そんなに儚く見えますか?

紫南

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本編

007 膝をつけ

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この国、クレナには騎士団が四つある。

四つの内一つは王族の護衛をする近衛騎士団。王城内の警護をするのが、第一騎士団。残りの二つつは国内外の問題に対する第二騎士団と第三騎士団だ。

第一騎士団は、高位貴族の子息が多い。エリート意識の高い者達で構成されていた。特に貴族であるということを強く意識している。そのためか、権力に弱い。ある意味、上の命令に絶対に従うので、騎士としては正しいのかもしれない。しかし、裏ではお金で色々と解決したりと、誠実さとは無縁だろう。

第二騎士団は、親や親族達によって放り込まれた者が多い。第一騎士団の者や、他の貴族達からすれば、家を追い出された出来損ないとして下に見られる。これにより、捻くれ者が多かった。それをなんとかまとめて、まともな人間にしようと奮闘しているのが、団長としてあるオリエルの父とその友人だった。

そして、残りの第三騎士団。こちらは、無理やり入れられたと言う者はいない。寧ろ、家を出たくて、自主的に入って来る者が多い。実力は確かだ。努力を惜しまない。平民から成り上がってくる者もいる。だが、他の騎士団の者達からすれば、寄せ集めの半端者の集団と思われて見下されていた。

しかし、そんな目を向けられても、第三騎士団の者達は特に気にしない。彼らは強さを求め、自分たちの生き方を探すのに忙しかったのだ。

何よりも、騎士としての仕事に誇りとやり甲斐を見出していた。同じような境遇の者達が集まっている事もあり、実家では肩身が狭く、孤独だった彼らとしては、騎士団の者は皆が仲間であり友人であり、家族であったのだ。

そんな第三騎士団の団長を任されるようになったのが、オリエル・クラールだった。先の団長は第二騎士団の副団長になっており、オリエルの父を今や全力で支えて、第二騎士団を変えようとしていた。

婚約者の本性を知った衝撃的な夜会があった二日後。オリエルは、騎士団の者の半数を率いて、情報にあった大きな盗賊団がある領へとやって来ていた。

「この先の森だったか……」

噂によれば、かなりの数の領民が被害に遭っていた。しかし、貴族からの被害報告が少なかったため、今まで王都に報告が為されていなかったのだ。

オリエルは、率いて来た三十数名の仲間達の前に立って声を張り上げる。

「これより! 森に入り盗賊団の根城を捜索する! 情報によれば、盗賊団の人数は四十人強! 我々が実力で負けるとは思わないが、油断はするな!」
「「「「「はっ!」」」」」
「では、捜索を始める! 打ち合わせ通り、部隊で固まって行動、捜索範囲を守るように!」
「「「「「はっ!!」」」」」

騎士達は五つの隊、六、七名で固まり、森の中に散らばった。

それを見送り、森をゆっくり見回すと、オリエルは顔を顰める。その表情には不安があった。補佐であり、親友である男がそんなオリエルに気付いて肩を叩いた。

すると、オリエルはびくりと肩を震わせる。

「どうした?」
「っ、リンガか……いや……」
「ん~?」

答えを求めるように、じっと横顔を見つめるリンガの視線に負けてオリエルはため息混じりに答える。とはいえ、胸の内にある本当の悩みは口にしない。今は現場に集中することにした。

「っ、ああ……森の空気がな……」
「空気?」
「……以前、盗賊が潜んでいた森は、もっと違和感があった気がするんだ……」
「違和感ねえ……お前の勘は、無視できねえからな……俺も気にしてみるぜ」
「ああ……」

悪い予感ではない。だが、オリエルは落ち着かなかった。

何かが違うとオリエルの勘に訴えかける。それに注意しながら、捜索を開始して一時間後。

「団長!! 盗賊を発見しました!」
「っ、どこだっ」
「そ、それが……っ、こちらです!」

騎士達全員が集まってくる。

「おいっ。もっと慎重にっ」
「いいえ。問題ありません!」
「……?」

本来ならば案内する者も慎重に、身を潜めて進むはずだ。しかし、彼らは構わず、ずんずんと進んで行く。

獣道の様に見えるが、そこは明らかに高さも確保されており、人が通ったと気をつけて見れば分かるものだった。

そして、拓けた場所に出る。

既に集まっている騎士達も、隠れる事なく、洞穴の様な場所の前で戸惑っていた。

「どういう事だ?」
「っ、団長……その……っ」

騎士達の前に出ると、そこに居るものを見て、息を呑む。

「っ……!」

白銀の毛皮で、差し込む陽の光を反射させ、騎士達よりも一回りほど大きな白狼と二匹の子どもサイズの灰色狼がそこに寝転んでいた。

気になるのはその奥。そこは、木で組んだ牢になっており、その中に盗賊達が息を潜めてうずくまっていたのだ。狼達はそれを見張るためにそこに居るようだ。牢は明らかに人の手で作られたもの。まさか、盗賊達が自分達を、狼から守るために作ったわけではないだろう。誰かが捕らえたと見て間違いない。だが、一つ確認したいことはある。

「……盗……賊……か?」
「そ、そのようです……っ」

部下達も彼らが盗賊で間違いないだろうと推測していた。その時、親らしい白狼が上体を起こし、遠巻きにしている騎士達やオリエルを真っ直ぐ見つめた。何かを見定めるようにだ。息をなるべく浅く、ゆっくりとして気配を薄くしてしまうのは、本能だろう。この狼達は強いと空気からそれがわかった。

永遠とも言える緊張感の中、そこへゆったりとした優雅な足取りで新たな生き物がやってくる。

「っ! だ、団長……っ……も、森の神が……っ」

気付いた団員の声が萎んでいくのは仕方がない。動揺で最後の声は震えていた。

それは、金の目と淡く金に光る体毛の美しい狼だった。ただの狼ではないのはそれだけでも分かるが、更にその頭には、一本の青い水晶で出来たような角があった。それは、大昔から森の守り神として描かれる存在。

その存在を一目見ただけで幸運に恵まれるとも言われている。

逆に狩ろうなどとすれば、村や町ごと滅ぶとまで言われていた。実際にそのような行動を起こした者が出た次の日には、その者が所属する場所を中心として植物が唐突に枯れたらしい。

生ものである食べ物もことごとく腐り、その土地から人々は逃げ出した。そして、三か月もすれば、その場所は森に呑み込まれたと言う。

「っ……膝を……っ、膝をつけ。静かに……っ」
「「「「「っ……」」」」」

剣など触れてはならない。片膝を突き、剣を抜く手は胸に当てる。王に忠誠を誓うように、何をされても反撃しない、手を出さないとこうべも垂れた。

その姿を見るのも烏滸おこがましいと思える清廉な空気が辺りを満たしていた。







**********
読んでくださりありがとうございます◎


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