そんなに儚く見えますか?

紫南

文字の大きさ
57 / 57
本編

049 そんなに儚げに見える?

しおりを挟む
彼は今まで侯爵家のやらかしていたことの調査のため、城の地下に留め置かれ、毎日のように取り調べを受けていた。彼の父親である元侯爵は元王妃と共に教会が管理する大監獄行き。そこには、他国の凶悪犯も入っている。

そして、ザレアルは元王女のいる修道院に今日連れて行かれることになっていた。もちろん男女別になっているため、二人が一緒になることはない。とはいえ、金網越しに顔は見えるらしい。仮に恋をしても、絶対に触れ合えないため、自分たちの不幸に酔いしれる者も居るようだ。それはそれで娯楽の一種として認められているらしいので、精々楽しんでほしい。

とはいえ、ザレアルと元王女では、醜く罵り合うのが目に見えてはいる。

「待てっ!!」

騎士達が追いかける。足がもつれたその時、ザレアルの視界にアルティナの姿が映った。

「くっ、あ、アルティナ嬢っ! アルティナ嬢っ、わ、私はあなたをっ。私こそがあなたの隣に相応しいのです! どうか助けてください! 私は! あの王女に騙されたんです! 可憐なあなたならば私と愛し合っ」
「うっさい!」
「ふげぇっ!?」

アルティナの飛び蹴りが涙ながらに訴えるザレアルの顔面に直撃した。

「「「「「……!?」」」」」

吹っ飛び、騎士達の足下で気絶したザレアルと、可愛らしいドレス姿のアルティナを周りが交互に見る。あまりにも驚愕した表情でアルティナを見るので、彼女は首を傾げて周りに問いかけた。

「私って、そんなに儚げに見える?」
「「「「「……いいえ……」」」」」
「うんうん。そうだよね! ねっ! オリー!」
「そうだな。ティナは強くてカッコいい女性だよ」
「だよね!」

満足げに喜ぶアルティナをよそに、ザレアルは拘束され退場していた。

「それよりもティナ。アレの顔面を蹴るなんて、足が汚れただろう? 靴を替えよう。ほら」
「え? どこに持ってたの?」
「袋に入れて腰に下げてた」
「「「「「……」」」」」

周りにいる者達が『え?』と言う顔をして、再び二度見する。しかし、アルティナは普通に受け入れていた。

「そうなんだ?」
「ああ。さあ、替えよう」
「うん」

当たり前のようにオリエルが屈み込んで片方ずつ靴を脱がせ、自分の膝に足を置いては履かせる。それを見ている周りの者達は、呆れ半分、微笑ましさ半分と言った顔をしていた。

見た目も、儚げな姫と、その世話を焼く騎士にしか見えないからだろう。

その後、オリエルがアルティナの脱いだ靴を普通にまた腰にある袋に大事に入れたのには、ちょっと微妙な顔をしていた。

「まあ……お似合いなのかもな」
「そうだな……」
「可愛い顔して顔面蹴り飛ばす女か……」
「清廉な顔して、蹴った方を気にする世話焼き騎士なあ……」
「「「「「お似合いだわ……」」」」」

儚げにしか見えない令嬢の世話を焼けるのは、この騎士しかいないだろうと、誰もが納得した。

「今日! この時よりわが国は、更なる発展を遂げて行く! 次期女王として! それをここに宣言する!!」
「「「「「おおぉぉぉぉっ!!」」」」」

次期女王となるビオラは、その才能を遺憾なく発揮し、釣られるようにして女性達が文官や武官を目指すようになる。大転換期と後に評されるビオラ女王の時代は、他国が戦争をしようとする考えさえ起きないほど、目まぐるしい発展を遂げた。

そして、後に国境が移動して倍近く広くなったセイグラル領は、王都に次ぐ活気ある場所となる。男も女も、特に自立心に溢れた者達が集まり、一丸となって領を盛り上げていく。

領主となったオリエルとアルティナの夫婦は、いつでも仲睦まじく、問題が起これば即解決に動くため、二人の姿を外で見ない日はないほどだった。良いことではあるが、領城に勤める官吏達は、文官も武官もこの領主夫婦に振り回されることを覚悟しなくてはならない。これにより、なんでも臨機応変に対応できるようになり、実力も確かな官吏が生まれると有名になる。

精神修行の場だとする認識が広がり、結果的に国を動かして行くことになる多くの有能な官吏は、まずセイグラル領で修行し、国中に旅立っていくという流れができた。

「まて~! どろぼうめ! やあ!」
「ふげぇっ!」
「お嬢様っ! ドレスで飛び蹴りはダメですって!」
「ありゃ……でも、ママもできるって……」
「アルティナ様は確かにヒールを履いてやりますけどっ。真似しなくてもいいのですよ!」
「なんで?」
「……」

