぐように頼んだ。
孤が機械を渡すと、エニシはそれをユウセイへと放った。
「音声操作が可能な万能品だ。ドナーの一部が火災を起こしている。一軒は住民の救助と消火も終えたが、別の家屋がやられるかもしれない」
「見回りを強化する」
エニシは頷くと膝を深く曲げ、上へと跳躍した。
ユウセイやリヴォーグの町が小さくなっていく。
ジェットに着くと、エニシは操縦席に座り、孤を膝の上にのせた。
キャノピーが下げられる。
ジェットは浮島へと高速で飛んだ。
三日後。
浮島はリヴォーグ国のある大陸から離れ、流れるように進んでいた。エニシは画面が壁一面を埋め尽くす部屋で、縁を一から作り始めた。縁の人工知能チップは鳥型のロボットを仮の宿とし、孤の肩に好んでとまった。
エニシは睡眠を座りながらとった。孤はそんな彼に、食事や温かい飲み物を運んだ。
誰も、孤に部屋へ入るな、とは言わなかった。
エニシが集中している間、孤は縁と浮島の生き物たちの世話をした。
縁が話すと、瞳が緑に光った。
エニシが休憩中に見せてくれた、眼下の映像は、どこまでも広がる海だった。
ここには、狭く暗く、冷たいコンクリート製の四角い牢獄も、鉄格子の窓もない。
羅針盤の先にあるのは、三人の意思だ。
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