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第四章 秘伝と導く音色
167 これはまずいです
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高耶は、過去の音を聴き取り、何とか最後まで曲を完成させた。
「これがそうですが、もしかしたら途中でまた書き直している可能性もあります。一応、耳に付いたら全て書き出すようにしてみますね」
「ありがとう!」
「いえ、ただ……もしかしたら、賢さんの方にもあるかもしれません。何度か同じ五線紙でない感じがする時があったので……」
ピアノとバイオリンで作られた曲だ。別々で持っている可能性もある。確認の為に修が持っていた楽譜のように、ほんの数小節だけの物を渡している時もありそうだ。
あの部屋には他に高耶の求めるものはなかったと黒艶は確信していた。ならば、ここではない場所に持ち出している。
「っ、あ、そう……だね。これ以外も見つかるかもしれない……確認するよ」
「はい。あとは……ここが落ち着いたらもう一つ手があるので、それをできたらやってみます」
「頼みます」
その日は、日が暮れる前に解散となった。ただ、本格的な調査が必要なので、高耶が鍵を預かる。
「ではお預かりします。あとこれは鍵の借用書と、破損などないようにしますが、万が一の場合の誓約書です」
「用意がいいね……予想していたのかな?」
「いえ。万が一のために、仕事の時は用意しているんです」
高耶は迅速に対応するため、そういった書類も一応は持ち歩いている。小さなリュックに入る細いマイボトルに丸めて入れてあるというのは内緒だ。明らかに使い道を間違っている。丸まってしまうのはどうかと思うが、そこはまあ、迅速な行動のためにはやむを得ない。
「では、連絡待っています」
「はい。一週間ほどでなんとかなると思いますので」
「わかった。その……気を付けて」
「ありがとうございます」
心配そうな修に笑みを見せる。それを見て、陽が修の肩を叩いた。
「大丈夫ですよ。高耶くんは、怨霊さえ蹴り飛ばせるんだから。ねっ」
「はい」
「それ、すごいことだよね? 見たいんだけど」
「こらこら。明らかに邪魔になるだろうが。もう行くぞ」
なぜか仁は興味を持ってしまったようだ。そんな彼を、呆れながら陽が引っ張っていった。
「家のものは好きに使ってくれていいよ。それじゃあ……また」
「はい。また」
修が嬉しそうに笑い、背を向けた。走り出した車が見えなくなるまで見送り、高耶は家の中に戻った。
電気も自家発電でまかなっており、問題ない。中に入ると、リビングで夕日に染まり出した外の景色を見ながら、源龍が電話をしていた。
「ええ。そうです。はい……刑事部からも人を……その可能性があります」
もう少しかかりそうだ。高耶は所在無げにソファに座っているエリーゼに話しかける。最初のような元気がないのは、その両脇に黒艶と綺翔が座っているからというだけではないだろう。
「大丈夫か?」
《っ……も、問題ないわ……ちょい、びっくりしただけや……》
「もしかして、あっちのと会話したことないのか?」
《っ、あらへんわっ。お、居るいうことは分かっててん……》
かなり怯えている様子に、高耶は小さな子をいじめているように感じて屈み込む。目線を合わせるようにすると、動揺したのだろう。こちらへと目線を彷徨わせていた。
《こ、声も聞こえとったわ……けどな……会話はできんかったんよ……なんや、変な呪文を言うばっかで……怖ぁて近付かれへんかってん………》
「呪文……?」
その時、それが微かに聴こえてきた。高耶は立ち上がり、そちらへ近付いていく。そんな高耶には、綺翔がついてきていた。
通路の先まで行かなくてもそれは聞こえた。
「……なるほど。呪文か……」
《……祝詞……っぽいもの……》
「そうだな。やっぱり、先祖を神として祀っているのか……いや、だが……」
どうしてだろう。嫌な気分だ。それに、言葉が微妙に聞き取れないところがある。まるで、知らない言語を混ぜているようなそんな違和感。
「確かにこれは……近付きたくないな」
眉をキツく寄せる高耶の上に、霊界の調査に行っていた充雪が現れた。予定ではあと二日は帰ってこないはずだったので驚く。
「じぃさん。どうした?」
《……》
珍しく充雪は難しい顔をして、祝詞のようなものが響いてくる方をじっと見つめていた。
《……これは……鬼の言葉だ》
「っ、鬼の言葉?」
《混じってやがるぞ。鬼と……家守りだったものが》
「だった……もの……」
既に家守りではないものになっているという意味だ。それを理解した途端、高耶は悪寒を感じた。
《主……下がる》
《こっちとあっちを結界で遮断しろ。こっちに家守りがいるなら余計だ。霊穴が近くにあるせいで一気に力が増してやがる。取り込まれるぞ》
「っ、封印するのは?」
《いや、封印は反発される。結界にしろ》
「わかった」
高耶は一度呼吸を落ち着かせ、最高位の結界でその部分を除いたこちら側を囲った。
突然結界を張られたことで、源龍が驚いてこちらへ来る。
「高耶くん? どうなってるんだい?」
説明したのは充雪だ。
《あっちにいる家守りは、封じられていた鬼と混じったらしい。もう家守りとは言えないものになっている。よく自我を保っているもんだ……それが、近くに開いた霊穴の影響を受けておかしなものになりかけてんだ。そのままだと、こっちの家守りも取り込まれるところでな》
「……取り込まれたらどうなるのですか……?」
《表に出てくる》
「っ、なるほど。理解しました」
上手いこと今はあの場所だけに留まっている状態。奇しくも、エリーゼが管理する領域が蓋の役割をしており、出てくることができないらしい。ある意味、封印と同じ効果がある。
「では、エリーゼを逃すこともできませんね」
《支配が消えれば、領域を広げて出てくるだろうからな》
危険なもののそばにエリーゼを置いておくのは問題だと思っていた高耶としては、移動させる案がダメになったことに悩む。しばらく考え込んだ高耶は一つ頷いた。
「エリーゼの格を上げるしかないな」
「え?」
一体どういうことだと戸惑いの声を上げた源龍の横をすり抜け、高耶はエリーゼの前に膝をつく。
「エリーゼ。俺と一時的に契約しないか?」
《契……約……?》
「そうだ。主人の仮契約だ。それで俺の力を少し分けてやれる。アレは危険だ。解き放たれれば、君は消える」
《っ……そんな気ぃしとった……ウチ……消えるんやな……》
寂しそうに涙を浮かべて肩を落とすエリーゼ。ちょっと怖いと思ったのは内緒だ。血の涙でなくて良かった。
《お兄はん……助けて……くれるん?》
「ああ。どうだ?」
クッと顔を上げたエリーゼは、震える唇を懸命に動かしながら答えた。
《っ……お願い……しますっ》
「わかった」
高耶は小さい子どもが、必死に我慢して大人ぶって、それが耐えられなくなって助けを求める時と同じ顔だなと笑った。
************
読んでくださりありがとうございます◎
「これがそうですが、もしかしたら途中でまた書き直している可能性もあります。一応、耳に付いたら全て書き出すようにしてみますね」
「ありがとう!」
「いえ、ただ……もしかしたら、賢さんの方にもあるかもしれません。何度か同じ五線紙でない感じがする時があったので……」
ピアノとバイオリンで作られた曲だ。別々で持っている可能性もある。確認の為に修が持っていた楽譜のように、ほんの数小節だけの物を渡している時もありそうだ。
あの部屋には他に高耶の求めるものはなかったと黒艶は確信していた。ならば、ここではない場所に持ち出している。
「っ、あ、そう……だね。これ以外も見つかるかもしれない……確認するよ」
「はい。あとは……ここが落ち着いたらもう一つ手があるので、それをできたらやってみます」
「頼みます」
その日は、日が暮れる前に解散となった。ただ、本格的な調査が必要なので、高耶が鍵を預かる。
「ではお預かりします。あとこれは鍵の借用書と、破損などないようにしますが、万が一の場合の誓約書です」
「用意がいいね……予想していたのかな?」
「いえ。万が一のために、仕事の時は用意しているんです」
高耶は迅速に対応するため、そういった書類も一応は持ち歩いている。小さなリュックに入る細いマイボトルに丸めて入れてあるというのは内緒だ。明らかに使い道を間違っている。丸まってしまうのはどうかと思うが、そこはまあ、迅速な行動のためにはやむを得ない。
「では、連絡待っています」
「はい。一週間ほどでなんとかなると思いますので」
「わかった。その……気を付けて」
「ありがとうございます」
心配そうな修に笑みを見せる。それを見て、陽が修の肩を叩いた。
「大丈夫ですよ。高耶くんは、怨霊さえ蹴り飛ばせるんだから。ねっ」
「はい」
「それ、すごいことだよね? 見たいんだけど」
「こらこら。明らかに邪魔になるだろうが。もう行くぞ」
なぜか仁は興味を持ってしまったようだ。そんな彼を、呆れながら陽が引っ張っていった。
「家のものは好きに使ってくれていいよ。それじゃあ……また」
「はい。また」