なんでが多くなる時期の長女は、追いかける体力だけでは足りない。

「そうですね……理由は色々とありますが……っ、天使が足蹴にしたって、コイツらは反省しません!!」
「ううっ……うへへ……」
「へんたいだぁ!」

足蹴にされて喜んでしまう変態が一定数生息しているというのは、この領の問題でもあった。

「このっ! 変態め! 姫天使に近づくなっ!」
「変態処理班を呼べ! それまで拘束だ!」
「お姫ぇ~。あんなのに触った靴はしっかり洗わんとっ。ほれ、替えの靴」
「おいっ! 今日は俺んとこの靴だろ! お姫! どうだ? これ可愛いだろ?」

すぐに町の人々が変態対策をしていく。お姫と呼ばれた子どもは、キョトンとしながら、幾つか並べられた靴を見つめた。

「う~ん……きょうは、あおいのにする!」
「よっしゃぁぁっ!」
「あら。それなら、これも献上するわっ。小さなお姫様のとお揃いなのよ」

気に入った青い靴と同じデザインの大人サイズのものが差し出される。すぐに誰のものになるのか分かった。

「ママの!? ママとおそろい!?」
「ええ。どうです?」
「わあいっ! ありがとうっ!」
「いいのよ~」
「「「「「ズルイっ!」」」」」

これにより、アルティナの分を同じデザインで揃えるようになる。

「……いつも思うけど、なんで、ここの町の人たち、靴用意してんの?」
「変な町っスよね~。靴職人が国で一番多い領だそうですよ。訳わかんね~」
「謎ね……けど、ここの靴、とっても機能的よね。森歩きとか、討伐の時とか、すごく楽だし動きやすいもの」
「職人は勤勉みたいなんで」
「不思議ね……」

首を傾げながらも、靴だけでなく、セイグラル領の剣や服は国一番と言われるのに納得している。騎士はここで全て揃えるし、修行もしていく。

隣国の脅威も感じず、平穏とは言えないが、賑やかな日々が約束された場所。それがセイグラルだ。

「それにしても……見た目詐欺は血筋かねえ」
「あ~……お姫はマジで、大人しいお姫様にしか見えんもんな……それなのに、弾丸のように走るし、ドレスもたくし上げるし、そこに飛び蹴りだぜ?」
「仕方ないって。お嬢なんか結婚して子ども出来ても、お嬢なままだし。黙ってると何にも出来なさそうな儚げなお姫様にしか見えないからなあ」
「本当……あれは見た目詐欺だわ……」

アルティナは、加護のせいなのか年を経てもほとんど見た目が変わらず、その影響か夫であるオリエルもゆっくりと年を取ったように見えたという。

何年経っても見た目詐欺だと言われるくらい暴れ続け、領民に最も慕われる領主一家と語り継がれていった。


【完】


**********
読んでくださりありがとうございます◎
お付き合いくださりありがとうございました!
恋愛系次回作は来月末にまた予定しています。
またよろしくお願いします◎


しおりを挟む
感想 14

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(14件)

小鳥遊 ゆとり

完結おめでとうございます!
お疲れ様でした!

2026.01.23 紫南

お付き合いいただきありがとうございました!

また次回作もよろしくお願いします!

解除
小鳥遊 ゆとり

誤字のお知らせです。
「未だに私のイメージ? が勝手に作られてるみたで、」→みたいで

国を丸っと貰ってくるの凄いですね!

2026.01.16 紫南

ご指摘・感想ありがとうございます◎

修正しました!
もう既に女王でいい気がしますね!

読んでくださりありがとうございます◎

解除
みちや
2026.01.09 みちや

『疾風迅雷』ではなく、『猪突猛進』な儚いヒロイン(笑)

草生えると言いたいところですが、草が生える時間もなかったですねぇ〜
セイグラルは、ますます面白い地になりそうです‼

今年も、更新初め、ありがとうございます!!
また1年楽しみにしておりますが、くれぐれもご自愛くださいませ。

2026.01.09 紫南

感想・応援ありがとうございます◎

魔境と呼ばれそうです(笑)

今年もよろしくお願いします◎

解除

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

知りませんでした?私再婚して公爵夫人になりました。

京月
恋愛
学生時代、家の事情で士爵に嫁がされたコリン。 他国への訪問で伯爵を射止めた幼馴染のミーザが帰ってきた。 「コリン、士爵も大変よね。領地なんてもらえないし、貴族も名前だけ」 「あらミーザ、知りませんでした?私再婚して公爵夫人になったのよ」 「え?」

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月
恋愛
 それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。