142 / 463
第三章 秘伝の弟子
142 見送ること
しおりを挟む
高耶と源龍は日が暮れてから河原へやって来た。既に場は整っている。
結界も張られ、霊などが視える陰陽師以外はこの場を見ることができない。
焔泉も光を放つように見えるほど清められた衣装でやって来ていた。
「高坊、来たか」
「今日はよろしくお願いします」
「任せよ。水神様も見ておられるでなぁ」
川の方に目を向ければ、水神が姿を現した。そして、次の瞬間には人型になっており、こちらを見つめていた。
「呼んでおられる。高坊、行きなはれ」
「はい。ついでに水神様のところまで結界を広げて来ます」
「無理はせんようになあ」
「私はここに居るよ」
源龍を残し、高耶は水神に向かって歩き出す。ついでに川を清めるようにして結界も張っていくのだ。
水の上を歩いていく高耶の足下からは、一歩水に触れる度に青い光が水の上を走る。儀式場のある河原は清められていても、川までは清められていない。本来はする必要がないのだが、水神も儀式で送られる者達を想っているのだ。その想いが伝わるように道を作る。
水神の力の影響が周りに出ないように、高耶は結界を張った。
《礼を言う。ヌシは我の想いを理解してくれた》
「今まで見守って来られたのです。彼らと同じ人として見送ってくださること、感謝いたします」
頭を下げ、儀式場を振り返ると、そろそろ始まるようだ。
どこで見ていようかなと考えていると、水神がこちらを見ていることに気付いた。
「どうかされましたか?」
《うむ……ヌシのような真に力ある者には久方ぶりに会った。苦労も多かろう》
「幸い、協力してくださる方も心配してくれる者も居ります。苦であるとは思っておりません」
《なるほど……苦を苦と思わぬか……ふふふ。気に入った》
何やら気に入ってもらえたらしい。
そうして、儀式が始まる。
焔泉の声は不思議な響きを持って場を満たしていく。同時に水神も力を解放していき、美しく広がっていくのが高耶には見えた。
きっと、今頃遥迦達が見ている映像にもこれは見えているだろう。高耶の見えるものを見えるように充雪が調整しているのだ。
虹色に輝く世界がそこにある。そして、黄色い光が河原から立ち上ってきた。それが、焔泉の鳴らした鈴の音で真っ白な光に変わっていく。
とても幻想的な光景だった。
《恨みなく逝けるか……》
「はい……」
昇っていくのは、あちらへ逝けるのだと思えたからだ。恨みも忘れて次へと望むことができなくては、昇って行けない。光を放つことができない。
沢山の光が後から後から現れては上へ昇っていく。どれだけの者がこの地に眠っていたのだろう。これだけの者が無念の死を迎え、ずっとこの地に縛られていたのだと思うと、昔のこととはいえ、戦をした者を恨まずにはいられない。
彼らにも家族があっただろう。彼らの帰りをずっと待っていただろう。そう思うとやるせなかった。
《ヌシは優しいな。他者の痛みなど負っていては身がもたぬぞ》
水神がクスクスと笑いながら高耶を見ていた。
「送る時だけは、代わりにと思っております。術者の中には、全て忘れて逝こうとしている者達に失礼だと言う者もおりますが、私は、残っている後悔の想いを、この地に置いて行って欲しいと思っているのです」
《なるほど……割り切れん者も居るだろう……ヌシのようにその無念を理解していると示すのは悪くないかもしれん。ほれ、頑固に残っていた者も、旅立とうとしておるわ》
人の本質は変わらない。誰かにこの思いを理解して欲しい。そう思うのはおかしなことではないのだから。
そうして、全てを送り終える。
《終わったか……ヌシの名を聞こう》
「秘伝高耶と申します」
神に名を聞かれるというのはとても珍しいことだ。神は個ではなく、この地に生きる人という集団として見る。名を聞くということは、個を認めるということ。それは、特別な存在になるということだ。人の命は、神にとってほんの一瞬のもの。氏を、血族の名を上げて加護をもらう事はあるが、個人というのは本当に名誉なことだろう。
《秘伝高耶。改めて礼を言う。我の加護を与えよう》
「ありがたく」
《時折会いに来るようにな》
「はい」
水神は高耶へ加護を与えると、満足気に微笑んで川の中に消えていった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
