秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
61 / 463
第二章 秘伝の当主

061 本能で判断すると……

しおりを挟む
2018. 6. 27

**********

風の式である珀豪は、一番初めの高耶の式神だった。この世界には精霊と呼ばれるべきものが存在する。それが陰陽師たちの言う式神だ。

西洋に行けば精霊と呼ばれるし、契約や顕現の仕方も様々だ。

人が精霊と契約するということは、力として使うことに他ならない。けれど、中には人と同じように式を扱う者たちもいる。

この屋敷の主人と高耶はそれだ。珀豪達や、この屋敷にいる藤達も、そんな主人を持つ故に、世話焼きな気質を持ってしまったんだと考えている。

《主にも困ったものだ。時折抜けておるというのか……そこも嫌いではないのだが》

そう口にすれば、横にいる藤も困った表情で同意する。

《お仕事柄、普段は目立たぬようにと考えておられるのは分かるのです。ですが、そろそろ二十を迎える若者としてはよろしくありませんわね》

これに、天柳が口を挟んだ。

《そうよね。主様のクローゼットなんて、色物が全くないのよ。茶色か黒なんてもっと歳を取ってからでもいいわよね》
《その通りです。任せてください。そんな事もあろうかと、高耶さんに合う服を色々と揃えております。期待してください》
《藤ちゃんさすがね!  ああ見えても主様、今時の女の子達が騒ぐようなアイドル並みに素材は良いのだもの!》

テンションが上がっていく天柳と藤の気配に、珀豪が一歩下がる。

優希が、隣に来た珀豪を見上げてその服の裾を引っ張った。

「ハクちゃん?」
《む……いや、気にするな。女性同士、盛り上がっているところを邪魔するのもと思っただけだ》

式神に性別はないのだが、高耶も当たり前のように天柳や藤を女性として扱うので、珀豪もそういうものとして扱うようになった。

「おにいちゃん、カッコよくなる?」

キラキラとした瞳で見上げてくる優希から、前を行く藤と天柳と同じ雰囲気を感じ取り、表情を引きつらせる。なるほど、間違いなく女という気質だと改めて己の天柳達に対する認識を確認する思いだ。

《……いつもとは印象が変わるだろうな》

珀豪はそう言うに留まった。すると、呆気に取られて、今まで口を挟むことが出来ずにいた高耶の母、美咲が尋ねる。

「ねえ、ここにいる人達は、高耶をどう思っているの?」
《ああ……あれらにとっては、息子か弟といったところだろう》

女性として見るのならそれがぴったりだ。これに父、樹が頷く。

「確かに、高耶くんが逆らえない感じだったものね。高耶くんって、女性に弱いのかな?」
《逆らうべきではないものを本能的に察する能力が高いのだ。女であろうとなかろうと、本来は自身の信念や常識から外れていれば容赦をしないのでな》
「へぇ……想像できないな」
《敵ならば女であっても戦うことを躊躇されない》
「う~ん……やっぱり想像できない」

血の繋がりのない優希にも最近は兄馬鹿な様子を見せるようになった高耶を見ている。更には、母親の再婚相手である樹にも嫌な顔一つしない。そんな優しい高耶が容赦しない様というのは、想像できないらしい。

《そこは知らぬ方が良いかもしれんな》
「確かに、そういう場面に出会う機会はない方がいいのかもね」

家族としては知りたいと思うのだろうが、そんな機会などないに越したことはない。

《うむ。どのみちここでは、主は常に押され気味になると教えておこう》
「それは楽しそうね」
「ちょっと可哀想じゃない?」
「いいのよ。あの子、最近特に甘えてくれないんだもの。男の子ってつまんないわ」
《……主は甘え方を知らぬだけだと思うがな……》

怒ってばかりに見えた美咲も、実は高耶が頼ってくれないことが不満だったようだと理解し、珀豪は苦笑するのだった。

◆◆◆◆◆

奥へと連れて来られた高耶は、その部屋にあるものを見て固まっていた。

「……菫さん、橘さん……これってまさか……」

嬉々としてそこに飛び込んで行った菫と橘に確認しようと尋ねた。

《全て主様が用意された高耶さんの服です。高耶さんが百歳になっても着られるよう年代ごとに分けてございます》
《ちなみに隣の部屋には鞄や靴などの小物もありますので、ご覧ください》
「……と、隣も……」

四十畳ほどの部屋一つが、まるで服屋を丸ごと用意したような状態になっている。その全てが、高耶のための服らしい。それが、隣にもあるというのだから、驚くに決まっている。

《主様は高耶さんをご子息のように思っておられます》
《主様は高耶さんをお孫さまのように思っておられます》
「……それは……知ってる……」

だからあまりここへ来ようと思わなかった。はっきり言って恥ずかしいのだ。


「……」

それは言葉にして欲しくなかった。

《さぁ、高耶さん。こちらを》
《お手伝いいたします》
「いや……自分で着替えるから……」

とはいえ、趣味は悪くない。部屋にあるのは、派手すぎない青や緑など、明るくも奇抜ではないものでまとめられている。

着替える服を受け取り、端に用意されているカーテンで仕切られた場所へ向かう。素早く着替えなければ、二人が突入してきそうだったので、慌てて着替えた。

そうしてカーテンを引くと目の前に二人が迫っていた。

「な、なんだ?」
《髪を整えさせていただきます》
《眼鏡はお取りください》
「はい……」

色々と気に入らないらしいことは良くわかった。

高耶にとってこの屋敷にいる精霊達は、世話好きで少々強引な姉達なのだ。逆らうべきではないと本能で感じていた。

**********

読んでくださりありがとうございます◎


パワーが違うのでしょうか。


次回、水曜4日0時です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...