修が嬉しそうに笑い、背を向けた。走り出した車が見えなくなるまで見送り、高耶は家の中に戻った。
電気も自家発電でまかなっており、問題ない。中に入ると、リビングで夕日に染まり出した外の景色を見ながら、源龍が電話をしていた。
「ええ。そうです。はい……刑事部からも人を……その可能性があります」
もう少しかかりそうだ。高耶は所在無げにソファに座っているエリーゼに話しかける。最初のような元気がないのは、その両脇に黒艶と綺翔が座っているからというだけではないだろう。
「大丈夫か?」
《っ……も、問題ないわ……ちょい、びっくりしただけや……》
「もしかして、あっちのと会話したことないのか?」
《っ、あらへんわっ。お、居るいうことは分かっててん……》
かなり怯えている様子に、高耶は小さな子をいじめているように感じて屈み込む。目線を合わせるようにすると、動揺したのだろう。こちらへと目線を彷徨わせていた。
《こ、声も聞こえとったわ……けどな……会話はできんかったんよ……なんや、変な呪文を言うばっかで……怖ぁて近付かれへんかってん………》
「呪文……?」
その時、それが微かに聴こえてきた。高耶は立ち上がり、そちらへ近付いていく。そんな高耶には、綺翔がついてきていた。
通路の先まで行かなくてもそれは聞こえた。
「……なるほど。呪文か……」
《……祝詞……っぽいもの……》
「そうだな。やっぱり、先祖を神として祀っているのか……いや、だが……」
どうしてだろう。嫌な気分だ。それに、言葉が微妙に聞き取れないところがある。まるで、知らない言語を混ぜているようなそんな違和感。
「確かにこれは……近付きたくないな」
眉をキツく寄せる高耶の上に、霊界の調査に行っていた充雪が現れた。予定ではあと二日は帰ってこないはずだったので驚く。
「じぃさん。どうした?」
《……》
珍しく充雪は難しい顔をして、祝詞のようなものが響いてくる方をじっと見つめていた。
《……これは……鬼の言葉だ》
「っ、鬼の言葉?」
《混じってやがるぞ。鬼と……家守りだったものが》
「だった……もの……」
既に家守りではないものになっているという意味だ。それを理解した途端、高耶は悪寒を感じた。
《主……下がる》
《こっちとあっちを結界で遮断しろ。こっちに家守りがいるなら余計だ。霊穴が近くにあるせいで一気に力が増してやがる。取り込まれるぞ》
「っ、封印するのは?」
《いや、封印は反発される。結界にしろ》
「わかった」
高耶は一度呼吸を落ち着かせ、最高位の結界でその部分を除いたこちら側を囲った。
突然結界を張られたことで、源龍が驚いてこちらへ来る。
「高耶くん? どうなってるんだい?」
説明したのは充雪だ。
《あっちにいる家守りは、封じられていた鬼と混じったらしい。もう家守りとは言えないものになっている。よく自我を保っているもんだ……それが、近くに開いた霊穴の影響を受けておかしなものになりかけてんだ。そのままだと、こっちの家守りも取り込まれるところでな》
「……取り込まれたらどうなるのですか……?」
《表に出てくる》
「っ、なるほど。理解しました」
上手いこと今はあの場所だけに留まっている状態。奇しくも、エリーゼが管理する領域が蓋の役割をしており、出てくることができないらしい。ある意味、封印と同じ効果がある。
「では、エリーゼを逃すこともできませんね」
《支配が消えれば、領域を広げて出てくるだろうからな》
危険なもののそばにエリーゼを置いておくのは問題だと思っていた高耶としては、移動させる案がダメになったことに悩む。しばらく考え込んだ高耶は一つ頷いた。
「エリーゼの格を上げるしかないな」
「え?」
一体どういうことだと戸惑いの声を上げた源龍の横をすり抜け、高耶はエリーゼの前に膝をつく。
「エリーゼ。俺と一時的に契約しないか?」
《契……約……?》
「そうだ。主人の仮契約だ。それで俺の力を少し分けてやれる。アレは危険だ。解き放たれれば、君は消える」
《っ……そんな気ぃしとった……ウチ……消えるんやな……》
寂しそうに涙を浮かべて肩を落とすエリーゼ。ちょっと怖いと思ったのは内緒だ。血の涙でなくて良かった。
《お兄はん……助けて……くれるん?》
「ああ。どうだ?」
クッと顔を上げたエリーゼは、震える唇を懸命に動かしながら答えた。
《っ……お願い……しますっ》
「わかった」
高耶は小さい子どもが、必死に我慢して大人ぶって、それが耐えられなくなって助けを求める時と同じ顔だなと笑った。
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