秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
62 / 463
第二章 秘伝の当主

062 愛されているんです

しおりを挟む
2018. 7. 4

**********

珀豪と天柳、優希と父母が藤に連れて来られた部屋には、十代半ばに見える少女がいた。

のんびりと窓辺で本を読んでいたらしい。文台の前で椅子に座っていた。

《姫様。高耶さんのご家族の方と珀豪、天柳をお連れいたしました》
「ご苦労様。どうぞ、そちらにおかけになって」

部屋は当然畳だと思っていたのだが、中は板の間。障子、襖も美しい木の細工があり、東洋の雰囲気があった。

床には絨毯もあり、重そうな椅子と机が置かれている。

「うわぁ……」

優希が声を上げた理由は、少女の服装が原因だ。今もその姿に目が釘付けだった。

羽織っているのは薄桃色の薄い衣。それがヒラヒラとして、まるで天女のように見える。着物のようで、ドレスのような服装。それが、色白で小さな顔の少女にとても良く似合っていた。

「ふふ。可愛らしい子。こんにちは。私はヨウカ。この家の主人です」
「こ、こんにちは……おひめさま……」
「姫と呼べれる歳でもないのですけれどね。さぁ、お茶を用意させますわ。お茶菓子は……珀豪が持っていますか?」
《良くお判りだ。主と焼いたりんごのケーキを手土産に持参した》
「嬉しいわっ。藤、切り分けてください」
《かしこまりました》

珀豪がどこからともなく取り出した大皿に乗ったケーキを受け取り、藤が部屋の端にある台に持っていく。そこで切り分けるのだ。

その間、勧められた椅子に優希達が座る。

目の前にあるのは、立派な長い大理石の机だ。ひんやりとするその手触りを、樹と美咲が恐る恐る確かめていた。

「藤、高耶さんは?」
《せっかくなので、衣装部屋にご案内しました。菫と橘にお願いしてありますので、もうじき現れるかと》
「まぁっ。気に入ってくれたかしら」

嬉しそうに頬を染め、そこに手を添えるその様は、まるで恋する乙女だ。

樹と美咲は瑶迦が高耶の恋人なのではないかと勘違いしたほどだった。しかし、事前にこの屋敷の主人は高耶の先祖に当たるのだと聞いていたことを思い出し、顔を見合わせる。

そこへ、高耶がやってきた。

「遅くなりました……」
「まぁまぁっ。良く似合っていますよ。いらっしゃい、高耶さん」
「お久しぶりです瑶迦さん」

現れた高耶は、いつもボサボサにしている髪を整えられ、眼鏡も取っている。濃い青のシャツにクリーム色のズボンをカジュアルに着こなしていた。

「もぅ、おばあさまと呼んでと言っているのにっ」
「……見た目とのギャップがあり過ぎですって……」

完全に年下にしか見えない少女を、おばあさまとは呼びにくい。

「お、おにいちゃん?」
「ん? ああ。おかしいか?」

優希は、普段の少しオタクっぽく、野暮ったい感じにまとめられた高耶の姿を見慣れているので、驚いたようだ。

「ううん……かっこいいっ」
「そうか……」

嬉しそうに絶賛する優希、いつもはどうなんだと聞きたくなるがそこは口を噤む。

「この前のレストランの時も思ったけど……高耶くんってそういう風にすると別人だね」
「……普段からそうしてたらいいのに……」

樹と美咲もこれには驚いているようだ。何とも言えない顔をしていた。

「ほらごらんなさい。そうした方が良いに決まっています。服はいくらでも用意しますよ」
「瑶迦さん……仕事柄、あまり目立ちたくないと知っていますよね……?」

同業者には最近、顔で売っている者もいるのだが、高耶はあまりそういうのは好きではない。何より、仕事以外でまで付き合わなくてはならなくなりそうで嫌なのだ。

「知っていますよ。自分は見えないものを相手にする裏方だからと、極力気配も薄くして凡人を装っているのでしょう? もったいない。人々を守っているのですから、高耶さんはもう少し自分を評価して良いと思いますよ」

見える者達の中には、わざと見えるように環境を整えて、依頼人に見せる者がいる。確かに、その方が確実に仕事をしたのだという証拠にもなる。

時折、依頼人が依頼の完了を認めず、詐欺師だと言って報酬を踏み倒すこともあるのだ。それを防ぐことはできるだろう。けれど、それは本来やるべきではない。

見えないものが見える状況を知ってしまうと、当然だがその後、かなりの確率で疑心暗鬼になる。普通の生活が出来なくなる者が多いのだ。

その後を保障できないのならば、こちら側を見せるべきではない。それが、高耶の考えであり、昔からの陰陽師達の心得だ。

「いいんですよ。自己満足と俺自身のためにやっていることですから」
「高耶さんは相変わらず謙虚ですね。好ましいとは思いますが、それでは損をしますよ。近頃は力が弱くなってきているにも関わらず、力を見せつけたがる者が多いようですし……」

最近は高耶のような見える者と見えない者の境界を守る風習が薄れてきているように思える。瑶迦もそれを憂えているのだろう。しかし、こうなってくると、真面目にやっている者が損をするのは、どんな事でも同じだ。

現状、時折見える程度の者達がお祓いの真似事をするようになっている。代々、陰陽師という家にそういう傾向が見られるため、中途半端に知識だけある者達が偉そうな顔をしているのは頭の痛くなる問題だ。

お陰で陰陽師の立場が弱くなり、本当に必要な人々にも信用されなくなってしまっている。

「高耶さんだけが頑張る必要はありません。そういった者達の尻拭いまでしてはいけませんよ」
「ええ。気を付けます」
「ふふ。高耶さんのその言葉は、昔から信用できませんけれどね」
「……」

出来ることはやる。それが高耶の生き方だ。それがどれだけ割りを食っていても変わらない。

「珀豪、天柳。高耶さんのこと、頼みますよ」
《もちろんだ。なにより、我らほどの力ある式を従えられるのはそうそうおらんのでな。あの本家の馬鹿どもにも、そろそろ灸を据えてやらねばと思っていた所だ》
《主様は優しすぎますから困ります。ですので、これからは遠慮なく、邪魔をする者は地獄に案内いたしましてよ》
「あら、頼もしい。とりあえず、その本家のおバカさん達のお話、後で聞かせてくださいな」
《うむ。では後ほど》
《きっと姫もヤル気が出ますわ》
「ふふふ。楽しみだわ」

珍しく良く喋る珀豪に驚きながら、その言葉の中に黒い感情を感じていれば、いつの間にか、それよりもドス黒い感情を天柳と瑶迦が纏っていた。

これは口を挟むべきではないと判断した高耶は、部屋の端で微笑んでいる藤へ声をかけた。

「……あ、藤さん。お茶、手伝います……」
《お気遣いなく。おかけください》
「……はい……」

藤からも黒いものが出ているように感じて、高耶は大人しく従ったのだった。
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

処理中です...