結界も張られ、霊などが視える陰陽師以外はこの場を見ることができない。
焔泉も光を放つように見えるほど清められた衣装でやって来ていた。
「高坊、来たか」
「今日はよろしくお願いします」
「任せよ。水神様も見ておられるでなぁ」
川の方に目を向ければ、水神が姿を現した。そして、次の瞬間には人型になっており、こちらを見つめていた。
「呼んでおられる。高坊、行きなはれ」
「はい。ついでに水神様のところまで結界を広げて来ます」
「無理はせんようになあ」
「私はここに居るよ」
源龍を残し、高耶は水神に向かって歩き出す。ついでに川を清めるようにして結界も張っていくのだ。
水の上を歩いていく高耶の足下からは、一歩水に触れる度に青い光が水の上を走る。儀式場のある河原は清められていても、川までは清められていない。本来はする必要がないのだが、水神も儀式で送られる者達を想っているのだ。その想いが伝わるように道を作る。
水神の力の影響が周りに出ないように、高耶は結界を張った。
《礼を言う。ヌシは我の想いを理解してくれた》
「今まで見守って来られたのです。彼らと同じ人として見送ってくださること、感謝いたします」
頭を下げ、儀式場を振り返ると、そろそろ始まるようだ。
どこで見ていようかなと考えていると、水神がこちらを見ていることに気付いた。
「どうかされましたか?」
《うむ……ヌシのような真に力ある者には久方ぶりに会った。苦労も多かろう》
「幸い、協力してくださる方も心配してくれる者も居ります。苦であるとは思っておりません」
《なるほど……苦を苦と思わぬか……ふふふ。気に入った》
何やら気に入ってもらえたらしい。
そうして、儀式が始まる。
焔泉の声は不思議な響きを持って場を満たしていく。同時に水神も力を解放していき、美しく広がっていくのが高耶には見えた。
きっと、今頃遥迦達が見ている映像にもこれは見えているだろう。高耶の見えるものを見えるように充雪が調整しているのだ。
虹色に輝く世界がそこにある。そして、黄色い光が河原から立ち上ってきた。それが、焔泉の鳴らした鈴の音で真っ白な光に変わっていく。
とても幻想的な光景だった。
《恨みなく逝けるか……》
「はい……」
昇っていくのは、あちらへ逝けるのだと思えたからだ。恨みも忘れて次へと望むことができなくては、昇って行けない。光を放つことができない。
沢山の光が後から後から現れては上へ昇っていく。どれだけの者がこの地に眠っていたのだろう。これだけの者が無念の死を迎え、ずっとこの地に縛られていたのだと思うと、昔のこととはいえ、戦をした者を恨まずにはいられない。
彼らにも家族があっただろう。彼らの帰りをずっと待っていただろう。そう思うとやるせなかった。
《ヌシは優しいな。他者の痛みなど負っていては身がもたぬぞ》
水神がクスクスと笑いながら高耶を見ていた。
「送る時だけは、代わりにと思っております。術者の中には、全て忘れて逝こうとしている者達に失礼だと言う者もおりますが、私は、残っている後悔の想いを、この地に置いて行って欲しいと思っているのです」
《なるほど……割り切れん者も居るだろう……ヌシのようにその無念を理解していると示すのは悪くないかもしれん。ほれ、頑固に残っていた者も、旅立とうとしておるわ》
人の本質は変わらない。誰かにこの思いを理解して欲しい。そう思うのはおかしなことではないのだから。
そうして、全てを送り終える。
《終わったか……ヌシの名を聞こう》
「秘伝高耶と申します」
神に名を聞かれるというのはとても珍しいことだ。神は個ではなく、この地に生きる人という集団として見る。名を聞くということは、個を認めるということ。それは、特別な存在になるということだ。人の命は、神にとってほんの一瞬のもの。氏を、血族の名を上げて加護をもらう事はあるが、個人というのは本当に名誉なことだろう。
《秘伝高耶。改めて礼を言う。我の加護を与えよう》
「ありがたく」
《時折会いに来るようにな》
「はい」
水神は高耶へ加護を与えると、満足気に微笑んで川の中に消えていった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
255
あなたにおすすめの小説
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる