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第1章 はじめての異世界
幕間 災いの去った村
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どこからかグレン村にやって来た旅人はオークの襲撃から数日後、突如としてその姿を消した。朝、広場に集められた村人たちの前で、村長は村人を守るために疑わしい異邦人を村から追放したと報告した。その言葉に安堵のため息を漏らした村人の姿は少なくない。
夏らしいからりと乾いた風がグレン村に流れる。半壊になっしまった村も、時間の経過とともにだんだんと元の姿を取り戻していきつつあった。絶望のどん底にいた村人たちにも次第に活気が戻っていった。
しかしそんな村人たちの中でも変わらず悲しみに暮れる者がいた。オークの襲撃によって家族や友人を奪われた者たちだ。元気になっていく村の中で彼らは時間が止まったかのように取り残されていた。
「フェルテルや、今日もますます暑くなってきておるのう。夏の澄み切った青空を見るたびに、お前のきれいな青い目と笑顔を思い出すわい……」
簡素な墓の前で座り込む一人の老人。かつてはその年齢からは想像もつかぬほどに壮健であったが、あの事件で愛する孫を失って以来、まるで火が消えてしまったようにすっかり元気をなくしてしまった。村人たちと大したコミュニケーションをとることもなく、毎日村の外れの墓地に来てはこうして墓の前で独り話しかけ続けているのだ。
そんな老人の元ににわかに声がかかる。ゆっくりと老人が振り返った先には、彼のなじみの老女が立っていた。
「ノルト、お前またここに来ていたのかい。……あたしもちょっと邪魔するよ」
そういってドカリと老人──ノルトの隣に座り込んだのは村のまじない師ライだった。杖をそばの草むらに投げ出してごろりと寝転がる。見上げた先にあるのはどこまでも青い空と積乱雲。見慣れた景色であるはずなのに、どこか自分の生きる世界とかけ離れた世界の景色に見えてしまうのだから不思議でならない。きっとそれは自分たちがほかの村人のように過去を乗り越えられていないからだと、ライ自身もわかっていた。
大きくため息をついてライはぼやく。
「まったく、あたしらも老けちまったのかねえ……。過去にただ縋って、過去を乗り越える勇気を一体どこに置いてきちまったんだろうねえ……」
「いつも目覚めるたびに気付けばフェルテルの姿を探してしまっておる。……まったくライのいう通りじゃな」
もういないはずの愛孫の姿を幻視して、そのたびに自分の不甲斐なさにただただため息が出てしまう。もっとあの子にしてやれることがあったのではないか。そんな問いが毎日のように頭の中をめぐっていく。そうして悩んでいるうちにこうしてフェルテルの墓を訪れるようになったのだ。
「そういえば、あの坊主は王都に着いただろうかね。途中で野垂れ死んでなきゃいいが……」
「きっとソーマさんなら大丈夫じゃよ。あの目に宿った生気は死すら退けておるよ。……今はわしらのようにフェルテルの死にとらわれておるじゃろうが、きっといつかそれを乗り越えていくじゃろう……」
「そうだといいがね」
ライはむくりと起き上がって王都の方向を見やる。無論ここからでは王都など見えはしないが、そんな王都に向かって進むあの少年の姿はイメージできる。あの心優しく呑み込みの早い少年がこれからどんな風に成長していくのか見てみたい気持ちもあったが、彼にも故郷に蹴るという目的があるのだ。老人が若者を制限してよい道理など存在しない。ただ見守ることが自分たちに与えられた権利だった。
それからしばらくしてライは立ち上がった。ぱんぱんと服についた土を払ってノルトに声をかける。
「ほんじゃ、あたしはここらで失礼するよ。お前もほどほどにして家に帰りな。もう爺さんなんだからこの暑さは体に響くよ」
「はいはい、分かったよ婆さんや」
軽口の叩き合いに二人でにやりと笑った後、ライは杖をついてその場を後にした。しばらくしてノルトも
