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それは運命だったのかもしれない。
私の精神を弱らせるだけ弱らせ、その先の出来事を受け入れさせようとする罠。
きっかけは家族だった。
そして、それは時が狂うような早さで(いや、実際は私の頭の中での時間の経過が狂っていたのだが)、次々に進んでいった。
要約すれば、こんな感じだ。
父から結婚の催促をされ、彼女がいることを仄めかしてあやふやにしていたら祖母が癌になって、余命幾ばくだと医師から宣告され、しかし、仕事があると見舞いに行かなかったら、ついに父からの緊急の電話が会社にかかり、「帰ってこい」ときた。
だが、父達の側で起こっている現実とは違う現実が、私の側にも起きていた。
私はその時、休日返上で、人が眠る時間に栄養剤を飲み、上司から初めて任された大手化粧メーカーの広告を、作っていた。
これを成功させれば、会社の知名度は上がり、しいては顧客もつく。裏を返せば、失敗は解雇に繋がる。
今、職を失うわけにはいかない。医療保険、年金、家賃、生活費。金はいくらでもいる。
私は、いくら何でも無理だ、と電話越しに応えた。
とたん、義母のヒステリックな悲鳴が、父の押し殺した息の後ろで聞こえた。
父がこの女を娶ったのは、気の迷いだとしか考えられない。
母の方がずっと素敵だった。
親としても、女としても、人としても。
義母は、祖母の介護がどれだけ大変かと叫び散らした。
父が苦笑し、謝罪とともに電話は切られた。
私は結局、祖母の死に目に会えなかった。
「契約でもいいじゃないの。英ちゃんが頑張って選んだものなんだから」
祖母は頭の良い人だった。
白内障の手術をしてからは、テレビを捨ててしまったが、ラジオをいつも聞いていて、社会の動向に敏感だった。
そんな祖母が契約社員でもいいと、あのニスを塗ったようにピカピカの頬を緩ませたのは、当時は気づかなかったが、同情だったのかもしれない。
小中高を無難に過ごし、その反動からか、それとも魔がさしたのか、芸術大学の文芸科へ進学を決めたのは六年前。大学院へ進む準備をしつつも、親に「逃げだ」と非難され、盲目のまま就職活動を続けた結果、契約社員だが、弱小広告代理店の内定をもらった。
それからというもの、実家への帰り支度を社宅への移動へと変更し、蚊の鳴く程度の給料で生活をしている。
楽しい、楽しくないの世界は随分前に通り越してしまった。
祖母の葬式の日、私は最終の新幹線で故郷に戻り、祖母の死に顔に手を合わせて酔った親類の相手をし、よたよたとトイレに行こうとしたら、義母に手を引かれた。
五十二歳の父が第二の連れ添い人に選んだ三十一の女。
ちっとも変っていない。
血の繋がりはないにせよ、当時二十歳だった私を強姦した女は、三十路を越えても淫乱のままだ。
トイレの前の四畳の部屋に連れ込まれ、電気を灯さないで義母は鍵をかけた。
私は自分の上で腰を振っている義母を、直視したくないばかりに、暗闇に浮かぶ段ボールや家電品の数を数え、その大半に母との思い出がちらつき、今の自分とのギャップを突きつけられるはめになった。
終わると、彼女の顔が近付いてきた。
払いのけ、身なりを整える。
義母の平手打ちを食らった。
顔をしかめたそこに唇を押し付けられる。
義母の睫毛が萎れていた。
この女も抱え込んだ苦痛があるのかもしれない。
私は口を開き、義母に合わせて舌を使った。
私の精神を弱らせるだけ弱らせ、その先の出来事を受け入れさせようとする罠。
きっかけは家族だった。
そして、それは時が狂うような早さで(いや、実際は私の頭の中での時間の経過が狂っていたのだが)、次々に進んでいった。
要約すれば、こんな感じだ。
父から結婚の催促をされ、彼女がいることを仄めかしてあやふやにしていたら祖母が癌になって、余命幾ばくだと医師から宣告され、しかし、仕事があると見舞いに行かなかったら、ついに父からの緊急の電話が会社にかかり、「帰ってこい」ときた。
だが、父達の側で起こっている現実とは違う現実が、私の側にも起きていた。
私はその時、休日返上で、人が眠る時間に栄養剤を飲み、上司から初めて任された大手化粧メーカーの広告を、作っていた。
これを成功させれば、会社の知名度は上がり、しいては顧客もつく。裏を返せば、失敗は解雇に繋がる。
今、職を失うわけにはいかない。医療保険、年金、家賃、生活費。金はいくらでもいる。
私は、いくら何でも無理だ、と電話越しに応えた。
とたん、義母のヒステリックな悲鳴が、父の押し殺した息の後ろで聞こえた。
父がこの女を娶ったのは、気の迷いだとしか考えられない。
母の方がずっと素敵だった。
親としても、女としても、人としても。
義母は、祖母の介護がどれだけ大変かと叫び散らした。
父が苦笑し、謝罪とともに電話は切られた。
私は結局、祖母の死に目に会えなかった。
「契約でもいいじゃないの。英ちゃんが頑張って選んだものなんだから」
祖母は頭の良い人だった。
白内障の手術をしてからは、テレビを捨ててしまったが、ラジオをいつも聞いていて、社会の動向に敏感だった。
そんな祖母が契約社員でもいいと、あのニスを塗ったようにピカピカの頬を緩ませたのは、当時は気づかなかったが、同情だったのかもしれない。
小中高を無難に過ごし、その反動からか、それとも魔がさしたのか、芸術大学の文芸科へ進学を決めたのは六年前。大学院へ進む準備をしつつも、親に「逃げだ」と非難され、盲目のまま就職活動を続けた結果、契約社員だが、弱小広告代理店の内定をもらった。
それからというもの、実家への帰り支度を社宅への移動へと変更し、蚊の鳴く程度の給料で生活をしている。
楽しい、楽しくないの世界は随分前に通り越してしまった。
祖母の葬式の日、私は最終の新幹線で故郷に戻り、祖母の死に顔に手を合わせて酔った親類の相手をし、よたよたとトイレに行こうとしたら、義母に手を引かれた。
五十二歳の父が第二の連れ添い人に選んだ三十一の女。
ちっとも変っていない。
血の繋がりはないにせよ、当時二十歳だった私を強姦した女は、三十路を越えても淫乱のままだ。
トイレの前の四畳の部屋に連れ込まれ、電気を灯さないで義母は鍵をかけた。
私は自分の上で腰を振っている義母を、直視したくないばかりに、暗闇に浮かぶ段ボールや家電品の数を数え、その大半に母との思い出がちらつき、今の自分とのギャップを突きつけられるはめになった。
終わると、彼女の顔が近付いてきた。
払いのけ、身なりを整える。
義母の平手打ちを食らった。
顔をしかめたそこに唇を押し付けられる。
義母の睫毛が萎れていた。
この女も抱え込んだ苦痛があるのかもしれない。
私は口を開き、義母に合わせて舌を使った。
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