「わしもソーマさんを見習って立ち上がらなければなりませんの……」
と独り言ちてゆっくりと家に戻っていった。二人が立ち去った墓地で夏草だけが静かに風に揺れていた。
夏らしいからりと乾いた風がグレン村に流れる。半壊になっしまった村も、時間の経過とともにだんだんと元の姿を取り戻していきつつあった。絶望のどん底にいた村人たちにも次第に活気が戻っていった。
しかしそんな村人たちの中でも変わらず悲しみに暮れる者がいた。オークの襲撃によって家族や友人を奪われた者たちだ。元気になっていく村の中で彼らは時間が止まったかのように取り残されていた。
「フェルテルや、今日もますます暑くなってきておるのう。夏の澄み切った青空を見るたびに、お前のきれいな青い目と笑顔を思い出すわい……」
簡素な墓の前で座り込む一人の老人。かつてはその年齢からは想像もつかぬほどに壮健であったが、あの事件で愛する孫を失って以来、まるで火が消えてしまったようにすっかり元気をなくしてしまった。村人たちと大したコミュニケーションをとることもなく、毎日村の外れの墓地に来てはこうして墓の前で独り話しかけ続けているのだ。
そんな老人の元ににわかに声がかかる。ゆっくりと老人が振り返った先には、彼のなじみの老女が立っていた。
「ノルト、お前またここに来ていたのかい。……あたしもちょっと邪魔するよ」
そういってドカリと老人──ノルトの隣に座り込んだのは村のまじない師ライだった。杖をそばの草むらに投げ出してごろりと寝転がる。見上げた先にあるのはどこまでも青い空と積乱雲。見慣れた景色であるはずなのに、どこか自分の生きる世界とかけ離れた世界の景色に見えてしまうのだから不思議でならない。きっとそれは自分たちがほかの村人のように過去を乗り越えられていないからだと、ライ自身もわかっていた。
大きくため息をついてライはぼやく。
「まったく、あたしらも老けちまったのかねえ……。過去にただ縋って、過去を乗り越える勇気を一体どこに置いてきちまったんだろうねえ……」
「いつも目覚めるたびに気付けばフェルテルの姿を探してしまっておる。……まったくライのいう通りじゃな」
もういないはずの愛孫の姿を幻視して、そのたびに自分の不甲斐なさにただただため息が出てしまう。もっとあの子にしてやれることがあったのではないか。そんな問いが毎日のように頭の中をめぐっていく。そうして悩んでいるうちにこうしてフェルテルの墓を訪れるようになったのだ。
「そういえば、あの坊主は王都に着いただろうかね。途中で野垂れ死んでなきゃいいが……」
「きっとソーマさんなら大丈夫じゃよ。あの目に宿った生気は死すら退けておるよ。……今はわしらのようにフェルテルの死にとらわれておるじゃろうが、きっといつかそれを乗り越えていくじゃろう……」
「そうだといいがね」
ライはむくりと起き上がって王都の方向を見やる。無論ここからでは王都など見えはしないが、そんな王都に向かって進むあの少年の姿はイメージできる。あの心優しく呑み込みの早い少年がこれからどんな風に成長していくのか見てみたい気持ちもあったが、彼にも故郷に蹴るという目的があるのだ。老人が若者を制限してよい道理など存在しない。ただ見守ることが自分たちに与えられた権利だった。
それからしばらくしてライは立ち上がった。ぱんぱんと服についた土を払ってノルトに声をかける。
「ほんじゃ、あたしはここらで失礼するよ。お前もほどほどにして家に帰りな。もう爺さんなんだからこの暑さは体に響くよ」
「はいはい、分かったよ婆さんや」
軽口の叩き合いに二人でにやりと笑った後、ライは杖をついてその場を後にした。しばらくしてノルトも
「わしもソーマさんを見習って立ち上がらなければなりませんの……」
と独り言ちてゆっくりと家に戻っていった。二人が立ち去った墓地で夏草だけが静かに風に揺れていた。
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